医学界新聞

連載

2011.08.08

もう膠原病は怖くない!
臨床医が知っておくべき膠原病診療のポイント

◆その3◆
膠原病における自己抗体の考え方と使い方(2)

高田和生(東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 准教授)


2936号よりつづく

 膠原病は希少疾患ですが,病態はさまざまな臓器におよび,多くの患者で鑑別疾患に挙がります。また,内科でありながらその症候は特殊で,多くは実際の診療を通してでなければとらえにくいものです。本連載では,膠原病を疑ったとき,膠原病患者を診るとき,臨床医が知っておくべきポイントを紹介し,膠原病専門診療施設での実習・研修でしか得られない学習機会を紙面で提供します。


 前回(第2936号)は,自己抗体の産生機序と病態への関与を学びました。今回は,臨床でよく使われる自己抗体を概略的に復習します。

■関節リウマチにおける自己抗体

(?)リウマトイド因子が陽性なら関節リウマチ?

 リウマトイド因子(RF)の感度は80%ほどですが,特異度はどの程度でしょう? RFの特異度とは「関節リウマチ(RA)非罹患者群における陰性率」です。よって,そのような群を20代の健常者で構成すれば95%を超え,シェーグレン症候群患者で構成すれば20%を下回ります。

 一方,RFが使われるのは関節炎を患う患者の鑑別診断においてです。したがって,「発症間もない関節炎症例のうちRA患者を除いた患者群」,つまり膠原病やウイルス感染などさまざまな疾患の患者から成る群における陰性率こそが,われわれが参考にすべきRFの特異度であり,当然その数字はそれほど高くありません。

(!)抗CCP抗体が強陽性なら関節リウマチの可能性がかなり高まる

 RAに感度はそれほど高くないものの特異度が高い抗体が,以前より2つほど知られており,最近両者ともに対応抗原がシトルリン化(アルギニン残基の翻訳後修飾)フィラグリンであることが突き止められました。そして,それら抗体の感度を高めるために抗体認識部位を人為的に環状化した分子(環状シトルリン化ペプチド,Cyclic Citrullinated Peptide;CCP)を用いたELISAキットが開発されました。

 ELISAキットにより測定されるのが抗CCP抗体です。抗CCP抗体のRAに対する感度,特異度は,それぞれ75%,90%超です。抗CCP抗体は他の膠原病や結核患者でも見られることもありますが,抗体力価はRAの場合と比べて低い場合がほとんどです。

■抗核抗体

(?)抗核抗体が陽性なら,膠原病?

 抗核抗体(ANA)とは,核内分子に対する自己抗体の総称です。蛍光抗体間接法(IF)とELISA法がありますが,前者では染色パターン情報も得られます。同パターンは対応核内抗原の分布を反映しますから,通常IFによりANA陽性結果が得られたら,染色パターンより類推される核内抗原に対する抗体(抗Scl-70抗体,抗二本鎖DNA抗体など)の検査を行います。

 膠原病診療におけるANAの使用においては,次の点に注意が必要です。

(1)陽性率(感度):「膠原病=抗核抗体陽性」と考えられがちです。確かに,全身性エリテマトーデス(SLE,陽性率ほぼ100%),混合性結合組織病(同ほぼ100%),全身性硬化症(80-90%),シェーグレン症候群(70-90%),多発性筋炎/皮膚筋炎(50-80%)では陽性率が高いですが,他の膠原病ではRA患者の40%程度に見られるくらいです。

(2)特異度:一方,「膠原病」には含めない臓器(特に肝臓や甲状腺)特異的自己免疫疾患においても陽性率が高く,また40倍や80倍という低力価であれば健常人でも見られます(それぞれ陽性率は20%,10%,多くは均質型)。さらに,レイノー現象や関節炎など,(1)に列挙した疾患でよく見られる症候を呈し,ANA陽性であるもののそれら疾患の診断には至らない,いわゆる「非分類型(未分化型)結合織疾患」としてまとめられるグレーゾーン症例もあります。これらは「膠原病疑い」として専門外来に送られてくる患者の20%を占めると言われ,そのまま経過する症例もあればSLEや強皮症などに「分化」する症例もあります。

(3)核外に存在する分子に対する抗体ほか:抗Jo-1抗体の対応抗原は通常核外に存在するため,ANAは陰性になります。抗SS-A抗体の対応抗原であるSS-A/Ro蛋白は核内外に存在しますが,抗核抗体検査で広く使われるヒト喉頭癌由来細胞株HEp-2細胞では発現レベルが高くありません。そのため,SS-A/Ro蛋白を形質移入して強発現させたHEp-2000細胞を使った抗核抗体検査キットが広く使われている国もあります。

■全身性硬化症における自己抗体

(!)皮膚および内臓病変合併や予後と相関する

 全身性硬化症は,皮膚病変の分布に基づき,びまん型と限局型(肘および膝より遠位のみ,ただし顔面や頸部におよんでもよい)の亜群に分類され,それぞれで内臓病変合併頻度も異なります。全身性硬化症ではさまざまな自己抗体(その多くが核内抗原に対する抗体)が見られますが,(1)限局型とびまん型でとり得る自己抗体が異なる,(2)同一症例に2つ以上の自己抗体が見られることはまれである,(3)自己抗体の種類と合併内臓病変とが相関する,という特徴があります(図1)。つまり自己抗体から皮膚および内臓病変合併や予後をある程度予測できるのです。

図1 全身性硬化症における自己抗体
保険収載されているのは抗セントロメア抗体,抗Scl-70抗体,抗RNAポリメラーゼ3抗体のみ。

 しかし,(1)や(3)も100%の相関には至らず,自己抗体陰性症例も存在し,さらに,日本で測定できる自己抗体は限られています。特に,よく知られている抗Scl-70抗体(抗原=DNA複製に必要なトポイソメラーゼⅠ)と抗セントロメア抗体(抗原=動原体構成蛋白のCENP-A/B/C)は,それぞれびまん型,限局型で見られる代表的自己抗体ですが,それぞれの亜群における陽性率は40%,50%にすぎません。

■多発性筋炎・皮膚筋炎における自己抗体

(!)内臓病変や癌,治療反応性などと相関する

 多発性筋炎・皮膚筋炎においては,日本で唯一保険収載されている抗Jo-1抗体に加え,治療反応のよい皮膚筋炎に主に見られる抗Mi-2抗体(抗原=ヘリカーゼであるMi-2α/2β),治療抵抗性の多発性筋炎で主に見られる抗SRP抗体(抗原=シグナル認識粒子)が一般に知られていますが,最近複数の新しい自己抗体が同定されました(図2)。これら自己抗体は,それぞれが内臓病変や癌,治療反応性などと相関があり,臨床現場での有用性が期待されています(詳細は筋炎を解説する回で触れる予定です)。

図2 多発性筋炎・皮膚筋炎における自己抗体
保険収載されているのは抗Jo-1抗体のみ。

■血管炎における自己抗体

(?)ANCAが陽性なら,血管炎?

 血管炎では,RFやANAなどの自己抗体は陰性であり,一部の疾患で抗好中球細胞質抗体(ANCA)が見られるにすぎません。血管炎は,おかされる血管のサイズにより,大血管炎(大動脈とその主要分枝),中血管炎(内臓臓器に向かう主要動脈とその分枝),小血管炎(細動脈/毛細血管/細静脈)と分類されますが,ANCAが見られるのは小血管炎のみであり,その中でも肺に病変を来すことがあり予後不良な3つ(ウェゲナー肉芽腫症,アレルギー性肉芽腫性血管炎,顕微鏡的多発血管炎)に限られます。ANCAは血管炎以外では,ANCA関連腎炎(腎病変は半月体形成性糸球体腎炎であり,これら3つと類縁するものと考えられている)で見られます。

 対応抗原は,好中球細胞質内に存在するミエロペルオキシダーゼ(MPO)およびプロテイナーゼ3(PR3)です。サイトカインにより活性化された好中球ではMPOやPR3が細胞膜表面に移動することから,それらとANCAとの結合が好中球を賦活し,血管内皮細胞障害を来すのではないかと考えられています。

 SLEにおける疾患特異的抗体や,抗リン脂質症候群における自己抗体については,それぞれを解説する回で触れます。次回は,臨床アプローチにおける使い方を学ぶ予定です。

つづく

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