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『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』より

連載 能登真一

2023.11.03

 QOLを医療・福祉分野のアウトカムとして活用するという機運が高まる現代において,QOL尺度の基礎知識と実際の使い方を押さえておくことは必須となりつつあります。

 『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』は,押さえるべき46の尺度を取り上げ,それぞれの特徴から質問票やスコアの算出方法,エビデンスベースドの活用法まで分かりやすくまとめた,まさにQOL評価のバイブルとなる一冊と言えます。

 医学界新聞プラスでは本書のうち,「評価尺度の測定特性 1.信頼性」「HUI(Health Utilities Index)」「CarerQol」をピックアップし,3回に分けて紹介します。

▶Check Point
HUIは包括的なインデックス型尺度である.
8つの属性で構成されており,乗法式の関数を用いて972,000通りの健康状態を表すことができる.
疾患によっては,EQ—5D—5Lよりも感度や反応性がよいという特徴をもっている.
Global scoreと呼ばれる効用値のほかに,8つの属性ごとのsingle scoreも算出が可能である.

1 尺度の特徴

 HUIHealth Utilities Indexの略称で,EQ—5Dと同様,効用値を算出できる包括的なインデックス型尺度である.現在,主に用いられているものはMark 3(HUI3)であり,日本語を含めさまざまな言語に翻訳されている.HUI3は8つの属性に基づいた健康状態の分類システム(classification system),質問票(questionnaire),そして換算式(scoring function)という3つのシステムで構成されている.効用値を求める換算式は基準賭け法(standard gamble)とFeeling Thermometerと呼ばれるアナログスケールをもとに開発された乗法式多属性効用関数であり,972,000通りの健康状態を示すことができる.そのため,疾患によってはEQ—5D—5Lよりも感度や反応性がよいという特徴を有している.また,HUI3ではglobal scoreと呼ばれる効用値のほかに,属性ごとのsingle scoreも算出が可能である.これまで,開発元であるカナダの換算式が用いられてきたが,2020年に日本人の価値観を反映させた換算式が開発された.代理人による回答方式も使用可能である.

乗法式多属性効用関数多属性効用理論に基づいて効用値を算出する関数には加法,乗法,多線形の3つの方法がある.加法関数は個々の属性水準にのみ依存するものでEQ—5Dはこの方法に則っている.乗法関数は互いの属性間にのみ相互関係があると仮定するものである.

2 開発者と開発時期

 開発者は,効用理論を保健医療の領域に適用し,健康関連QOL(HRQOL)という言葉をはじめて用いたカナダのマクマスター大学のTorranceら1)である.彼らは1982年に小児科領域で効用値を測定するために,身体機能,役割機能,社会情緒機能,健康問題の4つの属性からなるHealth Utilities Index Mark 1を開発した.その後,成人向けに6属性に拡張したHealth Utilities Index Mark 2を1986年に2),さらに8属性に拡張したHUI3を1995年に開発した3)

3 日本語版の開発

 HUI3の健康状態分類システムの日本語版は第2版が公開されている4).このシステムに基づいた質問票の第2版も開発されているが公開はされていない.換算式はこれまでカナダで開発されたものを使用する以外に選択肢はなかったが,2020年に日本人の選好に基づいたものが開発されたため,国内での使用にあたってはそれを用いることが推奨されている5)

4 版権と使用にあたっての注意点

 版権は開発者たちが運営するカナダのHealth Utilities Inc(HUInc.) という法人が管理している.使用にあたっては,HUInc. のホームページ(http://www.healthutilities.com)から使用登録をする.学術目的であっても使用料がかかるため注意が必要である.なお,HUInc. から送られてくる日本語版の質問票は第1版のものであるため,第2版を入手するには本稿筆者に連絡してほしい.

使用料

HRQOL尺度を使用する際にかかるライセンス費用である.EQ—5Dのように学術目的であれば無料のものもあるが,有料のものも少なくない.費用の設定は尺度によって異なっているため,研究の計画段階で確認することが重要である.この使用料の発生がHRQOL評価を広まりにくくしているのかもしれない.

5 属性と項目数

 HUI3を構成する属性は視力vision,聴力hearing,会話speech,歩行ambulation,器用さdexterity,感情emotion,認知cognition,痛みpainの8つである.現在,配布される質問票はHUI2とHUI3が組み合わされたものであるため15項目あるが,HUI3に該当するのはこのうちの12項目である.

6 健康状態分類システム(classification system:日本語 第2版)

 前述のとおり,質問票は15項目(HUI3は12項目)であるため,分類システムとは異なることに注意が必要である.レベルは次頁の「HUI3の健康状態分類システム」4)に示すように属性ごとに異なっており,視力,聴力,歩行,器用さ,認知が6レベル,会話,感情,痛みは5レベルである.

HUI3の健康状態分類システム

属性とレベル
  • 視力(vision)
  • 1.眼鏡やコンタクトなしで,新聞を読める.道路の反対側にいる知り合いを見分けられる.
  • 2.眼鏡やコンタクトがあれば,新聞を十分に読めるし,道路の反対側にいる知り合いも十分に見分けられる.
  • 3.眼鏡やコンタクトがあれば,あるいはなくても,新聞を読める.しかし,眼鏡やコンタクトがあっても,道路の反対側にいる知り合いを見分けられない.
  • 4.眼鏡やコンタクトがあれば,あるいはなくても道路の反対側にいる知り合いを見分けられる.しかし,眼鏡やコンタクトがあっても,新聞を読むことはできない.
  • 5.眼鏡やコンタクトがあっても,新聞が読めず,道路の反対側にいる知り合いも見分けられない.
  • 6.全く視力がない.

  • 聴力(hearing)
  • 1.補聴器なしでも,自分以外に3人以上いるグループでの会話を聞きとることができる.
  • 2.補聴器なしでも,静かな部屋の中での一対一の会話は聞きとることができる.しかし自分以外に3人以上いるグループでの会話を聞きとるには補聴器が必要である.
  • 3.補聴器があれば,静かな部屋の中での一対一の会話は聞き取れるし,自分以外に3人以上いるグループでの会話も聞きとれる.
  • 4.補聴器なしでも,静かな部屋の中での一対一の会話は聞きとることができる.しかし,補聴器があっても,自分以外に3人以上いるグループでの会話は聞きとることができない.
  • 5.補聴器があれば,静かな部屋の中での一対一の会話は話す事が聞きとれる.しかし,補聴器があっても,自分以外に3人以上いるグループでの会話は聞きとることができない.
  • 6.全く聴力がない.

  • 会話(speech)
  • 1.よく知らない人とでも,知人とでも,話をするときに,十分に理解してもらえる.
  • 2.知人となら,話をするときに,十分に理解してもらえる.しかし,よく知らない人と話をするときには,一部しか理解してもらえない.
  • 3.よく知らない人とでも,知人とでも,話をするときに,一部しか理解してもらえない.
  • 4.よく知らない人と話をするときには全く理解してもらえない.知人との会話では一部を理解してもらえる.
  • 5.他の人と話をするときに,全く理解してもらえない(または全く話すことができない).

  • 歩行(ambulation)
  • 1.歩行器具なしで,問題なく近所を歩くことができる.
  • 2.近所を歩くことに問題はあるが,歩行器具や誰かの介助を必要としない.
  • 3.歩行器具があれば近所を歩くことができるが,誰かの介助は必要としない.
  • 4.歩行器具があっても短い距離しか歩けない.近所を移動する際には車椅子を必要とする.
  • 5.歩行器具があっても一人で歩くことができないが,誰かの介助があれば短い距離を歩くことができる.近所を移動する際には車椅子を必要とする.
  • 6.全く歩くことができない.

  • 器用さ(dexterity)
  • 1.両手とすべての指を不自由なく使える.
  • 2.手や指に不自由があるが,特別な道具や誰かの介助を必要としない.
  • 3.手や指に不自由があるが,特別な道具を用いれば自分で作業ができる(誰かの介助は必要としない).
  • 4.手や指に不自由があるが,誰かの介助を必要とする作業もある(特別な道具を用いても自分ではできない).
  • 5.手や指が不自由で,ほとんどの作業で誰かの介助を必要とする(特別な道具を用いても自分ではできない).
  • 6.手や指が不自由で,すべての作業で誰かの介助を必要とする(特別な道具を用いても自分ではできない).

  • 感情(emotion)
  • 1.幸せで,自分の人生に前向きになれる.
  • 2.少し幸せである.
  • 3.少し不幸せである.
  • 4.とても不幸せである.
  • 5.人生に価値がないと感じるほど不幸せである.

  • 認知(cognition)
  • 1.だいたいの物事を覚えていられる.日常生活の問題をはっきりと考え,解決することができる.
  • 2.だいたいの物事を覚えていられるが,日常生活の問題を考えたり,解決しようとする際に,少し問題がある.
  • 3.少し忘れっぽいが,日常生活の問題をはっきりと考え,解決することができる.
  • 4.少し忘れっぽく,日常生活の問題を考えたり,解決しようとする際に,少し問題がある.
  • 5.とても忘れっぽく,日常生活の問題を考えたり,解決しようとする際に,大きな問題がある.
  • 6.全く覚えられず,日常生活の問題を考えたり,解決することができない.

  • 痛み(pain)
  • 1.痛みやつらさはない.
  • 2.軽度から中程度の痛みがあるが,通常の活動はできる.
  • 3.中程度の痛みがあり,できない活動が少しある.
  • 4.中程度からひどい痛みがあり,できない活動がいくつかある.
  • 5.ひどい痛みがあり,ほとんど活動ができない.

〔白岩 健,他:HUI3 classification system(日本語 第2版).国立保健医療科学院C2H(https://c2h.niph.go.jp/tools/pbm/hui/index.html)より〕

7 スコアの算出方法と解釈(classification system:日本語 第2版)

 EQ—5Dと同様,HUI3のスコアも1を完全に健康な状態,0を死とした1~0に一元化した数値の範囲で示される.各属性のレベルごとの係数は表1に示すとおりである.スコアは表1の脚注に示した数式によって求められる. 
 たとえば,「31433211」という健康状態の計算は以下のとおりとなる.

 1.003×(0.87×1×0.64×0.84×0.94×0.94×1×1)-0.003=0.412

 また,日本版HUI3の最小値は8つの属性すべてで最低レベルとなる「66566565」の-0.002であり,カナダ版の最小値(-0.36)よりも0に近いマイナス値となっている.
 HUI3も包括的尺度であるため,一般住民の標準値と比較することが可能である6).また,HUI3のMIDは0.03とされているが7),日本の換算式ではまだ確かめられていない.

マイナス値:効用値において0は死であるから,理論的に「死よりも悪い状態」である.これは効用値を導き出す際に,たとえば,一般住民に対するTTOの質問で,寝たきりで意思疎通も叶わない状態で10年間生き続けることよりも死んだほうがましだ,と回答する人が多い場合にマイナス値を取ることになる.あくまで,理論上の数値であるため,マイナス値で示される健康状態にある個人の尊厳を否定するものではない点に注意が必要である.

表1.png

8 測定特性

 HUI3は信頼性や妥当性に関して,幅広い疾患を対象に検証されている.とくに,EQ—5Dとの比較では,天井効果が小さいことと8,9),聴覚障害10)や認知症11),統合失調症,うつ病12)などを対象に感度が優れていることが報告されている.図1に示すように,EQ—5D—5Lよりも天井効果が小さく,ばらつきも大きくないことが確認できる.英国で実施されたシステマティックレビューではHUI3は聴覚,視覚,がんについて構成概念妥当性が良好であったと報告されている13).国内でも地域在住の多くの慢性疾患を対象にした研究をとおして,構成概念妥当性が確認されている14)

図1.png

9 エビデンス

 国内の一般住民を対象にした調査6)では,視覚障害や聴覚障害で感度が高いほか,Parkinson病と認知症で効用値の低下が大きいと報告されている.海外では聴覚障害に対する報告が多く,耳鳴りに対する認知行動療法の効果15)や補聴器装着の効果をHUI3の変化で報告している16).さらに,小児を対象に言語発達障害や難聴(表217),Duchenne型筋ジストロフィー18)のHRQOL評価にもHUI3が用いられている.また,小児の本人回答とその親など代理人の回答との一致度を調べたシステマティックレビューでは,感情と認知の属性では両者の一致度は低いと報告されている19)

表2.png
  • 文献
  • 1)Torrance GW, et al:Application of multi—attribute utility theory to measure social preferences for health states. Oper Res 30:1043—1069, 1982
  • 2)Cadman D, et al:Development of a health status index for Ontario children. Final report to the Ontario Ministry of Health on research grant DM648(00633). Hamilton, Ont., McMaster University, 1986
  • 3)Feeny D, et al:Multi—attribute health status classification systems. Health Utilities Index. Pharmacoeconomics 7:490—502, 1995
  • 4)白岩 健,他:HUI3 classification system(日本語 第2版).国立保健医療科学院C2H(https://c2h.niph.go.jp/tools/pbm/hui/index.html
  • 5)Noto S, et al:Development of a multiplicative, multi—attribute utility function and eight single—attribute utility functions for the Health Utilities Index Mark 3 in Japan. J Patient Rep Outcomes 4:23, 2020
  • 6)Shiroiwa T, et al:Japanese Population Norms of EQ—5D—5L and Health Utilities Index Mark 3:Disutility Catalog by Disease and Symptom in Community Settings. Value Health 24:1193—1202, 2021
  • 7)Drummond M:Introducing economic and quality of life measurements into clinical studies. Ann Med 33:344—349, 2001
  • 8)Noel CW, et al:Construct Validity of the EuroQoL—5 Dimension and the Health Utilities Index in Head and Neck Cancer. Otolaryngol Head Neck Surg 166:877—885, 2022
  • 9)Slobogean GP, et al:The reliability and validity of the Disabilities of Arm, Shoulder, and Hand, EuroQol—5D, Health Utilities Index, and Short Form—6D outcome instruments in patients with proximal humeral fractures. J Shoulder Elbow Surg 19:342—348, 2010
  • 10)Kharytaniuk N, et al:Health—Related Quality of Life in Adults With Classical Infratentorial Superficial Siderosis:A Cross—sectional Study. Neurology 99:e2201—e2211, 2022
  • 11)Jones CA, et al:Construct Validity of the Health Utilities Index Mark 2 and Mark 3 to Measure Health—Related Quality of Life of Residents in Long—Term Care Facilities. J Nurs Meas:JNM—D—20—00054, 2021
  • 12)Abdin E, et al:A comparison of the reliability and validity of SF—6D, EQ—5D and HUI3 utility measures in patients with schizophrenia and patients with depression in Singapore. Psychiatry Res 274:400—408, 2019
  • 13)Longworth L, et al:Use of generic and condition—specific measures of health—related quality of life in NICE decision—making:a systematic review, statistical modelling and survey. Health Technol Assess 18:1—224, 2014
  • 14)Noto S, et al:Japanese health utilities index mark 3(HUI3):measurement properties in a community sample. J Patient Rep Outcomes 4:9, 2020
  • 15)Cima RF, et al:Specialised treatment based on cognitive behaviour therapy versus usual care for tinnitus:a randomised controlled trial. Lancet 379(9830):1951—1959, 2012
  • 16)Grutters JP, et al:Choosing between measures:comparison of EQ—5D, HUI2 and HUI3 in persons with hearing complaints. Qual Life Res 16:1439—1449, 2007
  • 17)Le HND, et al:Health—Related Quality of Life in Children With Low Language or Congenital Hearing Loss, as Measured by the PedsQL and Health Utility Index Mark 3. Value Health 23:164—170, 2020
  • 18)Szabo SM, et al:Factors associated with the health—related quality of life among people with Duchenne muscular dystrophy:a study using the Health Utilities Index(HUI). Health Qual Life Outcomes 20:93, 2022
  • 19)Khanna D, et al:Are We Agreed? Self— Versus Proxy—Reporting of Paediatric Health—Related Quality of Life(HRQoL)Using Generic Preference—Based Measures:A Systematic Review and Meta—Analysis. Pharmacoeconomics 40:1043—1067, 2022
 

現代の医療・福祉分野のニーズに応えられる46のQOL尺度を徹底紹介

<内容紹介>QOLを医療や福祉分野のアウトカムとして活用しようとする流れが加速している昨今、医療者はQOL尺度の基礎知識と実際の使い方を把握しておく必要があるといえる。本書は、現代の医療・福祉分野でおさえるべき46の尺度をピックアップ。各々の特徴を述べるとともに、尺度を使用する際に必要となる開発者、質問票、版権や採点方法、さらにはエビデンスベースの活用方法をまとめている。QOL評価の新たなバイブルとなる1冊。

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