医学界新聞

書評

2023.10.23 週刊医学界新聞(看護号):第3538号より

《評者》 帝京大学大学院公衆衛生学研究科/医療共通教育研究センター・教授

 この20年ほどの間に,日本の医療者教育においても,コミュニケーションは医療者が身につけるべきコンピテンシー(能力)の一つとして広く認識されるようになってきた。客観的臨床能力試験(OSCE)の導入などと相まって,コミュニケーションは教育可能,評価可能な能力としてとらえられるようになるとともに,そこでは特にスキルの教育に焦点が当てられてきた。時に「マクドナルド化」と揶揄されながらも,学生だけでなく教育に携わる医療者の意識を大きく変え,全体としての医療者のコミュニケーション能力を底上げしてきたことは間違いないだろう。一方で,卒後のコミュニケーション教育はそれほど系統立って行われてはおらず,それぞれの現場に依存しているのが現状である。本書は,学部教育の先のコミュニケーションについて,何をどう学んだらよいかの手がかりになる一冊である。

 本書は,臨床心理士でもある著者による「週刊医学界新聞」の連載「こころが動く医療コミュニケーション」に大幅な加筆,書き下ろしを加えてまとめられたものである。「入職1年目から現場で活かせる」ような場面やトピックを取り上げ,基本的かつ実践的なコミュニケーションのスキルがバランスよく紹介されている。患者さんとのコミュニケーションだけでなく,医療者同士のコミュニケーションも含め,コミュニケーション研究のエビデンスに基づくスキルや対処方法が具体例とともにわかりやすくまとめられているという点で,まさに明日から使える実践書と言える。

 それでいて,「こうすれば必ずうまくいく」という押しつけがましさがないのは,エビデンスに基づいた“型”を身につけることの重要性を知りつつ,その柔軟な運用こそが本質であるという著者自身の思いが根底にあるからだと思われる。結局のところ,コミュニケーションの学習や評価の難しさは,知識やスキルとそれを使うべき実際の状況が必ずしも一対一で決まっているわけではないことにある。コミュニケーションスキルは,目標を達成するために使われてこそ意味があり,一般的原則を理解した上で,特定の状況に適切に当てはめていくことが必要とされる。目の前の状況で自分の知っているどの“型”を使用するか,使用することで目的を達成できたのかを適切に判断し,自分のコミュニケーションを調節できるというところにコミュニケーション能力の本質がある。

 良いコミュニケーションは,患者さんを支援するだけでなく,医療者自身のストレス軽減,働きやすさにもつながる。そのための大きな力となる一冊である。連載を読まれていた方にもぜひ改めて手に取っていただきたい。


《評者》 京都橘大経営学部経営学科教育開発・学習支援室准教授

 本書は,看護教育における教育設計について,問題を解きながら学ぶことができる個性的なテキストです。教育設計力は,1コマ,1単元,1科目,コースやカリキュラムというあらゆる教育(授業)に求められるものです。本文で紹介されている通り,きちんと準備・設計された教育は,学習成果に大きな影響を与えることも明らかになっています。良い教育設計とはどのようなものか,どうすればより良い教育設計ができるのかについては,教育関連分野を中心とした多くの研究蓄積があり,近年も更新され続けています。それらについて,教育学と看護学の両専門家がタッグを組むことで,ベテラン看護教員はもとより,教育経験の少ない看護教員にも理解しやすいテキストづくりに成功しています。

 全体は,3部構成になっています。Ⅰ部は,なぜ教育設計力を高める必要があるのか,教育設計力を高めると何ができるようになるのかについて丁寧に解説しています。より良い教育とはいったい何なのかという本質的な部分から考えたい方に読んでいただきたいパートです。Ⅱ部は,教育設計力を高めるための基礎知識について,問題を活用しながら解説しています。ここでは,学習意欲,成人学習,反転授業,逆向き設計,グラフィックシラバスなど,近年特に注目が集まっている知見を積極的に紹介しており,新鮮さを感じながら学ぶことができるでしょう。Ⅲ部は,講義・演習・実習・卒業研究といった授業方法に分け,基礎を応用する形で解説しています。すぐに実践に生かしたい方は,関心の強い方法から読み,わからない用語や考え方が出てくれば,Ⅱ部に戻って基礎から学び直すと良いでしょう。巻末に索引も付いているので便利です。

 本書を個人で読んで活用するのも良いのですが,学内の教員研修(学習)会で活用するというのはいかがでしょうか。毎月1回30分~1時間程度の時間を取ることができれば,半年で内容を網羅することができるでしょう。各回では,章別の問題を提示し,その解説やその問題に関する議論をします。毎回講師役を変えても良いでしょう。忙しい中でも学内で共通言語を持つことができ,組織的に教育設計力を高めることができます。

 本書の末筆には,「教育の難しさはその流動性にあります」と書かれています。世の中の状況や,目の前の学生は毎年異なり,知識や技術も日々更新されています。そのような流動性があるからこそ,さまざまな教育理論を寄る辺とし,最適な教育設計について考え続けたいものです。


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