医学界新聞

FAQ

寄稿 増山純二

2023.12.11 週刊医学界新聞(看護号):第3545号より

 病院には手術などの治療や検査目的で入院している患者や,外来へ通院している患者がいます。患者はいつ,どこで,どのような形で急変するかわかりません。患者が急変した場合は,通常の看護実践から「救急看護」モードへ切り替える必要があります。そこで今回は,いくつかの質問に答えながら患者急変時の思考を整理していきます。

 看護師が患者の急変を認知することから患者急変対応は開始されます。急変とは予期し得ない病態の急激な変化であり,迅速な対応が必要とされる状態です。「心停止・呼吸停止や高度意識障害,重度ショックなど,遅延なく適切な介入がなければ生命危機に陥る病態」1)と定義している文献もあります。

 患者の体調の変化やバイタルサインの異常時に重要なのは,急変しているのか,していないのかの判断ではなく,緊急度の判断です。患者の訴えや,いつもと様子が違うことに気づいた場合は,まず緊急度の判断を行います。緊急度が高ければ,すぐに医師へ連絡する必要がありますし,低ければそのまま様子を観察,もしくは事前の医師の指示書に基づいて介入していく対応となります。緊急度や重症度に幅があるため,いつもの状態と違う時点で,「急変」と言って良いかもしれません。

 緊急度を判断するには,患者急変時の病態変化をとらえることが大切です。患者は,①症状が出現した状態から病態が悪化していき(生理学的徴候,バイタルサインは正常),②呼吸不全や循環不全,もしくは脳神経障害に陥り(生理学的徴候の異常),何も介入がなければ③心肺停止となります。緊急度が高いほど死亡・機能障害に至るまでの速度が速く,時間的猶予がないことを意味します。緊急度は③→②→①の順番に高く,患者の体調の変化に気づいた時に,どの段階にあるかをアセスメントすることで緊急度の判断ができます。救命するためには②の状態を見逃さず,③の心肺停止に至る前に対応しなければなりません。③の状態に近づくと生理学的異常(呼吸数,酸素飽和度,心拍数,収縮期血圧,意識レベル,体温)の数が増え,心肺停止に陥る可能性が高まります。また,生理学的異常の数が増加すると,死亡率が上昇するという報告もあります2)。②の状態をできるだけ症状が軽いうちに発見し,迅速に対応することが重要です。

急変は緊急度や重症度に幅があるため,「いつもの状態と違う」時点で「急変」ととらえられます。患者の体調の変化に気づいた際は,急変しているかどうかを判断するのではなく,①②③の病態を推論し緊急度の判断を行うことが重要です。


 患者急変時の観察の目的は,緊急度の判断であり,緊急度の高い③→②→①の順番で観察をする必要があります。具体的なアプローチのフローを示したのがです。

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 患者急変対応フローチャート(『急変時,何をみる? どう判断する? 病棟ナースの臨床推論』8頁より)

 第一印象/迅速評価(セクション1)では,ぱっと見の重症感を判断します。意識障害,呼吸停止があればコードブルー(院内救急コール)を起動させ心肺蘇生法(cardiopulmonary resuscitation:CPR)を開始します。また,冷や汗をかいている,ボーっとしている,肩で呼吸しているなど,いつもと様子が違うことに気づいたら,すぐに一次評価の観察を行います。

 一次評価(セクション2)では,②の病態を見抜き緊急度を判断することを目的にバイタルサイン測定を行います。バイタルサイン測定のための物品はいつも持ち歩いているわけではないため,ABCDEアプローチに基づいた呼吸・循環・脳神経の異常の観察を行います。ABCDEアプローチでは,まず窒息の有無を気道の観察〔A:Airway。発声の有無,吸気性喘鳴(ストライダー),シーソー呼吸,陥没呼吸〕で判断します。次に,呼吸の観察(B:Breathing。呼吸数,呼吸補助筋の使用,異常呼吸),循環の観察〔C:Circulation。橈骨動脈触知の有無,脈拍数,ショック症状(冷や汗・蒼白),頸静脈怒張〕で生理機能が維持されているかを確認します。そして,脳神経の観察(D:Disability of CNS。意識レベル,瞳孔/対光反射),外表・体温の観察(E:Environmental control。低体温,高体温,外傷)を行います。

 次に行う二次評価では疾患予測をします。まず主訴(最もつらい症状)を明確にし(セクション3),その主訴が入院中の疾患,または合併症であれば,図の左側のフロー(セクション4-1)に入り,入院中とは違う新規の症状であれば右側のフロー(セクション4-2)に入ります。

 左側のフローにおいては,その主訴が入院時の看護問題として挙がっていれば,看護計画に準じ,観察計画(O-P),治療計画,医師の指示書に従って看護介入を行います(セクション5)。看護計画に挙げてはいないものの,明らかに合併症や急性増悪の症状と判断した際は,右側のフローと同じ方法で疾患の予測と緊急度の判断を行います。

 右側のフローでは,主訴から見逃してはいけない疾患をいくつか想起した状態で,その疾患に関連した特徴ある発症や疼痛の質や程度,随伴症状,既往歴,内服薬などを確認し,身体所見を取りながら,疾患を予測していきます。ここでも緊急度の判断が重要であり,バイタルサインが安定している①の段階で気づいた場合であっても,予測する疾患の病態が悪化した際に生理学的徴候が異常を来す可能性がある時は,緊急度が高いと判断して対応しなければなりません。

患者急変時の観察の目的は,緊急度の判断です。緊急度の高い③→②→①の順に観察するため,第一印象/迅速評価(ぱっと見の重症感)→一次評価(ABCDEアプローチ)→二次評価(問診,身体所見による疾患予測)の順で観察を行います。


 患者急変時の看護介入は,救命を第一に考えなければなりません。病態変化をとらえながら看護介入の優先順位を決める必要があります。緊急度の高い③の状態であればコードブルーを起動させ,救急処置の実践と医師が到着するまでの準備としてCPR,AED,気管挿管,末梢静脈路確保,アドレナリンの投与を行います。

 ②の病態と判断した場合は,院内迅速対応システム(Rapid Response System:RRS)を起動,もしくは医師へ連絡し,呼吸・循環・脳神経障害の安定化を優先します。ここでも救急処置の実践,準備を行います。呼吸不全状態であれば,酸素投与,もしくはバックバルブマスク(BVM)の換気,気管挿管が必要です。循環不全状態であれば,ショックの分類によって対応が変わりますが,まずは,末梢静脈路確保を行います。循環血液量減少性ショックについては輸液や輸血が,心原性ショック時には昇圧薬や強心薬が必要になります。脳神経障害時には,障害に対する直接的な支持療法が明確にされていません。低酸素血症や高二酸化炭素血症,ショック状態が遷延すると脳神経障害を助長するので,呼吸,循環の安定化を優先します。

 ①の病態では,バイタルサインは安定しているので,疾患予測をするために緊急検査の準備,実施をしていきます。検査にも優先順位があり,静脈血採血,血液ガス,12誘導心電図,超音波検査,ポータブルX線撮影などのベッドサイド検査から行います。患者の状態が安定したら検査室での検査(CTやMRIなど)を行いますので,医師と情報の共有を図りながら指示の確認をし,検査の準備をします。急変した原因を明確(診断)にした後は治療が開始されますので,治療の準備を行います。

患者急変時には,まずは応援要請を行い,生理学的徴候の異常の安定化を目的とする救急処置の準備と実施を行います。その後,原因検索を目的として緊急検査を準備,実施し,患者急変の原因となる疾患が明確(診断)にされた後は,治療の準備を行います。

患者急変対応を苦手としている看護師は多くいます。しかし,急変をしていない患者のケアは,日々実践できているでしょう。常に一次評価を意識しながら,患者が急変していないことをアセスメントした上で日々のケアに取り組むことが,患者急変時の迅速な対応につながります。


1)児玉貴光,他(監).RRS 院内救急対応システム.メディカル・サイエンス・インターナショナル;2012.
2)Br J Anaesth. 2004[PMID:15064245]

令和健康科学大学看護学部看護学科 教授/臨床シミュレーションセンター長

1994年長崎大医療技術短大卒業後,同大病院に勤務。2010年日赤九州国際看護大,15年長崎みなとメディカルセンター。22年より現職。博士(学術)。編著に『急変時,何をみる? どう判断する? 病棟ナースの臨床推論』(医学書院)。

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