医学界新聞

FAQ

寄稿 能登真一

2023.11.06 週刊医学界新聞(通常号):第3540号より

 QOLは医療のアウトカムを明確に図る手段として有効であり,患者中心の医療を進める上でも重要な情報になり得ます。現在ではさまざまな尺度が開発され,臨床現場や研究分野でも用いられるようになってきました。しかし,その開発過程や構成概念といった尺度ごとの特徴は十分に理解されていません。そこで今回は,QOLのさまざまな疑問について解説します。

 医療の成果をどのような指標(アウトカム)を用いて測定するのが良いかは各臨床現場においていろいろな意見や議論があると思います。一般には,各種ラボデータなど医師が報告するものと,歩行スピードやADLなど理学療法士・作業療法士が報告するものが知られています。近年はこれらに加えて,質問票を用いたQOL評価など患者自身が報告するものが重視されるようになっています。患者が報告するアウトカムはPatient-Reported Outcome(PRO)と呼ばれ,QOLもこれに含まれる概念として理解されています。患者自身の報告が重視されるようになった背景には,症状によっては患者本人と治療者側のとらえ方に差が生じる(discrepancy)という問題と,患者の声を意思決定に役立てようとするShared Decision Makingが重視されるようになってきたことがあります。患者中心の医療を実践していくために,QOL評価はより一層重要になっていくのではないでしょうか。

 実臨床ではまず,アウトカム評価にQOL評価を含める必要があるかを判断します。多くの場合,アウトカムを判断するためのもっとも重要な指標ではない場合でも,QOL評価は必要と考えられます。治療の初期評価にQOLを用いることで患者の身体面,精神面,役割・機能面,そして社会面の状態が測定できます。さらに,定期的に再評価することでそれらQOLの変化を追うことができます。最終的に,QOLが変化した差分を治療の効果として判定することができるようになります。この意味では,QOL評価の用い方はFIM(Functional Independence Measure)などのADL指標に近いかもしれません。

まず,アウトカム評価に患者本人の報告を含める必要があるかを判断します。多くの場合,アウトカムを判断するためのもっとも重要な指標ではない場合でも,QOLの評価は必要と考えられます。必要な指標でアウトカムを判断した上で,QOLの経過もフォローしていけば,治療の効果を複眼的に示すことができるでしょう。


 かつて,患者の報告はあくまで主観であり,客観的なデータとして扱えないという批判がありました。QOLの研究者やQOL尺度の開発者はこの批判に対して,信頼性や妥当性,そして反応性など計量心理学の手法を用いて解決してきました。健康関連尺度の選択に関する合意に基づく指針(COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments:COSMIN)はその内容をまとめたものであり,尺度を開発する際の重要な指針として位置づけられています。ただ,使用に当たってはそれぞれの特性を理解した上で,目的に合った尺度を選ぶ必要があります。

 前提として,QOL尺度は使用目的による違いで「プロファイル型」と「インデックス型」に分類されます。前者は健康像とも呼ばれ,得られた点数(スコア)をそのまま示すものであり,後者は「最高の健康状態」を1,「死亡」を0に一元化して示すものです。さらに,それぞれ対象疾患を選ばない「包括的尺度」と,疾患ごとあるいは病状ごとに開発された「疾患特異的尺度」に分けられます。適切な方法でデータを取得するために,使用しようとする尺度がどの分類に属しているのかを把握しておく必要があります(図1)。得られたデータの解釈については,「包括的尺度」ではあらかじめ設定されている国民標準値を,「疾患特異的尺度」ではエビデンスを参考にしてアウトカムを判断するのが良いと思います。

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図1 QOL尺度の分類
QOL尺度は,「プロファイル型」と「インデックス型」に分けられ,それぞれ「包括的尺度」と「疾患特異的尺度」に分類されます。「プロファイル型」は健康像とも呼ばれ,得られた点数(スコア)をそのまま示すものであり,「インデックス型」とは「最高の健康状態」を1,「死亡」を0に一元化して示すものです。「包括的尺度」は対象疾患を選ばずに使用することができ,「疾患特異的尺度」は疾患ごとあるいは病状ごとに開発されています。

QOL尺度はプロファイル型とインデックス型,さらにそれぞれ包括的尺度と疾患特異的尺度に分類されます。まずは使用する尺度がどの分類かを把握し,適切な方法でデータを取得します。得られたデータは,包括的尺度ではあらかじめ設定されている国民標準値を,疾患特異的尺度ではエビデンスを参考にしてアウトカムを判断しましょう。


 この2つの尺度に限らず,多くの尺度には版権が付されているため,使用する際には,尺度ごとに定められた手続きを取る必要があります。中には,費用がかかったり,版権が海外で管理されているため英語で連絡を取らなければならなかったりするものがあります。QOL尺度の使用が国内で十分に普及しない背景には,このような手続きの煩雑さもあるのかもしれません。包括的尺度の代表格であるSF-36は版権が国内で管理されているため,手続きは日本語でできますが,使用料がかかります。インデックス型尺度の代表格であるEQ-5Dは学術目的の使用であれば費用はかかりませんが,研究計画を英語で登録する必要があります。

 また,尺度ごとにスコアの表示方法が異なっています。例えば,SF-36はPCS,MCS,RCSという3つのサマリースコアが算出されるのに対して,EQ-5DはEQスコアという1つのスコアが算出されるだけです。SF-36やEQ-5Dに限らず,QOL尺度はそれぞれのスコアリング方法がありますので,単に測定するだけではなく,スコアの表示方法とそれに沿った解釈が必要になります。

 なお,QOLなど患者報告アウトカム(PRO)を測定する際には,治療者側の関与をできるだけ避ける必要があります。これは,治療者が目の前にいると,患者が配慮し,結果が実際の状態よりも良いほうにシフトしやすくなってしまうためです。そのため,質問票への回答は診察の待ち時間や自宅に持ち帰って行ってもらうのが良いでしょう。

多くの尺度には版権が付されているため,利用の申請を忘れないようにしましょう。スコアごとに表示方法や解釈方法が異なるため,それぞれに適した方法を意識します。またPRO測定の際には,治療者側の関与をなるべく避けましょう。

図2は,私がPubMedで検索して集計した,QOLを扱った論文数を年ごとに示したものです。QOLを扱った論文は2000年以降,急激に増加しています。この数の多さはQOLが医療のアウトカムとして十分に認知されたことの証だと考えられます。その一方で,日本は海外に比べて,QOLの研究に関しては後れを取っています。QOLを評価することは治療者,患者,そして企業や行政にとってもメリットが大きいことばかりです。『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』(医学書院)にはそれぞれのQOL評価尺度の定義,解釈方法の解説から版権の管理・手続き方法まで幅広く記されています。参考にしていただければ幸いです。

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図2 QOLを扱った論文数の推移
PubMedにて「QOL」「Quality of life」で検索した,年ごとの論文数の推移。QOLを扱った論文は2000年以降,急激に増加しており,この数の多さはQOLが医療のアウトカムとして十分に認知されたことの証だと考えられます。

新潟医療福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科 教授/医療経済・QOL研究センターセンター長

筑波大大学院医科学研究科,金沢大大学院医学研究科博士後期課程修了。大和證券,聖マリアンナ医大等を経て,現職。QOL-PRO研究会理事,日本作業療法士会理事,ISPOR日本部会前期会長。編著に『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』(医学書院)など。

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