消化器:腸閉塞(志賀 隆)
連載
2010.04.05
それで大丈夫?
ERに潜む落とし穴
【第2回】
消化器:腸閉塞
志賀隆
(Instructor of Surgery Harvard Medical School/MGH救急部)
(前回よりつづく)
わが国の救急医学はめざましい発展を遂げてきました。しかし,まだ完全な状態には至っていません。救急車の受け入れの問題や受診行動の変容,病院勤務医の減少などからERで働く救急医が注目されています。また,臨床研修とともに救急部における臨床教育の必要性も認識されています。一見初期研修医が独立して診療可能にもみえる夜間外来にも患者の安全を脅かすさまざまな落とし穴があります。本連載では,奥深いERで注意すべき症例を紹介します。
日曜日の昼。研修医の友人たちが買い物に出かけて行くところを見届けつつ,あなたは救急外来の日直当番へ。すでにカルテは山積みになっている。引き継ぎを終えて,ひと通り患者を把握した後,新しい患者の予診票を見た。主訴は腹痛。ちょうど消化器ローテーションを終えたあなたは少し自信がある。
■Case
80歳女性。昼ごろから始まった下腹部痛と頻回の嘔吐。吐血,発熱なし。最終排便は一昨日。最終排ガスは朝4時。既往に高血圧あり。血圧120/80mmHg,心拍数90/分,呼吸数20/分,SpO296%(RA)。腹部は緊満しており,下腹部全体に圧痛がある。しかし,腹膜刺激症状はない。グル音は消失。腹部X線では,輪状ヒダが見られる拡張した腸管と鏡面像が多数。
患者を診察したあなたは,「手術歴もないし,まず腸閉塞で間違いないから,NGチューブ(経鼻胃管)を入れて入院ということにしよう。外科へのコンサルトは明日でよいだろうか」と考えた。
■Question
Q1 NGチューブとイレウス管,どちらを使用するか?
A どちらでもよい(NGチューブでもよい)。
腸閉塞に対し保存的治療を選択する場合,減圧チューブの挿入を行う場合が多いが,イレウス管のほうが長く小腸からのドレナージが可能なため,歴史的に好まれてきた経緯がある。一方,NGチューブは透視下の導入が必要なイレウス管に比べ,使用が簡便である。NGチューブとイレウス管の有効性を確かめる研究が行われ,大きな差がないことが示されている(Am J Surg. 1995[PMID:7573730])。
Q2 この腸閉塞は,よくある腸閉塞とどこが違うか?
A 手術歴がないところ。
手術歴の有無は腸閉塞の診断においてクリティカルである。腸閉塞の発症機転を考える際には,ホースを例に,どうしたら詰まるかを考えるとわかりやすい。
1)外から締め付けられることによって内腔が狭窄する場合
一番多いのは,外科手術後に起こる瘢痕によるものだが,それ以外にも内ヘルニア・外ヘルニア・軸捻転症・腸重積症などがある。この患者の場合,最も多い原因である術後を示す腹壁の瘢痕がないこと,食事などの誘因がないことが通常の腸閉塞と異なる点である。手術既往のないイレウスを見たら,必ず鼠径部の診察を行う。
2)ホースの内腔が詰まる場合
例として,食事が挙げられる。特に高齢者では,食事によって起こることがあり,梅干しの種,こんにゃく,昆布,きのこ・もちなどさまざまな食品が報告されている。
さらに上記に加え,腫瘍などによって内腔が狭くなる場合もある。
Q3 CT検査を行うべき腸閉塞は?
A 手術歴がなければ必ず。術後であっても,手術適応を決めるために必要なことが多い。
腸閉塞において,CT検査を行う機会は増えている。この患者のように,腹壁に瘢痕がない,食事などの誘因がなく,診察においてもヘルニアがない場合,腫瘍によるものなのか,内ヘルニアによるものなのかなど,CTを撮影しないと診断にたどりつかないことがある。また,術後の腸閉塞であっても,CTによって早期に異常を発見することで,腹膜刺激症状がある場合やバイタルサインに異常が出る前に手術適応を決めることができる。そのため,腎機能に問題がなければCTを積極的にとることが患者の安全につながるとも考えられる。この患者のCTを撮影したところ,閉鎖孔に嵌頓した腸管がみつかったことから,閉鎖孔ヘルニア(図)と診断された。
図 腹部骨盤造影CT(提供:大田原赤十字病院・加藤弘毅氏) |
矢印部分の左閉鎖孔内に拡張した腸管構造が見られる。 |
Q4 腸閉塞の患者のCT所見で気を付けることは何か?
A (1)腸間膜動脈・静脈に明らかな血栓がないか,(2)拡張腸管の両端が閉塞していないか,(3)腸間膜に捻転の所見はないか,(4)拡張腸管の異常壁肥厚・遊離ガスはないか,(5)腸閉塞において腹水が存在するか。
腹水,腸管の造影の程度,腸管の異常肥厚,遊離ガスは腸管壊死の予測に非常に重要である。乳酸値や他の検査所見に異常が出る前に,CT上の腹水が腸管壊死予測に役立つと考える外科医もいる。腸管の拡張はもちろんのこと,口側から始めて頑張って肛門側までたどることで狭窄部を見つけられるため,勧められている。
前述したように,ヘル...
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