医学界新聞

書評

2023.12.04 週刊医学界新聞(レジデント号):第3544号より

《評者》 群星沖縄臨床研修センター長

 内科系の救急および夜間や休日の病棟患者ケアをレジデント主体で対応してきた歴史を持つ聖路加国際病院内科の「臨床の鉄則」本の改訂が出た。当直を担当する内科系医師はここまでやれると良いことがわかる本だ。今版もチーフレジデント経験者が主体となって執筆されており,屋根瓦のコアメンバーによる最新のクリニカルパールが満載である。箇条書きで重要点が整理されており,読みやすい。研修医や専攻医などのいわゆる内科レジデントはもちろんのこと,内科実習に参加する医学生や内科病棟ケアに関係する医療者に幅広くお薦めできる。

 「病棟当直編」では,重症患者の見逃しを避けるための鉄則を示し,安心して任せられる当直医となれるような内容となっている。ショックについては,発熱や全身状態に注意しつつ全身の所見を取ることが重要であり,血圧の絶対値ではなく循環が維持されているかの意識を持つことが必要としている。「臨床的なショックとは重要臓器循環不全であること」を強調してくれている。重要かつコモンな症状について,病歴,診察,診断,検査,治療の重要点が記載されており,酸素飽和度低下や意識障害,不安定な不整脈,胸痛,腹痛,頭痛,嘔気・嘔吐おうと,血糖異常,不眠,せん妄,そしてⅠ型アレルギーなどのさまざまな病態をカバーしてくれている。

 「入院編」では,正確で迅速な診断を行い,緊急性の高い病態の早期診断と治療の重要ポイントを網羅している。重症度の高い疾患である,肺炎や尿路感染症,細菌性髄膜炎,喘息発作・COPD増悪,急性心不全などについての入院診療がわかりやすく記載されている。コモンな病態についての対応方法も記載されており,脳梗塞や高カリウム血症,消化管出血,急性膵炎,肝機能障害,関節痛・関節炎,甲状腺,オンコロジック・エマージェンシーなどがカバーされてある。

 「病棟管理編」では,血算異常や輸液,栄養計算,便秘・下痢,癌性疼痛・オピオイド,慢性腎臓病(CKD),動脈血液ガス検査,ステロイドの使用法,抗菌薬の使い方など,病棟管理に必要な検査やマネジメントの解釈方法や基本的な知識が満載となっている。

 全国の研修病院のいくつかでは,チーフレジデントを導入しつつあるが,まだ導入前のところも多いだろう。そんな病院では,チーフレジデントの代わりに,本書を内科の病棟や医局に備え付けて参照できるようにすると,内科レジデントを助けることになるだろう。私の知るある病院では,指導医も参加する毎週のレジデント勉強会で本書を活用しているとのことだ。つまり,指導医師自身の総合内科の実践力アップデートにも活用できているということである。その意味で本書を内科医師全員にも薦めることができるだろう。


《評者》 東京歯大市川総合病院教授・産婦人科

 近年の医学の進歩に伴い,産婦人科領域でも新しい知識が必要となっています。各種ガイドラインも増えてきました。また,周産期医学,生殖内分泌学,婦人科腫瘍学に加えて,4つ目のサブスペシャルティとして女性医学も加わり,カバーする領域も広がっているためか,「あれって何だっけ?」ということも多くなってきています(もちろん加齢の影響は否定しませんが……)。最近ではスマホでの検索という便利な方法もありますが,決して最新情報が上位に検索されるとは限りませんし,実際に知りたいことにたどり着くまでに時間がかかることも少なくはありません。その点,いわゆるポケットマニュアルは,一目で確認ができ,必要ならば関連事項もすぐにチェックできる点で優れていることは言うまでもありません。産婦人科領域でも類書は少なからずありますが,本書は産婦人科最強のベッドサイドマニュアルと称されるとおり,30年以上にわたって改訂を続けており,今回,5年ぶりに第8版が発刊されました。

 私も研修医のころにお世話になったマニュアルであり,少し厚くなったようですが,赤系の背表紙は変わっておらず,懐かしく手に取りました。驚いたことに,がん・生殖医療やプレコンセプションケアといった時代のトピックスが既に項立てされているとともに,各項も単なるブラッシュアップにとどまらず,図表,特にフローチャートが多く,ポケットマニュアルとしてはとても見やすくなっています。内容的にも単にガイドラインの引用ではなく,豊富な臨床経験に基づくエッセンスを基に重みを付けて,必要かつ十分,いわゆる痒いところに手が届くようにまとめているのが大きな特徴です。徳島大産科婦人科の先生方はしっかりした基礎の上に臨床・研究をされていると常に感じていましたが,そこには膨大な知識をそしゃくして,伝えていくという一手間があったことが理解できました。青野敏博教授,苛原稔教授,そして新任の岩佐武教授と脈々と引き継がれてきた伝統が作り上げた実用的なマニュアルといえ,ロングセラーの理由が納得できます。

 ポケットマニュアルの特性上,領域の全てを網羅することはできませんが,適切な文献が付いているところも,リサーチマインドをくすぐります。また,どうしても一つの項としてはまとめられないテーマや興味ある話題についてはSide Memoとしていますが,これも充実しています。がん遺伝子パネル検査,着床前遺伝学的検査(PGT-M)やボンディング障害といった最新の話題もわかりやすく簡潔にまとめてあり,Side Memoだけを拾い読みしても十分に楽しめます。

 本書は研修医はもちろんのこと,医学生,助産師さんや看護師さんなどのメディカルスタッフの皆さんにも役立つとともに,ベテランの産婦人科医の知識のブラッシュアップにもなる一冊と言えます。ぜひ一度手に取ってみていただきたいと思います。


《評者》 滋賀医大教授・総合内科学

 水・電解質異常を専門としている腎臓専門医にとって,日々の臨床の現場で,しばしば遭遇する電解質異常への対応に苦慮しているのが現状です。さらに,もっと苦慮しているのが,実際に患者さんに対応している研修医や専攻医の先生方,そして,腎臓を専門とされていない他科の先生方へ,水・電解質異常への(初期)対応をできるように,病態や対応方法を説明することです。

 私は,病態や対応の説明に,「腎生理を理解していただく」という方略をとりました。しかし,この私が採用した方略は,米国において腎臓専門医の専攻者数の減少の原因の一つに「腎生理に威嚇・脅迫される(intimidation by renal physiology)」が挙げられているように,私の周りでは,はなはだ不評です。「患者さんに対応するのに,ハイギョの話や原尿の流れを見ろと言われてもなー」という声が日々聞こえております。

 以上のような日々のモヤモヤのなか,私が敬愛する長澤将先生の新しい著書『Dr. 長澤印 輸液・水電解質ドリル』(先生の10冊目の単著ということで,出版おめでとうございます)を拝読しました。簡潔に説明された総論,そして,本書のキモである,指導医の長澤先生と共に実際に患者さんの診療を行っていると錯覚するような,長澤先生が「これができれば臨床でのトラブルは大体対応できるであろう」と取り上げられた各論の20症例を読了後(巻末のLearning Pointのまとめも秀逸),この先生の新著が,私を,今までの「苦慮」から解放してくれるのではないかと思いました。

 本書を,研修医や専攻医の先生のみならず,彼らを指導する立場にある指導医の先生に推薦いたします。

 最後に,本音を。

 「長澤先生,これ以上,私より,わかりやすい本を書かないで!」

 

註)ハイギョ(肺魚)は,魚類でありながらその名の通り「肺」を有し,乾燥した環境で長時間生存可能なことから,陸上生物の腎生理を研究する上でしばしば参考にされます。腎生理の父として知られるHomer W. Smith先生は,ハイギョの研究を通じて,腎ネフロンの機能を解明したことが知られています。

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