医学界新聞

連載

2011.11.07

学ぼう!! 検査の使い分け
シリーズ監修 高木康(昭和大学教授医学教育推進室)
○○病だから△△検査か……,とオーダーしたあなた。その検査が最適だという自信はありますか? 同じ疾患でも,個々の症例や病態に応じ行うべき検査は異なります。適切な診断・治療のための適切な検査選択。本連載では,今日から役立つ実践的な検査使い分けの知識をお届けします。

第9回
止血機能検査・2

FDP(フィブリン/フィブリノゲン分解産物)

Dダイマー(D-Dダイマー)

佐守 友博(日本医学臨床検査研究所・統括所長)


前回からつづく

 血液の線溶(線維素溶解現象)には,一般的な"二次線溶"と特殊な"一次線溶"があります。血液が凝固してできたフィブリン(線維素)が,凝固の活性化と同時に起きる線溶の活性化によって生成されるプラスミン(Pl)により溶解する現象を二次線溶と呼び,凝固の活性化なしに線溶のみが活性化され,凝固前のフィブリノゲン(線維素原)が溶解する現象を一次線溶と呼びます。すなわち,二次線溶で生成されるのがフィブリン分解産物,一次線溶で生成されるのがフィブリノゲン分解産物であり,その総称がフィブリン/フィブリノゲン分解産物(FDP)です。


線溶系の基礎的知識

 FDP,Dダイマーともに,線溶酵素プラスミン(Pl)によって生成される物質であることをまず理解してください。Plは蛋白質であれば何でも分解してしまう酵素です。前回(2948号)述べた凝固関連酵素トロンビンが,その基質をフィブリノゲンや第V,VIII,XIII因子と限定しているのに比べ,PlはリジンのC末端側を非特異的に切断する酵素です。よってリジンを持つ蛋白質はすべて分解されます。血中に存在するPlはフィブリンやフィブリノゲンと親和性が高く,線維素溶解酵素としての役割が中心となります。

 そして,このPlに速効性に働く生理的インヒビターが α2‐プラスミンインヒビター(α2PI)です。正常な凝固過程では,α2PIはトロンビンによって活性化された第XIII因子(=XIIIa)によりフィブリンに強く結合し,凝固したばかりのフィブリンが血管の損傷部位に内皮を再生させるまでの間,Plによる分解を受けないようにしています。それ以外に,凝固反応と同時に生成されてくるPlが,必要のないところで血中蛋白(流血中では主にフィブリノゲン)を分解しないよう,α2PIは流血中でも即効的にPlを失活させ,PIC(プラスミンプラスミンインヒビターコンプレックス)となることで代謝されます。

Dダイマーの生成過程

 DダイマーはFDPの構成要素の一つです1)。フィブリノゲンは通常,中央のN末のEドメインを中心とした二量体構造を取っています。これが凝固するとき重合化してフィブリンとなり,フィブリンが安定化される際にXIIIaの作用でフィブリンモノマー同士がイソペプチド結合によりダイマー構造となり,さらにこれがつながって大きなポリマーとなります。そうやって安定化されたフィブリンがPlによる分解を受けたときに,Dダイマーが生成されます()。

 安定化フィブリンのプラスミン分解の過程(二次線溶)(文献1より転載)

 安定化される前のフィブリンやフィブリノゲンがPl分解を受けてもDモノマー(これもFDPの一種)しか生成されないので,Dダイマーを検出すると生体内で凝固と線溶の両方が起きていることがわかります。

症例
 強い上腹部痛を主訴に来院した34歳,男性。2,3日前より黒色便が出ている。臨床検査所見:赤血球数280×104/μL,Hb 9.2 g/dL,Ht 26.1%,白血球数7600/μL,血小板数23×104/μL,CRP 0.2 mg/dL,AST 32 U/L,ALT 28 U/L,γGTP 25 U/L,LDH 180 U/L,アミラーゼ98 U/L,BUN 68 mg/dL,血清クレアチニン0.75 mg/dL,尿酸5.8 mg/dL,PT 11.3秒,APTT 32.4秒,フィブリノゲン250 mg/dL,FDP 25 μg/mL,尿所見正常,糞便中ヒトヘモグロビン陰性。

 症例は赤血球所見とBUN,FDPに異常を認め,肝胆膵系の酵素異常はなく,腎機能検査もBUN以外は正常で,止血機能検査もFDP以外は正常と言えます。赤血球恒数を計算すると正球性正色素性であり,腹痛と黒色便から急性の上部消化管出血による貧血が疑われました。胃内視鏡検査で潰瘍性病変が認められたため,内科的治療が開始されました。

 血小板数,フィブリノゲンの減少はなく,APTT,PTともに正常でDIC(播種性血管内凝固症候群)などの血管内の凝固・線溶は考えられません。この場合のFDPの上昇は,上部消化管内に出た血液が凝固し,それがPlで分解されることでFDPが生成され,さらにこれが小腸から血中に吸収されることで生じたものです。BUNも消化管から吸収され血中で増加する一方,血清クレアチニンが正常であることがこれを裏付けています。

なぜ基準値は0でないのか

 FDPとDダイマーは基本的には同時に異常値を呈します。基準値が0でない理由は,生体内では常に微細な血管損傷イベントがあり,微量の出血とその止血のための血栓形成は常に起きているからです。

 FDPが高値を呈しているのにDダイマーが基準範囲内という病態は,一次線溶のみが起きていることを意味します。これは,落雷などの感電により全身の血管壁からTPA(組織プラスミノゲンアクチベータ)が放出され,血栓形成なしにPlが活性化される場合など,非常にまれな病態です。

 FDPやDダイマーが高値を示すとき,同時にフィブリノゲンや血小板の減少が認められる場合はDICが疑われます。

まとめ

 FDPの測定が可能になった当初は,数あるFDP分画のうちのどれに対して抗体を使っているかが試薬メーカーごとに異なっており,測定値のバラツキの原因となっていました。FDPのD-D分画に対するモノクローナル抗体の作製が成功し,Dダイマーが直接測定できるようになったことで二次線溶を確実にとらえられるようになった今日でも,FDP,Dダイマーともにまだ用いられている検査です。なお,臨床的にはどちらの検査も特に優劣はありません。

ショートコラム

 本文中で「通常,凝固系の活性化と同時に線溶の活性化が起きる」と記載した。これは,凝固の内因系と線溶の内因系が両方とも第XII因子の活性化により始まるからである。外因系のスタートは,凝固では組織トロンボプラスチン,線溶ではTPAであり,これらも血管壁の損傷が起きると血中に出てくる。

 通常の止血では,このように凝固と線溶が同時に活性化されるが,血管壁の修復を待って血栓が溶け出すのは,XIIIaとα2PIが正常に働いているからである。

つづく

参考文献
1)新井盛大.第5章 3)フィブリン分解産物(FDP).金井正光編.臨床検査法提要(第32版).金原出版;2005.pp 447-51.

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