医学界新聞

書評

2024.01.01 週刊医学界新聞(通常号):第3547号より

《評者》 やまと在宅診療所登米
東北大大学院・緩和医療学

 2023年8月より,仙台市から北に約100 km離れた地方都市にある,やまと在宅診療所登米で院長としての任務が始まりました。同僚の若手医師だけでなく,診療所の看護師や診療アシスタント,在宅訪問管理栄養士,そして同地域の緩和ケアや終末期ケアにかかわる医療・福祉従事者の仲間たちと共に,この土地で「最期までよく生きるを支える」ためにどのような学びが相互に必要かを考えるようになりました。困難に感じることを聞いてみると,亡くなりゆく方々をどのように看ていけば良いかが不安(時には怖いとの声も)との声が多く,まずは診療所内で『死亡直前と看取りのエビデンス 第2版』の共有を始めてみました。実臨床での肌実感をエビデンスで裏付けしている,まさにEBM(Evidence-Based Medicine)に沿った内容でもあり,医師や看護師など医療者たちにも強くお薦めできる内容であると感じています。

 病院看取りが主流になっていた昨今の社会情勢の影響か,これまでに死亡前の兆候を目にしたご家族やスタッフは少なく,不安や恐怖を感じることが多いです。しかし,本書でまず初めに述べられているように,多くの兆候はあらかじめ想定することが可能で,ご家族やスタッフとも事前に共有することができます。そして本書には,このような兆候がなぜ生じるのかをEBMに沿って解説されているだけでなく,緊張が高まる臨死期のコミュニケーションの工夫まで触れられており,医療者だけでなく,その他の関係者にとっても心強いリソースとなります。

 本書は臨死期の情報だけでなく,予後予測や輸液の妥当性,鎮静の考察,意思決定支援に関するコミュニケーション,終末期のWell-Beingや生活の質の保障の考え方,呼吸困難や昏迷,死前喘鳴の症状緩和に向けたアセスメントと病態の考察,死亡直後のグリーフケアからエンゼルケアまでを網羅しています。患者さんやご家族との終末期の療養や医療に関するアドバンスケアプランニングに必要な要素が豊富に取り扱われており,この一冊を通じて新しい視点や考え方を共有し,お互いに高め合うことができます。

 著者のお2人は僕の大切なメンターです。森田達也先生から研究会議やお酒の席で頂くフランクなアドバイスの数々は,まさに僕の羅針盤です。「物事によって検証と実装の順番を考えるべき」など目を覚ますようなアドバイスを常に頂き,自身のキャリアパスにも落とし込んでいます。白土明美先生には年に1回“詣で”ており,焼酎や鶏刺しを片手にお互いの“緩和ケア感”の変化や地域に持つビジョンなど,心の中を共有する時間を共にさせていただいています。このように,客観的な視点に富み,テイラーメイドなケアやマネジメントができるお2人がまとめられた本書は,EBMに沿いながら,個々の葛藤や困難を解決できる手引きとして,多くの方々にとって日々の実践の中での支えや示唆を提供する福音のような存在となるのではないかと感じています。そして本書を中心に,“最期まで生きる”ことを共に学び,そしてより良いケアの実践につなげていただければと願っています。


《評者》 岡山大大学院教授・保健学

 医療関係者でQOLという言葉を知らない人は皆無ではないかと思う。私は外科医であるが,外科ではこれまで根治性を重視し,QOLを軽視しがちであった歴史がある。そこに乳房温存や,機能温存手術が導入される中で,それがもたらすQOLの改善を測ってみたいという素朴な気持ちが生じてくる。ところがいざQOLの測定となると,使用可能な日本語版尺度がなかったり,あったとしても,不自然な日本語で,それをわかりやすく変更しようとすると「そんなことをしてはいけない!」と言われたり,さらには「勝手に使うと著作権者から訴えられるよ」などと脅かされると,少し気がなえてくる。加えて,信頼性とか妥当性とか,測定特性とか計量心理学の用語が頻出すると「うーん」となってしまいがちである。

 そこに現れた待望の一冊が本書『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』である。編者の能登真一先生は,理論と実践の両面にわたり,斯界をけん引してきたリーダーでもあるが,同書を「臨床・研究で『活用』できる『マニュアル』」と明確に性格付けている。背景となる理論は過不足なくコンパクトにまとめられている上に,「尺度別」に具体的な記載がなされている点がユニークである。「マニュアル」としてその尺度の特徴・開発経緯・日本語版の開発・版権の使用に当たっての注意点・質問票そのもの・スコアの算出方法と解釈・測定特性・エビデンスが,一覧できる利便性の大きさは類書にはないものである。しかもわが国でその尺度を開発(翻訳)した当事者がその項目を執筆しているということで,版権のことも具体的でわかりやすく記載されている。これ一冊あれば,QOL測定のハードルはとても低くなる。

 一方本書は,実践面に徹したマニュアルであり,QOLの初学者には向かない本であると誤解される方もいるかもしれないが,QOLの基礎知識,評価尺度と測定特性についての項目はコンパクトではあるものの,非常によくまとまっており,この分野への入門書としても秀逸な出来栄えとなっている。多くの臨床家・研究者の皆さまに手に取っていただきたい一書である。


《評者》 日本肝胆膵外科学会名誉理事長
国際医療福祉大三田病院名誉病院長
千葉大名誉教授・臓器制御外科

 日本肝胆膵外科学会が認定する高度技能専門医制度におけるその取得は,外科手術の実技面を重視した専門医制度として2011年に発足し,またわが国において当時手術実技を重視し判定する専門医制度として初のものであり,多くの外科領域の医師に注目されたものであった。その後,内視鏡外科学会等でも同様の試みの制度が追随されるようになった。当時,肝胆膵外科手術は術後の致死率が決して他の外科手術の中でも低いとは言えず,手術リスクは高いものとして考えられていた。そのため日本肝胆膵外科学会は,手術を受ける方々にそのリスクを知ってもらうとともに,安心して高難度肝胆膵外科手術を受けていただくべく認定施設制度(A施設とB施設認定)を設け,それを広く公表したのである。それは患者さんに資する情報を提供したいと考えた上でのことであった。その際,施設のみでなく,確実に高難度外科手術を施行し得る外科医の育成およびその認定についても,併せて開始したというわけである。したがって,旧来の専門医制度に比べるとその専門医に合格するのには極めて高いハードルが設けられており,その分受験する医師にとっては,大変な苦労や努力を要すると言える。結果,取得した専門医には高いプライドおよび責任が与えられることになっている。2011年スタート時にはわずか12人の合格者であったが,その後徐々に受験者および合格者が増加してきている。しかしながら,ここ数年来の2020年代に入っても合格率はほぼ50%前後という狭き門ではある。ちなみに2022年の合格者は93人となっている。

 ぜひ肝胆膵外科をめざす若い外科医にはまずしっかりと高難度手術手技を勉強し,実地手術を指導医の下で行い十分修練した上で専門医資格申請に臨んでいただきたい。今回発刊された『肝胆膵高難度外科手術 第3版』は日本肝胆膵外科学会の編集により現状で活躍している肝胆膵外科医のエクスパートらが,若い外科医向けに精魂を込めての解説書として発刊されたものである。今回の第3版では,6章に分かれているうちの1章には腹腔鏡下およびロボット支援下の肝胆膵外科手術の項目も加えられている。よくある手術手技の解説書とは異なり,手術の実際における事細かにおよぶ注意点についても記載があり,ある意味では専門医試験の審査員らの目線がどのようなポイントで審査されているかをうかがい知ることにもなる。もちろん実際の手術時のピットホールに陥ることのないように,といった指導医としてのアドバイス,さらには大きな合併症につながらないよう回避すべき術中のポイントなどがちりばめられた内容になっており,臨場感あふれる手術手技の解説書となっている。これから専門医試験を受ける若い外科医の方々は,これらの手術手技を熟読した上で自身の経験する手術を毎回,振り返って反省し,少しずつ成長し,高難度肝胆膵外科手術を安心してこなすことができるような真の専門医の外科医として成長していってもらいたいと願っている。また,すでに専門医を取得した外科医および指導医の先生方にも,一読いただきご自身の高難度外科手術の手技を絶えずskill-upさせて,より多くの患者さんの治療にさらに貢献していただけるように,本書を利用していただけたら幸いである。


《評者》 北里大名誉教授・精神医学

 評者は精神科医である。精神科医になって3,4年目のころ,今から約40年も前になるが,身体疾患に起因する意識障害であるせん妄,認知症,統合失調症治療薬による錐体外路症状,心理面の原因で身体症状を呈する転換性障害などに出合って,精神科医もある程度の神経内科(現在の脳神経内科)の知識が不可欠であると考えた。当時の私のバイブルは故・本多虔夫先生が単独執筆された『神経病へのアプローチ』(医学書院)であった。所属教室の主任教授に頼み,週1回程度であったが,しばらくの間,本多先生の下で研修を受け,臨床家はこうあるべきという姿勢も学んだ。

 それ以後,自分が精神科教員の立場となり,わかりやすいテキストを探している中,見つけたのが本書である。著者は初版の序で「遺伝学や生化学などのいわゆる高度医療の側面には触れていない。それらを高速道路建設に例えると,本書は街中まちなかの交通渋滞に対処するものである」,第3版の序では「『街中の交通渋滞対処』が『高速道路建設』に役立つ」,「予断や理屈に捉われないで,患者の症状を観察し,自ら一歩深く考えることが今なお臨床医に求められていると思う」と強調しており,評者が教えられてきた医療観を再確認させられた。

 第Ⅰ編では「日常診療で遭遇する患者」として頭痛,めまい,しびれ,肩こり,震え,物忘れなど,第Ⅱ編では「緊急処置が必要な患者」として,けいれん,意識障害などを取り上げ,第Ⅲ編では「神経診察のポイントと画像診断のピットフォール」として診察のあるべき姿が述べられている。「常にこれだけは知っておくように」という趣旨の記載が随所にみられるのは著者の医療に対する姿勢の表れであろう。

 もう1点,評者が賛同するのは「多くの教科書が分担執筆であったり,欧米の教科書の受け売りだったりするので,筆者一人による一貫したものの診かたを提示し,病歴聴収と神経診察の実際の経験をなるべく具体的に示したいと思ったことである」という執筆動機である。最近,分担執筆の本が多く,責任者不在を感じる場面が少なくない。内容に多少の濃淡はあっても,単著の出版を増やすように出版社にも努力してほしいと思う。

 最初に挙げた本多先生の本を思い出しながら本書を読んだ。40年もたち知見が著しく増えているのでやむを得ないが,神経内科を専門としないが学びたい医師にとってはできるかぎり薄い本であってほしいとも思う。

 いずれにせよ,脳神経内科の基本的な知識や診療姿勢が見事にまとめられた本であり,神経内科初心者だけでなく,総合診療医や精神科医,その他の内科を中心とする医師にとって極めて有用な書籍である。

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