医学界新聞

連載

2013.04.01

在宅医療モノ語り

第36話
語り手:おそろいで一緒に頑張ろう ユニフォームさん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「ユニフォーム」さん。さあ,何と語っているのだろうか?


もしドラ,この春編
もしもこの春に入学する女子中学生がドラマチックな『純と愛』のシナリオを読んだら……なんて妄想をして記念撮影してみました。春です。新学期です。ドラッカーの『マネジメント』でも読んで勉強してみたくなりました。
 連続テレビ小説って,ご存じですか。毎朝たった15分間のドラマですが,1週間もすれば物語は急展開。見始めると,ヒロインの成長を見届けたくなる不思議な番組です。若い女優さんの登竜門ですし,NHKの看板番組だから宣伝もかなり派手。それにしても『梅ちゃん先生』は人気がありました。その次作の『純と愛』もなかなか面白かったのですが,賛否両論あるようです。

 私はどちらかといえば,後者のヒロイン・純さんに親しみが湧きました。だってホテルの24時間コンシェルジュですよ。コレ意外とザイタク業界の仕事と似たところがあるのかもしれない,そう思いました。申し遅れました,私は在宅医療の現場で着用されたユニフォームです。この冬,ある診療所の医師が愛用したダウンベスト。色はスカイブルー。大手アパレルメーカーの普及品ですが,奇しくもドラマの純さんとおそろい。純さんもユニフォームのつもりだったのか,大衆ホテル「里や」にお勤めのときには毎日着ていました。

 在宅医療におけるユニフォームに厳密な規定はありません。看護師,リハビリ職,介護福祉士,施設職員の方のユニフォーム普及率は高く,ケアマネ,医師のユニフォーム普及率は低い傾向にあるようです。特に在宅医の衣装はバリエーションが広くなっています。白衣,刺しゅう入りのスクラブ,まったくの私服,私服に見せかけたユニフォームなど,実にさまざまなのです。白衣の医師にその理由を尋ねると,「午前外来をやって,昼休みに食事をささっと済ませ,それから2,3件の往診。着替える時間なんてないよ」。なるほど。「白衣に着替えることで,医療人へのスイッチを入れるんだ」。これもまた納得です。病院から訪問診療に出掛ける場合は特に白衣率が高いかもしれません。昔の話ですが,患者さんのご家族から「白衣の集団に家に来てほしくない。保健所の立ち入り検査みたいだから」と言われたこともありました。これもなるほど,気持ちわかります。

 一方,私服系の在宅医から聞いた意見です。患者さんに白衣で威圧したくない。白衣で街中を歩くのが恥ずかしい。コンビニに入れない。昼食をとるにもお店に入りにくい。これらが白衣回避の理由として挙げられ,ラフすぎない私服を着用しているとのこと。ただし失礼のない私服の定義は案外難しく,襟なしのTシャツやGパンはダメなどのルールを設けている医療機関もあるようです。これもうなずけます。確かに,私服風仕事着のほうがバリエーションは広がる分,悩みは深くなります。アイロンのビシッとかけてあるYシャツなら,ネクタイがなくてもきちっと感は出るかな? 寒いからといって,ジャケットを着たままお部屋にあがって診察をするのは失礼かな? フリースだったら,家の中でも違和感ないかな? でも真冬は寒いから,フリースの上からベストだけ着させてもらおうかな? そんなことを悩んで,うちの主人の場合は,私がこの冬のユニフォームになったのです。今年の冬は本当に寒かったですからね。

 さて新学期。新しい制服を眺めながら,これからの新しい生活や仕事,学校に心を躍らせている方も多いのではないでしょうか。ユニフォームを着るということは,この集団に属して一緒に頑張っていくんだ,という決意表明にも思えます。もうすでに春ですねえ。重いコート脱いで出かけませんか? 軽いホワイトコートも脱いで出かけませんか?

つづく

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