薬局間の連携体制を構築する
在宅患者に医薬品を24時間365日安定供給するために
対談・座談会 串田一樹,白石丈也,佐々木健,石垣泰則
2024.11.12 医学界新聞(通常号):第3567号より
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在宅療養者の急変時,突発的に医薬品が必要な状況が発生する。2015年に厚労省から発出された『患者のための薬局ビジョン』1)によれば,全ての薬局に24時間在宅対応が求められているものの,実際には一部の薬局しか対応できておらず,対応可能な薬局に処方箋が集中している状況だ。また昨今,医薬品自体の供給不足の問題が,より構造を複雑化させている。
こうした状況下で求められるのが薬局間の連携体制の構築である。本紙では地域の医療連携を研究してきた串田氏を司会に,福島市で薬局間連携の中核を担う白石氏,東京都で大手調剤薬局をも巻き込んだ薬局間連携を進める佐々木氏,在宅医療に黎明期から携わる石垣氏による座談会を企画。薬局間の連携体制構築のヒントから,薬剤師に期待される専門性まで広く議論した。
串田 私は在宅医療推進に向けた地域の医療連携の環境整備について研究をしています。本日は,在宅医療における医薬品の24時間365日安定供給に向けた薬局間連携をテーマに,福島県と東京都でそれぞれ薬局間連携を進めている薬剤師の白石先生と佐々木先生に加え,医師として30年以上在宅医療に携わり日本在宅医療連合学会の代表理事も務める石垣先生にご参加いただき,議論したいと思います。
薬局間連携と代替薬の提案で医薬品不足をカバー
串田 薬局間連携が求められる背景には,医薬品の供給不足が続いていることと,在宅医療の推進において24時間体制での医薬品供給の在り方が問われていることの2点があります。石垣先生はこの問題を処方医の立場から直視されていらっしゃると思います。最近現場で困ったことはあったでしょうか。
石垣 強い痛みで苦しむ患者さんにモルヒネを処方した際,10年ほど通っているかかりつけ薬局へ処方箋を発行したものの,「モルヒネがないので,週明けの処方になってしまいます」との返事があり困りました。何より患者さんが苦しんでいて気の毒でした。モルヒネや抗てんかん薬など欠けてはいけない医薬品もタイムリーに手に入らない現状を感じています。
白石 特に土日祝日の医療用麻薬の確保については,金曜日午後の注文の納品が週明けになってしまうなど緊急時の在庫確保が問題となっています。また現在はそれに加え医薬品の供給不足が深刻です。以前はたとえ医薬品が欠品していても次の納期が明確でしたが,最近は「入荷未定」と卸業者から伝えられる場合が多く,何とか手に入れられるメーカーの医薬品で賄っている状況です。近隣の薬局をはじめ福島薬剤師会会員の薬局間で調剤実績がある品目を確認できるシステムを活用し,薬局間で連携しながら対応しています。自薬局が受け持つ在宅患者については,医師や訪問看護師と事前に病状を共有し,在庫をあらかじめ確保するなど後手に回らない工夫も行っています。
佐々木 都内における医薬品流通の状況も福島市と同様で供給不足の問題に直面しています。解決策として,普段お付き合いしている医師から,「代わりにどの薬が良いのかを一緒に考えてほしい」と相談を受けることがあり,治療方法から「この薬であれば対応できます」と代替薬を提案することでも対応しています。それでも代替薬が見つからない場合は,個人薬局だけでなく基幹病院の門前にある大手調剤薬局にも電話して在庫を確認しています。皆さん快く小分け対応してくださるので,何とか供給できている状況です。
石垣 先生方のように薬局間の連携ですぐに手配してくれたり,同一の薬効を持つ代替薬を探してくれたりとフットワークが軽く,機転の利く薬局の存在は非常に心強いです。
薬局ならではの24時間365日体制構築の課題
串田 2015年に厚労省から発出された『患者のための薬局ビジョン』1)で,かかりつけ薬局として24時間対応と在宅対応が全ての薬局に求められてから間もなく10年を迎えます。この10年の歩みをどう振り返っていますか。
白石 かかりつけ薬局として求められる機能は周知されてきたものの,「24時間対応」「在宅対応」においてその機能を果たせている薬局は多くないのが現状でしょう。かかりつけ薬局に薬がないからと,患者が他の薬局を探す状況はなくさなければなりません。その上で,在宅医療では緩和ケアなど医療依存度が高く専門性の高い問題に対して,地域全体の共通課題との認識を持つ必要があります。私の薬局では在宅医療に関するさまざまな相談を受けているうちに,いろんな機能やノウハウが備わってきたので,薬剤師会等でそれらを共有することに努めています。
佐々木 在宅医療のクリニックが都内で増加し始めた10数年前,在宅医療に対応している薬局はほとんどなく,「大変で利益も上がらないけれど,在宅医療が進み対応する薬局が増えるまででも在宅医療に協力しよう」との考えから在宅医療専門薬局の立ち上げに携わりました。でも,いまだにやればやるだけ処方箋が集まってきて,全て受けていたら薬局がパンクしてしまう状況です。都内でも規模にかかわらず何店舗かは24時間365日体制で対応しているものの,その数は増えません。日曜,祝日,年末年始などは在宅医療に対応している薬局であっても緊急の電話がつながらず,私のところに対応できないかと頻繁に連絡がきます。
データ上は在宅医療に対応する薬局が増えているように見えますが,実際に対応できている薬局はそう増えていないと感じています。今は何とか自ら動いて対応できているものの,いずれ限界が来るのではと危惧しています。
串田 本当の意味で在宅医療に対応する薬局が増えてほしいというのは切なる願いとしてありますが,増えない理由はどこにあるとお考えでしょうか。
佐々木 ほとんどの理由は「24時間365日対応したくない」という点に帰結するでしょう。私も子どもと遊んでいるときに対応するのは心苦しいので理解できます。一方で,「24時間365日対応」だけでもサポートする仕組みがあれば取り組んでもらえる薬局が増えるのではないかと考えています。いま,私の薬局では人材を派遣して24時間365日対応が地域で実現できるような体制作りを進めています。この取り組みがうまくいけば,在宅医療に参入してくれる薬局も増えるのではないかと期待しています。
石垣 医療機関は医療法人として運営していますが,薬局の多くは株式会社なので24時間365日体制を組んだときの損益を考えなければならないのかもしれません。24時間体制のサポートに関して,医療機関では在宅療養支援診療所・支援病院等があり,しかも機能強化型などいろいろな形で支援する制度があります2)。よく存じ上げていないのですが,薬局にもそうした制度はあるのでしょうか。
佐々木 在宅協力薬局制度(註)がありますが,利用することでインセンティブが得られる仕組みはありません。
石垣 そうであれば,国が制度化し,診療報酬で評価してインセンティブを付けることも求められます。佐々木先生が地域で取り組もうとしている施策においても,例えば3つほど在宅医療支援薬局を設けて当番制で対応するのも一案かと思いました。医療機関では,おおよそ10万人の人口規模ごとに,在宅医療を支えるユニットを構成できると地域医療をカバーできると個人的に試算しております。薬局においても人口規模に応じたユニットを用意できると良いかもしれません。
顔が見える連携は腕や腹の中,癖まで見える連携である
串田 これから団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年に向けて在宅患者が増え続けていくと想定されています。訪問薬局の新規開業だけでなく,いまある薬局にも在宅医療にかかわってもらい一緒に在宅医療を推進していかなければ増え続けるニーズに応えられなくなるでしょう。薬局間連携を進めていく手立てを教えてください。
白石 在宅医療への第一歩を不安なく踏み出せるよう,薬局間連携も含めたサポート体制の整備です。福島市は中核市ではありますが,薬局間の連携は割と取れているほうだと思います。ただ,在宅医療となると,これまで経験していないからという理由で腰が引けてしまう薬局があることも事実ですし,その部分の連携はまだ十分ではありません。在宅医療に関する研修会を開催しても,参加者は普段から在宅医療にかかわっている方などいつも同じです。福島薬剤師会として在宅医療を見据えた支援はとても大切な役割だと考えていますので,連携体制の充実に向けて取り組んでいきたいと考えています。
石垣 在宅医療で活躍できるだけの知識は薬剤師も十分に持っていると思います。ただ,他職種とどうコミュニケーションを取れば良いかがわからなかったり,勉強しても在宅医療に飛び込めずタイミングを見計らっていたりする方が多いのだと思います。まずは飛び込んでいただき,そこを薬剤師会や学会もサポートすることで,成功体験を得られると在宅医療にかかわろうというモチベーションがさらに上がってくるのだと思います。
佐々木 薬局間での連携を強固にしていく上で,顔の見える関係も欠かせません。都内に限ってかわかりませんが,訪問薬局の経営者や薬剤師にはベンチャー気質があり,門前に病院がない場所に開業して,営業を頑張って処方箋を集めていくというパターンが多いように思います。彼らは多くの情報を得たり,業務を効率化したりすることに長けているので,同じ訪問薬局同士で処方箋の取り合いのようなライバル関係から始まるものの,名刺交換して一緒に飲みに行くと他の訪問薬局と連携することの意義やメリットを理解いただけて連携できることがあります。お互いに,腕や腹の中まで知ることで信頼ある関係を築くことができるのだと思います。
白石 私も連携するには相手がどのような人かを知るのは欠かせないと思います。福島市では医師から介護職,行政まで多職種が毎回100人ほど参加する研修会が2か月に一度開催され,話題提供を担当する職種からの発表と,そのテーマに沿ったテーブルカフェが行われ参加者同士がお互いを知ることができます。こうした多職種が一堂に会する機会があると同じ職種内だけでなく,他職種ともつながりが生まれますし,研修会後に懇親の場もあり,つながりがさらに深まっているように思います。ある先生から「顔が見える連携というのは,お互いの癖まで見える連携だ」と言われたのはとても印象に残っています。「この人にお願いすれば,ここまで患者のためにやってくれるだろう」とわかることで,連携が成り立つのでしょう。
薬局・薬剤師としての専門性を高める
串田 2021年に「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の2つの機能別薬局の認定制度が誕生しました。専門性を身につけることで,医師をはじめとした他職種と話が合い,円滑に在宅医療を担えていると聞きます。今後の在宅医療の患者像を考えると,薬局も均一性から脱却して専門性を持って機能分化していくことも考えなくてはならないと思いますが,そのあたりについていかがでしょう。
白石 医療依存度が高い在宅医療に,既に取り組んでいる薬局とそうでない薬局では実際の対応に差が出てきていますが,地域の中で薬局機能を標榜することが制度化されたことは有意義だったと思います。一方で,認定がなされていても,その機能分担が明確に見えてこない課題があります。在宅医療に特化した地域連携薬局は,その中でがん緩和ケアや小児在宅などまたさらに得意とする機能分化が必要かと思いますし,連携する薬局間で得意とする領域を把握し分担できる仕組みができるとよいと思います。
佐々木 今年新たに,薬局薬剤師が医師に対して処方の提案や設計に結び付けると,調剤報酬が算定できるようになりました。在宅医から「あの患者さん知っているでしょう。あの人に一番合う薬を在庫にあるもので提案してくれない。その処方箋を書くから」といったオーダーが増えているので,このインセンティブの導入は外来による調剤業務以上に在宅医療の現場に生きると思います。こうしたかかわりは医師だけでなく,看護師やケアマネジャーからも喜ばれるので,薬剤師として「もっと疾患の勉強しよう」とモチベーションが上がります。機能分化を進めることが,薬剤師の存在が生きる社会につながると考えています。
石垣 日本在宅医療連合学会の立場から申し上げますと,ぜひ専門性の強みを持った薬局,薬剤師が増えることを大いに期待しています。在宅医療が対象とする疾患や患者が多様化し,今後さらにその傾向は進むでしょう。在宅医療における新規治療法が次々開発される中で,医師―看護師―薬剤師の連携は欠かせません。
串田 在宅に移行するまでに,病院で治療を受けられてから治療体系としては連続しているので,薬剤師も薬の処方も含めた治療全体を理解する必要があります。厚労省でも「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」による議論が進んでおり3),薬剤師としての専門性を持って勉強し,活動することが求められるのだと期待しています。
薬局・薬剤師の使命を自覚し,在宅医療への貢献を
串田 最後に在宅医療に関心を持つ薬剤師や,薬局間連携を模索する読者に向けてメッセージをお願いします。
白石 薬剤の安定供給は在宅医療に必要不可欠です。そこに薬剤師が専門的な視点で多職種と情報を共有することが求められています。在宅医療を支えるピースの一つとして薬局間連携もしながら地域を支えていくことがわれわれ薬局・薬剤師の使命です。また,在宅だけでなく外来でも患者,多職種から相談を受けたときに「できます,できません」だけで答えてほしくありません。できないのであれば,横の連携で代替案を多く提示してほしいですし,そうしようとすることで薬局間連携が進むのではと期待しています。
佐々木 在宅医療において,医師同士や看護師同士の連携と比べて,薬剤師同士の連携はまだまだ進んでいません。恐らく薬局は経営者が「処方箋は全部うちが取るんだ」といったライバル意識が根付いているので,その意識から変えて薬局同士が連携できる仕組みが整うとさらに社会が良くなると思います。現に当薬局では目黒区,世田谷区,大田区の別法人の薬局による有志連合のバックアップ体制ができつつあり,日曜日,祝日に医薬品や点滴チューブなどを他薬局から譲渡していただいいたり,転居した患者を紹介したりなどの実績があります。薬局間連携は患者や他職種に貢献するために重要です。在宅医療に取り組む仲間が増えていくとうれしいです。
石垣 在宅医療はますます発展することが期待されています。在宅医療は専門職内の連携と,専門職間(多職種)の連携という二つの階層での地域連携が根幹になってきます。どうしたら連携できるかといった前向きな気持ちを持って,地域連携を進めていただきたいと思います。
串田 専門職として薬剤師の能力を発揮するため,薬剤のことだけでなく疾患の知識など幅広く勉強し,多職種と協力してチーム医療に貢献することが求められています。保険調剤は税金と保険料で運営されている公的サービスであることと,国家資格である薬剤師としてその責務を自覚して,在宅医療にも貢献していただきたいです。
(了)
註:緊急その他やむを得ない事由がある場合に,在宅基幹薬局の薬剤師に代わって訪問薬剤管理指導を行うことができる制度。
参考文献・URL
1)厚労省.患者のための薬局ビジョン ――「門前」から「かかりつけ」,そして「地域」へ.2015.
2)厚労省.在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院等の役割(イメージ).
3)厚労省.これまでの議論のまとめ(地域における薬局・薬剤師のあり方).2024.
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串田 一樹(くしだ・かずき)氏 昭和薬科大学社会薬学研究室 研究員
1974年昭和薬科大卒業後,同大助手,講師等を経て,2015年より同大地域連携薬局イノベーション講座特任教授。21年より現職。薬剤師のための在宅輸液療法・在宅療養支援の研究会であるHIP研究会会長を務めるなど,在宅医療推進に向けた地域の医療連携の環境整備を研究している。
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白石 丈也(しらいし・たけや)氏 けや木薬局 / 福島薬剤師会 会長
1994年東北薬科大(当時)卒業後,株式会社オオノひかり薬局に入職する。2006年有限会社メディックス白石を設立し,同年福島市にけや木薬局を開業し現在に至る。また,22年より福島薬剤師会会長も務める。けや木薬局では,開業当初から無菌調剤設備を持ちながら在宅医療にも取り組んでいる。
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佐々木 健(ささき・たけし)氏 メディプレイス365訪問薬局 / 目黒区薬剤師会 理事
1998年昭和薬科大卒業後,トライアドジャパン株式会社に入社する。その後,株式会社グッピーズ,株式会社メネフィットを経て22年より現職。目黒区薬剤師会では理事を務め,在宅療養支援の担当をしている。目黒区を中心に6つの薬局と連携し,在宅医療における医薬品供給を担う。
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石垣 泰則(いしがき・やすのり)氏 コーラルクリニック 院長 / 日本在宅医療連合学会 代表理事
1982年順大医学部卒業後,同大脳神経内科に入局する。90年城西神経内科クリニック開業,96年医療法人社団泰平会を設立し理事長に就任する。その後,2009年にコーラルクリニックを開院し,11年より現職。1992年から在宅医療に携わり,19年日本在宅医療連合学会代表理事に就任する。
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