医学界新聞

迫る2025年問題

対談・座談会 山田雅子,高砂裕子,平原優美

2024.06.11 医学界新聞(通常号):第3562号より

3562_0301.png

 2022年度中に新規で立ち上げられた訪問看護ステーションは約2000施設であった反面,800施設近くが事業の廃止もしくは休止に追い込まれた1)。背景には,後継者問題を含めた人材不足,事業所増による利益率の低下,管理者の経験不足など,複数の問題が存在し複雑に絡み合っている。高齢化の進展に伴う利用者数の増加,また在宅療養の流れがさらに加速する近い将来,訪問看護を日本全国にあまねく提供していくには何が必要で,どのようなシステム作りが求められるのか。訪問看護師等のリカレント教育に携わる山田氏を司会に,全国訪問看護事業協会の高砂氏,日本訪問看護財団の平原氏が意見を交わした。

山田 団塊の世代が後期高齢者になる2025年をめがけて,訪問看護の変革のために日本訪問看護財団,全国訪問看護事業協会,それから日本看護協会の訪問看護関連3団体は,「訪問看護アクションプラン2025」(MEMO)を2014年に策定しました。訪問看護制度が創設された1990年代前半の黎明期から活躍する第1世代と呼ばれる訪問看護師たちが引退し始めた現在,長年にわたり訪問看護をリードしてきたお二人に,これまでを振り返りながら,訪問看護の未来を語っていただきましょう。

 団塊の世代が後期高齢者の年齢に達し医療や介護などの社会保障費の急増が懸念される2025年問題。この問題に対して関連3団体(日本訪問看護財団,全国訪問看護事業協会,日本看護協会)が,訪問看護を担当する事業者・職員が取り組むべき事項について訪問看護のめざす姿とその実現に向けた行動計画をまとめたもの。①訪問看護の量的拡大,②訪問看護の機能拡大,③訪問看護の質の向上,④地域包括ケアへの対応の4項目から構成され,国民に訪問看護を知ってもらうためのツールとしての役割も担っている。

山田 さて,アクションプランが想定していた2025年が来年に迫っています。まずは本プランの評価をしていきましょう。高齢化率の上昇に伴う利用者増に対応するため,訪問看護師の「数」を増やすこと,そしてその「質」の向上をめざすことが同プランの主な目標に据えられています。お二人は達成度をどうみていますか。

高砂 アクションプランでは12万人の訪問看護師の確保が掲げられており,2020年時点で約9万人となりました。プランが策定された2014年から倍増はしましたが,目標値には今一歩届かないと考えています。

山田 目標に届かないとはいえ,訪問看護の従事者数が大幅に伸びています。その理由はどこにあるのでしょうか。

高砂 2012年の診療報酬と介護報酬の同時改定を機に制度が見直され,在宅医療の推進と相まって一つのビジネスモデルとして普及したことが理由の一つに挙げられるでしょう。それまでは「訪問看護を実践したい!」という看護師の熱意でステーションが開設されていたケースが多かったものの,医療以外の民間営利法人の参入が増加しました。

平原 同時期には日本訪問看護財団にも他業種からの開設方法に関する問い合わせが相次ぎました。そうした他業種から参画する方は,地域における看護のニーズを敏感に察知し,開設を検討していたのです。中でも印象的だったのは,ガソリンスタンドを閉鎖して訪問看護ステーションを開設したいと希望された,地方に住む男性からの問い合わせです。訪問看護とはどういうものかという基本的な部分から相談が始まり,2時間ほど電話でやり取りをしました。

山田 その男性は,どのような期待から訪問看護ステーションの開設を検討されていたのでしょう。

平原 地域の健康管理です。ガソリンスタンドからの風景を何十年と見続けてきたことから,「いつもこの時間に横切るおばあさんが今日はいないぞ」といったまちの変化や,常連の方と給油中に健康に関する立ち話をする中で,ケアのニーズを感じ取ったようです。

山田 アクションプランでも言及されている地域包括ケアの文脈にも読み替えられますね。

平原 まさにそうです。残念ながら開設には至らなかったようですが,繊細に地域住民の変化を気にかけ,まちを愛しているように感じました。「ステーション運営はもっと柔軟に考えていいのか!」とハッとさせられたことを覚えています。

山田 全国訪問看護事業協会では毎年訪問看護ステーション数を調査しているのですが,お二人が指摘されたように他業種からの新規参入が増えていることもあってか,2022年度には新たに約2000の訪問看護ステーションが誕生しました1)。しかし,その裏では800施設ほどが廃止・休止を選択しており,その理由の一つには人材不足が考えられています。

高砂 けれども訪問看護をやりたいと希望する看護師は意外と多く,自身が働いている領域外での就業意向を聞くと,「訪問看護などの在宅医療・看護」を希望する方は年代問わず6割ほど存在することが調査によって明らかになっています2)。他の領域と比較しても高い数値です。

平原 この前体調を崩して入院をしたのですが,訪室してくれた看護師が訪問看護に興味がありますと声を掛けてくれました。訪問看護でどのようなケアが提供されているのか想像がつかず,働き方を含めて興味があるとのこと。実際,訪問看護の領域に就職される方の多くは病院での勤務経験のある転職者の方です。

山田 ただ,病院とは就労環境が全く異なるために,同じ看護を持ち込めずギャップを抱く看護師も多いです。定着を見据えて,新任の訪問看護師への教育で注意されていることはありますか。

平原 看護師としての価値観を変えてもらうことです。

山田 それはどういうことですか。

平原 一つエピソードを紹介します。ある病院の優秀な看護師が訪問看護の研修を行った際,利用者に対して生活習慣の改善を提案したところ断られてしまったという出来事がありました。この看護師は断られたことに驚いて,「自分はもうやっていけない」と吐露したようです。しかし,われわれ訪問看護に長年従事している者にとっては,利用者に提案を断られるのは日常茶飯事です。「この方法はどうですか?」と代替案を提示していくのも訪問看護師の一つのスキルだと考えています。

山田 病院の患者さんは,医療者の言うことに我慢して従っている面が少なからずありますよね。

平原 ええ。医療者の思惑通りに動いてもらうことを善としてとらえた場合には,妥協案を提示する訪問看護の接し方は悪に映ってしまう可能性はあります。しかし,断られて成果を上げられないよりは,利用者の暮らしや考え方に合わせてできる範囲のことに取り組んでもらい,少しでも状態を改善させるように働きかけるのも重要です。業務的にしつこく指導をしても「はい,はい,わかりました。家ではお酒を飲みません」と,その場しのぎの返事が返ってくるようになるだけで,在宅療養の場合はいくらでも隠れてできてしまいますから。これでは健康状態が悪化していく一方です。こうした看護師の想いと利用者の考えのすれ違いが起こってしまうと,しまいには「看護師さん忙しそうなのであとはやっておきますね」と家族にも言われ,頼りにされなくなってしまう場合もあります。

高砂 一方で,利用者からも家族からも頼りにされる看護師もいらっしゃいますよね。

平原 もちろんです。そうした看護師の様子を観察すると,感情を吐き出せる雰囲気を作り出していたり,予定していた訪問時間を超過してしまうほどに利用者や家族の話を聞いていたりするなど,利用者にとって何が最善かを常に考えてケアをしています。訪問看護に限って言えば,教科書通りにテキパキとケアを提供するだけが全てではないのかもしれません。

山田 同感です。でもこのような訪問看護師として必要なマインドは,教育プログラムに明文化されていることは少ないです。

高砂 マインドを涵養するには先輩訪問看護師との複数回にわたる同行訪問が大切になってくるのでしょう。どのようなケアを提供しているのかを目で見て,直接感じながら吸収していくことが求められます。

平原 今話したような利用者のニーズに沿った丁寧なケアを続けていれば,訪問看護の質・価値を向上させることができるはずです。しかしながら,どうしても利用者個人の満足度は周囲に広まりにくく,訪問看護の価値を地域に示しきれていないステーションが多いと推察します。

山田 何か策はあるのでしょうか。

平原 利用者だけでなく,ステーションを紹介してくださるケアマネジャーや病院の退院支援看護師などからの評価を大切にすることです。「患者さんの自宅近くであればどの施設でもいいか……」と思ってたまたま声をかけたステーションで,「おっ!!」と思わせる想像以上のケアが提供されていたならば,「あそこのステーションの看護師さんは良かった!」と記憶に残り,その後の関係も続きやすくなります。看護技術を丁寧に実践するステーションは,そうした口コミが広がりやすいです。

山田 血圧を測って「今日は高いですね。ちょっと塩分多かったですか」と定型的な会話をしてデータ取得のみで帰ってしまうのではなく,「1週間,頑張って暮らしていらっしゃいましたね。家族の人も大変でしたね」といった心配りを見せた上で,「爪がちょっと伸びていますから切りましょうか」と一言添えるだけでも利用者・家族に与える印象には大きな差を生みます。ケアの価値を高めるにはこうした心配りが必要であり,細やかな配慮を利用者は敏感に感じ取っています。

高砂 最近では,利用者たちが心地よいと思うケアを実践するベテランの看護師にペンダント型のカメラを装着してもらうことで,提供しているケアを可視化して教材にする動きも出てきました。

山田 興味深い取り組みですね。看護の質においては病気の状態といった医療的ニーズをどう評価し対応するかが問われやすいですが,看護師でなくともできることを,看護師が自分の役割としてどれだけ実践できるかが同時に問われているはずです。

高砂 全国訪問看護事業協会に最近寄せられた相談で気がかりだったのは,管理者の突発的な都合で閉鎖を検討していたステーションに伴う事案です。閉鎖の相談自体はよくあるのですが,そのステーションが地域の中で唯一の訪問看護ステーションであったことが問題でした。この場合は地域のインフラとしての役割も含まれるため,行政とも相談の上で何とか継続する方向を模索することになったのです。本ケースでは給与の一部を行政が補填してくれたこともあり,近隣の医療機関から看護師に出向していただくことで事業を継続できたのですが,数か月後にも別の自治体で同様の相談があり,こちらはステーションが継続できなくなってしまいました。こうした案件が立て続けにあったので,訪問看護の将来が少し心配になっています。

山田 近年ではこのように事業承継,M&Aが行われるステーションも増えてきましたね。

高砂 はい。「目の前の患者さんを見て良い看護を提供すべく頑張ってきました。もちろん地域における多岐にわたる看護ニーズにも対応しています。しかし,地域医療崩壊の危機など,次世代までを視野に入れると,これからどうすればいいでしょう」という相談も頻繁に受けます。これまでは「良い看護」を提供するための方法論や訪問看護事業所の運営を熱心に伝えてきましたが,地域の中でのステーションの在り方,また訪問看護師の働き方という面についても併せて情報提供をしていかなければならないのだと気づかされました。

平原 ステーションが5年先,10年先も見据えた経営となっているのかを考えることも,管理者の大事な役割の一つとなりそうですね。

高砂 その通りです。第8次医療計画では,在宅医療の提供体制を構築するための機能として訪問看護ステーションの存在が重要視されています。また2024年6月に訪問看護レセプトの電子化も開始されることから,先ほど話した地域性の問題はより一層可視化されるようになると期待しています。こうした情報をもとに,行政側も訪問看護に関心を持って積極的な対策に乗り出してもらいたいです。

山田 「地域」という言葉が出てきたように,その土地で長く訪問看護を実践していくには利用者だけでなく地域にも目を向けなければならず,さまざまなニーズに応えていく必要があります。近年,利用者の背景が多様化していることもあり,訪問看護の多機能化が求められるようになってきました。高砂さんのステーションは,2013年度老人保健健康増進等事業の「訪問看護ステーションの多機能化に向けたモデル事業」に選ばれ,多機能化を実施したと伺っています。感触としてはどうだったのでしょう。

高砂 仮称・総合ケアステーションとして多機能が備わったステーションで一元的にケアを提供できることが有用なのは明らかで,大きなメリットに感じます。ですが管理栄養士や歯科衛生士といった職種が現行制度では訪問看護ステーションの従事者に位置付けられておらず,制度を超えた形で連携をせざるを得ないため苦労をしました3)。報酬体系の在り方などを検討していく必要があると考えます。

平原 連携するにもさまざまなコストがかかりますからね。新たな職種の人件費を用立てることは経営的に負担が大きすぎる施設が多いと思うので,例えば地域全体で契約をして各施設の負担を減らす工夫を凝らし,機能を拡大するのも一手です。また,障害を持つ方の高齢化や医療的ケア児の在宅移行の推進の流れもありますので,そうした方々を地域ぐるみでケアできるような機能拡大の方向性も併せて考えていきたいところです。

山田 先日,80歳を超える独居の叔母が病院で目の手術をする際,退院後の日常生活はどうするのか,点眼は一人でできるのか,退院後の初回の外来に誰が連れていくかなど,術後のことが全くアレンジされていない状況に出くわしました。これらの問題を誰も気にしていなかったのです。病院の入退院支援室と,地域にある多職種・多機能がパッケージ化された総合ケアステーションのような窓口が連携・協働することで,高齢独居であっても退院後に治療と暮らしを総合的に支えることが可能になるように思います。これからの病院―地域間の連携の在り方も考えていかなければならないでしょう。

平原 その際に並行して検討すべきなのは,多機能を訪問看護ステーションが有する意義を主張していくための材料づくりです。実際,看護と介護を一体的に提供する看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は看取り率が自宅よりも高いとの調査結果4)もあり,全年齢の全疾患・障がいによる療養生活支援を専門とする訪問看護師が,命と暮らしにかかわる支援事業を一体的に行うことは地域住民のニーズに合致するのではないでしょうか。

高砂 併せて看看連携の新たな形も模索するべきです。スキルの高い看護師が在宅で直接ケアを提供することも大事だとは考えますが,病院にいる専門看護師や認定看護師,特定行為研修修了者といった専門性の高い看護師との密な連携により,専門性の高い看護を在宅で提供する手もあるはず。病院看護師の地域化と言えるのかもしれません。専門性の生かし方の一つとして考えていく意義がありそうです。

山田 訪問看護の量の確保,質の向上,そして多機能化の話題について高砂さん,平原さんに語っていただきました。これからの看護は,これまで以上に,型にはまらない,自由な発想で,人々の暮らしに寄り添って活動していくことが求められていくでしょうね。診療報酬や介護報酬の縛りにとらわれず,その枠を超えたアイデアが思いついたならば,勇気を持ってチャレンジしていくことが期待されているように思いました。本日はありがとうございました。

(了)


1)全国訪問看護事業協会.令和5年度 訪問看護ステーション数 調査結果.2023.
2)日本看護協会医療政策部(編).2017年 看護職員実態調査.2018.
3)全国訪問看護事業協会.訪問看護ステーションの多機能化に向けたモデル事業 報告書.2014.
4)厚労省.平成27年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(1)看護小規模多機能型居宅介護のサービス提供の在り方に関する調査研究事業.2016.

3562_0304.jpg

聖路加国際大学大学院 看護学研究科 教授

1986年聖路加看護大(当時)卒。新卒時から聖路加国際病院公衆衛生看護部で訪問看護等に従事し,セコム在宅医療システム株式会社,セコメディック病院看護部長を経て,2005年厚労省医政局看護課在宅看護専門官。07年より聖路加国際大教授となる。現在は訪問看護師等のリカレント教育を中心にかかわる。日本在宅看護学会理事長。地域看護専門看護師。

3562_0303.jpg

全国訪問看護事業協会 副会長

1982年京都第一赤十字看護専門学校卒業後,京都第一赤十字病院で勤務。94年から横浜市医師会訪問看護ステーションで訪問看護師となり,翌年に開所した南区医師会訪問看護ステーションで訪問看護師・ステーションの管理者を務める。横浜市在宅医療連携拠点事業の相談員などを経て,16年には神奈川県看護章を受賞。全国訪問看護事業協会では訪問看護師の研修事業に携わりつつ,理事,常務理事を経て21年より副会長を担う。

3562_0302.jpg

日本訪問看護財団 常務理事

1987年島根県立総合看護学院保健学科卒。島根県立中央病院に4年間勤務した後,梶原診療所で訪問看護を行い,ふれあい訪問看護ステーションを開設,所長となる。2006年訪問看護認定看護師を取得,同年6月よりあすか山訪問看護ステーション所長。同ステーション統括所長,事務局次長を経て,22年より現職。18年首都大東京(当時)大学院人間健康科学域看護学博士課程修了。博士(看護学)。在宅看護専門看護師。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook