医学界新聞

寄稿 近澤研郎,今井賢,桑田知之

2023.09.18 週刊医学界新聞(通常号):第3533号より

 2024年4月から,「医師の働き方改革」の新制度が施行される。医師が健康に働き続けることのできる環境を整備することは,医師本人にとってはもとより,患者・国民に対して提供される医療の質・安全の確保や,持続可能な医療提供体制を維持していく上でも重要である。

 働き方改革の対策としては,医療施設の最適配置といった長時間労働を生む構造的な問題への取り組みはもちろん,医療機関内での医師の効率的な働き方の推進も求められる。その際,適切な労務管理やタスクシフト/シェアは必要不可欠であり,働き方改革時代においては医局マネジメントの在り方も見直さざるを得ないであろう。ここで重要なことは,時間外労働の上限規制への対応といった目先の労務管理だけではなく,抜本的な勤務環境の改善を図ることである。すなわち,真の働き方改革は一朝一夕にしてなし得るものではない。本稿では,医師の働き方改革を見据えた当科のこれまでの取り組みについて紹介する。

 当科の働き方改革のポイントは次の5つである。

①若手医師の当直は夜勤(時間外労働)扱い。夜勤の翌日は午前中には帰宅する。
②定時で終業できるようにチームを越えて協力する雰囲気を作る。
③人が入る/残る医局を作る(チームビルディング)。
④定時終業によって自己研鑽の時間を十分確保する。
⑤手術の上達や診療技術の獲得に向けた厳しさを保つ。

 以下,5つのポイントについて詳しく述べる。

①若手医師の当直は夜勤(時間外労働)扱い。夜勤の翌日は午前中には帰宅する。

 当院は地域周産期母子医療センターであり,当直は医師2人で行っている。メイン担当となる若い医師は夜勤(時間外労働)扱いとし,翌日はなるべく朝方に帰宅してもらう。夏休み期間等,人手が少ない時は外来や手術を手伝うこともあるが,午前中には帰宅できるようにしている。

 指導医クラスの当直は宿日直許可を得ているため,翌日は通常勤務になる。とはいえ,業務過多であった翌日は早めに帰れるように配慮している。その場合はチームに穴ができることになるが,産科と婦人科に分かれて診療を行っていても,このような時はチームを越えて人が行き来し,その穴を埋め合う。そして,必ず明るい声掛けで感謝を伝えることを心掛けている。

②定時で終業できるようにチームを越えて協力する雰囲気を作る。

 教育的配慮もあり,若手医師の手が空いていればなるべく外来・手術の見学に来てもらうが,検体整理や煩雑な事務作業等は年齢や職位にかかわりなくお互いが手伝い合う雰囲気を作っている(ここでも,明るい声掛けで感謝を伝えることを忘れない)。こうした雰囲気を作ることによって,手術終了後にはすぐチーム回診に行ける。

 予定手術もなるべく定時に終了できるように組み(悪性でどうしても17時を過ぎる時もあるが),手術を延長したとしても18時台には各チームが解散できるように努めている。夕回診であぶりだされたタスクはチームで割り振り,「これで業務は終了なので早く帰ろう」といった声掛けをして,業務終了を指導医が宣言することも重要である。これにより,回診後に発生したタスクが片付いたら,上司が残っていたとしても遠慮なく帰宅できる雰囲気になりやすい。

③人が入る/残る医局を作る(チームビルディング)。

 人が入る/残る医局を作る方策は,医学生・初期研修医に向けての「教育と結び付けたリクルート」に尽きると考えている。このような取り組みや医局の雰囲気を,医学生・初期研修医はよく見ている。研修医室などの場で「各科の雰囲気ランキング」といった話題は必ず出ると思っておいたほうが良い。 義務で医局に無理に縛るのではいけない。「残りたいと思える,人の残る医局になる」というビジョンをトップ~中堅が共有することが肝要である。私(近澤)自身,病棟医長であった助教時代から,病棟や人員のトラブルを教授と共有するように努めてきた。医局の医師不足が深刻であった時代を知っているため,離職のサインには細心の注意を払い,「医局で今起こっているトラブルは何か」「対応策はどうすべきか」と,その都度トップに報告・相談したのである。

 トラブルの多くは人間関係にかかわる問題であり,画一的な唯一解は存在せず,その都度相談・対応するしかない。現場による問題解決だけには依存せず,トラブル時の対応までも考慮した人員配置が必要である。研修協力病院も,周産期が主の病院,婦人科手術を多く経験できる病院,高度生殖医療に強い病院とさまざまである。病院それぞれに指導医のクセもある。本人のやりたいことと指導医の性格がマッチするような配慮も欠かせない。

 医局員に対しては定期的に教授面談があり,本人のめざすサブスぺシャリティや希望する研修について相談する機会がある。また,非公式な場も重要である。私(近澤)は婦人科の診療を預かっているが,手術麻酔の導入や閉腹の時の雑談をとても大切にしている。雑談からアイスブレイクが始まり,手術室のチームの雰囲気が良くなることもある(麻酔科医や看護師さんに振れる雑談ネタ・時事ネタを仕入れることも意識している)。そうすると,術後に本人の悩みやキャリアの相談が始まることだってある。特定の人物や物事に何度も繰り返し接触することで好感度や評価が高まっていくという心理的傾向を「ザイオンス効果」と言う。リラックスした状態での会話の積み重ねは非常に重要である。

④定時終業によって自己研鑽の時間を十分確保する。

⑤手術の上達や診療技術の獲得に向けた厳しさを保つ。

 ①~③で述べた取り組みは大切ではあるが,QOL追求だけになってはいけない。医師としての修練がなおざりになっては本末転倒である。特に産婦人科は外科系であり,手術・侵襲処置が多い。しかも手術は,子宮のある部位が膀胱・尿管・直腸といった臓器損傷と常に隣り合わせのため,細心の注意を払う必要がある。若手医師に対しては,「患者さんは手術を一生に1回しか受けないことも多く,手術成績・合併症が人生を変えてしまうこともあること」「手術の予習復習をきちんとしてくること」を繰り返し伝えている。手術中は,時に厳しく指導することもある(その際は「行為の指摘はするが人格否定はしない」)。

 手術の予習復習といった自己研鑽の時間を十分に確保するためにも,適正な当直回数と終業時間を守らなくてはいけない。また,厳しさを保って指導するには,普段からの人間関係が大切で,前述した雰囲気作りが土台になくてはただのハラスメントになってしまう。医師として修練を積む上での適切な指導として若手医師に受け止めてもらえるよう,信頼関係の構築を重視している。

 以上が,医師の働き方改革を見据えた当科のこれまでの取り組み,マネジメントやチームビルディングのポイントである。

 ただし,本稿で述べたのは概要に過ぎない。細部のノウハウについては,日本外科教育研究会が運営するSurgeons as Educatorsのコースで学んだことが大変参考になっている。当科の今井賢講師は本教育コースのインストラクターを務めており,日本産科婦人科学会の教育奨励賞も受賞するなど教育に造詣が深い。教育にモチベーションのあるスタッフを重用していくことも,働き方改革の重要なポイントであろう。


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自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科 学内准教授

2007年東京医歯大医学部卒。09年自治医大入局。自治医大さいたま医療センター助教・講師などを経て,23年より現職。産婦人科医専門医,婦人科腫瘍専門医。専門は婦人科腫瘍,腹腔鏡手術,手術解剖,臨床疫学。

自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科 講師

自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科 教授

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