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『神経症状の診かた・考えかた 第3版』より

連載 福武敏夫

2023.04.14

病歴を語る患者の言葉からその真意を見極め,神経解剖の知識と照らして原因部位を絞り,それに合わせて適切な検査をオーダーする。日常診療で行われるこの一連の流れの中で何を診て,どのように考えればよいのでしょうか。

このたび刊行された書籍『神経症状の診かた・考えかた 第3版』ではこの疑問に答えるように,長年にわたり臨床の最前線で活躍し,数多の神経疾患を診てきた福武敏夫先生が自身の経験をもとに解説しています。

A しびれの定義

 「しびれ」とは多様な内容を包含する主観的な表現であり,どんな内容を指すかは患者や疾患・状況によって異なる。一般的には,正座の後に生じるような「ジンジンする」「ビリビリする」「チクチクする」と表現される自覚的感覚(Memo)を指す。錯感覚や感覚過敏,異痛症,さらに感覚鈍麻*1(「麻酔をかけられたよう」と表現されることがある)などの場合もしばしば「しびれ」と表現されることがある。本来は自発的な訴えに用いるが,Tinel手技などの診察による外的刺激によっての訴えにも用いる。また,漢字で“痺れ”と書かれるようにもともと運動麻痺まで意味していたので,患者によっては(軽い)脱力感を「しびれ」ということがあり,さらに不随意運動(舞踏運動)や口渇のことさえあった。「うずく」「針で刺される」「焼けつくよう」と表現される場合は痛みに分類するほうが適切かもしれないが,本書ではあまり区別せず,痛みの一部(臨床上よく遭遇するものや重要なもの)も扱う。最終節で「かゆみ」についても解説する。

Memo 正座後のしびれ

 「正座後のしびれ」は歴史的には室町時代の狂言「痿痺(しびり)」に登場する太郎冠者の振る舞いに現れたのが最初らしい。この表現には多様な内容が含まれうるので,すぐにそれで了解するのでなく,より詳細な問診内容を記載することが望ましい。すなわち正座中には,虚血による感覚神経線維の伝導ブロックのために感覚鈍麻が主体となり,しびれ感はほとんどないか,一部の大径線維の自発発射で軽度のジンジン感のみが起こる。間もなく運動神経も障害されて「脱力」が生じ,最終的には全感覚が消失する。虚血解除の直後には脱力と深部感覚障害のために立ち上がれないか立ち上がれてもふらついて歩けなくなる。その後,血流の回復により,軸索興奮性が変化して異常感覚が生じてくる。その「しびれ」には大径有髄線維の自発発射による「ピリピリ感」,「ジンジン感」と(小径有髄線維の発射による)「チクチク感」,筋紡錘からのⅠa線維の自発発射による「引っ張られ感」が含まれる。圧迫が長時間に及ぶと,乳酸の蓄積などの代謝性変化により「倦怠感」が生じるし,末梢神経に不可逆的な障害(絞扼性ニューロパチー)が生じることもある(この記述については千葉大学脳神経内科桑原聡教授にご教示を受けた)。

B しびれの意義

1 しびれは身体的不調の現れ

 しびれの原因をキーワード「paresthesia」でインターネット検索すると,多くのサイトにおいて,最もよくある原因として,次の5つが挙げられている。
 obdormition(長時間の圧迫後の無感覚)
 panic attack/hyperventilation(パニック発作/過換気)
 dehydration(脱水)
 inadequate blood supply(循環不全)
 nervous system disorders(神経系疾患)

 このうちの脱水や過換気は身体的不調の強い時に現れやすいので,しびれも身体的不調の現れであり,不調で増強すると思われる。

2 しびれは神経障害の最初の気付き

 しびれはしばしば神経疾患の最初の症状である。特に多発ニューロパチー,脊髄炎,脊髄圧迫性症候群,多発性硬化症などでよくみられるほかに,脳血管障害やてんかん,片頭痛の前兆・予兆でもある。大後頭孔から上位頚椎における圧迫性病変では,病変高位と隔たっている手のしびれが最初に現れる。ビタミンB12欠乏症による神経障害の初期の症状は四肢先のしびれであり,両手から始まることも多い。

3 局在性のしびれにはしばしば特徴的病態がある

 しびれ感の発現部位をきちんと捉えることが重要である(各論参照)。

4 しびれがいくつかの疾患において病態機序を示唆してくれる

 末梢神経障害において,桑原1)は神経線維の型別によるしびれ(異常感覚)の内容の差異を記載している。Adams-Victorの教科書2)では,脊髄にまで広げて神経障害と異常感覚(aberrant sensations)を対比させている。

5 しびれは内科疾患の手掛かりになる

 しびれは内科的疾患の手掛かりになることもある。詳細は後述する(☞『神経症状の診かた・考えかた 第3版』149頁)。

C しびれをきたす疾患・病態

 どんなしびれでも当然ながら最終的には脳で感じる。だからといって,神経疾患によるとは限らない。しびれの発症機序として,末梢の感覚受容器から体性感覚神経,さらに脊髄から脳幹を経て(脊髄視床路系と後索・内側毛帯系),視床に至る上行路と視床および感覚を担う脳部位の損傷が一次的である。脳の中では一次感覚野(中心後回)と感覚連合野(上・下頭頂小葉)が主な部位であるが,不快感の感知には二次感覚野や島皮質,さらに扁桃体も重要な役割を果たしている。いずれの部位でもその損傷により電気的な異常発射が生じ,周辺や上位へ拡がり,しびれとして感じる(表Ⅰ-23)。

 しかし一方,これらの感覚神経系に障害がなくてもしびれは生じうる。すなわち,末梢の血行の障害,感覚神経の上行路でなく下行路である感覚制御系の障害,運動系(錐体路,錐体外路,運動ニューロン)の障害,自律神経系の障害によってもしびれは生じうるし,酸塩基平衡などの代謝やホメオスターシスの乱れや薬物作用もしびれの原因になる。また,restless legs症候群(RLS;下肢静止不能症候群)のように機序がまだ十分解明されていないしびれもあるし,心因性のしびれにもしばしば遭遇する(表Ⅰ-23)。しびれや痛みにおいて心因性という時には,侵害受容性(感覚性)の要素とともに,常に侵害防御性(運動や行動で軽減しうること),認知性(理解力・表現力で差異が生じること),情動-感情性の各要素が関与していることに思いを致すべきである。心因性のしびれに限らず全てのしびれにこれらが関与していると思われる。情動−感情に関わる脳部位は前部帯状回,後部帯状回,内側前頭葉,前部島皮質,視床,尾状核などであり,認知に関わるのは側頭葉,頭頂葉などである。このように考えると,しびれや痛みの原因が末梢側にあっても,その様相,強弱には大脳が深く関わっているといえる図Ⅰ-50)。

表1-23.png
図1-50.png

D しびれの部位,性状,経過,誘因などから分かること

 しびれはあくまでも自覚的な訴えであるので,診断は病歴聴取が主になる。その前にまず病変部位とよく遭遇する疾患についてある程度予備知識をもっておくとよい。病歴聴取のポイントは部位,性状,経過,誘因などであり,その後,診察を経てから再度病歴を聴取する。

1 部位

 まずしびれを感じている部位をよく聞き出すことが大切である。部位だけで見当がつくことがしばしばある(表Ⅰ-24)。このためには末梢神経の支配領域,脊髄髄節のデルマトームの知識が必須である。但し,これらの図を用いる時には個々の末梢神経・神経根の間には重なり(overlap)があることと,個々の被検者間で変異(variation)があることに留意が必要である。

表1-24.png

2 性状

 しびれの性質を明らかにするために,しびれの中味を患者自身の言葉で表すよう求める必要があるが,表現できない患者が多い。うまく表現できない様子があれば,サイドメモに挙げたような表現例*2を提示するが,それでも適切な表現を見つけられないことがしばしばである。

 次に,しびれが自発的なものか何らかの刺激によるものかを訊き出し,さらに表面的なもの(例えば皮膚由来)か深部から来るもの(例えば筋由来)かを訊き出せれば,参考になる。これらの性状により,神経由来か,筋由来か,血行由来かなど,ある程度絞り込むことができる。しかし,同一疾患でも障害度や病期によってしびれの内容や表現は変化するので,それだけで鑑別は難しい。

 表現とは別に,しびれがどれほど生活に支障をきたしているかを訊き出すことは診断だけでなく治療にとっても大切である。中でも睡眠障害があるかどうかは必須で,一例として,しびれを紛らわすために足を動かしたり動き回るのであれば,RLSが疑われる。

3 経過

 発症が急性か亜急性か慢性(潜在性)か,あるいは間欠的・発作的かを訊くことも大切である。急性で局所的な場合は単ニューロパチーや脊椎疾患,血管性疾患が,びまん性の場合は代謝的な原因が考えやすい。亜急性のものでは炎症性ないし代謝性の疾患が考えやすく,慢性で局所性のものでは局所の物理的原因が,びまん性のものでは多発ニューロパチーや代謝性疾患,変性疾患が考えやすい。発作・反復性のものでは神経痛やてんかん,脱髄性疾患が考えやすい。

4 誘因などの病歴

 以上のほかに,診断学の基本に沿って,しびれの誘因や増悪・軽快因子(例:歩行や姿勢による下肢のしびれの増強→腰椎症,不安による四肢遠位のしびれの出現→過換気症候群),既往歴,薬物歴,家族歴,職業歴,生活スタイル,家族構成を訊き出すことも大切であり,他の症状との関連を明らかにするよう病歴をとることも必要である。ここでも「最近何か変わったことがなかったか」という質問は時どき威力を発揮する。

 薬物歴は必ず聴取し,薬品情報を丹念に調べる必要がある。特に,抗がん剤,抗菌薬,ホルモン薬,免疫抑制薬,抗うつ薬,脂質異常症治療薬,消化器用薬〔H2ブロッカー,プロトンポンプ阻害薬(PPI),制吐薬〕には特に注意する。若年者ではシンナー(n-ヘキサン)耽溺歴を訊き出す。

5 しびれの診察のピットフォールと対策

 ・偽性局在症候に注意する。
 ・腱反射低下を直ちに末梢神経由来としないこと〔脊髄圧迫性病変でも後縦靱帯骨化症(OPLL)などではゆっくり圧排することや多髄節に及びうることで,錐体路徴候が現れにくいことがある〕。
 ・末梢神経障害でも病変が広汎になるとデルマトームのレベルを有するようになり,脊髄症と分かりにくいことがある。
 ・不定のものを心因性としないこと。
 ・1つの原因に押し込めないこと,特に脊椎画像検査の異常を原因と即断しないこと。
神経診察の結果を踏まえて再度病歴を聴取する。例えば,腱反射が亢進していれば,頚椎損傷やむち打ちの既往について質問する。

6 原因のつかめないしびれに出会った時の6つのtips

 tips❶:「しびれ」で表現されている中味を再検討する
 tips❷:しびれに随伴する症状を探し出す
 tips❸:しびれの分布の意義を再検討する
 tips❹:神経診察をより詳細に行う
 tips❺:薬物や全身疾患との関連を再検討する
 tips❻:感覚神経系以外の系統,特に中枢性を含む自律神経系に留意する

Memo 中枢性自律神経ネットワーク(central autonomic network;CAN)

 最近のfunctional MRIを用いた研究などから,中枢性に拡がりのある自律神経のネットワーク(CAN)が明らかになっている。CANの上部構造は大脳辺縁系を含め,前頭前野とリンクしている。下部構造は,中脳から,橋,延髄孤束核までの範囲を含む。CANの機能は,情動,視床下部-下垂体-副腎系(内分泌系),女性ホルモン調節系,自律神経系,睡眠リズムなどに及ぶ。CANは,不快,怒り,不安,恐怖などの情動変化や各種内臓感覚の情報によって,上部構造にある前部帯状回が興奮し,視床下部を介して,内分泌系と交感神経を興奮させる。前頭前野はこのCANの著しい興奮を抑えることが知られている。

*1:しびれの多様性
・錯感覚(paresthesia):冷覚刺激を痛みと感じるような,感覚モダリティーの錯覚
・感覚過敏(hyperesthesia/hyperalgesia):同じ感覚(痛み)刺激を強く感じること
・異痛症(allodynia):通常では痛みをもたらさない弱い刺激が非常に痛く感知されること
・感覚鈍麻(hypesthesia;numbness):刺激を鈍く感じる〜全く感じない

*2:しびれの表現例
・ピリピリ
・ビリビリ
・ジンジン
・チクチク
・刺される
・電気が走る
・焼けつく
・鈍い
・一枚皮を被ったよう
・麻酔がかけられたよう
・こわばる
・だるい
・かゆい/痛がゆい
・力が入らない,など

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