急変時,何をみる? どう判断する?
病棟ナースの臨床推論
流れがわかれば落ち着いて対応できる!
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入院中の患者の急変は避けられないもの。頭が真っ白になる/パニックになるから苦手などと言っていられない。だから、目の前の現象の何に着目して、どう判断して、何をするのかを理解しよう。本書にある9つの事例を通して、患者急変時のフローを疑似体験し、入院の原因となった疾患の増悪なのか、治療や検査薬による合併症なのか、突発的な疾患なのかを考えながら、どこを見て、どう判断し、何をするのかがわかるようになる。
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- 目次
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序文
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まえがき
2000年ごろより,院内の患者急変対応として心肺停止の患者に一次救命処置を実施し,コードブルーを起動させ,すべての医療従事者が迅速に現場に駆けつけるといった,院内救急医療体制の構築が図られてきました。その他の体制では,病棟へのAEDの設置,定期的な一次救命処置の研修の実施など,患者急変対応の体制の整備が行われてきました。
本来であれば,患者急変対応とは,心肺停止する前の急速に状態が悪化している入院患者を発見し,早期に介入することであり,院内心停止や急変を防ぐことが重要となります。その体制として,RRS(Rapid Response System)に注目が集まっています。2022年度の診療報酬改定で新設された「急性期充実体制加算」において,RRSが施設基準の1つとして求められるようになりました。そのため,各施設で積極的にRRSが導入されています。
RRSの起動は,バイタルサインの異常を基本として起動基準が決定されています。病棟の患者や検査中の患者などの急変対応において,患者の客観的情報(O:Objective)となるバイタルサインの値を起動基準と照らし合わせたうえでRRSを起動させます。このように起動基準があることで迅速な対応が可能となります。さらに実践力を向上させるためには,バイタルサイン,患者の主訴,身体所見からフィジカルアセスメントや病態アセスメントを行い,緊急度の判断を行ったうえで応援要請を行うことが重要です。
病棟では,救急とは異なり,入院している患者にはすでに診断名があり,それに伴う看護問題があります。そのため,その問題に介入するなかで急変が起こった場合は,O-Pをもとに観察を行い,C-Pや主治医の指示書をもとに急変への対応を行い,時間経過とともに再度評価を行い,緊急度・重症度を判断したうえで,主治医へ報告,また,応援要請をするなどのプロセスを踏んでいます。その一方で,看護問題とは関係がない偶発的に別の疾患を発症することもあり,その瞬間,瞬間で多くの情報を解釈し急変対応を行わなければなりません。
本書では,RRSの起動までの重要なプロセスとなる,急変した患者へのアプローチとして,対応する看護師の思考と行動のフローをまとめ,フローチャートを作成しました。そのフローチャートを軸に患者情報をどのように解釈し,緊急度の判断を行い,どのような介入が必要かについて解説をしています。第1章では,患者急変対応の基礎として,院内救急医療体制や患者急変時の看護アセスメントについて解説したうえで,患者急変対応フローチャートに沿って解説を行いました。また,呼吸,循環,脳神経のフィジカルアセスメント,そして,問診,身体所見のポイントについて解説しました。第2章では,フローチャートに沿って実際の事例を用いて,皆さんに患者急変の疑似体験をしていただきます。患者の情報からどのような看護アセスメントを行い,どのような看護介入が必要かなど考えていただく章となります。
これまでの書籍と違って,知識をインプットさせるだけではなく,知識をアウトプットさせることを意識して編集しています。本書が,患者急変対応ができる看護師になるための一助になることを願っています。
2023年10月
令和健康科学大学 増山純二
目次
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まえがき
1 病棟における患者急変対応
1 急変は病棟勤務であれば誰でも遭遇する
① どうして急変対応が苦手なのか
② 気づきがカギ
2 急変時の考え方と観察(アセスメント)の基本
① 急変時の病態変化と院内救急体制との連携
② 急変の病態と観察する症状を整理する
③ 急変時の看護アセスメント
3 急変対応は救急外来での対応とちょっと違う
4 急変時の思考・行動の流れを知っておこう
5 急変時に求められるフィジカルアセスメントをおさえておこう
① 呼吸のフィジカルアセスメント
② 循環のフィジカルアセスメント
③ 脳神経のフィジカルアセスメント
6 二次評価におけるフィジカルアセスメント
① 急変時の問診
② 系統別フィジカルアセスメントと病態アセスメントを中心としたアプローチ
③ 重点的アセスメントと医学診断時に用いられる仮説演繹法を使用したアプローチ
2 事例から学ぶ急変対応の実際
1 ABCDの異常の顕在化
事例1 トイレ移乗介助中の呼吸困難,どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4-1 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 肺血栓塞栓症を疑ったとき,どのような看護を実施するか?
セクション6 初期対応によって症状は改善されたか?
セクション7 再評価後,主治医へどのように報告するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
事例2 点滴開始直後に全身のかゆみと咳,どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4-2 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 アナフィラキシーショック発症時,どのような看護を実践するか?
セクション7 RRTの医師にはどのように報告するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
事例3 糖尿病による教育入院中に突然意識障害,どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4-2 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 くも膜下出血発症時,どのような看護を実践するか?
セクション7 主治医にどのように報告するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
2 入院時診断もしくは既往歴の急性増悪
事例4 リハビリ歩行中に息切れ,どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4-1 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 心不全発症時,どのような看護を実施するか?
セクション6 初期対応によって症状は改善されたか?
セクション7 再評価後,どのように判断し対応するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
事例5 患者の反応が鈍い,どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4-1 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 CO2ナルコーシス発症時,どのような看護を実践する?
セクション6 初期対応によって症状は改善されたか?
セクション7 再評価後,どのように判断し対応するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
事例6 肝硬変で入院中に吐血,どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4-1 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 食道静脈瘤からの出血時,どのような看護を実施するか?
セクション6 初期対応により症状は改善されたか?
セクション7 再評価後,どのように判断し対応するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
事例7 強い腹痛の訴えと発熱,どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4-1 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 急性腹膜炎,敗血症発症時,どのような看護を実施するか?
セクション6 初期対応によって症状は改善されたか?
セクション7 再評価後,どのように判断し対応するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
3 突発発症
事例8 胃部不快感の訴え…どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 ACS発症時,どのような看護を実施するか?
セクション7 どのように判断し対応するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
事例9 反応はあるものの言葉が少ない,どう判断する?
セクション1 生命の危機につながる徴候はあるか?
セクション2 一次評価から緊急度をどのように判断するか?
セクション3 持病の急性増悪/合併症(看護問題)なのか,突然発症なのか?
セクション4-2 観察した結果,緊急度・重症度をどのようにアセスメントするか?
セクション5 脳梗塞の発症時,どのような看護を実施するか?
セクション6 初期対応によって症状は改善されたか?
セクション7 再評価後,どのように判断し対応するか?
▪ この後,どのような治療が開始されるか?
索引
書評
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「臨床推論」がもっと身近になり,明日から使える
書評者:山勢 善江(湘南医療大大学院教授・看護学)
「臨床推論」この言葉が看護の中で使われるようになったのは,それほど昔のことではない。医師は,1970年代から自分の医学診断を導く方法の一つとして使用してきた。この歴史的違いがあるからだろうか,「臨床推論」という言葉を看護師が使うことに対して「難しそう」「普通の看護師は使わなくていい」「臨床推論するのは看護の仕事ではない」と敬遠されることもあった。しかし,近年「臨床推論」に関連した書籍の出版,学会や研修会でも看護と臨床推論が同時に語られる機会が多くなる中で「これは,看護過程の考え方と似ているのではないか」と気付かれることが多くなったと感じる。
医師は,患者の健康問題の解決のために,病歴聴取・身体診査・検査の情報を基に仮の診断候補を立て,情報を加えながら確定診断に導く認知のプロセスを踏んでいる。一方,看護師は患者からの情報・身体診査・検査結果の情報を解釈し,患者の問題を明確化して看護介入するプロセスを踏んでいる。つまり,問題解決過程といった意味では,医師も看護師も同じ情報を用い,同じプロセスを使っているのである。このプロセスの中で医師は病気を診断し,検査や治療・処置を処方する。看護師は看護問題を明らかにし看護介入している。
本書の1章では,患者の異変に気付いた看護師が一次評価から主治医への報告/応援要請に至るまでの,実際には数分の間に行う(行っている)プロセスを,セクション1からセクション7のフローチャートに示している。このフローチャートがまさに「臨床推論」の中でも仮説演繹法を用いたプロセスになっている。2章では日ごろの病棟看護で遭遇しそうな場面を取り上げ,現在治療中の疾患の急性増悪や,それとは無関係な突発的出来事の発症に分けて1章で示したフローチャートに従って,看護師は何を考えどうするかが丁寧に解説されている。
執筆者らは急性期看護の中でも救急看護の実践・教育・研究を現在でも継続しており,それらの経験がいかんなく発揮された書籍である。読者には,1章でセクション1から7までを理解した上で2章に進むことをお勧めする。そして2章を読みながら何度でも1章のこの部分を読み返すことで,難しいと思っていた「臨床推論」のプロセスが身につくのではないだろうか。本書はこれまで経験的に実践してきた看護に「私も臨床推論していたんだ」という自信と,「このプロセスを加えれば私も臨床推論ができる」という希望を与えてくれる。あるいは,病棟での症例検討や,急変時に発動したRRS(Rapid Response System)の振り返りに用いることで,実践を客観的に評価する指標になることを期待したい。