感染対策60のQ&A
問題解決のための理論と実践をQ&A形式で具体的に解説
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医療関連感染対策の現場で起こる複雑で多様な問題を解決する情報が満載。押さえておきたい60テーマを8カテゴリーに分類し、Q&A形式で具体的に解説(①標準予防策、②感染経路別予防策、③医療器具関連感染予防、④職業感染予防、⑤洗浄・消毒・滅菌、⑥医療環境管理、⑦サーベイランス、⑧新興感染症のパンデミック)。姉妹書の『感染対策40の鉄則』とともにIPC(医療関連感染の予防と管理)に取り組む人の心強い相棒!
著 | 坂本 史衣 |
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発行 | 2023年11月判型:A5頁:328 |
ISBN | 978-4-260-05271-9 |
定価 | 3,300円 (本体3,000円+税) |
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- 序文
- 目次
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序文
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序
本書の構想は2019年の9月に生まれました.「基本的な医療関連感染対策について,理論と活用の両面からわかりやすく語りたい」というやや漠然とした提案が具体的な企画書となり,やがて出版社の会議で無事承認されたという嬉しいニュースが届いたのは同年12月24日のことでした.それから1週間後の大晦日に中国・武漢市で原因不明の肺炎が発生したというニュースが流れ,翌2020年1月15日には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)国内発生第1例目が報告され,その後のことは皆様もご存じのとおりです.パンデミック下の隙間時間を使って執筆し,予定から数年遅れて無事発刊となった本書ですが,こうした非常事態を経験したことによって,内容がより充実したようにも思います.
タイトルからわかるとおり,本書は医療関連感染の予防と制御(IPC)に関する60の質問と回答からなりますが,これらの質問は次の8つの章(テーマ),すなわち,①標準予防策,②感染経路別予防策,③医療器具関連感染予防,④職業感染予防,⑤洗浄・消毒・滅菌,⑥医療環境管理,⑦サーベイランス,⑧新興感染症のパンデミックに分類されています.各章の初めにある「イントロダクション(Q&Aの前に)」というセクションでは,その章で取り扱うテーマの全体像を説明しています.その後に,章のテーマに関する質問が続きます.回答は【理論編】と【実践編】に分けています.【理論編】では質問に関する基礎知識を,【実践編】ではその活用の仕方を紹介しています.
本書はIPC初学者をメインターゲットとしていますので,基本的なことを,なるべく平易な表現で書いたつもりですが,現実に起こる問題は複雑かつ多様です.そのため,回答には,実際に生じうるやや困難な状況でも使える情報を盛り込みました.また,理解を助けるために,専門用語を解説したり,関連する別のQ&Aを適宜参照させたりしています.このような作りになっていますので,本書は最初から読んでいただいてもよいですし,興味のあるテーマや質問を選んで読むという使い方もできます.
最後になりますが,姉妹書である前著『感染対策40の鉄則』に引き続き,本書を世に出すことができたのは,企画から辛抱強く伴走してくださり,丁寧で読みやすい紙面を作ってくださった医学書院の西村僚一氏,野上三貴氏に負うところが大きいことをお伝えします.そして,COVID-19の波を繰り返し受けながら,安全な療養・職場環境を構築し,維持し,昼夜問わず人の相談にのり,疲弊し,それでも医療を支え続けるIPC領域の仲間である皆様のことは,本書を執筆中にたびたび考え,それが心の支えとなりました.本書が,今日もIPCに取り組む皆様にとって,問題解決の糸口となればたいへん嬉しく思います.
2023年10月
坂本史衣
目次
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第1章 標準予防策──感染予防はここから始まる
Q01 なぜ手指衛生を行う必要があるのですか?
Q02 手指衛生はいつ行うのですか?
Q03 手指衛生はどのような手順で行うとよいですか?
Q04 手指衛生のモニタリングはどのように行うのですか?
Q05 手指衛生の実施率を上げるにはどうすればよいですか?
Q06 個人防護具の種類と選択基準について教えてください
Q07 個人防護具① 手袋について教えてください
Q08 個人防護具② ガウン・エプロンについて教えてください
Q09 個人防護具③ 医療機関で使用するマスクについて教えてください
Q10 個人防護具④ 眼の防護具について教えてください
第2章 感染経路別予防策──標準予防策に追加する対策
Q11 医療関連感染を引き起こす病原体の感染経路にはどのようなものがありますか?
Q12 ウイルスによる医療関連感染を防ぐポイントは?
Q13 薬剤耐性とは何ですか?
Q14 医療機関で行う薬剤耐性菌対策は?
Q15 家庭でできる薬剤耐性菌対策はありますか?
Q16 クロストリディオイデス・ディフィシル感染症の拡大を防ぐには?
Q17 ノロウイルス感染症を疑ったらどうしますか?
Q18 流行性角結膜炎が発生した時の対応は?
Q19 疥癬の感染対策について教えてください
Q20 シラミ症の感染対策について教えてください
Q21 RSウイルスの二次感染を防ぐには?
Q22 インフルエンザの集団感染を防ぐ包括的な対策について教えてください
Q23 風疹に対する平時の対策と発生時の対応について教えてください
Q24 ムンプスに対する平時の対策と発生時の対応について教えてください
Q25 麻疹に対する平時の対策と発生時の対応について教えてください
Q26 水痘・帯状疱疹に対する平時の対策と発生時の対応について教えてください
Q27 結核患者にはどのような感染対策が必要ですか?
第3章 医療器具関連感染予防──適正使用とケアバンドル
Q28 血管内留置カテーテル関連血流感染とは何ですか?
Q29 中心ライン関連血流感染の予防策について教えてください
Q30 末梢静脈カテーテル関連血流感染の予防策について教えてください
Q31 注射薬・輸液の汚染を防ぐにはどうすればよいですか?
Q32 膀胱留置カテーテル関連尿路感染とは何ですか?
Q33 膀胱留置カテーテルの適正使用を促す取り組みについて教えてください
Q34 膀胱留置カテーテルを必要とする患者に行う尿路感染予防策は?
第4章 職業感染予防──安全な職場環境作り
Q35 針刺しを防ぐにはどうすればよいですか?
Q36 針刺し・切創・粘膜汚染・創傷汚染が起きたらどうすればよいですか?
Q37 医療関係者はどのようなワクチンを接種すればよいですか?
Q38 医療関係者が感染症にかかったらどうすればよいですか?
第5章 洗浄・消毒・滅菌──再生処理の全体像
Q39 使い終わった医療機器の安全な取り扱いについて教えてください
Q40 再使用可能医療機器の洗浄はどのように行うのですか?
Q41 再使用可能医療機器の消毒はどのように行うのですか?
Q42 再使用可能医療機器の滅菌はどのように行うのですか?
Q43 内視鏡を介した病原体の伝播を防ぐにはどうすればよいですか?
第6章 医療環境管理──多部門で行うリスク評価と改善
Q44 医療機関ではどのような清掃を行えばよいですか?
Q45 感染性廃棄物の取り扱いについて教えてください
Q46 布製品からの感染を防ぐには?
Q47 病院で食中毒を防ぐには?
Q48 シンクの管理について教えてください
Q49 換気の評価と改善の仕方について教えてください
Q50 玩具の管理について教えてください
Q51 医療環境にある水からの感染を防ぐには?
Q52 飲料水はどのように管理しますか?
第7章 サーベイランス──感染対策の羅針盤
Q53 サーベイランスで測定する指標はどのように選べばよいですか?
Q54 プロセスサーベイランスはどのように行うのですか?
Q55 アウトカムサーベイランスはどのように行うのですか?
Q56 サーベイランスデータはどのように活用するのですか?
第8章 新興感染症のパンデミック──これからに備える
Q57 新興感染症のパンデミックにどのように備えればよいですか?
Q58 新興感染症のパンデミックが発生したら何をすればよいですか?
Q59 新型コロナウイルス感染症への対応について教えてください
Q60 エムポックス(サル痘)を疑う患者が受診したらどうすればよいですか?
索引
column
column① N95マスクの名称について
column② 医療用マスクが微粒子を捕集する原理
column③ フィットテスト
column④ ユーザーシールチェック
column⑤ 電気ファン付き呼吸用保護具──powered air-purifying respirator(PAPR)
column⑥ 空気中を浮遊するエアロゾル粒子による感染
column⑦ 薬剤耐性菌の歴史
column⑧ 薬剤耐性化のメカニズム
column⑨ CPE保菌者の早期発見
column⑩ A型インフルエンザの変異
column⑪ インフルエンザワクチン
column⑫ 結核の接触者健診
column⑬ インディケーター
column⑭ 症候群サーベイランス
column⑮ エアロゾル産生手技
書評
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自身と現場のレベルアップに生かせる本
書評者:山田 和範(中村記念病院薬剤部/北海道科学大客員教授・薬学)
コロナ禍を経て,全ての医療従事者は以前にも増して,正しい知識に基づいた感染対策を実践することを求められるようになった。得てして,施設の感染対策では現場と管理側スタッフの行動が乖離していることがある。真面目な管理スタッフほど,無意識に正論を振りかざし,現場スタッフは「感染は現場で起きているんだ!」と言いたい気持ちをこらえ,独自のルールを運用してささやかな抵抗をしていたりする。両者がめざすゴールは同じで「感染から患者さんと医療スタッフを守りたい」はずなのだが……。そしてこの小さな綻びを突いて,感染症やアウトブイレクが発生したりする。このような「現場と管理側スタッフとの行動の乖離」は,突き詰めれば両者の視点がズレていることが原因である。このズレを解消する糸口の1つとなるのが本書である。
一般的にHow to本の記載は,最新で充実した施設が前提となっていることが多く,そうではない(経年が目立ち設備面でも恵まれていない)施設では,「そこまでできないなぁ」と諦めがちである。しかし,本書は,充実した環境での対応のみならず,現在のセッティングでできることにも言及しており,どんな施設・環境であっても感染対策に取り組む上での羅針盤になる。そして,押さえるべきポイントはしっかりと押さえられており,妥協がない部分は小気味よい。
本書は系統立てて整理されており,読者は感染対策について理解を深めやすい。これは,著者の坂本史衣先生が特に感染対策スタッフへの教育について意識し,日頃から現場に足を運んで現場目線で取り組んできたからだろう。本書には,感染対策領域の知の巨人がこれまでの経験から得た知見や教訓を一冊にまとめた集大成といった側面もある。われわれはこの宝の山に本書を通じてアクセスできるのである。
本書は一つのQ&Aに対し「理論編」と「実践編」という2つの切り口で解説している。「理論編」では病原体の情報に加えて,疫学や病態について記述され,内科学の教科書の要点を抽出したような構成になっている。その上で,感染対策に関する記述がしっかり網羅されているので読み応えも十分である。各論のウイルス感染症の章では基本再生産数の記載もみられ,感染の拡大の程度を数字で把握しやすい。「実践編」では,イラストや写真を多く掲載し,具体的な事例を用いてわかりやすく解説している。機器の消毒では,構造についても言及し,普段内部を見ることがない医療従事者でも理解できるように配慮されている。医療環境管理では,CO2濃度のモニターを取り上げ,現時点における指標やモニター機器の活用方法が詳細に解説されている。
サーベイランスについては,プロセスサーベイランス,アウトカムサーベイランスの具体例を挙げながら,その取り組み方,データの活用方法についてわかりやすく述べている。最後の第8章では新興感染症のパンデミックを取り上げ,その備えから,発生した際の具体的な対応まで順を追って解説している。著者が新型コロナウイルス感染症の初期から取り組んできた経験とノウハウから普遍的な要点まで,惜しみなく披露されている。
ほんの一部を紹介しただけだが,本書の質と量の充実ぶりについては推して知るべし。ぜひ,本書を手に取って日常的な感染対策に生かし,自身のレベルアップ,ひいては現場のレベルアップを図っていただきたい。
読者の「腑に落ちる」エビデンスと実践が満載
書評者:渋谷 智恵(日本看護協会看護研修学校認定看護師教育課程課程長)
著者は本書のメインターゲットを「医療関連感染の予防と制御(IPC)にかかわる初学者」に想定しているようだが,中堅からベテランが日々活動する中でも大いに助けとなる内容になっている。
本書はIPCの基本となる8つの章,すなわち,(1)標準予防策,(2)感染経路別予防策,(3)医療器具関連感染予防,(4)職業感染予防,(5)洗浄・消毒・滅菌,(6)医療環境管理,(7)サーベイランス,(8)新興感染症のパンデミックに分類され,各章は質問と回答で構成されている。60の質問(Question)はどれも院内でよく聞かれるシンプルなものだが,これに対する著者の回答(Answer)がとにかく勉強になる。回答は国内外の多数の文献を参考に,さらに理論編と実践編に分かれている。
理論編は質問に関する基礎知識であり,初学者であればここでエビデンスに基づいた体系的知識を学ぶことができる。実践編では臨床におけるその知識の活用の仕方を紹介しているため,IPC領域のベテランでも具体的な活動に役立てることができる。
例えば,第1章「標準予防策」にはQ02「手指衛生はいつ行うのですか?」という質問がある。この回答の理論編では,WHO版手指衛生の5つのタイミングとカナダ版手指衛生の4つのタイミングを説明している(本文p7,8)。どちらを使ってもよいのだが,比べてみると,カナダ版のほうが患者と患者環境を一つに捉えた考え方をしていてシンプルでわかりやすい。「もしかするとスタッフが手指衛生のタイミングを理解するのにはカナダ版のほうが良いかもしれない……」と考えたりする。
回答の実践編では,日常的に行う作業中の手指衛生の適応場面とタイミングをつなげるための「つなげる練習」が紹介されている。院内研修でさまざまな想定場面について,「手指衛生の適応場面とタイミングの『つなげる練習』をしたら盛り上がるだろう」と想像が膨らむ。こうした理論編と実践編という構成が,単に知識を得るだけにとどまらず,実際の状況に対応するための活動をイメージさせてくれる。
このように示唆に富む質問と回答が60もあるのだから,読者諸氏が所属する施設でもIPCの問題解決のヒントになることは間違いない。読者は最初から読むのも良し,自分が気になる問題を探して読むのも良し。本書を通じて,問題解決の糸口を得ることができるだろう。
著者は本書の中で,職員の「腑に落ちる」ことの重要性を伝えている。大人は現実的で自身の仕事や生活に役立ち,重要だと感じる知識・技術は積極的に習得しようとする一方で,必要性や重要性が見出せないことの学習や実践には抵抗を感じる特徴がある。医療関連感染対策のエビデンスとそれに基づく実践が,職員の「腑に落ちる」形で記載されている本書は,課題を抱える現場を改善に導くさまざまな手掛かりが詰まった一冊である。
感染管理の実務担当者の新たなバイブル本
書評者:伊東 直哉(愛知県がんセンター感染症内科部/感染対策室長)
坂本史衣先生といえば,言わずと知れた「感染管理のプロフェッショナル」です。感染症業界の人ならば,まずその名を知らない人はいないのではないでしょうか? 知らなかったらモグリです。「感染管理ならば,感染症内科医もやっているでしょ? 専門でしょ?」と,思われるかもしれませんが,チッチッチ,それは違うのです。あくまでもわれわれ感染症内科医は,感染症「診療」の専門家であって,「感染管理」の専門家ではないのです(一部に両方に深い見識と経験を持つ稀有な存在もいますが)。坂本先生は,学会活動や多くの著書を通じて,長きにわたって日本の感染管理を牽引されてきました。私自身も,実際に坂本先生の講演や著書で感染管理を学んできた熱心なファンの一人です。そのような師匠的存在の坂本先生の著書の書評を書かせていただくことはとても光栄なことで,とてもとても嬉しいことなのです。
さて,『感染対策60のQ&A』ですが,『感染対策40の鉄則』よりもさらに読みやすく進化しており,感染管理の実務担当者の新たなバイブル本の一つになると確信しています。
本書は各テーマが数ページにコンパクトにまとまっており,忙しい業務の合間にもさっと読むことができます。内容は網羅的に記載されているので,臨床現場で直面する可能性がある頻度の高い疑問に対してはきっと答えを見つけられると思います。Q&Aという体裁ではありますが,本書を最初から最後まで読むと,感染制御と管理についての体系的な知識を得ることができるので,通読をお勧めします。
また,忘れた頃に対策を迫られる,でも重要な麻疹やムンプス,水痘,疥癬などの各論についてもバッチリ記載されており,各施設の院内感染対策マニュアルの作成・改定にも大いに参考になると思います。COVID-19やエムポックスに関する最新の情報も含まれており,ベテランの知識のブラッシュアップにも良いと思いました。加えて,参考文献がしっかりと付いているのも非常にありがたいです。
総じて,坂本先生の『感染対策60のQ&A』は,読みやすさと十分な情報を兼ね備えていて,感染管理の実務担当者にとって,明日から使える知識を短期間で身につけるのに最適です。コロナ禍を通じて,多くの医療機関にとっては,感染症の脅威を念頭に置いた新たな医療提供体制を構築する必要性がより強調されるようになりましたが,そのような現代の医療現場において,本書は必読の書といっても過言ではありません!