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『感染対策60のQ&A』より

連載 坂本史衣

2023.11.17

基本的な医療関連感染対策について,理論と活用の両面からわかりやすく語りたい――。その想いをきっかけに出版された書籍『感染対策60のQ&A』では,医療関連感染の予防と制御に関する60の質問に,著者の坂本史衣氏が理論と実践を紹介しながら回答を示していく構成となっている。医学界新聞プラスでは,本書から下記の3項目をピックアップし,3週にわたって紹介をしていきます。

  • ● 医療関連感染を引き起こす病原体の感染経路にはどのようなものがありますか?
  • ● 麻疹に対する平時の対策と発生時の対応について教えてください
  • ● 針刺しを防ぐにはどうすればよいですか?

Q 医療関連感染を引き起こす病原体の感染経路にはどのようなものがありますか?

  • A

  • ☞ 接触感染,飛沫感染,エアロゾル粒子の吸入による感染,空気感染があります

  • 病原体の主要な感染経路を遮断する対策を感染経路別予防策と呼びます

  • ☞ 感染経路別予防策を実施する患者にも,標準予防策は必ず行います

●理論編

  •  接触感染,飛沫感染,エアロゾル粒子の吸入による感染,空気感染があります.

1 接触感染

患者,使用済み物品や高頻度接触環境表面に触れることにより,病原体が伝播する経路を接触感染といいます(図1).接触の仕方には,皮膚・粘膜どうしが直接触れる直接接触と,器具や食品,水などのモノや物質を介した間接接触があります.

接触感染する病原体には,皮膚や粘膜に定着あるいは感染するもの(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌など),口から入って消化管に定着あるいは感染するもの(C. difficile,ノロウイルスなど),主に顔の粘膜から侵入して感染するもの(インフルエンザや新型コロナウイルスなど)があります.

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図1 接触感染

2 飛沫感染

病原体を含む飛沫が鼻や口から飛び出し,発生源の近くにいる人の眼,鼻,口の粘膜に付着して感染する経路を飛沫感染といいます(図2).飛沫が飛ぶ距離は, 50 cm~3 mくらいといわれていますが,飛距離は,環境の湿度,飛沫の粒径や速度などの影響を受けます.一般的に大声での会話,咳やくしゃみをする時には,より遠くまで飛ぶことが知られています.

飛沫感染する病原体には,インフルエンザウイルス,風疹ウイルス,ムンプスウイルス,新型コロナウイルスなどがあります.

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図2 飛沫感染

3 エアロゾル粒子の吸入による感染

病原体が付着したエアロゾル粒子を,感染源の付近(図3)や,換気の悪い閉鎖空間(図4)で吸い込むことで感染する経路を,吸入inhalationによる感染やエアロゾル感染などと呼びます.本書の執筆時点で,後述の空気感染とは区別されています(column ).医療機関では,エアロゾル産生手技用語解説)を実施する際に,吸入による感染の可能性が高まると考えられています(表1).

吸入によって感染する病原体には,インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスがあります.

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図3 エアロゾル粒子の吸入による感染(発生源付近)
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図4 エアロゾル粒子の吸入による感染(換気不良の閉鎖空間)
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表1 エアロゾル産生手技

4 空気感染

病原体が付着したエアロゾル粒子が広範囲に拡散し,長時間,長距離を漂い,それを吸い込むことで感染する経路を空気感染といいます(図5).

例えば麻疹ウイルスは感染性を失わないまま,空気中を2時間ほど浮遊することが可能だと考えられています.麻疹患者が病院待合を退室してから1時間後に入室した患者が麻疹に感染した事例や,学校の空調配管を通って拡散したと考えられる麻疹ウイルスによって14の異なる教室で学習していた28人の生徒に集団感染が起きた事例などが報告されています.

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図5 空気感染

実践編●

感染経路別予防策は,標準予防策だけでは制御が難しいヒト—ヒト感染する病原体を,それぞれの主要な感染経路に応じて,主に接触感染するもの,主に飛沫感染するもの,主に空気感染するもの,の3群に分類し,主に接触感染する病原体には接触予防策,主に飛沫感染する病原体には飛沫予防策,主に空気感染する病原体には空気予防策という3種類の「パッケージ」を使い分ける合理的な感染対策です.

病原体ごとに感染対策をカスタマイズせずに済むという便利さはありますが,時に病原体の特徴に合わせた修正が必要です.例えば薬剤耐性菌とC. difficileはどちらも接触予防策の対象ですが,薬剤耐性菌はほぼどれもアルコールに感受性があるのに対し,C. difficileは抵抗性があるため,特に集団感染が発生した場合は,手指衛生の方法を変えなくてはなりません.

また,主要な感染経路が複数ある病原体(例えば新型コロナウイルス)や,感染経路の異なる複数の病原体(例えば薬剤耐性菌とインフルエンザ)に同時に感染している場合は,1人の患者に2種類以上の感染経路別予防策を組み合わせて行うことになります.

感染経路別予防策を実施していても,存在が把握されていない病原体の伝播を防ぐために,標準予防策を確実に実施することが重要です.

column⑥ 空気中を浮遊するエアロゾル粒子による感染

  • 呼吸,会話,歌唱,咳やくしゃみをする時に,鼻と口からさまざまな大きさと重さの微粒子が放出,拡散されます.

    これらの微粒子のうち,エアロゾルaerosolとは,空気中を浮遊することができる,液体,気体,固体あるいはそれらの状態が混ざった微粒子を指します.一方,水分を含んで重く,放出後に落下する微粒子は飛沫dropletと呼ばれます.

    世界保健機関(WHO)は粒子径が5~10μmを超える微粒子を飛沫と呼び,5μmよりも小さいものをエアロゾルや飛沫核droplet nucleiと呼んでいます.ただ実際には10μmを超える微粒子でも空気中を浮遊することができるため,この定義に基づくなら,飛沫の中にも空気中を浮くものがあると考える必要があります.また,国内で聞くことが多いマイクロ飛沫という言葉の定義も明確ではありません.本書では,わかりやすさを優先して,放出後に空気中を浮遊する微粒子をエアロゾル粒子,地面に落下する重くて大きな微粒子を飛沫と呼んで区別することとします.

    エアロゾル粒子は,吸入後の到達部位の違いによって3つのカテゴリーに分けることができます(表2).これを見ると,感染対策における粒径の重要性は,エアロゾル粒子に付着している病原体と,それが標的とする細胞がどこに存在するかに依存することがわかります.例えば結核菌や麻疹ウイルスは,肺胞に達し,肺胞マクロファージに貪食されることで感染を成立させます.そのため,最も小さな≦2.5~5μmのエアロゾル粒子の拡散や吸入を防ぐことが重要となります.一方で,インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスは,比較的大きな微粒子であっても,上気道に到達できれば,受容体が発現している粘膜上皮細胞から侵入して感染を成立させることができます.このことから感染を防ぐには,感染源の近くで,さまざまな大きさの微粒子を吸い込むことを防ぐ必要があると考えられます.

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    表2 到達部位に基づくエアロゾル粒子の分類

    いずれの様式も「空気中を浮遊するエアロゾル粒子による感染」ですが,インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスが,麻疹ウイルスや結核菌のように,広い空間を長時間浮遊して感染を起こしている状況が日常的に観察されているわけではありません.空気を介した感染経路の区別や用語の定義は,今後整理が進むと考えられます.

 

参考文献
1)Milton DK:J Pediatric Infect Dis Soc.2020;9(4):413-5.PMID 32706376
2)CDC:Principles of Epidemiology in Public Health Practice,3rd ed.
3)WHO:Coronavirus disease(COVID-19):How is it transmitted? https://www.who.int/news-room/q-a-detail/coronavirus-disease-covid-19-how-is-it-transmitted
4)CDC:Scientific Brief:SARS-CoV-2 Transmission.
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/sars-cov-2-transmission.html
5)Riley EC,et al:Am J Epidemiol.1978;107(5):421-32.PMID 665658
6)Bloch AB,et al:Pediatrics.1985;75(4):676-83.PMID 3982900
7)Public Health England:Guidance COVID-19:infection prevention and control(IPC). https://www.gov.uk/government/publications/wuhan-novel-coronavirus-infection-prevention-and- control/covid-19-infection-prevention-and-control-guidance-aerosol-generating-procedures
8)CDC:Guidance for Dental Settings.
9)田原舞乃,他:ウイルス67(1):3-16,2017.

 

用語解説
エアロゾル産生手技aerosol‒generating procedure:実施中に感染性エアロゾルを大量に産生し,吸入による感染のリスクが生じると考えられている以下のような手技を指します(➡『感染対策60のQ&A』296頁,column⑮も参照)
・気管挿管・抜管 ・胸骨圧迫 ・用手換気 ・気管切開術・チューブ交換 ・気管支鏡検査 
・非侵襲的換気療法(NIV) ・高流量式鼻カニュラ酸素療法(HFNO) ・高頻度振動換気療法(HFOV) 
・高張食塩水吸入による喀痰誘発 ・開放式気管吸引 ・気道/副鼻腔の手術・解剖におけるハイスピードドリルの使用 ・ネブライザー療法

 

問題解決のための理論と実践をQ&A形式で具体的に解説

<内容紹介>医療関連感染対策の現場で起こる複雑で多様な問題を解決する情報が満載。押さえておきたい60テーマを8カテゴリーに分類し、Q&A形式で具体的に解説(①標準予防策、②感染経路別予防策、③医療器具関連感染予防、④職業感染予防、⑤洗浄・消毒・滅菌、⑥医療環境管理、⑦サーベイランス、⑧新興感染症のパンデミック)。姉妹書の『感染対策40の鉄則』とともにIPC(医療関連感染の予防と管理)に取り組む人の心強い相棒!

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