小児緩和ケア診療加算の新設から考える
こどもたちに緩和ケアを届けるために大切なこと
寄稿 余谷暢之
2024.07.09 医学界新聞(通常号):第3563号より
小児医療の発展とともに,これまで根治が難しかった疾患に対する治療の選択肢が増えています。それに伴い,慢性的に医療を必要としながら生活するこどもが増加しました。例えば,2021年時点で在宅医療的ケア児の数は2万180人であり,これは15年前の2倍近くに当たります。中でも人工呼吸を必要とするこどもの数は5214人に上り,これは15年前と比べて約10倍に相当します。こうした変化を背景に,穏やかに過ごすことを支える緩和ケアの役割は,小児医療の中でますます大きくなってきています。
小児緩和ケア診療加算の新設
そういった社会状況の中で,令和6年度の診療報酬改定では小児緩和ケア診療加算が新設されました。その算定基準をまとめています(表)。加算のポイントは以下です。

1つ目は,緩和ケアチームは「小児科経験を有する医師及び看護師を含む」ものとされたことです。わが国の緩和ケアチームの多くは成人を対象としているため,小児患者の診療はややハードルが高いかもしれません。そのハードルを少しでも下げられるように,日本緩和医療学会は2021年に『緩和ケアチームが小児患者にかかわるためのハンドブック』を作成しました。その中には,小児領域の文化ともいうべき特殊性や,こどもへのかかわり方における工夫などが記載されています。こうした活動のおかげか,小児がん患者に対する緩和ケアチームの介入件数はここ数年で1.5倍に増加しており(図),小児領域特有の文化を知ることが介入のハードルを下げている可能性が示唆されています。今回の小児緩和ケア診療加算の中で求められている「小児科経験を有する医師及び看護師」がチームに加わることは小児領域特有の文化の理解につながり,今後ますます介入がしやすくなるのではないかと期待しています。

2つ目は,末期心不全に関する基準の明記です。これまでは緩和ケア診療加算の中に小児患者も含まれていたことで,小児特有の疾患に対して加算が算定できないジレンマがありました。末期心不全も2018年に緩和ケア診療加算の対象疾患となりましたが,その基準は成人の心不全を想定して作られていたため,先天性心疾患がほとんどである小児患者は適応にならないことが多いのが実際でした。今回の改定では,小児緩和ケア診療加算の中の末期心不全の基準は成人の基準と異なるものとなっており,小児の先天性心疾患患者でも一部の患者に対しては算定ができるようになっています。
そして3つ目は,「家族へのケアを行った場合の評価」にも加算が適用されることです。こどもと家族は1つのユニットであり,家族支援も重要です。
これらの点を確認するだけでも,成人と異なる小児の特殊性に配慮した加算要件になっていることを想像できるかと思います。
こどもの症状に「気づく」ことが緩和ケア実践の第一歩
では,実際にこどもたちに緩和ケアを届けるには,何を大切にするとよいでしょうか? 症状緩和を例に少し考えてみたいと思います。
こどもの症状緩和を考える際には,まずこどもの症状を正確にとらえることが重要であり,「そこに症状がある」ということに医療者が気づくことがスタートになります。こどもたちの中には,自分の症状を言葉で伝えられない子もいます。また言葉で伝えられるこどもであっても,その子と症状をどのように共有し,緩和策につなげるかを考える必要があります。周りのスタッフからの情報収集や家族に対する問診,詳細な診察,画像を含めた検査所見から,きっとこの子にはつらさがあるだろうと想像することが重要です。
私自身,小児科医として勤務したのちに成人の緩和ケアの診療に携...
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余谷 暢之(よたに・のぶゆき)氏 国立成育医療研究センター総合診療部緩和ケア科 診療部長
2004年大阪市大医学部卒。初期臨床研修修了後,06年から国立成育医療センター(当時)で小児科専門研修を行い,その後スタッフとして救急,総合診療に従事。14年より神戸大病院の緩和ケアチームにて成人の緩和ケア診療に携わる。同年大阪市大大学院博士課程修了(公衆衛生学)。17年より現職。著書に『小児緩和ケア――こどもたちに緩和ケアを届けるために大切にしたいこと』(医学書院)。
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