総合内科対策本部
これってどうする!?

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「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「爪が黄色いです」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが、痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……総合内科に寄せられる難症例・珍相談に応えます!

シリーズ ジェネラリストBOOKS
編集 横江 正道
発行 2024年06月判型:A5頁:372
ISBN 978-4-260-05659-5
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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まえがき

 出版社の方と話をしていて「総合内科って大変そうですが,やればやるほど守備範囲が広がって楽しいじゃないですか」という言葉を聞いた時,これは,いままで自分が行ってきた,いや,仲間たちと行ってきた総合内科での経験や知恵を次世代に伝承する必要があるなと思ったことが,本書を作るきっかけになりました。
 ちょうど当時所属していた総合内科ができて20年,総合内科の評価は二分されていました。現場からは「総合内科がいてくれて本当に助かる。もう,総合内科なしでは現場は回らない」,その一方で,経営陣からは「総合内科は儲からないよね」という声を耳にしていました。この両立を目指すことは,診療報酬の仕組みやスタッフの能力など,内部環境のみならず外部環境にも大きく左右されます。
 本書が出版される2024年の日本は,医師の働き方改革元年であり,年間960時間の時間外労働時間が上限と設定されました。おそらく,いままで日本の医師は人の2倍も3倍も,すなわち24時間365日,患者のことを考えて身を粉にして働いてきました。しかし,その業務量が減らないままに勤務時間を減らせば,自ずと人手不足,医師不足に陥ります。そのしわ寄せの多くは地域医療へ向かい,結果として地域の患者に影響が出ることが予想されます。医師の地域偏在とともに,診療科偏在も大きな課題になっています。一人で幅広い領域の患者さんを診る医師がいる一方,専門医志向の結果,あるとても狭い領域での専門性を持つ医師も含めてこの国の医療を支えています。しかし,高齢化を迎えた日本には,いろいろな病気を幅広く診療することができる医師がたくさんいるほうが国民は幸せであり,財政難にあえぐ国にとっても望ましい状況だと思います。私や私の仲間は,その理想を追い求めて,臓器や専門の枠を超えて,守備範囲を少しでも広くという思いで学び,研鑽し,時に難問奇問とも思える難しい症例を重ねて,取れないボールを拾い,野球でいえばひとつのアウト,サッカーでいえばひとつのアシスト,そしてひとつのゴールにつなげてきました。
 無論,いつでもすぐに診断ができるわけではなく,苦い思いをすることもありましたが,そんな時こそ投げ出さずに長期間,患者のそばで見続けることで良好な医師-患者関係を構築し,患者の不安を拭い去ることの大切さも感じてきました。患者は誰でも唯一無二で,いつも同じではありません。しかし,病態を俯瞰的に見た時に,過去の経験が活きることは多々あります。総合内科の現場は,主訴や症状がいつもばらばらでパターン化した診療が難しく,どこか雑多なイメージすらありますが,オーダーメイド的な側面もあり,患者や症例によっては災害級に難しい課題を持っている場合もあります。それを乗り越えてきた私たちには経験と知恵からの暗黙知がありますが,その対策を個々人が持ちながらも,きちんとした形式知にはなっていませんでした。
 「災害は忘れたころにやってくる」という言葉を総合内科の診療に当てはめれば,みんなの持っている対策を,対策本部を作ってひとつにまとめておくことが,総合内科のみならず多くの医師のみなさんの財産にもなり,本書の存在価値が生まれます。なかなかテーマになりにくい総合内科の診療内容をここに集積し発刊できたことを本当にうれしく思います。本書をもとに,真正面のセカンドゴロしか取れない二塁手から,ショートまでカバーできる二塁手へと成長していただけたら幸いです。どうか,堅苦しくなく,楽しみながら読んでいただければと思います。

 2024年5月
 横江正道

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まえがき
編者紹介

1章 症状編──こんな受診・相談があったら,どんな対策で臨みますか?
  症例1 微熱がありますが,原因は何でしょう?
  症例2 どこにも熱源がありません! 真の不明熱なのか?
  症例3 発熱の診断にCRPはどこまで寄与するのか?
  症例4 咽頭痛ですが,風邪ではありません!
  症例5 首のリンパ節が腫れている患者さんが来たぞ!
  症例6 腋窩リンパ節腫脹があります!
  症例7 頭痛の原因は何でしょう?
  症例8 嘔気がありますが,胃カメラは異常ありません!
  症例9 BPPV? 脳梗塞? なんか変だな
  症例10 ホントに息切れ? 歳のせいじゃないの?
  症例11 両足に浮腫があります!
  症例12 手と足が腫れている? ちょっと難しそうで嫌だな
  症例13 体重減少ですが,原因がわかりません!
  症例14 首が痛い? 整形外科の領域じゃないかな?
  症例15 抗菌薬で一度よくなったのに,また熱が出ているなんて!
  症例16 消化管内視鏡検査をしても異常所見のない便秘?
  症例17 目が赤いのですが,痛くはないんです
  症例18 菌血症治療中の患者さんが「目が見えにくい」と言っています!
  症例19 ぶどう膜炎がありますが,膠原病ですか?
  症例20 鎖骨のあたりが変なんです! 盛り上がっているんです!
  症例21 整形外科から関節炎の患者さんが来たぞ!
  症例22 手がしびれますが,整形外科では問題ないといわれました!
  症例23 尿酸値は高くないのに?
  症例24 爪が黄色いだけで!?
  症例25 手の爪に水虫ができた!?
  症例26 眉毛も髪も薄くてむくんでいます!
  症例27 最近,母の物忘れがひどくて。脳は大丈夫でしょうか?
  症例28 交通事故を繰り返している患者さんがいるだと~!
  症例29 心窩部違和感で受診したのですが,訴えが多くてよくわかりません
  症例30 何に対してアレルギーがあるのか,わかりません
  症例31 ワクチン接種後,調子が悪いです!
  症例32 たばこをやめようと思っていますが,どうしたらいいですか?

2章 検査編──検査(値)に関してこんな受診・コンサルトがあったら,どんな対策で臨みますか?
  症例1 CRP高値ですが,なぜかわかりません!
  症例2 CK高値ですが,なぜかわかりません!
  症例3 アミラーゼが高くなってきて下がらないだと~!
  症例4 LDH高値です。なぜでしょうか?
  症例5 貧血がありますが,どこに紹介すればいいかわかりません
  症例6 好酸球高値は血液の病気では?
  症例7 低カリウム血症でカリウムを補うだけでは不十分?
  症例8 「菌血症なので急いで抗菌薬を変更しなきゃ!」それは本当ですか?
  症例9 腫瘍マーカー高値です。精査をお願いします
  症例10 抗核抗体80倍です。膠原病の精査をお願いします
  症例11 T-SPOT陽性です。抗結核薬は使ったほうがいいですか?
  症例12 術前検査で梅毒陽性でした!
  症例13 健診で蛋白尿を指摘され続けています!
  症例14 健診で血尿を指摘され続けています!
  症例15 尿の色がおかしいです!

最終診断一覧
索引

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目の前の患者さんを全力で幸せにする
書評者:山中 克郎(諏訪中央病院)

 総合内科の役割を描いた渾身の著作である。リストがピアノ曲「ラ・カンパネラ」に込めた熱い情熱と同じものを感じる。総合内科が担当する領域は広い。病院での診療を中心に,救急から外来診療,高齢者を中心とした入院治療,研修医教育までを総合内科医は手がける。高齢者はいくつかの併存疾患があるので,各専門医と連携しながらベストの治療を選択する。原因がよくわからない疾患の診断を任されることも多い。この場合は,いささか厄介である。

 本書の各症例は,特有の症状や所見を持つ患者のコンサルテーションを総合内科医が受けるところから始まる。「総合内科医の第一声 ちょっと言わせて!」には,総合内科医の日頃の苦労がにじみでていて微笑んでしまう。

 詳しい病歴と身体所見が「これってどうする!? 総合内科」で語られる。診断の8割は問診から導かれる。詳細な病歴聴取は大切である。しかしながら,患者が語る物語のどれが重要で,どれがあまり大切でないノイズなのかを振り分けることは意外と難しい。身体診察は病歴から想起された可能性の高い疾患について,特異的な身体所見がないかどうかを確認する作業である。

 続いて「初期対応を進めるうえで必要な基礎知識」では,鑑別診断を絞り込むためのバックグラウンドとなる医学知識について語られている。守備範囲が広い内科医になるためには,さまざまな疾患に対する基礎知識が必要である。若手医師は本書を読んで,さまざまな主訴に対処するための知識を吸収してほしい。

 最後に,病歴と基本的な身体診察から鑑別診断のリストをどのように絞り込み,どう対応したかが語られる。「類似症例に対応するためのステップアップ」と「総合内科対策本部として次につながるtips」では,提示された症例を基に,自らの診療をどうグレードアップすることができるかが示されていて素晴らしい。裾野の広い内科医になることを夢見ている若手医師に,ぜひ手に取っていただきたい本である。目の前の患者を幸せにすることができると,チャイコフスキー「くるみ割り人形~花のワルツ」を聴くような,楽しくて幸せな気分に医療者も包まれる。

 本書の使い方として,まず病歴と身体診察所見から,どのような最終診断であるのかを妄想し,自分ならどう対応するのか考えてほしい。鑑別診断を2~3個に絞る訓練となる。その後に解説を読むと,OJT(on the job training)を受けているようにメキメキと臨床能力がアップするだろう。

 総合内科の仕事の多くは高額な検査を必要としない,昔ながらの診療である。DPCが重視される病院経営では,売り上げの少ない総合内科に大きな圧力がかかる場合がある。しかしながら,私たちの仕事はチームプレイであり,売り上げが少ない部門だからといって病院に不要とはならないだろう。AI時代のいまだからこそ,患者の話を傾聴し体に直接触れる,昔ながらの診療が大切となってくる。


総合内科の醍醐味が詰まった一冊
書評者:上田 剛士(洛和会丸太町病院副院長/救急・総合診療科)

 『総合内科対策本部 これってどうする!?』は,総合内科の現場で直面する多岐にわたる難症例や珍相談に対する具体的な対応策を紹介する書籍です。総合内科の魅力や奥深さを余すところなく伝える一冊であり,総合内科医としての臨床能力を高めるのにうってつけの書籍です。

 総合内科とは,多様な症状や病態を総合的に診療する専門分野であり,まさに「医療の総合力」が問われる場です。本書では「微熱が続く」「リンパ節が腫れている」「両足がむくむ」「爪が黄色い」といった症例が次々と紹介され,それに対する具体的なアプローチが述べられています。総合内科の診療現場で必要な思考過程を鍛え,ピットフォールを知るにふさわしい症例が厳選されて書かれています。

 本書は症例ベース型式ですが,症例提示直後に「総合内科医の第一声」と,「対策本部としての初動態勢」が記されています。これらは優れた上級医の思考過程が反映された重要なセクションです。若手医師は自分と上級医の思考過程に違いがあるかをこの時点で確認するのも良いでしょう。

 「これってどうする!? 総合内科」のセクションでは上級医の診察風景が再現されています。どのように病歴聴取をするか,身体診察では何を確認するかに注意して読み進めると良いでしょう。

 次に症例がどのように診断・管理されたかが紹介され,最後にわかりやすい解説が付けられています。症状編には32例が紹介されていますが,いずれの症例も“奇病”に偏った選択ではなく,明日出合うかもしれないものばかりです。検査編では,15症例を取り上げています。「LDHが高い時はどうする?」「低カリウム血症はカリウム補充だけではダメ?」「腫瘍マーカー高値の時どうする?」「抗核抗体80倍だったらどうする?」など,やはりいつ遭遇してもおかしくない症例ばかりです。そういった意味では総合内科医だけではなく,研修医や医学生,あるいは臓器別専門医であっても楽しく読み進めることができると思われます。

 各症例の最後には「類似症例に対応するためのステップアップ」と「総合内科対策本部として次につながるtips」というセクションがあります。これらのセクションは,一つひとつの症例経験を今後の診療につながる知識に昇華させるために重要であり,読み終わるまで気が抜けない構成となっています。

 総合内科の魅力を余すことなく伝える本書は,現場での経験を知識に変え,さらなる成長をめざす医師にとって貴重な一冊です。この本を手に取ることで,総合内科の奥深さと面白さを感じながら,臨床力を磨いていただけることと思います。

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