医学界新聞

書評

2024.02.26 週刊医学界新聞(看護号):第3555号より

《評者》 聖路加国際大大学院教授・看護学

 本書はファカルティ・ディベロップメントの世界で広く活躍されている佐藤浩章先生を監修に迎え,看護教育系学会でワークショップなどを継続的に開催しておられる大串晃弘先生が編集をされた,ユニークな書籍です。どこがユニークかというと,教育学と看護学の専門家が共同で執筆されている点,さらに問題を解きながら解説を読んで学習する,というスタイルをとっている点にあります。

 著者らは「教育力」を「教育評価力」「教育設計力」「教育指導力」の3つで構成されると定義しています。本書では,そのうちの「教育指導力」を学ぶものであり,それは授業にアクティブラーニングを取り入れたり,学生のモチベーションを高めるかかわりを行ったりして,効果的に学修支援をする能力であると論じています。

 構成はいきなり問題形式でわれわれを脅かすことなく,まずは「教育指導力」概論や教育指導に必要な基礎知識を押さえた上で,基礎的な問題「教育指導法を理解する」に挑みます。続いて,発展的な問題を通して「講義」「演習」「実習」「卒業研究」それぞれの教育指導力向上について学んでいくというように,しっかり「足場掛け」を行いながら学習をファシリテートしてくれます。基礎的な問題やその解説は,教員になったばかりの方にはとても参考になるのではないかと思いました。

 ちなみに,筆者も問題を解きながら拝読しましたが,8割は自信を持って選択でき,残りは「たぶんこれかな?」と恐る恐る回答を確認していきました。そして1問「知らなかった!」と思ったものもありました。また,著者も述べておられますが,応用問題では状況次第で別の正解もあるのでは,と思うものもありました。こうした問題を仲間の教員と話し合うことは,お互いの教育観や経験の言語化につながり,その点でも学びにつながるのではないかと思い,問題形式の良さを感じました。

 コンパクトで短時間で読める書籍ですので,取り上げる教育手法(反転授業やチーム基盤型学習,ジグゾー法など)などを十分理解するためには,別途専門書を当たる必要がありますが,参考文献も豊富に紹介されていますので,学習には困らないと思います。「学びを深めるコラム」もあり,特に新任教員の方には教育実践の全体像を理解したり,ちょっとした困惑を感じたときなどにさっと読み返したりすることで,次に進む勇気が得られる本だと思います。


《評者》 訪問看護ステーションみのり統括所長

 私は精神科訪問看護に携わりながら,精神科ケアに関する執筆や研修講師としても活動しています。精神科という分野では,検査データの所見は限られており,目に見えない曖昧な事象を扱うことが求められます。執筆や講義をするとなると,それらを言葉にすることも必須となります。それらの力を身につけるには,「曖昧さを引き受ける」というスタンスが欠かせません。

 ただし,曖昧さを引き受けるというのは容易なことではなく,時にはモヤモヤ感を覚えることもあります。次第にその曖昧さに向き合うこともツラくなり,広く,深く考えずに,単純化するという自己防衛が働くこともあります。つまり,曖昧さから逃げたくなる。私自身も,そのような経験が山ほどありました。そこで,そのような曖昧さと向き合う経験を漫画で表現し,解説を加えてまとめられたのが本書です。

 著者は作業療法士として活躍されている齋藤佑樹さんと上江洲聖さんです。作業療法がテーマなのですが,本書には全ての対人援助職に共通することがちりばめられています。その一部を紹介します。

 実習生の野原咲子が,指導者の花城ゆずに「何をどう考えて作業療法を進めているのか知りたいんです」と伝えた場面です(p.18)。花城は「答えがほしいってことなのかな」「気持ちはわかるけど私は『これが正解』とはいえない」と言います。その理由は2つあり,1つ目は「いつも迷っているから」,2つ目は「ある状況・相手の状態・自分の能力・良くも悪くも影響を与える家族や職員がいる環境で,この言葉を選択すれば,この思考を選べば,この感情を表せば正解! なんてないよね」と話します。そして,解説には「答えそのもの」ではなく,「答えがわからない状況にどう向き合うか」(p.28)とあり,この姿勢こそが,曖昧さを引き受ける入口だと思います。

 臨床の中でしか感じられない曖昧さと,それを引き受ける意味をひもとき,どのようにその曖昧さを引き受けるのか。本書はそれらの導きの一助となるはずです。

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