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『脳卒中の機能回復――動画で学ぶ自主トレーニング』より

金子唯史

2023.10.20

 脳卒中患者は機能回復のために継続的な訓練が必要なことから,発症後の自主トレーニングやオーダーメイドなリハビリテーションプログラムが求められる。早期からの機能回復には療法士の経験値や力量が問われるものの,外来の限られた時間や医療保険適用の日数制限の中で適切に対応できていないケースも多い。

 新刊『脳卒中の機能回復 動画で学ぶ自主トレーニング』では脳卒中の基礎知識はもちろん,プログラム作成時の基本となる患者の機能評価の手順や自主トレーニングの方法などが,豊富な写真や約30時間にわたる動画と共にエビデンスを交えて解説されています。リハビリテーションの現場で実践的に活用できる点が本書の特長です。

 「医学界新聞プラス」では,神経学的評価,上肢の自主トレーニング,家族もできる可動域トレーニングの内容を一部抜粋し,全3回でご紹介します。


 

ヒューゲルメイヤーアセスメント(FMA)
Fugl-Meyer Assessment

 FMAは,脳卒中の疾患特異的評価スケールで脳卒中治療ガイドライン2015,および2019においてグレードB(行うように勧める)とされています.身体機能をより細かく評価可能で,海外ではブルンストロームステージよりもFMAのほうが一般的です.

 上肢運動機能,下肢運動機能,バランス,感覚,関節可動域,関節痛の6項目で構成,それぞれの項目ひとつずつでの使用が可能です.特に上肢と下肢の運動機能能力の項目はアウトカムとして単独で使われることもあります.FMAは麻痺の回復段階を想定して作成されており,運動項目だけでも評価することで回復に向けた新たな発見につながる可能性があります.

評価ポイント
 
スコアリングは,0点(実行できない),1点(部分的に実行できる),2点(完全に実行できる)の段階で評価し,合計は226点満点となります(表1).

 障害の重症度分類は,FMAの合計運動スコア(100点)に基づいて提案され,Duncanら1)の報告では,運動機能100点満点において0~35点は非常に厳しい,36~55点は重度,56~79点は中等度,79点以上とカットオフ値を提唱しています.

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表1 FMA評価表

 

評価方法

 

運動機能(上肢)


 

A-Ⅰ.反射(2項目)           A-Ⅱa.屈筋共同運動(6要素)      A-Ⅱb.伸筋共同運動(3要素)

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方法
上腕二頭筋,手指屈筋群,上腕三頭筋で評価

採点
3反射ありで4点,1~2反射で2点,反射が消失0点

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方法
肩甲帯後退,肩関節屈曲・外転・外旋,肘関節屈曲,前腕回外を行う

採点
完全に可能2点,各関節一部でも遂行可能1点,不可0点

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方法
肩関節内転内旋,肘関節伸展,前腕回内を行う

採点
完全に可能2点,各関節一部でも遂行可能1点,不可0点

A-Ⅲ.共同運動①           A-Ⅲ.共同運動②           A-Ⅲ.共同運動③

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方法
手を腰の後ろに回す

採点
​​​​​​​脊柱まで可能2点,ASISまで可能1点,不可0点

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方法
肘伸展位で肩関節を90°屈曲する​​​​​​​

採点
完全に可能2点,代償があれば1点,不可0点

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方法
肘90°屈曲位で前腕を回内外する​​​​​​​

採点
​​​​​​​
可能2点,一部可能1点,不可0点

A-Ⅳ.非共同運動①          A-Ⅳ.非共同運動②          A-Ⅳ.非共同運動③

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方法
肘伸展位で肩関節90°外転を行う

採点
​​​​​​​
完全に可能2点,肘関節屈曲の代償あり1点,不可0点

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方法
肘伸展位で肩関節90°屈曲位から180°まで屈曲する

採点
完全に可能2点,一部可能1点,不可0点

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方法
肘伸展位,肩関節30~90°屈曲位で前腕回内外を行う

採点
​​​​​​​
全可動域動かせる2点,開始姿位のまま一部遂行可能1点,不可0点

A-Ⅴ.正常反射(A-Ⅳが満点時に実施)  B.手関節(5動作)(一部のみ紹介)     C.手指(7動作)(一部のみ紹介)

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方法
再度A-Ⅰの腱反射を実施

採点
高度亢進なしか亢進1つで2点,高度亢進1つか2つ亢進で1点,2つ以上高度亢進で0点

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方法
肘関節90°屈曲,回内で手関節15°背屈を行う

採点
抵抗に抗せれば2点,抵抗なしで維持1点,不可0点

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方法
肘関節90°屈曲位で手指の集団屈曲・伸展を行う

採点
全可動域動かせる2点,一部動かせる1点,不可0点

D.協調運動             E.関節可動域,関節痛

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方法
膝-鼻試験・指鼻試験を閉眼位で両側行う

採点
・非麻痺側との時間差:2秒未満2点,2~5秒差1点,6秒以上0点
・測定障害:なし2点,わずか1点,顕著0点
・振戦:なし2点,わずか1点,顕著:0点

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方法
肩関節/肘関節/前腕/手関節/手指の可動域と疼痛の有無を評価

採点
可動域は非麻痺側と同等2点,制限あり1点
疼痛なし2点,わずかにあり1点

文献
1)Duncan PW, et al:Similar motor recovery of upper and lower extremities after stroke. Stroke 25:1181-1188, 1994

※書籍では以降に「運動機能(下肢)とバランス」の評価についても解説しています。


※書籍では他に下記の神経学的評価も解説しています。

ブルンストロームステージ
SIAS
上肢・下肢の包括的神経検査
NIHSS
MAS
SARA
ミニベステスト(Mini-BESTest)
バーグバランススケール(BBS)
トランクインペアメントスケール(TIS)
TUG
CBS
KF-NAPTM
モーターアクティビティログ-14(MAL-14)
SCP,BLS

 

※本書の制作に携わった株式会社STROKE LAB ニューロリハビリ研究所のHPはこちらから!

 

当事者のニーズを個別に解決!
自主トレーニングの新しいカタチ

<内容紹介>脳卒中患者のリハビリに携わる療法士に向けた革新的なガイドブックが誕生。本書は30時間に及ぶYouTube動画と連携し、療法士が患者に対して、より個別化された自主トレーニングの提供や実践的な説明、指導を行うための手引き書となっている。機能回復に必要な情報や評価手順、家族でも実施可能なトレーニングなど、療法士や患者家族が知りたい情報も豊富に収載。学生の臨床実習から現場の療法士まで幅広い層に最適な一冊。

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