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『トップジャーナルへの掲載を叶える ケースレポート執筆法』より

連載 向川原充,金城光代

2023.02.03

臨床で出合った症例を報告するのは,臨床医として大切な役割である――。

一人でも多くの患者さんを助けるため,あるいは医学の発展に貢献するためにケースレポートの執筆は必要である。そう理解しながらも,「この症例は報告に値するのだろうか?」「どうすればアクセプトされるのか?」といった悩みから,二の足を踏んでしまう人も少なくないだろう。 そんな時に手に取りたいのが『トップジャーナルへの掲載を叶える ケースレポート執筆法』だ。臨床医の多忙な業務の合間でも執筆を進められる戦略とは何か。本書では,初学者向けの基礎から,熟練者による指導方法まで,効果的な執筆プロセスを解説する。

医学界新聞プラスでは,本書の「序章」の内容を抜粋し,症例報告の種類と考え方,本書の目的と活用方法を4回に分けて連載していく。

症例報告執筆の考え方

症例報告の執筆に当たって私たちがまず指摘したいのは,現場からNEJMJAMAなどの医学ジャーナルに症例報告を掲載することは,必ずしも夢物語ではないということです。もちろんこうしたトップジャーナルへの掲載には,運の要素があるのも事実です。類似症例の掲載有無や,偶発的に生じた診断学上の学びをはじめ,私たちがコントロールすることのできない要素は数多く存在するものです。ですがそれでも,執筆までに一定の思考過程をたどることで,執筆文献がアクセプトされる確率を高めることはできるのです。

ただしそのためには,日常臨床とは若干異なる考え方が必要になります。私たちが強調したいのは,以下の点です。

・稀少性だけでは掲載されない
・読者それぞれの日常診療に直結する,重層化された教訓が必要となる
・ストーリー性が求められる

稀少性だけでは掲載されない

症例報告の執筆は稀少性への固執を避けることから始まります。中でもNEJMJAMAなどの臨床推論症例の執筆を目指すのであれば,稀少性それ自体が掲載の鍵とはならないことを,確実に認識する必要があります(もちろん,NEJMJAMA以外の多くのジャーナルでも,通常稀少性は鍵とはなりません)。稀少な症例を探すのではなく,日常診療に確実に活きる教訓がある症例を探すことが,症例報告執筆のための最初のステップとなるのです。

重層化された教訓が必要となる

症例の教訓は,具体的な読者を複数想定した,重層化されたものが望ましいでしょう。重層化の視点は,研修医/専攻医/専門医という区分けかもしれませんし,あるいは総合内科医/非総合内科医という分類かもしれません。いずれにせよ大切なのは,読者層をモレ・ダブリなく具体的に想像し,そのそれぞれが翌日からの診療に活かせる教訓を用意することです。そして,読者層それぞれに対して,クリニカル・パール(Clinical pearl)となり得る教訓を構築することです。誰の,何に関する考え方を変えるのか──このことを十分に考えずに,いきなり執筆を始めるのは避けるべきです。

ストーリー性が求められる

記憶に残る症例報告には,何らかの物語(ストーリー)性があるものです。なるほど,学術文献はフィクションではないとの意見は,確かにもっともです。ですが,例えばLancetはかつて症例報告について論じる中,ストーリー性の重要さを明確に指摘しています9)。もちろんストーリー性が必要であるとは,ストーリーを作り上げることを意味しません。そうではなく,目の前の症例を私たちが執筆しようと思った契機──それはまさに,その症例のストーリー性でもあります──を,明確に言語化することを意味しているのです。

効果的かつ効率的な執筆の方法

前述の3点を理解した上で,私たちは限られた時間を効率的に使い,執筆を行わなくてはなりません。実臨床の多忙さに鑑みると,執筆に当たって私たちは,特に以下の点に留意する必要があります。

・効果的な執筆のためのチームを構成する
・症例の学びを論理的に構築し直し,効率的かつ効果的に文献を検索・引用し,執筆する
・信頼される著者はどうあるべきかを理解しつつも,現場に配慮のある文献とする

効果的なチーム構成が鍵となる

他の学術論文執筆と同様,症例報告においても,効果的な執筆チーム構成は不可欠です。筆頭著者のみならず,それを専門的見地から助言する役割,あるいは執筆全体を仔細に指導する役割など,症例報告に必要な役割は数多くあるものです。これらを早期に見定め,効率的に執筆することで,臨床現場から成果を発信し続けることが可能となるでしょう。また,経験を積むにつれて,次第に執筆者ではなく指導者として症例報告に関わることも多くなるはずです。この際,どのように執筆を指導するかを理解することも大切です。

効率的かつ効果的な文献引用が求められる

多忙な臨床業務の合間に,効率的かつ効果的な文献検索と引用を行うことは,決して簡単ではありません。また,教訓や症例のストーリー性と結び付けてディスカッションを展開することも,慣れないうちは難しく感じるかもしれません。これらを臨床業務の合間に行い,必要な文献を確実に含めることは,症例報告における重要な要素のひとつです。

著者としての責任を十分理解し,現場の想いに配慮した文献とする必要がある

私たちは臨床現場からその〈研究〉成果を発信する立場として,著者に関する基準に十分配慮する必要があります。症例を診たから,原稿を一読したから,著者となるわけではありません。こうした著者や謝辞に関する基準は,症例報告においても遵守すべきものです。

一方で,困難な症例に立ち向かった医療従事者や,執筆を承諾した患者とその家族への配慮も,忘れてはいけません。診療に関わった医療従事者の貢献を著者として記載できなくても,謝辞などを通じて配慮をすることは十分可能です。また,症例報告執筆は,患者の体験を医療従事者の視点で文献にする過程でもあります。患者やその家族から単に同意書を取得するだけでなく,患者とその家族の想いに十分配慮した文献とすることも大切です。


文献

9)Berman P, et al:Case reports in the Lancet:a new narrative. Lancet. 385(8875):1277, 2015.
doi:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(15)60642-0

 

アクセプトの鍵は、ロジックと記憶に残るストーリーにある

<内容紹介>症例報告をテーマとした類書はあるが、その多くは掲載されるためのテクニック集であり、指導医の目線から論文執筆の指導法を解説したものはない。本書はインパクトのあるジャーナルに掲載されるための要素(症例の物語性、重層化されたすぐに活かせる学びのポイント、効果的な執筆チーム編成など)を概説し、症例報告を執筆する「考え方」や「方法論」を提示する。

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