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『高齢者診療の極意』より

木村琢磨

2023.01.20

 高齢者診療においては,医師の専断的な考えが通用しにくく,若・壮年者と同様のアプローチを行っていては限界が生じることも多いです。高齢患者に接する機会が増える中,明確な答えのない問題に頭を悩ませている医師は少なくないでしょう。『高齢者診療の極意』では,「医師と患者に加えて第三者を意識する必要性」と「若・壮年者にはあまりない漠然とした臨床問題」を主眼に,教科書的な内容やエビデンスの提示にはあまり重きを置かず,答えのない中で悩み,考えるプロセスと,一定の考え方・行動の例を示しています。複雑で多面的な高齢者診療の一助となる一冊です。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,「食欲不振」「在宅医療」「ケアカンファレンス」についての話題をピックアップして,3回に分けて紹介します。


 

【登場人物】
赤ひげ医師:高齢者診療のエキスパート。自らも高齢者になりつつある
のぼる医師:ひととおりの臨床は修得済みだが、高齢者診療ではまだ悩むことが多い

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カンファレンスは患者に役立てるもの

のぼる    認知機能やADLが低下した“臨床的な高齢者”(⇒『高齢者診療の極意』4頁)に関する様々な臨床問題は,医師のみで解決できることは少ないですよね.介護保険サービスにおけるケアカンファレンス(サービス担当者会議)に参加する機会が本当に増えました.
赤ひげ    そうだね.高齢者をみていくうえで,本人や家族とともに,多職種のカンファレンスは不可欠だといえるね.
のぼる    ただ,カンファレンスの結論が必ずしも患者のよりよいケアに結び付いていないようで疑問に思うこともあります.
赤ひげ    カンファレンスは集団の話し合いによるメンバー同士の相互作用(グループダイナミクス)が生じるので非常に有用だが,ピットフォールも多いんだ.カンファレンスを行うこと自体を目的化するのではなく,患者の役に立つことが必要だ.気をつけないとね.

医師としての役割をわきまえる

のぼる    どうしたら,患者に役立つカンファレンスになりますか?
赤ひげ    まず,医師としての役割を心得るべきだ.医師には何が求められると思う?
のぼる    病状について,しっかりと説明するべきだと思います.
赤ひげ    そうだね.医師はカンファレンスで,患者の医学的判断についての責任を持つべきだろう.
のぼる    責任ですね.
赤ひげ    高齢者,特に“臨床的な高齢者”では,社会背景などが複雑に関連していることも多いが,適切な診断など,医師による医学的判断がすべての前提となるからね.
のぼる    はい.まず医学的な判断を明確にしないとカンファレンスが進まないですね.
赤ひげ    あとは,医師としての振る舞い方を心得よう.普段,カンファレンスにはどのように参加しているかな?
のぼる    積極的に発言していますけど!?
赤ひげ    それは感心だ.ただ,医師がカンファレンスの冒頭から意見を述べることは控えるべきではないだろうか.
のぼる    何故でしょうか?
赤ひげ    医師の発言内容に多くの職種が同調してしまう,あるいは反対できなくなることを防ぐためだ.現状では,他職種がどうしても医師の意見に従い,意見しにくい状況になっているように思う.
のぼる    はい.そうかもしれません.
赤ひげ    カンファレンスのテーマが医学的側面の強い内容であれば医師が多くコメントせざるを得ないが,その際も客観的事項を中心に述べ,主観的な内容を少なくするんだ.
のぼる    特に“臨床的な高齢者”に関する方針決定には,医学的側面以外の要素が求められますが,客観的事項を中心に発言するんですね.
赤ひげ    そう.医師の発言のみが重要視されないためにも,配慮したいね.

患者が本音を言えているかに留意

のぼる    高齢者の中には,カンファレンスで自分の意見を表出せず,周囲の意見に委ねてしまう方が結構いるようで気になります.
赤ひげ    「思ったことをなんでも話してよいこと」を伝え,少しでも患者本人に自分の考えを言ってもらえるようにしたいね.
のぼる    それから,自分で望んでいないにもかかわらず,カンファレンスで誰かが言った意見や方針に同調・従う方も少なくないですよね.
赤ひげ    だからカンファレンスの当初から,本人以外が「こういうふうにしたほうがよい」などと発言するのは避けたほうが無難だね.
のぼる    カンファレンスで話し合っているメンバーの空気感を察してか,時に自分の考えを曲げてまで,話をまとめようとする方もいます.
赤ひげ    あまり議論が進んでいない段階で,「ご本人としての希望を教えてください」など,患者の考えをまず尋ねてみるべきかもしれないね.
のぼる    その一方で,カンファレンスで考えを求めても「私にはわからないから」「お任せします」などと言うことに終始して,そもそも自我意識が希薄化しているのではないか,と感じる方もいます.
赤ひげ    日本の高齢者の特徴として,遠慮深い方が多い.これはある種の美徳であり,周りの考えに合わせることもむしろ本音かもしれないよ.
のぼる    はい.
赤ひげ    カンファレンスでは「患者が本音を言えているか否かを見極めること」も重要だが,何が本音かの見極めは困難なうえ,患者の考えを求めすぎたり,本音を無理に聞き出して結果的に負担をかけたり,家族間にしこりが生じたりすれば本末転倒だから,患者を追い詰めないよう心がけないとね.
のぼる    本音を言わないことが本音ですか.人の心は難しいですね.
赤ひげ    それから,一定以上の認知機能低下がある“臨床的な高齢者”でも,家族が同席した場では「本音を言いにくいこと」がある.
のぼる    わかります.
赤ひげ    だからカンファレンス以外に,必要に応じて患者と一対一で話す場を設け,他者から強制されない自発的な発言を聞く努力をするとよい.

家族の患者への関わり方を見極める

赤ひげ    臨床現場では,一定以上の判断能力を有する高齢者に対しても,家族が方針決定プロセスに関わり,カンファレンスで発言するのをよくみかけるね.何か気をつけていることはあるかな?
のぼる    家族の意見が患者のためになっているかの見極めが肝心ということですよね?
赤ひげ    そうだね.その際,家族が患者へどのように関わっているか見極めたうえで,家族の発言を方針に加味することが肝要だ.
のぼる    はい.例えば,認知機能やADLが徐々に低下した“臨床的な高齢者”へ,まるで自分のことのように関わる家族がいますね.
赤ひげ    そうだね.そのような,いわば,高齢者自身と同一視して接する家族は,患者のためになる発言をすることが多いだろう(⇒『高齢者診療の極意』220頁).
のぼる    はい.
赤ひげ    ただ,介護問題などについて時に自責的となることさえあるので,あまりにその要素が強い場合は,主介護者が介護負担を客観視できていない可能性をふまえて方針を検討する必要があるだろうね.
のぼる    そういう意味では,“臨床的な高齢者”に対する介護などをいわば自らの務めとして行い,介護サービスを全く受け入れようとしない家族とか…….
赤ひげ    迷惑をかけまいと他人からの援助を受け入れなかったり,世間体を気にしたり,家族から非難されることをおそれていることもあるんだ.
のぼる    お嫁さんですね.
赤ひげ    そう.慣習として舅や姑を介護している嫁がそれに該当するわけで,一昔前の価値観と考えられるが,カンファレンスで「介護が大変でしょう」などと声をかけたり,訪問介護の導入など中途半端な介入を行ったりすると,結果的に家族内で窮地に追い込まれることもあるので留意しないといけないよ.そして,患者や親族の前では発言しにくいことがあるので,必要に応じて特定の家族のみとカンファレンス以外で話す場も設けるようにね.
のぼる    はい,気をつけます.それにしても嫁姑問題,そして周りの親戚との関係など,家族の問題は本当に難しいですね.
赤ひげ    まさに苦楽を共にするだな.
のぼる    さすが含蓄があります.
赤ひげ    家族の発言は,長年にわたる介護にバーンアウトしたり,家族内調整などを面倒に考えたりする結果としてみられることもある.
のぼる    それで思い出しましたが,患者のためというよりも,家族や介護者本位の考えをカンファレンスで発言し,介護保険や施設任せにする家族もいます.
赤ひげ    そういうのは,例えば,長男などの血縁者の言動としてみられることもある.実際には,これらの要素が混在している家族が多いと考えられるが,いずれにせよ,家族が患者本人へどのように関わっているか見極めることができれば理想的だね.

主介護者と様々な家族

のぼる    ケアカンファレンスもですが,特に入院時などに家族と行うカンファレンスでは,普段は介護していない家族が参加することも少なくありません.
赤ひげ    一人暮らしの増加や核家族化で,そういうことは増えているね.
のぼる    なんか,こう,うまくいかないことがあるんです.現実的ではないことをおっしゃったり…….
赤ひげ    そこは,把握していないのは仕方がないので,医師や介護職としては,切々と説明していくことに尽きるだろうね.ただ,主介護者が責められることがないように配慮したい.
のぼる    と言いますと?
赤ひげ    普段は直接関わっておらず“他力”であるにもかかわらず,主介護者へ過剰に口を挟む家族や,主介護者や多職種で慎重に決定した方針に対して「本人がかわいそう」「本人は望んでいないはずだ」と,やや現実離れした理想主義的な主張を繰り返す家族もいる.
のぼる    はい,時々いますね.
赤ひげ    遠方在住の実子などに多いように思うが(⇒『高齢者診療の極意』242頁),主介護者からは反対意見を言いにくいことも多いので,医師をはじめとする医療・介護スタッフが双方の関係性に配慮しつつ調整できれば理想的だね.
のぼる    実際の臨床では,家族が複数いるなど状況が複雑な場合,カンファレスでは家族内の調整を含めた方針決定が求められますね.
赤ひげ    そもそも,様々な家族が普段どのくらい患者に接し介護をしているのかの実態を認識するべきで,それは同居の有無などからでは判断できないことに注意しないといけない.
のぼる    カンファレンスで家族内の調整を含めた方針決定……うーん,難しいですね.
赤ひげ    時に患者と家族で意向が相反することもあるから,患者と家族の意向をバランスよく取り入れることが必要だ.実際のカンファレンスでは,家族メンバーの中から現実主義的なキーパーソンを見極め,協力を仰ぐと円滑に進むだろう.
のぼる    はい.現実主義的なキーパーソンとは?
赤ひげ    家族として高齢者の自助的なケアに責任を果たしつつ,高齢者本人への配慮や家族自らの負担を客観視して,公助・共助・互助も利用していく家族が現実主義的で理想的といえる.
のぼる    高齢者のカンファレンスでは,自助・公助・共助・互助のバランスもふまえることが大切なんですね.
赤ひげ    そう.家族ばかりに委ねると家族の負担になる点に留意して,多職種で連携して,専門職でチームとして対応してほしい.

多職種の視点を取り入れる

赤ひげ    “臨床的な高齢者”の方針決定の際には,医学的判断とともに患者のQOLへ寄与するか否かという視点が最も重要となり,多職種でカンファレンスへ参加してもらうことが成功の秘訣だ.どういう意義があるかな?
のぼる    患者に関する情報が増えますよね.
赤ひげ    そう.患者のケア,特に医師が重視しがちな疾患への治療介入に対する各職種の考えは,医師とは別の視点やアウトカムを設定している場合があることを認識するべきだ.
のぼる    各職種の立場や意見を,カンファレンスである程度均等に聞くことができれば理想的ですね.
赤ひげ    ただ,カンファレンスのメンバーは,否定されることをおそれたり,他のメンバーの発言に期待して発言を控えたりすることがある.どのようなことを心がけるべきかな?
のぼる    先程も話題にのぼった,医師が話しすぎないことでしょうか?
赤ひげ    そうだね.それも含めて,カンファレンスのメンバーが話しやすく,発言を控えないようにするには,司会者の力量に左右されるといえる.ケアカンファレンスでは,医師が司会になることは少ないだろうけど,各職種が話しやすい雰囲気や,各職種の独創的な意見を尊重するよう医師も心がけると,カンファレンスの雰囲気が好転するだろう.

カンファレンスの限界をわきまえておく

のぼる    カンファレンスには様々な限界や,よくない面もあるのですね?
赤ひげ    カンファレンスでは,結論が極端な方向に偏る集団極性化現象(group polarization)が生じる可能性がある.カンファレンスの前には個々に様々であった考えが,集団でカンファレンスを行うことで,より安全性の高い保守的な結論となる場合(cautious shift)や,反対にもともと少数だったリスクの高い意見が,さらに先鋭的な方向となる場合(risky shift)があるとされている1~3)
のぼる    ありそうですね.会議でも,特に目上の人の意見には異議を唱えられなかったりします.世の中の様々なことも,こうやって決まってしまいそうで,なんか怖いですね.
赤ひげ    つまりカンファレンスなど集団の討議では,あるメンバーが極端な意見を述べても,異議を唱えないどころか同調したり,時に各メンバーが自分の意見を修正してまで同調したりするなど,個人であれば陥らない客観的に誤った結論が導き出されることがあるわけだ.
のぼる    他に,カンファレンスの限界として心得ておくことはありますか?
赤ひげ    カンファレンスでは,「合意形成に対する動機付け」が「最適な結論を導き出そうとする努力」に勝ってしまうことも,よく生ずるんだ.
のぼる    よい結果を導くよりも,合意形成が目的化してしまうんですね.
赤ひげ    そう.その結果,下された結論の質が低下してしまう集団浅慮(groupthink)も生じうるといわれている1~3)
のぼる    みんなで考えたからといって,よい結論が得られるとは限らないということですね.
赤ひげ    特に団結力の強いチームでは,前提条件やあらかじめ提示された方針に固執し,適切な評価と修正がなされないために生じやすいとされている.密室性が高い在宅医療や施設診療においては,特に留意するべきであろう.
のぼる    常に頭を柔軟にしておかないといけないですね.
赤ひげ    今後日本では,“臨床的な高齢者”が増加するだけではなく,一人暮らしで家族が遠方在住だったり,身寄りがいなかったりする高齢者がますます増加するだろう.特に認知機能や判断能力が低下したケースの方針決定プロセスには,多職種でのカンファレンスが有効な手段として欠かせない.
のぼる    ただし,その際に「カンファレンスで患者にとってよい結論が出るはずだ」と考えていると,とんだ落とし穴に陥るぞ.ですね?
赤ひげ    そのとおり.幻想を持ってカンファレンスを漫然と行うことを避け,生産的で集合知を生みだす創造的なカンファレンスにしたいものだね.
のぼる    有意義なカンファレンスになるよう頑張ります!

カンファレンス後も“歩きながら考える”

赤ひげ    高齢者の様々な意思決定の際には,患者,家族,医療・介護スタッフが大きなジレンマを抱え,ためらうことは当然だ.そのためカンファレンスで結論を急ぐと負担になるばかりか,性急な合意形成を図ろうとしてカンファレンスの限界が露呈することが懸念されるわけだ.
のぼる    医療現場では,ややもすれば「方針決定をせねばならない」と考えがちですね.
赤ひげ    その呪縛から解き放たれ,曖昧にしたまま決して先走らず,いわば“歩きながら考える”ことができれば,新たな方針が浮かぶなどして,よりよい方針へ方向転換できる可能性が出てくるだろう.
のぼる    そういう意味では,急性期医療はむしろ例外と考えるべきですね.
赤ひげ    そうだね.入院中など急性期の問題は早急に決めることが求められるが,地域で生活する高齢者の様々な臨床問題には時間をかけて方針を検討すべき事項も多く,カンファレンスで即座に決定せず“歩きながら考える”ことで,評価と修正を繰り返す視点を持つことが求められているのではないだろうか.
のぼる    今回のカンファレンスでも,もっとできることがあったかもしれません.今後に活かしたいと思います.

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文献

1)峰屋良彦:集団の賢さと愚かさ―小集団リーダーシップ研究.ミネルヴァ書房,1999.
2)釘原直樹:グループ・ダイナミックス―集団と群集の心理学.有斐閣,2011.
3)岡本浩一,他:会議の科学―健全な決裁のための社会技術.新曜社,2006.
★4)木村琢磨:高齢者の診療のコツとヒント9:高齢者カンファレンスの「落とし穴」に陥らない!Medical Tribune, 2016.
★5)木村琢磨:医師-患者関係プラスアルファ―臨床に第三者を加えよう!CASE 8:多職種からの漠然とした臨床情報.日本医事新報(4621):35-39, 2012.

★を付した文献は,筆者の初出文献である.本書は初出文献を元に加筆・修正して再構成し,まとめている.

 

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