医学界新聞

書評

2023.08.28 週刊医学界新聞(看護号):第3530号より

《評者》 ライター/フィンランド文化・社会

 ネウボラはフィンランド語で「アドバイスの場」を意味し,フィンランドのどの自治体にもある無料のプライマリケアシステムの一つである。家庭環境や経済的背景を問わず,ほぼ国民全員が利用する制度(場所)として,約100年前から赤ちゃんと母親,さらには家族全体の健康とウェルビーイングを支えてきた。

 そんなネウボラがこの10年ほど日本でも注目されるようになり,ここから妊婦・子育て家庭への伴走型支援実現のヒントを得ようとしている自治体は多い。しかし,本当の意味でフィンランドのネウボラを理解している人はまだそれほど多くはない。また,大事な要素を生かしきれないまま形だけの導入もみられる。

 本書は,ネウボラを全く知らない人から知識がある人まで,皆が学びを得られる一冊となっている。第1章ではネウボラの基礎をわかりやすく解説。第2章では,主に児童虐待に対してどのような予防的支援を行っているかが,具体的な問いかけやアンケートの事例を交えながら紹介されている。何かが起きてからでは遅く,起きる前にリスクや課題を早期発見して予防していくという「予防的支援」は,フィンランドの社会保障には欠かせないアプローチである。したがって,子どもへの虐待だけでなく,パートナーとの関係や教育など幅広い分野の記事がこの章には含まれる。

 第3章では家庭内暴力や虐待の疑いがある場合の対応,さらには加害者への支援も紹介されている。この部分では,フィンランドもまだまだ試行錯誤していることが見て取れるが,第2章と合わせ総じて幾重にも早期発見の機会やセーフティーネットが張り巡らされていることがわかる。また,子どもの安全とウェルビーイングを第一に,さまざまな人たちや機関が連携支援をしている。問題解決は一筋縄にはいかないが,民・官・学がともに努力する姿がうかがえる。

 さらに最終章では,日本への示唆が多く含まれる。フィンランドとは人口規模も医療制度も異なる日本で,どう工夫すれば導入可能なのかが,具体的な事例に基づいて紹介されている。これだったら実現できるかもしれないと希望を抱かせてくれる。

 ネウボラは少子化対策のためではなく,子ども一人ひとりの心身の健康を保障する制度である。そのために,母親だけでなく,父親,きょうだい,家族皆の健康と幸せを観察し,「誰もがいつか問題やリスクを抱え得る」ことを前提にしている。この本は,自治体の母子保健に携わっている方はもちろん,教育関係者,医療従事者,子育てを支援する団体など幅広い人たちに気付きをもたらすだろう。


《評者》 名大病院看護部長

 『フィジカルアセスメントに活かす 看護のためのはじめてのエコー』というタイトルをご覧になって,「えっ,看護師がエコーを実施しても良いの?」と思う方が多いかもしれません。ところが実は,看護師が超音波検査を実施しても良いのです。なぜならば,超音波検査はある特定の医療職の独占業務ではないからです。

 「超音波検査を行うなんて,看護業務が増えてしまう」と思っている方,2040年までに生産年齢人口の減少が指摘されている中で,今後,医療界においてもタスクシェアリング,タスクシフトが進み,看護師の役割はさらに拡大していきますよ。これにより,看護師自身が日常的に超音波機器を手にする時代が到来するのではないでしょうか。その時まで,待っていて良いのでしょうか。いいえ,看護職能集団は常に先見の明を持ち,患者さんにとって良い看護サービスを実践していく必要があります。

 この本の「はじめに」には,看護師自身が超音波検査を実施していくに当たり,皆さんの心配を解消できるよう,法的に問題がないこと,超音波検査自体は難しくないということが書かれています。

 次に,基本を押さえるための知識,超音波機器の使用方法が解説されています。こちらは,画像・イラストが入っているので,非常に読みやすく,わかりやすくなっています。また,QRコードから動画(一部静止画)の閲覧も可能です。ここまで読んでいただければ,「私でもできそう」と思っていただけるのではないでしょうか。

 最終章は,実際の事例を用い,超音波検査画像や背景から病態を考えることができます。具体的には,それぞれの症状から胸部,腹部,下肢の超音波検査を実施する際の目的と手技の説明があり,最終的にどのような病態であるかが説明されています。そのため,フィジカルアセスメント力の向上につながることが期待できます。

 このように,この本は看護師が超音波検査を初めて実施する際に必要な知識が,わかりやすく説明されています。

 先にも述べたように,今後医療界の人口は減少していき,チーム医療の必要性はさらに高まります。その時に,看護師による超音波検査の実施が可能となれば,患者さんにとっても医療者にとってもメリットがあり,また看護師自身のスキルアップにもなるでしょう。

 ぜひとも本書を活用していただければと思います。


《評者》 日本赤十字看護大名誉教授

 人間の食事は生命の維持やエネルギー源になるばかりか,おいしく楽しく食べることで幸福感や充実感さえ得られ,飲食を媒介にして親睦や相互交流を深めてきた。また,古くから家庭でも病院でも,病人の食事は療養の基本とされ重要な位置を占めてきた。終末期であってもスプーン1杯のスープが生きる力に通じるように,衰弱している病人が少量でも何かを食べることで意欲が増し回復に向かうことは,私の看護師現役時代に少なからず経験したことである。だが,輸液,非経口的栄養摂取法の発達,簡便な胃瘻造設,NST加算などの診療報酬による誘導,加えて分業や病院給食の外部化に伴い,患者の食事の世話をすることに対する看護師の関心も次第に薄れてきた印象がある。

 一方,高齢化のもとで70歳以上の高齢者の肺炎の7割以上が誤嚥性肺炎であるという厚生労働省のデータなどがあることから,摂食嚥下障害者への対応については看護・介護面でも注意喚起が促されてきた。そのため誤嚥性肺炎の予防策としては,口腔ケア,口中に含む食事量の管理,食事姿勢の調整などが知られているものの,食事中に1回むせただけで経口摂取を禁じ,経管栄養に切り替えて食べる楽しみを奪う現状もある。

 上記のような背景のもとでも,「口から食べることの意味」を尊重し「何とかして食べてほしい,安全に嚥下してほしい」思いを抱いている看護師の存在も無視できない。そのような思いをすくい上げ,組織化し具体化するために立ち上げられたのが,本書編集者らによるPOTT【ポジショニングで(PO)食べるよろこびを(T)伝える(T)】プロジェクトである。誤嚥を予防し食事の自立を通して豊かな食生活をめざし,技術と教育方法のプログラムを構成した。その核をポジショニングに特化した契機は,POTTプロジェクト代表で本書の編者の迫田綾子氏が立ち上げた摂食・嚥下障害看護認定看護師教育課程の演習(2009)にあった。同時に「誤嚥を予防する食事時のポジショニング教育モデルの構築」研究〔科学研究費助成事業.基盤研究(C),2009〕から得た臨床知を踏まえて,数年以上にわたってプログラムの効果検証研究を重ねながら普及研修の基盤を整えた。以来,その活動は全国各地に飛び,POTTプログラムの心と技の伝承を受けた看護師らの数も相当数に及んでいるという。

 そのプログラムは,ベッド上および車いすポジショニング,食前,食事中,食後の姿勢調整と食事介助の実際で,本書はその多彩な組み合わせのバリエーションに沿いながら,ビジュアルな展開によって初心者にも理解可能な内容になっている。今後,本技術を広く高齢者ケアに活用するためには介護分野に普及させる必要があり,ベッド上ではなく通常の食卓での椅座位におけるポジショニングの記述が必須の課題であろう。

 ともあれ,全身状態,姿勢保持能力,摂食嚥下機能の総合アセスメントにより,無理のない合理的なポジショニングを決定・保持し,ケアする人もされる人も「食べるよろこびを伝え,支え合う」。その結果,受け手のQOLと支援者の次なるケアへのモチベーションを高めることはいうまでもない。ぜひ一読をお勧めする。

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