小児緩和ケア
こどもたちに緩和ケアを届けるために大切にしたいこと

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緩和ケアを必要とするこどもは、病院でも、在宅でも、確実に増えています。生命の危機に直面する疾患を持つこども、痛みや呼吸困難などつらい症状を抱えるこども、そしてその家族には、確かな緩和ケアが必要です。症状緩和のための知識と技術、意思決定支援の考えかた、疾患ごとの緩和ケアの進めかたを国内外の研究を踏まえてまとめた、はじめての小児緩和ケアのテキスト。経験則を超えて、小児緩和ケアの専門性を高めるために。

余谷 暢之
発行 2024年06月判型:A5頁:256
ISBN 978-4-260-05624-3
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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はじめに

 こどもたちに緩和ケアを届けたいと思ったとき、そこにはいくつかの障壁があります。中でも、具体的にどのように実践したらいいのかわからないということが大きな障壁となるのではないでしょうか。私もかつて、小児緩和ケアの勉強がしたいと海外の文献や教科書を読みました。しかし、そこに書いてあることは概念的には理解できるけれど、実践するにはどうしたらいいかわからないと感じていました。
 国立成育医療研究センターでこどもの緩和ケアの専門家として仕事を始めて、6年が経ちます。実践を重ねていく中で再度教科書を読むと、なるほどと腑に落ちることが多くなってきました。経験を積み重ねることでわかることがあると感じています。
 しかし、多くの医療者にとって、こどもたちに緩和ケアを届ける機会は成人と比較して多くありません。そこで、私がこれまで出会った多くのこどもたちと家族との経験を形にすることで、こどもたちに緩和ケアを届けようとされている方の支えになるのではないか、そんな想いでこの本をまとめました。

 執筆にあたっては、英国の小児緩和ケアの教科書であるOxford Textbook of Palliative Care for Children 3rd ed.(Oxford University Press, 2021)、Interdisciplinary Pediatric Palliative Care 2nd ed.(Oxford University Press, 2022)そして、EPEC-Pediatricsコース(2021年に受講)の内容などを参考に、私の実践をまとめています。
 本書が、こどもたちに緩和ケアを届けたいという皆さんの想いを実践につなげるための一歩になればと願っています。

 2024年4月
 余谷暢之

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Chapter I 小児緩和ケアの考えかた
 1 小児緩和ケアの基本──大切な考えかたを知る
   1 こどもを主語にした緩和ケア
   2 緩和ケアの歴史的背景
   3 小児緩和ケアの広がり
 2 わが国における小児緩和ケアの歩みと現状
   1 わが国における小児緩和ケアの取り組み
   2 小児緩和ケアの対象疾患
   3 療養場所、死亡場所の推移

Chapter II 症状緩和
 1 症状評価の基本
   1 こどもの症状を捉える
   2 症状の原因を考えて評価する
 2 疼痛
   1 疼痛の有病率
   2 病態生理学的観点からの痛みの分類
   3 痛みへの対応
   4 慢性疼痛の診断と対応
 3 呼吸困難
   1 呼吸困難の有病率
   2 呼吸困難の病態生理学
   3 呼吸困難の原因
   4 呼吸困難への対応
 4 倦怠感
   1 倦怠感の有病率と評価
   2 倦怠感の原因
   3 倦怠感への対応
 5 消化器症状、出血
   1 悪心・嘔吐
   2 便秘
   3 出血
 6 精神症状
   1 精神症状の評価と介入
   2 不安
   3 抑うつ
   4 せん妄
 7 臨死期への対応
   1 終末期の見通しを家族と共有する
   2 今後起こりうる症状を共有する
   3 終末期の症状への対応

Chapter III 意思決定支援
 1 意思決定支援の考えかた
   1 治癒が望めない状況における意思決定支援
   2 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)と治療方針の決定
 2 小児医療における意思決定支援
   1 小児医療においてACPをどう考えるか?──IMPACT研究グループによる小児のACPガイドから
   2 これからの治療・ケアの方針について検討する
   3 疾患の軌跡を意識して進めていく
   4 こども本人と話す
   5 多職種で検討する
   6 話し合いにおいて大切にしたいこと

Chapter IV 疾患・部門ごとの緩和ケアの特徴
 1 小児がん
   1 小児がんの特徴
   2 症状への対応
   3 終末期を見据えた意思決定支援
 2 重症児(CSHCN/CCC)
   1 重症児の特徴
   2 重症児の症状緩和──神経疾患を抱えるこどもを中心に
   3 重症児とその家族の意思決定支援
 3 循環器疾患
   1 先天性心疾患に対する緩和ケア
   2 心筋炎・心筋症に対する緩和ケア
   3 循環器疾患に対する症状緩和
 4 集中治療室(ICU)
   1 ICUにおける特徴
   2 ICUにおける症状緩和の特徴
   3 ICUにおける意思決定支援
 5 周産期・新生児
   1 周産期緩和ケアとは
   2 周産期緩和ケア特有の課題
   3 胎児期からの緩和ケアの実践
   4 新生児期の緩和ケアの実践
   5 新生児の症状緩和

Column 家族を主語にしたビリーブメントケア

Appendix 薬剤一覧
 鎮痛薬
 オピオイドに関連する薬剤
 鎮痛補助薬
 抗精神病薬
 緊張に対する薬剤
 消化器症状に対する薬剤
 その他

索引

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経験則だけに頼らない,これからの小児緩和ケアのために
書評者:田村 恵子(大阪歯大大学院看護学研究科(仮称)開設準備室)

 本書は,現代の医療環境において緩和ケアを必要とするこどもが増加しているという現状を背景に執筆されています。小児がんや重度の循環器疾患,集中治療室(ICU)でのケアが必要な重症児など,生命の危機に直面するこどもたちは少なくありません。そのため,単に病気を治療するのではなく,痛みや呼吸困難,倦怠感,消化器症状,精神症状など,多様な苦痛を和らげることを目的とした緩和ケアが非常に重要視されています。目次を見てもわかるように,本書は4つの大きな章に分かれており,それぞれに実践的な内容を扱っています。

 まず「ChapterI 小児緩和ケアの考えかた」では,緩和ケアの基本的な理念と,日本における小児緩和ケアの歴史的な歩みや現状について解説されています。小児緩和ケアがどのような経緯で発展し,今後どのような方向に進むべきかについて,医療従事者だけでなく,家族や地域社会にも参考になる内容です。

 「ChapterII 症状緩和」は,痛みや呼吸困難,倦怠感,消化器症状など,緩和ケアで頻繁に直面する症状に対する具体的な対処法を扱っています。特に,臨死期における対応についても詳しく触れており,終末期医療において医療従事者がどのように対応すべきかが明確に示されています。

 「ChapterIII 意思決定支援」では,小児医療において非常に重要なテーマである意思決定支援の考え方が取り上げられています。医療的意思決定が難しい状況において,家族やこどもの意思を尊重しながら,医療チームとしてどのように意思決定を進めていくべきかを具体的に解説しています。

 「ChapterIV 疾患・部門ごとの緩和ケアの特徴」は,小児がんや循環器疾患,集中治療室における緩和ケアの違いや,それぞれの疾患や部門における特有のケア方法を解説しています。また,周産期・新生児に対するケアにも言及しており,幅広い年齢層のこどもたちに対してどのようなケアが必要かが網羅されています。

 特筆すべきは,Appendixとして「小児緩和ケアでよく使う薬剤の具体的な使用法一覧」が掲載されている点です。緩和ケアに必要な薬剤の使い方が具体的にまとめられており,現場の医療従事者にとっては即戦力となることが期待されます。また,家族を主語にしたビリーブメントケアに関するコラムも掲載されており,家族のケアに関する理解も深めることができます。

 本書は,小児緩和ケアにかかわる全ての医療従事者にとって必読の書といえます。これまで経験則に頼ることが多かった小児緩和ケアに,科学的根拠に基づいた知識と技術を提供することで,医療の質を向上させるための一助となることでしょう。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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