内分泌:甲状腺(志賀 隆)
連載
2010.06.07
それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴
【第4回】
内分泌:甲状腺
志賀隆
(Instructor of Surgery Harvard Medical School/MGH救急部)
(前回よりつづく)
わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし,まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる休日外来や夜間外来にも患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。
今日は当直。研修医生活にも慣れてきて,あなたは要領よく仕事を片付けて救急外来へ5分前に到着。ちょうど救急隊が新しい患者を連れてきたようで,看護師がバイタルサインを測っている。
■Case
69歳女性。主訴は心窩部痛。脈拍数156/分,血圧120/80 mmHg。呼吸数24/分,体温38.2℃,SpO2 96%(RA)。既往に気管支喘息,子宮外妊娠の手術あり。午前3時から持続性心窩部痛が始まり,黄色嘔吐数回。排便は午後7時。排ガスあり。微熱と体重減少(1年で10 kg),著明な脱力感を認める。身体所見:肺野清。心音は不整。心窩部に圧痛があるが,腹膜刺激症状はない。グル音は減少。下腹部に手術痕あり。皮膚は発汗あり浸潤。
■Question
Q1 まずあなたは何をするか?
A バイタルサインに異常のある患者はABCを確認する。そして,酸素投与・ルート確保・心電図モニターを開始し,標準12誘導心電図をとる。
ABCに異常がある場合には,病歴に移る前に介入が必要となる。
Q2 頻脈患者への対応は?
A 頻脈患者では,まず低血圧はないか,胸痛・息苦しさ・めまいを訴えていないかなど,不安定なサインの有無を確認することが重要である。
不安定な患者の場合には,同期下でのカルディオバージョンが必要となる。次に,標準12誘導心電図のQRS幅を確認する。
この患者では,胸痛・めまいはなく,少々の息苦しさを認めた。標準12誘導心電図では,QRS幅が0.12秒未満でQRS間隔が不整であり,心室応答レートの高い心房細動(atrial fibrillation with rapid ventricular response)と考えられた(図)。
図 心室応答レートの高い心房細動(atrial fibrillation with rapid ventricular response) |
心房細動では,心房のレートがかなり早いため(300回/分など),心房細動による頻脈という表現は正しくなく,心室応答レートの高い心房細動という表現が適切である。 |
Q3 心窩部痛へのアプローチはどうするか?
A 解剖学的に隣接する臓器から考察していくのも1つの方法である。
背部に放散する痛みならば膵炎が疑われる。また,肝胆道系も常に鑑別すべきである。高血圧の既往や高齢であれば腹部大動脈瘤の可能性もある。この患者のように心房細動がある場合は,腸管虚血を鑑別にあげるべきである。そのほか消化管穿孔,腸閉塞等を除外した上で,消化性潰瘍や胃炎も鑑別とするとよい。
この患者は,ビリルビンが1.8 mg/dLであったが,そのほかはリパーゼ,肝機能ともに正常であった。腹部X線では拡張した腸管は認めず。腹部超音波にて胆 心房細動の原因となる貧血や感染を考え,血算を測定する。また,補正すべき電...Q4 初発の心房細動のワークアップは?
A 血算,電解質,心筋酵素,甲状腺,胸部X線,心エコー,CHADS2スコア。
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