医学界新聞

スライド作成のABC

連載 柿崎真沙子

2024.04.09 医学界新聞:第3560号より

 皆さんはスライドを作った後,発表前にどんな準備をしていますか? 学会本番前に予行会を行い,研究室のメンバーの前で発表して,改善の指摘などを受けているでしょうか? 講義用の場合は,講義前に誰かに見せるでしょうか?

 「誰かに見せて指摘してもらう」というのは,わかりやすいスライドを作成する上でとても大事なポイントです。作成者自身はスライドを作る過程で何回も見返しているため,スライドの内容や,どのような意図でそのスライドを作成し,その順番になっているかをよくわかっていると思います。しかし作成していない他の人,特に実際発表を聞く聴衆に対し,1回の発表で内容や意図が伝わるスライドになっているでしょうか? 周りの人がおおよその内容を想像できるような場なら理解してもらえるかもしれませんが,普段あまりその研究内容を扱わない人が多い場での発表や一般向けの講演などでは,「その分野の研究について触れるのが初めて」という聴衆も少なくありません。そのため,誰かに自分のスライドを事前に見せて,「ここはわかりやすい」「ここがわかりにくい」といった指摘をしてもらい,聴衆の理解度に合わせてスライドを修正していくというのはとても大切です。自分が理解できるからといって他人が理解できるとは限りません。

 また講義などでは,それほど詳しくない分野のことでも,スライドに起こして話さなければならない場合があります。その際「あれ,自分でも話していて混乱するな。わかりにくいな」というスライドがあると,大抵聞いている方もわかりにくいことが多いです。自分が理解できていないことは,他人にも理解しにくいものです。連載第6回で紹介した,いろいろなところでわかりやすかった! といわれている感度・特異度のスライド()も,最初は文字と数字だけで説明していて「いまいち伝わる感じがしないな」「自分で話していて混乱するな」「数字だけだと補足説明がないとわからないな」と感じることが数年続きました。そのもやもやがあったからこそブラッシュアップにつながり,わかりやすいスライドが作成できたわけですが,もやもやしたまま講義をしてしまった学生の方たちには今考えると本当に申し訳ないですね。

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 感度・特異度について説明したスライド(クリックで拡大)

 というわけで,私はスライド作成でつまずいたら,①ある程度自分の研究内容がわかっている研究室のメンバーの前でスライドを見せて発表し,指摘をしてもらう,ということと,②分野が異なる人にスライドを見てもらってわかりにくいところを指摘してもらう,ということをしています。「今度こういうところで発表をするんだけど,ちょっとスライドを見てもらえないだろうか」「〇〇学科の×年生向けの講義なんだけど,この内容は難しすぎないか」「ちょっとこのスライドがわかりにくいなと思っているんだけど,どうすればいいだろうか……」。結構な頻度で何人かに相談しています。ちなみに,研究室などでの学会予行はこの限りではありませんが,協力いただく方も忙しい方が多いので,スライドを使いたいといわれたら協力いただいたお礼に快くお渡ししています。やっぱりお願いするだけでは一方的ですからね。

 他者に指摘をもらう場合は,可能であれば実際通りに大きなスクリーンでスライドを投影して,発表を見てもらうのが一番良いと思います。大きく映すとささいなミスであってもよくわかります。また学会発表の場合,緊張する本番に向けた予行練習にもなりますし,想定問答もできるからです。一方で,完成形まで持って行く手前で誰かに意見を聞きたいこともあると思います。口頭やメールで「学会発表のスライドを作っているけどイントロが作りにくい」と,文章だけで伝えても伝わらないので,第2回でお伝えした通り,まずは手を動かしてスライドを作ってみましょう。そして可能であれば「このスライドとこのスライドとどちらが良いか」「こういうことを伝えたいと思っているがこのスライドで伝わるか」「文章と表形式とどちらが良いか」といったように,具体的なスライドを提示して,アドバイスをもらうと良いと思います。

 実際の講義や発表のように口頭説明をしている時間がない場合は,スライドを送って「ここの部分が伝わりにくいんじゃないかと思っている」といったように,こちらが具体的にどの部分で迷っているかを伝えてアドバイスを求めると良いでしょう。また,「ぱっとこの資料を読んだだけで内容がどこまでわかるか」といった形で聞くこともあります。いずれにせよ,より具体的に疑問を提示したほうがアドバイスはしやすいですよね。

 今まで9回にわたり,スライドの作成について連載をしてきました。基本的な事項を中心に紹介していたため,スライド作成にある程度慣れた方には物足りないこともあったでしょう。また,すでにスライドを作る機会が多い方には,「自分はこうしている」「このほうがやりやすい」という事項もたくさんあったかもしれません。その一方で「こういう作り方もあるのか」といったような新たな発見を得られた方がいらっしゃればうれしいです。そういう方が多いといいのですが……。スライド作成の基本的事項の一つの流れとして,この連載が多くの方のお役に立てば幸いです。


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