医学界新聞

連載

2010.01.11

知って上達! アレルギー

第10回
喘息をハカる――肺機能検査

森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)


前回からつづく

 「固体・液体・気体」。学校で学んだ物質の三態です。医療現場でいちばんウケがいいのは固体ですね。薬剤はほとんどが錠剤ですし,器具も固体で扱いやすいです。続いて液体も人気があります。点滴,注射に血液検査。しかし,気体は駄目ですねぇ。肺機能検査に吸入薬……,どうも気体は敬遠されているようです。今回はそんな嫌われがちな肺機能検査(スパイロメーター)を取り上げます。

嫌われがちな“気体”

 肺機能検査は,世界共通で利用率が低いのが現状です。例えば最近の報告でも,カナダでは喘息患者のおよそ半数が肺機能検査を受けたことがなく1),米国でも新たに診断されるCOPD例のおよそ4割弱にしか肺機能検査が用いられていなかったそうです2)

 血圧測定なしで血圧治療は行いませんし,血糖測定なしで糖尿病治療は行いません。にもかかわらず,肺機能検査なしで喘息やCOPDの治療が行われているのが現状なのです。ぜひ,肺機能検査を行いましょう。しかし,FVC,FEV1, V50, V25, FEV1%,FVC%……文字だらけでイヤになりますね。ですから,本連載では,1秒量(FEV1)と1秒率(FEV1%)に話を絞ります。これだけでも,肺機能検査を十分に役立たせることができるのです。

1秒量を理解する

 まず初めに,みなさん,1秒間で何リットルの空気を吐けますか? フーッ。どうですか? ほとんどの方が2Lから5Lほどの空気を吐けるはずです。この1秒間に吐き出せる量(L)を1秒量といい,FEV1註1)と書きます(この小さい1がまたイヤな印象を受けますが,単に1秒間の1のことです。例えば6秒間での量はFEV6と書きます)。

 標準的な1秒量を求められる予測式があります。18-95歳を対象にすると,

男性FEV1(L)=0.036×身長(cm)-0.028×年齢-1.178
女性FEV1(L)=0.022×身長(cm)-0.022×年齢-0.005

です3)。意外ですが,体重は入っていないですね。この式を使うと,例えば,26歳で身長170cmの男性の場合は4.214L,28歳で身長150cmの女性の場合は2.679Lです。この予測値の80%以上であれば,1秒量については問題ないとされます。

 この1秒量が1Lを切るようになると,労作時の息切れで日常生活がつらくなってきます。計算式の年齢の係数を見ると,加齢によって1歳ごとに男性で28mL,女性で22mL減っていくことがわかります。この低下速度であれば,70歳でも1秒量は1.5L以上あります。ところが,タバコを吸っていると1年で40-80mLも低下します。すると,例えば60歳前後で1秒量が1L以下となり,呼吸困難が出現してきます。若い間はいいですが,年をとって初めて喫煙を後悔するわけですね。

1秒率を理解する

 1秒量がわかれば,1秒率は簡単です。先ほどは1秒間で空気を吐いてもらいましたが,今度は思いっきり,もう吐けなくなるまで吐きます。フーッ。おそらく,6秒もあればすべて吐ききれるでしょう。この吐けた全体積を努力肺活量(FVC)註2)といいます(これが下がるのが,肺線維症をはじめとする拘束性障害です)。このうち最初の1秒間に吐けた空気の体積の占める割合を1秒率といいます。つまり1秒量が努力肺活量に占める割合を1秒率といい,FEV1と書きます。

1秒率(FEV1%)=1秒量(FEV1)÷努力肺活量(FVC)×100

 1秒率が70%未満で,「閉塞性障害あり」とされます(1秒率がFEV1/FVCと書かれている場合は0.7未満)。COPDかどうかは日常診療でも問題となりますが,実は国際ガイド......

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