医学界新聞


多職種によって作成されたチーム医療のためのガイドライン

寄稿 卯野木健

2024.03.18 週刊医学界新聞(通常号):第3558号より

 日本語版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP2023)1)は,2023年12月に日本集中治療医学会によって刊行された。ガイドライン作成メンバーは多職種にわたり,多い順に理学療法士,医師,看護師,作業療法士,薬剤師という構成であった。ちなみに委員長である私は看護師である。チーム医療が重要視される現在,J-ReCIP2023はまさに多職種によって作成された,意義深い診療ガイドラインと言える。多くの職種のプロフェッショナリズムを診療ガイドラインに含めることで,リハビリテーションという多職種連携なしには成り立たない行為のより良い診療ガイドラインが作成されたと考える。

 作成の歴史を少々振り返ると,日本集中治療医学会は,2017年に「集中治療における早期リハビリテーション――根拠に基づくエキスパートコンセンサス」2)を刊行し,集中治療現場における早期からのリハビリテーションを推進してきた。後継とも言えるJ-ReCIP2023は,GRADEシステムを採用した診療ガイドラインとして成長した。私の知る中で,重症患者のリハビリテーションに特化し,GRADEを用いた診療ガイドラインは,J-ReCIP2023以外にはない。

 ガイドライン作成委員によるブレインストーミングを経て,J-ReCIP2023で重要臨床領域として挙げたものは,以下の8項目である。

● ICUでの運動療法
● 神経筋電気刺激/床上エルゴメータ
● 嚥下機能に関するリハビリテーション
● 離床に関する基準
● 栄養療法とリハビリテーション
● 小児のリハビリテーション
● ICU退室後のリハビリテーション
● 家族面会・家族のリハビリテーション参加

 本ガイドラインには「集中治療における早期リハビリテーション――根拠に基づくエキスパートコンセンサス」2)に含まれていなかった,嚥下機能,小児のリハビリテーションが新たに加わった。委員会およびワーキング・グループでは,多職種による議論の上,これらの8項目からそれぞれ1~3個のクリニカル・クエスチョン(CQ)を作成,また,臨床疑問の定式化の方法であるPICO(patient,intervention,comparison,outcome)を作成した。結果,4つの背景疑問,10の前景疑問が挙げられ,これを元に診療フローチャートを作成した ()。前景疑問に関しては,システマティック・レビューを行い,GRADEに沿って各ワーキング・グループで作業が行われた。投票権のある委員はシステマティック・レビューに基本的に介入せず,公正さに配慮した。また,今回は,初の重症患者リハビリテーション診療ガイドラインということもあり,包含する研究は基本的に無作為化比較試験とし,診断精度研究やネットワーク・メタ・アナリシスは委員会の許可を必要とすることとした。

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 診療フロー(文献1より転載)
青色は前景疑問(foreground question, FQ)を,グレーは背景疑問(background question, BQ)を示す。

 他にも,作成に当たりワーキング・グループ以外に,アカデミック推進班を設置した。アカデミック推進班は,各ワーキング・グループを担当し,作業に必要な情報,アドバイスを行った。特に議論が誤った方向に向かった時にその修正を行い,また,議論が行き詰まった時に的確なアドバイスを加えた。また,教材を作成し,ワーキング・メンバーの教育的な活動に当たった。初めてシステマティック・レビューを行うメンバーも多かったことから,教育的な活動は非常に重要であったと思う。

 その他,配慮した点としては,どのような議論が行われたのかという透明性の確保のため,基本的に全ての議論はメーリングリスト上で行い,委員長,アカデミック推進班がモニタリングしたことである。一部,Zoomで行われた議論もあるが,その場合もアカデミック推進班が同席し,録画を行った。

 完成した推奨は,日本集中治療医学会をはじめとした複数の学会でパブリックコメントをもらい,微調整を行った上で,本文・付録(システマティック・レビューのプロセス)を加え,外部評価を受審した。外部評価のコメントに関しては委員会で審議し,修正を行った。最終版が完成したのは,2023年夏頃である。最終版は,日本語版は日本集中治療医学会雑誌1),英語版はJournal of Intensive Care3)に掲載されている。

 紙幅に限りがあり全てのCQを紹介できないが,いくつかを紹介したいと思う。読者の皆様にはぜひ,診療ガイドライン全体に目を通していただきたい。

 「CQ-1:重症患者にリハビリテーションのプロトコルを導入するか?」は,プロトコル化された介入をプロトコル化されていない介入と比較したCQである。アウトカムである基本動作や日常生活動作,筋力等で中程度の効果を得たが,エビデンスの確実性が非常に低く,「重症患者にリハビリテーションのプロトコルを導入することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=『非常に低』)」に至った。

 「CQ-2:重症患者に対して1日に複数回のリハビリテーションを行うか?」に関しては,基本動作や日常生活動作,筋力,人工呼吸期間といった重大なアウトカムにおいて,複数回のリハビリテーションで中程度の効果が認められた。しかし,導入するための人員の確保など,容認性や実行可能性は医療機関によってさまざまであると判断された。また,エビデンスの確実性も非常に低く,「重症患者に対して1日に複数回のリハビリテーションを行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=『非常に低い』)」に至った。

 また,離床の開始基準,中止基準が背景疑問として採用され,広範囲の文献検討から基準案が表にまとめられた。しかしながら,本文にもあるように,あくまでも案として認識し,チームでの総合的な判断が必要であることは言うまでもない。

 最後に,「CQ-13:重症患者に対して,ICU退室後に強化リハビリテーションを行うか?」だ。このCQは,本ガイドラインのスコープがICU滞在中のみならず,退室後も含んでいることを示している。このCQの介入には,身体機能に関するリハビリテーションのみならず,認知機能や精神機能に関するリハビリテーションも含まれている。アウトカムには身体機能関連QOL,精神機能関連QOL,全体的健康関連QOLを含み,システマティック・レビューが行われた。アウトカムのうち,重大な前述のQOLは介入で優位であり,望ましい効果は「小さい」と判断され,エビデンスの確実性は,「非常に低」かった。結果,「重症患者に対して,ICU退室後に強化リハビリテーションを行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=『非常に低い』)」となった。最適な強度,頻度や時間に関しては今後の研究が必要である。

 もう一度繰り返すが,今日の医療はチーム医療なしには成り立たない。その前提に立てば,多くの職種が診療ガイドライン作成に参加することは非常に望ましく,チーム医療の意義が発揮された診療ガイドラインではないかと考えている。

 最後に,本ガイドライン作成に携わった皆さまに深く感謝する。


1)卯野木健,他.重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023.日集中医誌.2023;30.Supplement 2:S905-72.
2)日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会.集中治療における早期リハビリテーション――根拠に基づくエキスパートコンセンサス.日集中医誌.2017;24:255-303.
3)J Intensive Care. 2023[PMID:37932849]

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札幌市立大学看護学部成人看護学(急性期)教授

千葉大看護学部卒業後,聖路加国際病院救命センターに勤務。在職中に筑波大博士課程人間総合科学研究科で博士号取得。米ヴァージニア州立大看護学部博士研究員,聖路加看護大准教授,筑波大附属病院ICU看護師長を経て現職。日本集中治療医学会重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023作成委員長。

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