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『Dr. 長澤印 輸液・水電解質ドリル』より

連載 長澤将

2023.11.03

 輸液・水電解質は難しい,一見わかったようでも,やっぱりよくわからない……。電解質異常の患者を診た際,何の検査をオーダーし,その結果はどう解釈し,どう対応すればいいのでしょうか?

 『Dr. 長澤印 輸液・水電解質ドリル』は1章の総論,2,3章(各論)の20にも上る珠玉の症例から輸液・水電解質の症例に対応する際の考え方をわかりやすく解説。経験豊富なDr.長澤の思考回路が1冊に詰め込まれています。

 医学界新聞プラスでは,総論より「身体のバランスは『完璧なラーメンの味付け』である」,各論より「肝硬変・CKDで低Na血症を来している70歳代女性」「救急受診後の再診で低K血症を来していた40歳代女性」「腎機能低下を伴う高Ca血症を来した80歳代女性」をピックアップし,4回に分けて本書を紹介します。

電解質異常とは恒常性の破綻である。

 ……なんて書いてしまうと,本を閉じてしまう人が増えそうなので,シンプルな例えにしてみます.身体のバランスは「完璧なラーメンの味付け」であるとしましょう.ラーメンの専門書ではないので,何をもって完璧か?という議論はしませんが,すべての要素がバランスよく収まっている,と捉えておいてください.

 一般的なラーメンの要素は

●スープ
●タレ
●麺
●具
●脂


あたりになるでしょうか.味が薄ければタレを入れますし,濃ければスープを足します.麺が柔らかすぎたら,茹で時間を減らすか,小麦の配合を変えることになるでしょう.さらに,具や脂の種類・量を調整してベストの味を追求していくわけです.

 人間の身体はこれらの要素が勝手に調整されています(気合いを入れてNaを排泄したり,Kを吸収したりしようとしてもできないですよね?).ここの調整機構が何らかの形で障害されて初めて電解質異常などが起きていくわけです.まずここを認識するのが第一歩となります.

「異常値」と「臨床的に問題」は違う

 “defensive medicine”という言葉があります.医療訴訟の増加に伴い,医療者側が可能な限り訴訟リスクを回避するために,網羅的,時には過剰に行われる医療を指します.この言葉自体は1960年頃からあったようですが,本書の刊行時点でも全く減る様子は見えず,むしろさらに悪化している印象です.

 過剰な検査が「無症状の臨床的意義が少ない電解質異常を見つけ出し」,過剰な投薬が「不必要な水・電解質異常を引き起こしている」わけです.

 さらにややこしいことに,検査値の精度の問題があります.例えば,細胞外液の最大の構成物質であるNaに注目すると,概ね血清Na濃度の基準値は135〜145mEq/Lとなっています(検査会社にもよりますが).ただし,この基準値は健康な成人の95%がこの検査値の範囲に入ることから設定されています.そうなると,何の症状もない元気な人でも5%くらいは検査値異常となりうるわけです.

 加えて,KやPなどは直前の食事の影響をかなり受けますし,基本的には日内変動があります.一例を挙げると,Kは午前中に高くて夜に低くなります 1).一方,Pは日中が低くて夜高いことが知られており,文献2では,成人男性だと日中は3.5mg/dL程度,真夜中は4.8mg/dL程度となっています.意外に揺らぐと思いませんか?

 そうなると,

●検査のタイミング
●影響する因子
●検査結果の揺らぎ


を含めて検査値を判断していく必要があります.

 ……なんてことを書くと,いけすかない内科医だと思われるかもしれませんが,大事なことは「目の前の患者さんの電解質異常を放置しておくと何か困るのか?」という判断になっていきます(ここで困る人は「患者さん」であって,「主治医」ではないことに注意です).

臨床で一番大事なこと

 まずは命に関わるか,患者さんの重篤な症状につながっているか,が一番です.

 私のところに来るコンサルトの大半は「電解質異常より大きな問題」があります.例えば,「心筋梗塞ですが……」「大動脈解離ですが……」「重症肺炎ですが……」「クモ膜下出血ですが……」なんて前置きは明らかにそちらが優先です.

 そんななかで私が診ることが多い「緊急性が高い」症例は,

  • ●意識障害を伴う低Na血症(高齢者に多い)
  • ●心電図変化を伴う高K血症(大体は慢性か急性の腎障害に伴う)
  • ●脱力や不整脈が起きている低K血症(主に循環器内科からのコンサルト)


などが思いつきます.

 逆に言えば上記に当てはまらない状態,例えば,

  • ●意識障害や口渇を伴わない高Na血症
  • ●無症状の低Na血症
  • ●心電図変化もなく全身状態のよい高K血症
  • ●たまたまみつかった高(または低)Ca血症
  • ●透析患者のルーチンの採血での高P血症


などは,長期的に考えれば何らかのトラブルを起こす可能性がありますが,今すぐ慌てて相談する必要があるのかをよく考えていただきたいなと思うわけです.

なぜ電解質をオーダーしているのか?

 なぜ目の前の電解質をオーダーしているか,考えたことはありますか?

 大体の電解質は,高くてもダメ,低くてもダメであり,電解質を横軸に生命予後をプロットするとU字型であることがほとんどです.

 では具体的に,電解質異常が継続すると何が問題になるのでしょうか?
 一例を挙げます.

  • ●低Na血症:転倒や骨粗鬆症の問題
  • ●低K血症:持続すると腎機能障害(hypokalemia induced nephropathy),背景に原発性アルドステロン症の存在(高血圧,心血管イベント↑,心房細動↑)
  • ●高Ca血症:原発性副甲状腺機能亢進症であれば骨粗鬆症
  • ●高P血症:慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)の場合は動脈硬化につながる
  • ●低P血症:食事の摂取不足などを疑う


 上記のような問題を想定したうえで,それに対するプランができないのであれば,そもそも採血しないほうがよいんじゃないかな?とさえ思うわけです(薬の用量を調整するためにCrを測るのはよいですが,Na,K,Clは「とりあえず」で採ってしまうことが多いですし,CaやP,Mgなどまで分厚く採られることもあります).

プランなき採血をやめよう

 まずはここが第一歩だと思います.ロシアを代表する劇作家のアントン・パーヴロヴィチ・チェーホフはこう言っています.

誰も発砲することを考えもしないのであれば,弾を装填したライフルを舞台上に置いてはいけない.


 電解質も同じようなものです.その後アセスメントする気がないならば,測る必要はないです.

 じゃあどんなときに測るのか? どんな理由でもよろしいですが,例えば,

  • ●Na:サイアザイド系利尿薬使用時の電解質異常のチェック,水中毒患者のフォローアップ,抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone;SIADH)を来しやすい薬剤の治療モニタリングなど
  • ●K:レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬使用時のKのモニタリング,ループ利尿薬使用時のKのモニタリングなど
  • ●Cl:単独で測ることは想定できない(Naとセットでアシドーシスかアルカローシスか判断することはある)
  • ●Ca:ビタミンDや骨粗鬆症治療薬の副作用のチェック,CKD患者が低Ca血症を起こしていないかのチェック
  • ●P:CKD患者のモニタリング,神経性やせ症のリフィーディング症候群のモニタリング,大きな腫瘍の化学療法後のモニタリングなど
  • ●Mg:CKD患者に水酸化マグネシウムを出した時のフォローなど


など,1つでもよいので,何らかの理由があれば十分です.

そんなこと言われても僕がした採血じゃないのに……

 ごもっともです.そんなあなたのために本書を作ったようなものです.本書では,たまたま出遭った電解質異常に対して,私がどのように捉えて,どのように対応したか,を解説していきます.本書を読み通していただくことで,これまで見逃されてきた「ちょっとした電解質異常」の治療につながれば,これほど嬉しいことはありません.

本書について

 まずは1章で簡単に輸液・水電解質の総論的な解説をしてから,2,3章では珠玉の20例について解説していきます.出版社から「売上のために『珠玉』と書いてください!」と言われたわけではなく,これまでの経験から「これができれば臨床でのトラブルは大体対処できるであろう」という難易度の症例を選びました.ただし,初学者であってもこの実践的なアプローチは必ず役に立つと思います.

 この20例は実症例に基づいていますが,個人情報に配慮して細かい所は調整してありますし,2,3の症例を合成して作っている架空の症例となっています.

 というわけで,症例問題に移るために知っておかないと困る輸液・水電解質のポイントを解説して参りましょう.

  • Learning Point
  • 身体のバランスは「完璧なラーメンの味付け」である.すべての要素がバランスよく収まっており,調整機構が何らかの形で障害されて初めて電解質異常などが起きていく.
  • 検査のタイミング,影響する因子,検査結果の揺らぎを含めて検査値を判断していく必要がある.
  • 心筋梗塞,大動脈解離,重症肺炎,クモ膜下出血など,電解質異常より大きな問題がある場合はそちらの対応が優先.
  • 電解質異常が継続すると何が問題になるのか,またそれに対するプランがない採血はやめよう.
  •  
  • 文献
  • 1)J Nephrol 28:165-172, 2015[PMID: 24990164]
  • 2)Nephrol Dial Transplant 24:2321-2324, 2009[PMID: 19443650]
 

輸液・水電解質のリアルに挑め。経験豊富なDr.長澤の思考過程がみえる20症例。

<内容紹介>輸液・水電解質のリアルに挑め。経験豊富なDr.長澤の思考プロセスがみえる20症例!つまずきやすい輸液や水電解質をDr.長澤が初学者にもわかりやすく解説。1章(総論)で学んだあとは、2,3章(各論)の症例問題を解いて、どんどん実践すべし。わからないところがあったらいつでも1章(総論)に立ち返ろう。解き終えた後は付録の関連検査値・式、逆引き疾患目次、Learning Pointまとめもご活用ください。

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