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『総合内科対策本部 これってどうする!?』より

連載 横江 正道

2024.06.26

「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「爪が黄色いです」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが,痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……このたび刊行された『総合内科対策本部 これってどうする!?』では,総合内科に寄せられるさまざまな難症例・珍相談に応えています!

 

「医学界新聞プラス」では,本書より4症例をピックアップし,ご紹介していきます。

 

症例

患者 40歳,男性。
総合内科への紹介目的 発熱・咽頭痛の精査希望。
紹介状内容 貴院泌尿器科に2年前まで尿管狭窄症で通院歴のある方です。コロナワクチンは2回接種済み。X月15日から発熱あり。X月17日に当院受診し,コロナPCR陰性。咽頭痛,発熱,倦怠感あり,X月19日に再診。血液検査でCRP 10.2mg/dL,WBC 8,500/μL。咽頭発赤あり,ラスクフロキサシン(ラスビック®)75mg処方。その後も解熱せず,X月22日に再診。CRP 11.1mg/dL,WBC 5,300/μL。症状が継続しているため,精査をお願いします。(X月25日に受診)
処方薬 アミノフェン(カロナール®)頓服,ラスクフロキサシン(ラスビック®),トラネキサム酸(トランサミン®),デカリニウム(SPトローチ)

 

総合内科医の第一声 ちょっと言わせて!

 「CRPと白血球を追いかけたけれどわかりませんでした的な紹介状」ですが,はたしては調べたのでしょうか? 所見の記載がないため,評価されたのかどうかもわかりません。

 

対策本部としての初動態勢

症状の特性を理解する

 総合内科外来に紹介されて受診するまでに,発症から10日間経過していた。まだ発熱は続いている状態だが咽頭痛があるため,不明熱とはいえない。紹介した医師は咽頭痛と表現しているが,咽頭痛をどのように評価しているのかが,この文面からは不明である。急性上気道炎と診断しているならば,その原因の多くはウイルスのため抗菌薬は不要なはずである。CRPの値で細菌かウイルスかの判断がつくわけではないので,紹介状にはもっと病歴や身体所見に関する情報がほしいと考えた。

心構え

 何らかの細菌感染症を考えて抗菌薬を投薬されているようなので,患者を実際に診療して,本当に細菌感染症っぽいのかを検討したうえで,抗菌薬を継続するか,抗菌薬を中止して,各種培養検体の採取を最初からやり直すかになる(だからこそ,患者さんのためにも最初にみる先生に培養検体を採取しておいてほしいですよね)。
 もちろん,抗菌薬を投薬した場合は,受診報告がてら返書のなかで,抗菌薬投与前に血液培養その他,疑われた疾患に関連する培養検体の提出があったかどうかを必ず確認する。それが抗菌薬の適正投与(antimicrobial resistance:AMR)につながると考えている。

 

これってどうする!? 総合内科

 まずは基本に立ち返って,純粋にfever work-up1)をやり直そう。病歴もreview of systems(ROS)を含めてやり直し,身体所見も漏れがないようにチェックする。発熱につながる病歴も全体的に不足しているため,聞き直そう。こういう時こそ,総合内科の俯瞰的な視点での対応力が必要となる。細菌感染症の評価も,一からやり直す。原因不明の発熱時の禁じ手に,「培養未提出の見切り発車ローテーション」2)がある。「不明熱=ひとまず抗菌薬を開始してみる」,「不適切な不明熱診療=治療されていない」ことから,頻繁に抗菌薬を変えたり,ステロイドまで使われたりすることを言い表したものだ(図1)。本当に細菌感染症なのか評価して,違えば抗菌薬はやめる。はっきりしない場合こそ,「すべてをオフにする」勇気,「何もしないで待つ」勇気が大切である2)
 おそらく紹介した医師は,感冒として対処するもよくわからなくなったものの,耳鼻咽喉科には紹介せずに総合内科に紹介していることから,扁桃腺炎や咽後膿瘍,喉頭蓋炎などは考えなかったと推察される。よって,のどの周囲で発熱する疾患を想起して評価すること,すなわち,のどの内側ではない痛みを評価するアプローチがこの病態への評価になりそうである。さて,どのように対応していくか? 対策を考えていこう!

 

第2回_図1.png

図1 培養未提出の見切り発車ローテーション
〔岸田直樹.総合診療27(4):416-419, 2017 より〕

 

 詳しい病歴聴取
  • GIM 10日間ほど熱が続いておられるのですね?
  • 患者 はい。薬を飲んでいるのですが,全然下がりません。
  • GIM のども痛いのですか?
  • 患者 はい,全然よくならないです。
  • GIM 飲み込む時に痛みがありますか?
  • 患者 それはありません。飲み込む・飲み込まないは関係なく痛いです。
  • GIM お食事は普通に食べられますか?
  • 患者 はい,少なめですが食べられます。ただし,熱が高い時は食欲がありません。
  • GIM 咳や痰もないですか?
  • 患者 はい,ないです。
  • GIM 痛みは正確にはのどの内側というよりも,首の前あたりの痛みでしょうか?
  • 患者 そうですね。そのように思います。
  • GIM (やっぱりな。これは上気道炎ではなく,のどの痛みでも咽頭痛ではなく,頸部痛ですね)
  • ROS(+):右腰痛(重いというよりぴりぴりする),水様下痢,嚥下時痛。
  • ROS(-):頭痛,咳・痰,腹痛,嘔気・嘔吐,排尿時痛,残尿感,歯科受診,抜歯。

 

 ということで,病歴を詳しく聴取することで想定疾患の可能性がより高くなった。

 

既往歴 尿管狭窄症(当院泌尿器科)2年前で終診。
社会歴 会社員。アレルギーなし,喫煙なし,機会飲酒程度。
身体所見 血圧122/78mmHg,脈拍108/分,呼吸数14回/分,体温36.8℃,SpO2 97%(room air),意識清明,会話問題なし,呼吸パターン問題なし。眼瞼結膜:貧血なし。眼球結膜:黄疸なし。頸部リンパ節腫脹なし。副鼻腔圧痛なし。口腔内:異常なし。咽頭所見:軽度発赤,扁桃腫大なし,白苔なし。甲状腺:腫大あり,圧痛あり,嚥下時違和感あり。心音:雑音なし,整。呼吸音:喘鳴・ラ音なし。関節腫脹・圧痛:なし。SLRテスト陰性,腸腰筋徴候なし。

 

初期対応を進めるうえで必要な基礎知識

 発熱患者をみる基本的な診療は,fever work-upに尽きると考えている。しかしそれは,きちんと鑑別疾患を想定したうえでの対応が基本になっており,鑑別疾患なしでは不十分である。よくある病気なのか,珍しい病気なのかを考えることも大切である( ▶ 書籍『総合内科対策本部 これってどうする!?』 p14の表1)。
 さて,前掲の表のなかに初診医が考えた「発熱+咽頭痛」に該当する疾患はあるだろうか?急性上気道炎,感冒は当たり前すぎて記載していないが,それは織り込み済みということで考えてみよう。

 

初動に続く対応 基本計画・応急対策

 病歴聴取のなかで,紹介状には記載がなかった「嚥下時痛」を詳しく聞いている。この質問は,患者の自覚症状を医師としてどう正確に解釈するかの経験に基づく,1つの問診テクニックといってよい。つまり,「のどが痛い=風邪,感冒,上気道炎」だけではないことを批判的吟味している。
 実は,感冒と診断を下すことは,思っているほど簡単ではない。インフルエンザかCOVID-19かは迅速抗原キットやPCR検査を行うことで判断できるが,感冒の検査キットは存在しない。インフルエンザとCOVID-19を否定した後,「風邪ですね」などとお茶を濁すことはよくみられるが,そんな診療のなかで見落としているものはないかを考えないと,基本計画も応急対策も立てられない。まずは,正確な事態把握が対策の要である。

血液検査 主な検査結果を示す。その他の異常は認めない。

  

B型肝炎・C型肝炎ウイルスマーカー陰性,梅毒陰性。血液培養2セット(抗菌薬中止後採取)陰性。
尿検査 蛋白(1+),その他は異常なし。
胸部単純X線 明らかな異常所見なし。

 

プロブレムリスト

 #1 発熱(10日間続く),#2 前頸部痛,#3 抗菌薬の先行投与あり(無効),#4 甲状腺機能亢進,と考えた。抗菌薬は使わずにフォローすることとした。
内分泌内科にコンサルテーションして,甲状腺超音波の検査をしてもらった(
図2)。診断は亜急性甲状腺炎となり,紹介受診したその日に患者の問題が外来で解決できた。患者は「これまでの10日間はなんだったんだ」とおっしゃっていた。内分泌内科の診断では,すでにピークは越えた印象で,症状が少し落ちついてきているとのことであり,ステロイドは使用せずに対症療法となった。しかし,中毒症があるので激しい運動は禁止となり,悪化や対側への移動の可能性も説明したうえで,症状がひどくなればステロイド治療を検討することになった。

第2回図2.png
図2 甲状腺超音波
左優位に腫大あり,右にも及ぶ低輝度域あり。亜急性甲状腺炎が最も考えやすい。

対応のまとめ

 そもそも甲状腺機能異常に伴う症状は亢進症であれ低下症であれ,非特異的な症状が多くあることから,甲状腺機能検査は総合内科でルーチンワーク対応することにしている。特に,本当に感冒なの?という患者に対応することは多々あることから,亜急性甲状腺炎はその代表格として対策を練っている。その対策が功を奏した症例である。

 


亜急性甲状腺炎

類似症例に対応するためのステップアップ

 亜急性甲状腺はよくあるcommon diseaseではあるものの,患者自身が「甲状腺に痛みがある」と訴えて来院することはなく,通常は「のどが痛い」といった漠然とした疼痛と,発熱や倦怠感を訴えて医療機関を受診することが多い。しかし,どこが痛いのか詳細に聞くと,通常の咽頭炎などでの疼痛部位とは異なり,いわゆる「前頸部」,それも「やや下方」の痛みを強く訴えることが多い3)。すなわち,医師の認識が少し変わるだけでこの問題は解決しやすくなる。患者は頸部痛という言葉を自ら使うことはなく,医師は頸部痛という言葉から後頸部痛を想起しやすく,前頸部痛は考えにくいかもしれない。しかし,その評価は重要であり,普段から甲状腺の触診(図3)をルーチン化していくことがステップアップにもつながるはずである。
 また,頸部痛が嚥下時痛かどうかが重要で,嚥下時痛であれば基本的には咽喉頭の病変を考えればよく,咳・鼻汁・咽頭痛(嚥下時痛)といった多領域にまたがる気道症状があれば,感冒(ウイルス性上気道感染)に近いと考えられる。

第2回図3.png

図3 甲状腺の触診
甲状腺を触診する際は,前頸部の皮膚の緊張を解くうえで衣服を緩めたり,リラックスさせたりするとともに,自然に前を向くか少し顎を引いた姿勢になってもらう。視診の際は少し顎を上げたほうがよく見えるが,軽くうつむいたほうが深部まで触診できる。医師が対座して前方から両母指で甲状腺部位に優しく触れ,びまん性腫大や結節性病変,圧痛の存在などをチェックする。患者に嚥下をしてもらうと甲状腺が上下に動くので,小さな腫大や結節を見つけるのに役立つ。

 

総合内科対策本部として次につながる tips

 「風邪が治らない」と総合内科に紹介される患者への対策は,基本的に不明熱や微熱の対応に準じてよさそうだ。なかには「鼻水が止まらない」とか「咳が止まらない」ということもあるので,一概に不明熱対策だけでよいともいえない。ただし,不明咳や不明鼻水という言葉を聞かないように,おそらく患者が困る症状は発熱であり,発熱に主眼を置くことが似たような事例に対する解決策になると考える。あえてここで基本中の基本の対策を提示すると,「発熱=抗菌薬投与」という反射的な対応に終止符を打つことが本当に大切である。これなしでは,改善につながる対策はないだろう。

  • 文献
  • 1)    横江正道,他:その不明熱,原因は感染症?薬剤熱?膠原病? 日経メディカル2016年12月号.
  • 2)    岸田直樹:原因不明の発熱の原因と,やってはいけないこと.総合診療27(4):416-419, 2017.
  • 3)    辻本哲郎:亜急性甲状腺―のどの痛みに潜む甲状腺疾患に注意.総合診療32(1):58-61, 2022.

(横江正道)

 

総合内科って、大変だけど面白い。難症例も珍相談も、どんとこい!

<内容紹介>「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが,痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……『総合内科対策本部 これってどうする!?』では,総合内科に寄せられるさまざまな難症例・珍相談に応えます!

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