高齢者診療の極意

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高齢者診療の苦手意識、解消します! 非特異的な症状・経過、multimorbidity、ポリファーマシー、ADL・認知機能の低下、家族や他職種とのやり取り、社会的支援など、一筋縄ではいかない高齢者診療の思考プロセスとアクションをまとめました。外来患者の半数以上、入院患者の7割以上が高齢者の時代に必携の書です。


*「ジェネラリストBOOKS」は株式会社医学書院の登録商標です。

シリーズ ジェネラリストBOOKS
木村 琢磨
発行 2022年10月判型:A5頁:296
ISBN 978-4-260-05027-2
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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まえがき

 高齢者診療は,外来・訪問・病棟・施設診療のいずれにおいても,考えさせられることの連続である.それには様々な背景があると思われるが,医師の専断的な考えが通用しにくく,若・壮年者と同様の臨床アプローチでは同じ症状・疾患でも限界が生ずるためであろう.その点,かつては高齢者診療に必要な知識を想起・解釈するうえでの情報源が多くないと感じており,当時の仲間たちとまとめる機会をいただいた1).ありがたいことに近年は,非常に有用な情報がインターネットで迅速に利用可能である2)
 ただ,それでも高齢者診療では,明確な答えのない悩ましい問題が多いように思う.その理由もまた悩ましいが,高齢者診療では「医師と患者に加えて第三者を意識する必要性」があること,「若・壮年者にはあまりない漠然とした臨床問題」が比較的多いこと,この2点に強い問題意識を持つようになった.

 「医師と患者に加えて第三者を意識する必要性」について,この第三者には,診療に同席している第三者(診療に付き添ってきた家族など)と,診療には不在の第三者(診療に付き添っていない家族,他院で診療している医師,他職種など)に大別されると考えており,これを連載(全12回)としてまとめる機会があった3)
 「若・壮年者にはあまりない漠然とした臨床問題」については,食事・睡眠・排泄という生活面への特に非薬物的な対応,とらえ所のない症状(ふらつき,何となくいつもと違う,など)に対する既存の臨床概念にとらわれないアプローチや,そもそも何をもって高齢者と認識すべきか,という根本的なことまで含めている.これらについてもシリーズ(全20回)で模索する機会があった4)
 本書は,上記32回分の小稿と最近10余年の小文を元に,加筆・修正して再構成し,いくつかの書き下ろしを加えてまとめたものである.そして,「医師と患者に加えて第三者を意識する必要性」と「若・壮年者にはあまりない漠然とした臨床問題」を主眼に,高齢者診療についてあらためて論考している.『極意』などと大見得を切って甚だ恐縮だが,いわゆる教科書的な内容やエビデンスの提示に重きを置かず,答えはないが悩み,考えるプロセスと,一定の考え方や行動の例を示すことを目指した.インターネットで容易に二次資料はもちろん,一次資料にもアクセス可能な時代にこそ必要であると考えたためである.
 高齢者診療は複雑で悩ましいことが多いものの,総合診療医の持ち味をいかせる領域であると考えている.その際「専門診療科への適切なコンサルテーション」は診療する地域や場によって異なるものの,専門診療科へのアクセスが容易なわが国において非常に重要である.これについては拙著5)があり,本書には含んでいない.

 本書により,高齢者診療のやりがいが伝わり,日々の診療に役立てていただければ,望外の喜びである.

 擱筆にあたり,これまで関わらせていただいたすべての患者とそのご家族,医師・他職種の皆様,恩師 青木誠先生(国立病院機構東埼玉病院名誉院長),そして筆者の家族に深謝する次第である.また,非常に長きにわたり本書の完成をご援助いただき,雑誌『JIM』(現在の『総合診療』)時代から多大にお世話になっている医学書院医学書籍編集部の滝沢英行氏,安部直子氏,制作部の岩間拓海氏に心より御礼を申し上げたい.

文献
1)木村琢磨(編):もう困らない!高齢者診療でよく出合う問題とその対応.羊土社,2012.
2)日本老年医学会:高齢者診療におけるお役立ちツール.(https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/)(2022年8月最終アクセス)
3)木村琢磨:医師-患者関係プラスアルファ―臨床に第三者を加えよう! 日本医事新報 2012年4月~2013年3月(全12回).
4)木村琢磨:高齢者診療のコツとヒント.medical tribune, medical tribune web 2015年9月~2018年1月(全20回).
5)木村琢磨・松村真司(編):頼れる主治医になるための高齢者診療のコツを各科専門医が教えます.羊土社,2015.

 2022年8月
 木村琢磨

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まえがき
略語一覧
本書について

【壱ノ巻】 高齢者の何をみるか
 壱ノ一:高齢者は“年齢”と“臨床”を分けて考えよう!
 壱ノ二:外来では外で待つ患者家族も意識しよう!
 壱ノ三:認知機能低下を示唆する徴候を感知しよう!
 壱ノ四:付き添い者と受診した時も患者中心にみよう!
 壱ノ五:慢性疾患は治療目標を設定したうえで適切に診断しよう!
 壱ノ六:高齢者にとっての検査データの意義を知ろう!

【弐ノ巻】 高齢者のとらえどころのない症状をどうみるか
 弐ノ一:既存の医学的症状に当てはまりにくい愁訴に留意しよう!
 弐ノ二:急に元気がなくなったら器質的病態を意識しよう!
 弐ノ三:風邪症状での来院を絶好の介入機会ととらえよう!
 弐ノ四:食欲不振には幅広い情報収集を行おう!
 弐ノ五:浮腫は身体所見をとりつつ病歴をとろう!
 弐ノ六:耳が遠い高齢者には声の大きさ以外も配慮しよう!
 弐ノ七:めまい・ふらつきは複雑な背景を解きほぐそう!
 弐ノ八:しびれは生命・機能予後や分布パターンを考えよう!

【参ノ巻】 高齢者の背景・生活をどうみるか
 参ノ一:一人暮らしの高齢者のとらえ方を理解しよう!
 参ノ二:在宅医療で何をみるか考えよう!
 参ノ三:生活期の高齢者にリハビリテーションを活かそう!
 参ノ四:不眠への安易な睡眠導入薬は慎もう!
 参ノ五:便秘にいきなり下剤は慎もう!
 参ノ六:高齢者の食事支援を全世代への食育と考えよう!

【肆ノ巻】 主治医として高齢者をどうみるか
 肆ノ一:高齢者には全体の舵取りを担う主治医を持つことを勧めよう!
 肆ノ二:途絶して分断化する臨床情報を共有しよう!
 肆ノ三:ケアカンファレンスでは落とし穴に留意しよう!
 肆ノ四:説明を望まない終末期の患者・家族とのやり取りを考えよう!
 肆ノ五:オンライン診療や電話・メールを活用しよう!
 肆ノ六:医師の説明の伝言ゲーム化に注意しよう!
 肆ノ七:地域とのつながりを臨床に活かそう!
 肆ノ八:高齢者の終末期の見立ては困難と心得よう!
 肆ノ九:非がん疾患には手術も考慮しよう!

あとがき
索引

赤ひげメモ
 ①高齢者診療における基本的臨床情報
 ②老年症候群
 ③待合室にも目を向けるには
 ④じっくり病歴をとる
 ⑤既存の医学的症状に当てはまりにくい愁訴における診断プロセス
 ⑥様々な方言や表現と医学用語
 ⑦高齢者の亜鉛欠乏
 ⑧高齢者の足をみる意義と実際
 ⑨高齢者における身体診察の意義
 ⑩高齢者への意思決定支援
 ⑪転倒予防と視力
 ⑫在宅医療に必要なコミュニケーションスキル
 ⑬熱中症のリスクと予防
 ⑭行動変容のステージモデルを応用した食育へのアプローチ
 ⑮家族などへ慮る高齢者
 ⑯認知症患者への家族の関わり方を見極める
 ⑰「医療の枠組みから外れる(た)人」への電話・メールによる介入
 ⑱地域コミュニティのなかで医師としてできること
 ⑲小津映画がすべて見据えている
 ⑳在宅死の遠い記憶

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高齢者の診療における知恵と工夫が満載
書評者:大滝 純司(東医大学兼任教授・医学教育学/総合診療科,国立療養所多磨全生園)

 数年前からハンセン病療養所で非常勤医師として勤務する機会をいただいています。入所されている方の平均年齢はおよそ90歳で,ハンセン病は全員がすでに治癒しており,診療はいわゆるmultimorbidityへの対応が中心です。想像を絶する過酷な人生を歩んでこられた方のケアに携わることから得られる学びはとても多いのですが,超高齢者の診療の難しさをいつも実感しています。

 本書の著者である木村琢磨氏は,国立病院や大学で高齢者への診療や在宅ケアに従事しながら,その特徴について発信しつづけておられます。これまでに『日本医事新報』や『Medical Tribune』に連載された内容を再構成して書き下ろしも追加したという本書には,高齢者を診る際の,エビデンスはもちろんですが,実践に裏付けられた知恵や工夫が数多く明示されています。

 例えば「慢性疾患の治療目標の設定」の項では,併存疾患のうち短期間で生命予後を規定し得る疾患を見立てることから始めるよう勧めています。高齢者の診療では,問題点の多さと複雑さに目を奪われて絨毯爆撃的な過剰診療に陥ったり,何から手をつけてよいかわからず途方に暮れたりします。本書ではベテラン医師と中堅医師の対話形式をとりながら,この複雑系の中での取捨選択のノウハウが,わかりやすい具体例を交えながら多くの引用元と共に示されています。

 診断学の教育にかかわることが多かった私から見ると,基本的な医療面接や身体診察に加えて,高齢者の診療で注目すべき情報収集のポイントが詳しく紹介されていることにも感銘を受けました。列挙すると,「急に元気がなくなった」「風邪をこじらせないために」「食欲不振には幅広い情報収集を」「足をみる意義と実際」「めまい・ふらつきは複雑な背景を解きほぐそう」「しびれは生命・機能予後や分布パターンを」「在宅医療で何をみるか」といった項目です。

 高齢者は併存疾患が多く,生物学的な面でも心理・社会・倫理的な面でも個人差が大きく,教科書的な症候や病態の方は少ないと感じています。そのため多忙な日常診療の中では,時間に追われて独りよがりな判断になりやすいと自戒しています。この本で例示されているように,不確実性を前提として意識しながら,しかしそれを言い訳にするのではなく,一歩ずつ前に進むような地に足をつけた診療を心がけることが大切なのだとあらためて認識することができました。高齢者を診ることの難しさを感じている医療者に,そしてこれから高齢者の継続的な診療や在宅ケアにかかわろうという皆さんにもお薦めします。


知恵と経験が満載,まさに高齢者診療の「極意」
書評者:松村 真司(松村医院院長)

 「お前は日本人なのに,クロサワを観たことがないのか?」
 留学先の大学院の教室の片隅で,アジアの小国からやってきた友人に当時私が言われた言葉である。動画配信など,ない時代。レンタルビデオ屋から代表作を借り,週末ごとに観た。『用心棒』『七人の侍』『天国と地獄』。衝撃的な面白さであった。いや,面白いだけではない。「生きるとは」「人間とは」といった私たちの根源的な問いに向き合った作品。黒澤映画の偉大さを教えてくれたその友人に後日感謝の念を伝えると,彼は続けてこう言った。
 「そうだろう。ところで,オヅは観たか?」

 あれからずいぶん時が流れた。私はその後,臨床に戻り,東京の小さな診療所で,日々地域の診療に取り組んでいる。2022年の今,私が診療を始めた1990年代とは様相は大きく異なっている。激変といってもいい。感染症に振り回され,変化に戸惑いながらも,なんとか診療を続けることができているのは,人間というこの複雑なものに真正面から取り組んできた先人たちの知恵と経験に,今は比較的たやすく触れることができるからである。

 本書『高齢者診療の極意』には長年,総合診療,地域医療,在宅医療を手掛かりとして高齢者医療に真っ向から取り組んできた著者の知恵と経験がふんだんに盛り込まれている。高齢化率が30%に近づく今日,高齢者の診療を避けて通ることはできない。高齢者とは誰なのか,そして高齢者にどうアプローチすればよいのか。医療・医学的知識を十分に活用しないと,これらがうまくいかないのはもちろんである。しかし,それだけでは十分ではない。その具体的な方法が,本書では事例を通じた「赤ひげ医師」と「のぼる医師」の二人の医師の対話を導入として,最新の知見を踏まえて概説されている。その上で,各項の最後に「のぼる医師が気づいた高齢者診療の極意」として,重要なポイントが簡潔にまとめられている。

 特筆すべきは「肆ノ巻」である。高齢者の「主治医」になるためには,総体としての高齢者だけではなく,その背景にある,家族,地域,医療システム,さらには文化をも意識した診療が必須である。著者の言葉を借りれば,目の前の患者に向き合いつつ,診察室にいない「第三者」を意識することである。これは口で言うほどたやすいことではない。そして,唯一の答えがあるわけでもない。しかし,ここを適切に行っていくことが高齢者診療の肝である。そして,ここが本書のタイトルが示す「極意」の「極意」たるゆえんである,と私は感じている。
 長年指摘されてきた2025年問題の到来をあと数年に迎えた今,私たちが目にしている世界は,かつて誰も経験していない問題を無数に内包しているかのように思える。しかし,その多くは,先人たちが経験してきた問題の中に,数多くの共通点を見いだすことができる。そして,それらに対して,先人たちは正面から取り組み,数多くのすぐれた作品を残してきた。
 それが,クロサワ映画に続けて観た,小津安二郎の作品から私が学んだことである。


深く暗い森で迷わないための地図に,灯りに
書評者:江口 幸士郎(今立内科クリニック)

 よい本に出会いました。愛と敬意にあふれた,高齢者診療の手引きです。私が研修医の頃は,日本人の著者でこういった内容を書いた本はなかったと思います。この時代,この本と若いうちから出会える医師たちが本当に羨ましいです。

 高齢者診療は,全ての研修医が迷い込む深い森です。医師の卵たちは,医学部の6年間で「診断」「治療」を必死に学んでから現場に出ます。さまざまなガイドラインを武器とし,大学病院で先輩たちが颯爽と患者の診断,治療をしているのを見ながら,自らが現場に立つその日を夢みます。しかし,やんぬるかな。大学病院ではあんなにも切れ味抜群だった方法が,高齢者,特にこの本に記載されている「臨床的な高齢者」を前にすると,なぜだか切れ味が落ちてしまうのです。

 高齢者は問診を取るのも大変だし,出てくる症状や所見も非特異的なものだらけ。検査をしようにも「先生,もう検査はいいです」とか言い出すし,実際,検査に体力が耐えられるのか心配な人もいます。さらに言えば,診断がついて治療を行っても目に見えて元気になるわけではない,かえって弱っていっているように見える,そんな人たちもたくさんいます。

 今まで学んできた方法が役に立たない。少なくとも,役に立っている実感がない。これは,研修医の心に重くのしかかります。なかには,高齢者診療自体を苦手に思って避けがちになったり,「高齢者だから」というラベリングで,一様にちょっと腰の引けた診療を行ったりしてしまう研修医も出てくるかもしれません。

 この本は,そんな暗い森を歩く,これからの若者たちへの愛にあふれています。研修医が戸惑いがちな状況をピックアップし,現場ですぐに役立つアドバイスが,エビデンスとともにちりばめられています。文章も対話式で読みやすく,1項目ずつが短いので,忙しい臨床の中でも,気になるところをさっと読んで現場に臨むことができます。どの項も素晴らしいですが,個人的に感動したのは,参ノ二「在宅医療で何をみるか考えよう!」,肆ノ一「高齢者には全体の舵取りを担う主治医を持つことを勧めよう!」で,高齢者の生活と人生を守るために必要な視点が描かれています。この2つも含め,通読すれば,高齢者診療に必要なエッセンスを一通り把握することができるでしょう。そして,暗い森で迷わないための地図として,灯りとして,研修医を導いてくれるはずです。「高齢者診療は,楽しい」。そう思えること間違いなしです。

 もちろん,研修を終えた医師や,すでにベテランの域に達している医師たちにもお薦めです。巻中のコラムに,「若い頃に観た映画をあらためて観た話」が出てきます。名画が名画たるゆえんは,繰り返しの鑑賞に耐えるだけでなく,観る度にまた新たな感動を与えてくれるところです。そしてこの本も,そのような作品の1つに列するのでしょう。若い時は,見えない道を照らす灯りとして。経験を経てからは,深い森を悩みながら歩いてきた戦友の,共感できる話として。何度も,新たな味わいを感じられるはずです。

 最後に,この本にあふれる敬意について。登場する高齢者は「診察の対象」というよりも「人生のある高齢者」として描かれ,最大限の敬意が表されています。私はいくつかの仕事を著者と行う機会に恵まれましたが,その際,彼の鋭い頭脳とともに印象に残ったのは,穏やかで丁寧な,彼の口調,声でした。この本からは,確かに,その声が聞こえます。この穏やかな声,つまり他者への敬意こそが,紹介されているさまざまな極意の基盤なのだと気付くことができました。


知恵と経験が満載,まさに高齢者診療の「極意」
書評者:松村 真司(松村医院院長)

 「お前は日本人なのに,クロサワを観たことがないのか?」
 留学先の大学院の教室の片隅で,アジアの小国からやってきた友人に当時私が言われた言葉である。動画配信など,ない時代。レンタルビデオ屋から代表作を借り,週末ごとに観た。『用心棒』『七人の侍』『天国と地獄』。衝撃的な面白さであった。いや,面白いだけではない。「生きるとは」「人間とは」といった私たちの根源的な問いに向き合った作品。黒澤映画の偉大さを教えてくれたその友人に後日感謝の念を伝えると,彼は続けてこう言った。
 「そうだろう。ところで,オヅは観たか?」

 あれからずいぶん時が流れた。私はその後,臨床に戻り,東京の小さな診療所で,日々地域の診療に取り組んでいる。2022年の今,私が診療を始めた1990年代とは様相は大きく異なっている。激変といってもいい。感染症に振り回され,変化に戸惑いながらも,なんとか診療を続けることができているのは,人間というこの複雑なものに真正面から取り組んできた先人たちの知恵と経験に,今は比較的たやすく触れることができるからである。

 本書『高齢者診療の極意』には長年,総合診療,地域医療,在宅医療を手掛かりとして高齢者医療に真っ向から取り組んできた著者の知恵と経験がふんだんに盛り込まれている。高齢化率が30%に近づく今日,高齢者の診療を避けて通ることはできない。高齢者とは誰なのか,そして高齢者にどうアプローチすればよいのか。医療・医学的知識を十分に活用しないと,これらがうまくいかないのはもちろんである。しかし,それだけでは十分ではない。その具体的な方法が,本書では事例を通じた「赤ひげ医師」と「のぼる医師」の二人の医師の対話を導入として,最新の知見を踏まえて概説されている。その上で,各項の最後に「のぼる医師が気づいた高齢者診療の極意」として,重要なポイントが簡潔にまとめられている。

 特筆すべきは「肆ノ巻」である。高齢者の「主治医」になるためには,総体としての高齢者だけではなく,その背景にある,家族,地域,医療システム,さらには文化をも意識した診療が必須である。著者の言葉を借りれば,目の前の患者に向き合いつつ,診察室にいない「第三者」を意識することである。これは口で言うほどたやすいことではない。そして,唯一の答えがあるわけでもない。しかし,ここを適切に行っていくことが高齢者診療の肝である。そして,ここが本書のタイトルが示す「極意」の「極意」たるゆえんである,と私は感じている。
 長年指摘されてきた2025年問題の到来をあと数年に迎えた今,私たちが目にしている世界は,かつて誰も経験していない問題を無数に内包しているかのように思える。しかし,その多くは,先人たちが経験してきた問題の中に,数多くの共通点を見いだすことができる。そして,それらに対して,先人たちは正面から取り組み,数多くのすぐれた作品を残してきた。
 それが,クロサワ映画に続けて観た,小津安二郎の作品から私が学んだことである。

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