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書評
2024.04.09 医学界新聞:第3560号より
《評者》 山勢 善江 湘南医療大大学院教授・看護学
「臨床推論」がもっと身近になり,明日から使える
「臨床推論」。この言葉が看護の中で使われるようになったのは,それほど昔のことではない。医師は,1970年代から自分の医学診断を導く方法の一つとして使用してきた。この歴史的違いがあるからだろうか,「臨床推論」という言葉を看護師が使うことに対して「難しそう」「普通の看護師は使わなくていい」「臨床推論するのは看護の仕事ではない」と敬遠されることもあった。しかし,近年「臨床推論」に関連した書籍の出版,学会や研修会でも看護と臨床推論が同時に語られる機会が多くなる中で「これは,看護過程の考え方と似ているのではないか」と気付かれることが多くなったと感じる。
医師は,患者の健康問題の解決のために,病歴聴取,身体診査・検査の情報を基に仮の診断候補を立て,情報を加えながら確定診断に導く認知のプロセスを踏んでいる。一方,看護師は患者からの情報・身体診査・検査結果の情報を解釈し,患者の問題を明確化して看護介入するプロセスを踏んでいる。つまり,問題解決過程といった意味では,医師も看護師も同じ情報を用い,同じプロセスを使っているのである。このプロセスの中で医師は病気を診断し,検査や治療・処置を処方する。看護師は看護問題を明らかにし看護介入している。
本書の1章では,患者の異変に気付いた看護師が一次評価から主治医への報告/応援要請に至るまでの,実際には数分の間に行う(行っている)プロセスを,セクション1からセクション7のフローチャートに示している。このフローチャートがまさに「臨床推論」の中でも仮説演繹法を用いたプロセスになっている。2章では日ごろの病棟看護で遭遇しそうな場面を取り上げ,現在治療中の疾患の急性増悪や,それとは無関係な突発的出来事の発症に分けて1章で示したフローチャートに従って,看護師は何を考えどうするかが丁寧に解説されている。
執筆者らは急性期看護の中でも救急看護の実践・教育・研究を現在でも継続しており,それらの経験がいかんなく発揮された書籍である。読者には,1章でセクション1から7までを理解した上で2章に進むことをお勧めする。そして2章を読みながら何度でも1章のこの部分を読み返すことで,難しいと思っていた「臨床推論」のプロセスが身につくのではないだろうか。本書はこれまで経験的に実践してきた看護に「私も臨床推論していたんだ」という自信と,「このプロセスを加えれば私も臨床推論ができる」という希望を与えてくれる。あるいは,病棟での症例検討や,急変時に発動したRRS(Rapid Response System)の振り返りに用いることで,実践を客観的に評価する指標になることを期待したい。
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