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『総合内科対策本部 これってどうする!?』より

連載 吉見祐輔,横江 正道

2024.07.03

「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「爪が黄色いです」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが,痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……このたび刊行された『総合内科対策本部 これってどうする!?』では,総合内科に寄せられるさまざまな難症例・珍相談に応えています!

 

「医学界新聞プラス」では,本書より4症例をピックアップし,ご紹介していきます。

 

症例

患者 62歳,女性。
総合内科へのコンサルト内容 仙腸関節炎で入院し,血液培養からStreptococcus dysgalactiaeが検出されました。セファゾリンで治療を行い,経過はよさそうでしたが,突然右目の痛みと視力低下が出現しました。精査のため総合内科で評価をお願いします。

 

総合内科医の第一声 ちょっと言わせて!

 入院中にたまたま緑内障発作でも起こしたのかしら? そんな偶然はあるかもしれないが……。でも眼科にもみてもらわないとなあ。

 

対策本部としての初動態勢

症状の特性を理解する

 菌血症患者の突然の眼症状である。菌血症と関連した病態と,偶発的に起きた病態の両方の可能性を考慮しておく。

心構え

 突然の視力低下であり,視機能を保つために,早期診断・早期治療が必要である。ただやはり眼科診察が重要になるだろう。

 

これってどうする!? 総合内科

 菌血症と関連がないとすれば,突然の視力低下および痛みからは頻度的にも急性緑内障発作が最も考えやすい。非特異的ではあるが頭痛,嘔気,視力低下,眼の痛み,充血などを確認する。過去に緑内障の発作を起こしていないか確認するのもよいだろう。
 菌血症と関連するものとしては血流由来の内因性眼内炎は考慮する。眼内炎の場合には,眼痛,視力低下,充血,眼瞼腫脹などが認められるが,症状だけでは急性緑内障発作と区別できない。また菌血症については,仙腸関節炎だけでなく感染性心内膜炎を合併していないか検討する必要がある。これは治療期間設定,今後起こりうる合併症に対する準備などに影響するためである。まずは病歴を確認しよう。

 

病歴 入院の数日前から右臀部痛が出現し,救急外来を受診した。画像所見から右仙腸関節炎が疑われたため入院となり,血液培養採取のうえ抗菌薬治療(メロペネム)が開始された。入院3日目には血液培養3/3セットと仙腸関節穿刺液からS. dysgalactiaeが検出され,抗菌薬がセファゾリンに変更になった。痛みは改善しつつあり経過もよさそうであったが,入院4日目に突然の右眼痛,視力低下を訴えた。
既往歴 糖尿病(HbA1c 6.1%程度でコントロール),高血圧症,直腸がん術後。
処方薬 グリメピリド,アムロジピン。
社会歴 喫煙なし,飲酒なし。
身体所見 血圧155/79mmHg,脈拍90/分,呼吸数20回/分,体温39.1℃,SpO2 98%(room air),意識清明。頭頸部:頸静脈の怒張なし。胸部:心尖部で汎収縮期雑音あり,呼吸音異常なし。関節:手指関節は腫脹のため評価困難であるが,他の関節は異常なし。皮膚:Janeway病変なし,Osler結節なし。眼球:右眼瞼腫脹/発赤あり,角膜混濁あり,眼球結膜充血あり(図1)。

 

眼瞼腫脹と発赤,結膜充血,眼痛,角膜混濁があり,かつS. dysgalactiae菌血症があることから内因性の眼内炎を強く疑う。急性緑内障発作は否定できない。またS. dysgalactiaeでも感染性心内膜炎を起こすリスクがあること,汎収縮期雑音があることから感染性心内膜炎は必ずチェックする必要がある。Janeway病変,Osler結節はないが,感度が低い所見のため,菌血症に加えて播種性病変の可能性がある眼内炎,関節炎を起こしている患者では心内膜炎は否定できない。

第3回図1.png
図1 大腸菌による眼内炎(別症例)
眼瞼腫脹,発赤,結膜充血,角膜混濁を認める.
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初期対応を進めるうえで必要な基礎知識

 眼内炎は重篤な眼感染症であり,眼痛(ない場合もある),視力低下,眼瞼腫脹や発赤,結膜充血を認めた場合に疑う。また前房水培養,硝子体培養も必要になるため,必ず眼科医に相談する。分類は病歴などから判断する(▶ 書籍『総合内科対策本部 これってどうする!?』 p132の表11)。内因性の場合には菌血症を起こす基礎疾患があり,眼内炎以外の症状があることも多い。ただ血液培養を行わなければ菌血症の有無,つまり内因性の可能性は判断できないことから,眼内炎を疑った場合には血液培養は必須である。
 治療は抗菌薬の全身投与に加えて,抗菌薬の眼内注射などが必要になる。場合によっては硝子体手術も必要になるが,眼科医の判断が必要になる。抗菌薬の全身投与については感受性があり,眼移行性のよい抗菌薬を選択する。具体的には第3世代セファロスポリン,ニューキノロンなどであるが,MRSAやバチルス属をターゲットにする場合にはバンコマイシンも選択肢となる2)。真菌の場合はフルコナゾール,アムホテリシンBなどが選択肢になる2)。最終的には原因菌によるが,黄色ブドウ球菌や連鎖球菌は感染性心内膜炎に伴った眼内炎の原因微生物として重要であり2),心雑音や仙腸関節炎のある本症例ではかなり疑わしい。また糖尿病は眼内炎のリスクとして知られている3)が,コントロールがよい時にリスクになるかは不明である。

 

初動に続く対応 基本計画・応急対策

 連鎖球菌である S. dysgalactiae による感染性心内膜炎とそれに伴う眼内炎,仙腸関節炎が疑わしい。血液培養の詳細を確認しつつ,眼病変からの培養採取を含めて眼科コンサルト,経胸壁心臓超音波による評価,移行性を考慮した抗菌薬への変更などが必要になる。

 

血液培養 3/3セットでS. dysgalactiaeを検出。
経胸壁心臓超音波 2度の僧帽弁閉鎖不全症と疣贅を認める。​​​​​​​
前房水培養,硝子体液培養 S. dysgalactiae。​​​​​​​
眼科診察 結膜充血,前房蓄膿,硝子体混濁を認める。

 

 以上から S. dysgalactiae による感染性心内膜炎とそれに伴う眼内炎,仙腸関節炎と診断した。

 

対応のまとめ

 眼内注射を併用しつつ,抗菌薬の全身投与については移行性を考慮してセフトリアキソンに変更した。眼病変は改善し,またフォローの心臓超音波でも弁膜症の悪化は認めなかった。その後,眼病変は落ち着き,血液培養で陰性になった時点から4週間の経静脈的治療を行い,仙腸関節周囲の膿瘍消失までアモキシシリン内服で治療を継続した。

 


感染性心内膜炎に伴う眼内炎+仙腸関節炎

類似症例に対応するためのステップアップ

 (今回は血液培養陽性が先に判明していたが)眼内炎をみた場合には,内因性の可能性を評価するために必ず血液培養を行う。血液培養が陽性の場合には,菌血症のもとになった感染があるはずなので,症状や血液培養の結果から原因となる感染巣を推定or同定する。感染巣として感染性心内膜炎以外にも肝膿瘍,尿路感染症,中心静脈カテーテル感染が重要である2)。カンジダ血症も眼内炎の高リスク因子であるが,悩ましいことにカンジダによる眼内炎は眼症状が乏しいこともあるため,全例眼科にコンサルトをする。また逆に中心静脈(CV)カテーテル留置はカンジダ血症の高リスク因子であるため,CVカテーテル留置されている患者で感染を疑う時には,必ずカンジダを候補に入れる。

 

総合内科対策本部として次につながるtips

 眼内炎は治療が遅れると失明する可能性のある緊急性の高い疾患である。本症例はもともと菌血症が判明しており,鑑別には挙げやすいと思うが,そうでない場合でも上記のような症状をみた時には必ず鑑別に挙げ,緊急で眼科にコンサルトをする必要がある。

 

  • 文献
  • 1)    Durand ML:Bacterial and fungal endophthalmitis. Clin Microbiol Rev 30(3):597-613, 2017. PMID 28356323
  • 2)    Durand ML:Endophthalmitis. Clin Microbiol Infect 19(3):227-234, 2013. PMID 23438028
  • 3)    Sheu SJ:Endophthalmitis. Korean J Ophthalmol 31(4):283-289, 2017. PMID 28752698

(吉見祐輔)

 

総合内科って、大変だけど面白い。難症例も珍相談も、どんとこい!

<内容紹介>「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが,痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……『総合内科対策本部 これってどうする!?』では,総合内科に寄せられるさまざまな難症例・珍相談に応えます!

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