管理者が知っておきたい被災地支援者ケア(井部俊子)
連載
2011.11.21
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
東日本大震災の被災地に多くの看護職が支援に向かっている。こうした支援者を支えることが災害看護における看護管理上の重要な課題であるという認識に基づいて,「管理者が知っておきたい支援者のこころのケア」というテーマで,平成23年度第2回日本看護管理学会例会(2011年10月14日)を本学にて主宰した。
プログラムは,3つのプレゼンテーションとディスカッションで構成された。まず,「被災地に看護師を送りだした経験から」(都立松沢病院看護部長・橋本節子氏)と題する報告に続いて,「災害支援とこころの健康」(東京都医学総合研究所副所長・飛鳥井望氏)を学び,「支援者と送りだす職場へのケア」(聖路加看護大学教授・萱間真美氏)を述べていただいた。
本稿ではそれらのエッセンスを伝えたい。
1.どのような人を支援者とするか
橋本氏は,(1)心身ともに健康であること,(2)人間性・専門性・専門的精神科看護スキルのあること,(3)マネジメント能力を持ち合わせていることが必要であるとした。さらに禁酒・禁煙も追加している。そして,セルフマネジメントについて研修を受けること,組織の代表として参加するという認識を持つこと,支援前後の充電時間を確保することも支援内容とした。被災地支援から戻ったら,1-2日間の休暇を取って職場に復帰してもらったという。
2.被災地から戻った支援者の迎え方
できるだけ,看護部長は出迎えに立つとよい。温かく迎え,ねぎらいの言葉をかけることが重要である。橋本氏は早朝に到着する支援者たちのために朝食の準備をして迎えたという。
3.被災地での支援者はどのような状態にあるか
福島県被災地支援「きぼうときずなプロジェクト」に参加した支援者とのホットラインの往復メールから,萱間氏は次のようなキーワードで説明している。被災地の支援者は,「緊張」している。メールに頻繁に「お疲れさまです」が登場する。移動の車中も緊張する。緊張は,「いつもと違う援助の姿勢」をもたらし「気負い」となる。メールに「!」の記号が表れる。
そして,萱間氏は「暇であることを気に病まないこと」「しょいこまないこと」をアドバイスする。さらに,阪神・淡路大震災を経験した精神科医,中井久夫氏の次の言葉を紹介する。「一般にボランティアの申し出に対して“存在してくれること”“その場にいてくれること”がボランティアの第一の意義であると私は言い続けた。私たちだって,しょっちゅう動きまわっているだけではなく,待機していることが多い。待機しているのを“せっかく来たのにぶらぶらしている(させられている)”と不満に思われるのはお門違いである。予備軍がいてくれるからこそ,われわれは余力を残さず,使い切ることができる」(中井久夫著『災害がほんとうに襲った時』みすず書房,64頁)。
4.支援者のストレス要因と反応
飛鳥井氏は支援者のストレス要因と,災害救護活動後によく見られる反応を説明した。支援者は,(1)接死体験・惨状目撃,(2)自らの生命的危機・恐怖,(3)被災者への感情的同一化,(4)役割不全による自責感・自信喪失,(5)長時間作業の心身消耗がストレス要因となること,そのため救援活動後には次のような反応が一般的にみられ,周りの人が普通でいることにいら立つ。
気持ちが落ちつかない,気持ちがふさぐ,神経が過敏となる,涙がこみあげてくる,胸が詰まる,いらいらしやすい,怒りが収まらない,無力感や虚しさに襲われる,過度に自分を責める,よく眠れない,悪い夢を見る,突然思い出して気分が悪くなる,人と話したくない,引きこもる,何も楽しめない,集中できない,周囲に対し疑い深くなる,飲酒や喫煙が増える |
5.支援者はどのように立ち直るか
飛鳥井氏によれば,ケア・マネジメントの考え方は3つある。それらは,(1)セルフケア(本人の気付き,家族や友人の実際的・情緒的サポート),(2)職場・ラインによるケア(同僚・上司・管理責任者による実際的・情緒的サポート),さらに(3)専門的ケア(カウンセリング,トラウマ心理治療,薬物療法)である。大半の支援者は,セルフケアと職場・ラインによるケアで回復する。
お勧めは,以下の内容を冷蔵庫に貼っておくことだという。
ストレス対処のためのセルフケア |
6.被災地に行かなかったスタッフのケア
そして管理者は,被災地支援に行かずに職場の業務を維持してくれたスタッフへのねぎらいと感謝の意を表することが重要であることが再認識された。
(つづく)
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