循環器:虚血性心疾患(志賀 隆)
連載
2010.03.08
それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴
【第1回】
循環器:虚血性心疾患
志賀隆
(Instructor of Surgery Harvard Medical School/MGH救急部)
わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし,まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。
一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる夜間外来には,患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。
忙しい救急外来。昼食をとる間もなくめまぐるしく走り回る研修医のあなたは今日10人目の患者を診察しました。今日は主訴が胸痛の患者が多く5人目。胸痛患者へのアプローチはできていますか?
■Case
49歳女性。主婦。3日前から労作時に胸部正中の胸痛が発生。胸痛は15分程度続き安静で軽快,冷や汗を伴う。既往に高血圧あり。深部静脈血栓の既往なし。血痰なし。来院時は胸痛はなし。血圧160/80mmHg,心拍数60/分,呼吸数12/分,SpO298%(RA)。診察にて胸腹部,四肢に異常を認めず。
研修医のS医師は,「やっぱり心臓からだよな。よし,心電図でST上昇をまず否定。そしてトロポニンが陰性なら,胸痛もおさまっているし,帰宅させてもいいかな」と考えた。
■Question
Q1 心電図はいつまでにとればよいか?
A 来院から5分以内が望ましい。
救急医療では問診,身体所見の前に救急のABCを確認することが大切であり,胸痛や脳卒中においては心電図や頭部CTを迅速に施行することも必要である。
Q2 主訴が胸痛であることから,肺塞栓を考慮し,Dダイマーをオーダーすべきか?
A 擬陽性も多いので,Dダイマーは選択的にオーダーする。
肺塞栓を鑑別診断として考える際には低リスクなのか,中等度なのか,高リスクなのかを念頭に入れなければならない。低リスクならば,PERC(Pulmonary Embolism Rule out Criteria)(表1)を使うことができる。この基準に従うと,患者はすべての項目を満たしており,病歴と身体所見でDダイマーと同等の感度まで到達できる。ゆえに,Dダイマーは必ずしも必要ではない。
表1 PERC(肺塞栓除外)ルール | |
|
Dダイマーの問題点は,擬陽性になる場合が少なからずあることであり,DダイマーによってCTを少なくしようとしたにもかかわらず,本来ならばCTが必要なかった症例にもCTがオーダーされているという報告もある(Am J Emerg Med. 2006 [PMID:16490664])。一生におけるCTの回数ががんの発生率と関連するという報告(N Engl J Med. 2007 [PMID:18046031])もあり,現在は救急部でのCTをオーダーしすぎないようにする傾向がみられる(それでも米国の救急部ではリスク回避,診断のために多くのCTがオーダーされている)。
Q3 大動脈解離の疑いはないか?
A 完全に否定できないが,高くはない。
「胸部X線にて縦隔の拡大を認めない」「血圧の左右差を認めない」「移動性の胸痛がない」と確認された場合に大動脈解離がある可能性は7%とされる2)。また,発症24時間以内の症例で大動脈解離を疑うときに,肺塞栓のときと同様に500ng/mLをカットオフ値に使用したDダイマーが陰性であれば,陰性尤度比が0.073)であるという報告もある。この患者の場合,来院時には胸痛も背部痛もないため,上記3つの条件がクリアされれば筆者ならそこでストップ...
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この記事の連載
それで大丈夫? ERに潜む落とし穴(終了)
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