膠原病における自己抗体の考え方と使い方(3)(高田和生)
連載
2011.09.12
もう膠原病は怖くない!
臨床医が知っておくべき膠原病診療のポイント
◆その4◆
膠原病における自己抗体の考え方と使い方(3)
高田和生(東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 准教授)
(2940号よりつづく)
膠原病は希少疾患ですが,病態はさまざまな臓器におよび,多くの患者で鑑別疾患に挙がります。また,内科でありながらその症候は特殊で,多くは実際の診療を通してでなければとらえにくいものです。本連載では,膠原病を疑ったとき,膠原病患者を診るとき,臨床医が知っておくべきポイントを紹介し,膠原病専門診療施設での実習・研修でしか得られない学習機会を紙面で提供します。
前回(第2940号)は,膠原病臨床でよく使われる自己抗体を復習しました。今回は,臨床アプローチにおける自己抗体の使い方を学びます。
■「熱と皮疹」症例へのアプローチ
(?)「熱と皮疹」の評価では自己抗体検査が鍵となる?
「熱と皮疹」を呈する患者の評価で,問診/診察で感染症や薬剤性などの可能性が高くない場合に,多数の自己抗体が測定されているのをときどき目にします。しかし,発熱を来す膠原病疾患に特異的な皮疹は限られています(表)。よって,病歴および皮疹を含めた身体所見より疑われる疾患についての限られた検査にとどめるべきです。
表 「熱と皮疹」を呈し得る疾患――疾患特異的皮疹と関連自己抗体 |
*よく熱を呈する皮疹で,主たるもののみ記載 **保険収載されているもののみ記載 ***原発性シェーグレン症候群におけるデータ ****このほど,Wegener肉芽腫症とChurg-Strauss症候群の国際的な疾患名が変更され,それぞれGranulomatosis with Polyangiitis (Wegener's)(旧:Wegener gramulomatosis),Eosinophillic Granulomatosis with Polyangiitis(旧:Churg-Strauss syndrome)となった。 |
また,表にあるように関連自己抗体の有用性にも限界があるため,その結果のみにより疾患が肯定/否定されることはありません。さらに,特にウイルス感染などは非特異的自己抗体陽転化や血球減少など,膠原病の場合にもみられる所見を呈する場合もあるため,自己抗体検査の限界を理解していないと混乱を招きかねません。
■「不明熱」症例へのアプローチ
(!)「不明熱」の評価では自己抗体検査は役立たない
発熱を呈する疾患は数多くありますが,「不明熱」とは,(1)臨床的に有意な発熱(例えば38.3℃以上への上昇を繰り返す)が,(2)比較的長い期間続き(例えば3週間),(3)一般的な評価(例えば1週間の入院精査)にて原因が判明しない,疾患のことを指します。実際の原因としては,感染症(結核,感染性心内膜炎,膿瘍,骨髄炎など),腫瘍(腎癌,肝癌,悪性リンパ腫など),そして非感染性炎症性疾患(膠原病,肉芽腫性肝炎,炎症性腸炎,サルコイドーシスなど)が主たる3群を成し,ほかに薬剤熱や内分泌疾患などがあります。
膠原病のうち,上記(1),(2),(3)を呈するのは以下の疾患に限られます。いずれにおいても自己抗体は見られず,検査は役に立ちません。
高安病・側頭動脈炎・結節性多発動脈炎:これらの中~大血管炎は,血管狭窄または拡張が進むまで特徴的症候を呈さない。
成人Still病:関節炎も単関節または少数関節性のことが多く,サーモンピンク疹は解熱とともに消退し,患者自身も気付かない場合が多い。
■「関節炎」症例へのアプローチ
(?)「関節炎」の評価では ルーチンで自己抗体検査を?
本連載第1回(第2932号)で,関節炎の鑑別診断では「発症のしかた」「罹患関節数」「経過」の3軸での整理が役立つとお伝えしました。あらためて図を見ると,持続性単関節炎を呈する場合を除いて,自己抗体を呈する疾患の可能性があることがわかります。したがって,多関節炎であればリウマトイド因子(RF),抗CCP抗体,抗核抗体,少数関節炎であればそれに加えて抗SS-A抗体,抗Jo-1抗体,ANCAなどが検査項目候補として挙がります。ただ,ウイルス性関節炎や結核性関節炎などでも非特異的な自己抗体陽転化が見られることがあるので,結果の解釈に注意が必要です。
図 関節炎を呈する疾患(発症のしかた,罹患関節数,経過の3軸による整理) 実線:持続性,破線:一過性/間欠性,色線:自己抗体を呈し得る疾患 |
■その他の場面での自己抗体測定の意義
(?)人間ドックでのリウマトイド因子検査は意味がある?
最近,関節症状がまったくないのに「人間ドックの血液検査でRFが陽性だった」ため,精査目的で受診されることがあります。確かに,RF,抗CCP抗体ともに,関節リウマチ(RA)患者においては発症前より陽性率および力価が徐々に上昇してきます。これは全身性エリテマトーデス(SLE)患者における各種抗核抗体でも同じです。ではこれらの検査を無症候の健常人に行うことに意味はあるのでしょうか?
居住者の出入りの少ないインディアン居住区で行われた最長観察19年のコホート研究では,無症候でRF低力価の成人におけるRA発症リスクは0.03%/年だったのに対し,RF弱陽性の場合0.34%/年,強陽性の場合2.01%/年でした1)。つまり相対危険度は陰性の場合に比べて弱陽性で11,強陽性で67です。しかしながら,絶対リスク上昇は強陽性の場合でも1.98%/年でしかありません。さらに,将来のRA発症が予測できても,でき得ることは禁煙による一次予防と,関節症状に関する注意喚起程度にすぎません。
(?)膠原病と診断された段階での関連自己抗体測定は意味がない?
関連自己抗体の測定は,下記に示すように自己抗体検査結果が評価や治療計画に影響を与え得る場合にのみ測定されるべきです。
RA:RFと抗CCP抗体はRAの診断だけでなく,関節予後予測においても有用であり(陽性例ほど進行性で将来の関節破壊の危険が高い),初期治療薬決定において考慮される。
SLE:10-44%に抗リン脂質抗体が見られ,陽性例では経過中50%が血栓塞栓症または習慣性流産を来す。これは,抗リン脂質抗体陽性例における血栓塞栓症合併の相対危険度が,SLEを合併する場合3と大きいことも反映している。強いエビデンスはないものの,抗リン脂質抗体陽性のSLE患者においては,特に他の血栓塞栓症危険因子が共存する場合,アスピリンによる一次予防がヨーロッパリウマチ学会より推奨されている。よって,SLEが診断された段階で,抗リン脂質抗体の測定を行うことが推奨される。
多発性筋炎/皮膚筋炎:内臓病変や癌,治療反応性などと相関する新しい自己抗体が複数同定されており,それらの診断時測定結果が診療の補助になると期待されている。
(?)陽性自己抗体の抗体価は追跡すべき?
一部の自己抗体は病態に深く関与し,疾患活動性と相関して抗体価が変動します。しかし,治療方針判断において他の臨床所見とともに参考とされるものは,現在のところ,SLE患者における抗二本鎖DNA抗体と,ANCA関連血管炎患者におけるANCAの2つに限られます。特に前者は,疾患活動性上昇に先行して上昇することも多く(上昇例の80-90%で疾患活動性が上昇)2),ステロイド増量による先制的治療が行われることもあります。
(つづく)
参考文献
1)Del Puente A, et al. The incidence of rheumatoid arthritis is predicted by rheumatoid factor titer in a longitudinal population study. Arthritis Rheum. 1988; 31(10): 1239-44.
2)Bootsma H, et al. Prevention of relapses in systemic lupus erythematosus. Lancet. 1995; 345(8965): 1595-9.
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