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ネウボラから学ぶ児童虐待防止メソッド

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フィンランドでは、妊娠が分かるとまず向かう先は病院ではなく「ネウボラ」である。ネウボラは、産前から産後に至るまで、定期的な個別健診などを通じて妊産婦とその家族を支援する。継続的に家族の健康を管理・支援するため、虐待防止に大きな役割を果たしている。妊産婦・家族への切れ目ない支援が求められる日本の母子保健に示唆を与える一冊。日本において取り入れるべき点や自治体の実践例も紹介。

編集 横山 美江
発行 2022年10月判型:B5頁:184
ISBN 978-4-260-05045-6
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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はじめに

 わが国では,他国に例を見ないスピードで少子高齢化が進展し,核家族化や地域コミュニティの脆弱(ぜいじゃく)化などにより,地域社会における子育て支援力も低下しています。このような社会情勢の中,日本の母子保健活動はハイリスクアプローチに重点をおいて活動していますが,児童虐待相談対応件数は増加の一途をたどっており,虐待死亡事例も横ばいの状態です。これらのことは,これまでの対策では児童虐待予防に十分な効果が得られにくいことを示しているものと思われます。
 一方,日本の母子保健政策である健やか親子21(第2次)では,「すべての子どもが健やかに育つ社会」を目指して,「切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策」が基盤課題の一つとして掲げられています。この切れ目ない支援は,フィンランドのネウボラがモデルとなったと言われています。フィンランドの母子保健システムは,世界的にも最も高い評価を受けており,優れたシステムを有しています。フィンランドの母子保健の中核を担うネウボラの保健師は家族と信頼関係を築き,家族の抱える繊細な問題でさえ早期に発見し,早期支援につなげています。フィンランドにおいても,精神健康問題,ひとり親家庭などさまざまな問題を抱える家族がいるにもかかわらず,このような優れた母子保健システムにより,深刻な児童虐待の発生は極めて少なくなっています。フィンランドでは,予防の強化と家族機能の維持,そして子どもの最善の利益の尊重を重視して,予防を公的責務として明確に位置付けるとともに,監護権の制限(児童保護)は最後の手段であるとしています。
 本書は,フィンランドの保健師(助産師)などの専門職がどのように子どもを持つ家族を支援しているか,なぜ児童虐待予防に大きな効果を発揮しているかなどの方策を,フィンランドの専門職にもご執筆いただき,具体的に紹介したものです。本書が,各自治体において児童虐待予防の方策を検討されるときのご参考になれば幸いです。
 最後に,今回の企画の実現にご尽力いただきました医学書院看護出版部の編集のみなさまに厚く御礼申し上げます。後に,この著書を手にとっていただきました読者の皆様に,心から感謝申し上げます。ありがとうございます。

 2022年9月
 横山美江

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はじめに

第1章 フィンランドの親子保健・児童虐待防止
 I 児童の権利
    国連の児童の権利に関する条約
    フィンランドにおける児童の権利
    日本における児童の権利
    家庭内暴力および児童虐待

 II フィンランドの親子保健・児童虐待防止の特徴
    親子保健の中核をなすネウボラ
    ネウボラ以外の親子支援とネウボラとの関係

 III フィンランドの親子保健・児童虐待防止の成果
    ネウボラが家族全員への支援を行う背景
    ネウボラにおける保健サービスの特徴
    ネウボラにおける定期健診(総合健診を含む)と家庭訪問の効果
    ネウボラにおける家庭内暴力の予防と早期支援
    ネウボラにおけるサービスのさらなる発展の必要性

 IV フィンランドの親子保健システムを日本で活用するための基本情報
    フィンランドのネウボラと日本版ネウボラの大きな違い
    ハイリスクアプローチのメリットとデメリット
    フィンランドのシステムを日本で活用するための視点

第2章 子どもを持つすべての家族への予防的対応
  I ネウボラにおける児童虐待防止の基本的対応
    ネウボラにおける面談のスキル
    ネウボラにおける子どもへの対応

 II 児童虐待予防を目指した早期支援
    気になる家庭への追加支援
    ネウボラにおける気になる家族への支援
    健診時における追加支援が必要となる利用者
    児童虐待のリスク要因と徴候

 III 子どもと家族を支える対話型子育て支援「レッツトーク・アバウト・チルドレン」
    子どもと家族への効果的な取り組み
    レッツトーク・アバウト・チルドレン(LTC)

 IV エスポー市におけるレッツトーク・アバウト・チルドレンの活用
    レッツトーク・アバウト・チルドレンの概要
    ネットワーク会議
    エスポー市におけるレッツトーク・アバウト・チルドレンの活用
    将来を見据えて

 V フィンランドの学校保健におけるジェンダーに基づく暴力の防止策
    フィンランドにおけるジェンダーに基づく暴力の状況
    子どもと若者に対するジェンダーに基づく暴力を特定する上での課題と可能性
    フィンランドにおける研修プログラム

 VI 配偶者(パートナー)による暴力に関する質問票を用いた聞き取り
    ネウボラにおける専門職の役割
    配偶者(パートナー)による暴力
    面前DVの子どもへの影響

第3章 家庭内暴力・児童虐待が起きている(と思われる)場合の対応
 I 家庭内暴力が特定された場合の具体的対応の実際
    家庭内暴力の特定
    配偶者(パートナー)による暴力のリスクに対するアセスメント
    利用者の安全確保
    医療機関における暴力の被害者の診察
    暴力が特定された被害者への支援と安全計画の立案
    複数の専門職によるサポート
    妊産婦ネウボラにおける児童保護の予備通報
    子どもについて話し合う
    ネウボラにおける担当保健師や担当医の任務

 II フィンランドにおける家庭内暴力とその防止
    フィンランドにおける子どもへの暴力とその防止策
    フィンランドの父親と父親業
    配偶者(パートナー)による暴力を特定・防止するためのモデルと質問票の開発
    家庭内暴力の被害者の状況と政策的取り組み
    家庭内暴力を防ぐためのユヴァスキュラモデル
    結論

 III フィンランドにおける児童保護
    児童保護の基本的考え方
    児童保護の現状
    児童保護を取り巻くサービス
    児童保護のプロセス
    中央フィンランド医療圏などの事例
    家族ワークでの支援と使用ツールの例
    児童保護の体制――子ども家庭サービス改革とシステミック児童保護実践モデル
    予防――参加――相互作用

第4章 日本における児童虐待予防のシステムづくり
 I 児童虐待に係る関係法令と諸制度
    児童虐待の定義
    児童虐待の禁止
    児童相談所等への通告
    家庭訪問と立入調査
    児童虐待が行われている恐れがあるときの対応
    児童相談所における援助方針の決定

 II 多機関・多職種協働と情報共有
    日本の保健師による母子支援活動の協働の実際
    手引き,ガイドラインなど
    保健師が行う家族支援のためのネットワークづくり
    まとめ

 III 児童虐待予防のための重要な視点
    担当保健師の継続支援による信頼関係の構築
    父親を含めた家族全体の支援強化
    自治体において母子保健政策を見直すための必須条件

 IV フィンランドの基盤システムを取り入れた島田市版ネウボラの構築
    島田市の概況
    島田市版ネウボラの背景
    島田市版ネウボラの契機
    島田市版ネウボラの構築
    島田市版ネウボラの開始
    母子保健情報などの行政情報や各種手続きのデジタル化
    災害と担当保健師制
    他機関への周知と連携
    島田市版ネウボラの効果と今後の展望

 V 島田市版ネウボラにおける担当保健師の継続支援システム導入の効果
    担当保健師による継続支援システム導入前の保健師の認識
    担当保健師による継続支援システム導入後の保健師の認識

索引

コラム目次
 ・ネウボラの保健師と助産師
 ・暴力にさらされた子どもへの支援
 ・専門職として支援を続けるために

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「ネウボラ」の新しい家族支援における虐待防止のメソッドを学ぶ
書評者:菅原 ますみ(白百合女子大学人間総合学部教授)

 2022(令和4)年のわが国の出生児数は79万9728人で、1899(明治32)年の統計開始以降初めて80万人を下回り、過去最少を更新した。このニュースはマスメディアでも大きく取り上げられたが、私たちの社会に生まれてきてくれた子どもたちを健やかに育てていくことは、大人の責務としてこれまでにも増して重要になっている。一方で、児童相談所の虐待相談件数は2021(令和3)年度も20万7659件と過去最高を更新し、虐待を未然に防いで発生件数を減少傾向に転じさせることは、未だ先の見えない非常に困難な課題であると言わざるを得ない。
 このような中、従前より児童虐待に対する早期発見・介入システムとして高い評価を得ているフィンランドの母子保健システム「ネウボラneuvola(アドバイスの場所)」のエッセンスと、その日本への実装を具体的に指南する本書の発刊は非常に重要な意味を持つ。

 本書の第1章・第2章では、フィンランドのヘルシンキ大学の客員研究員として当地の事情に詳しい大阪公立大学看護学部の横山美江氏が中心となり、9名のフィンランドの実務家・研究者たちとともにネウボラでの虐待・家庭内暴力に対する予防、早期発見・介入の実際を詳細に紹介しており、日本の母子保健システムとの相違点についてコンパクトにまとめられている。
 ネウボラの虐待防止効果向上のエッセンスとして著者らが強調するのは、“同じ場所で、同じ担当保健師・担当医師と家族が信頼関係を形成しながら妊娠・出産・子育てを乗り切ることができる”こと、“すべての母子だけでなく、すべての家族全体を健診の対象としている”ことの2点である。どちらも重要性は認識されつつも日本では実現できていない親子保健システムのコンテンツである。
 フィンランド国立健康福祉研究所のハクリネン部長の「フィンランドにおいて親子保健の中核を担うネウボラは、世界でも類まれなサービスを提供している。そのサービスは、子どもを持つすべての家族を対象としている。これは、事前に誰に支援が必要となるのかを予測するのが不可能なためである」(本書p.14)という記述には、家族の精神保健に関する縦断研究を行っている筆者も深く同意する。家族も子どもも時間経過の中で変化し、また家族を取り巻く社会全体が不確実な現在、固定的な少ない時点でのリスク群の抽出とそのフォローだけでは取りこぼす部分があまりにも大きい。本気で虐待件数を減少させたいと願うなら、全ての子どもを持つ家族に対する定期的な支援の実施について、ネウボラの先進的実践にならいつつ、真剣に検討すべきであろう。

 第2章・第3章では、児童虐待と家庭内暴力の予防や早期発見、被害者と加害者、渦中の子どもへの介入の実際について、面談スキルから質問項目例、主要なアセスメント票に至るまで細やかに紹介されている。虐待や家庭内暴力の有無について、どのようにクライアントに尋ねれば良いか思い悩んでいる多くのわが国の現場スタッフたちにとって、参考になり、役立つ情報が満載である。
 家庭内暴力への介入は難易度が高く、フィンランドでも課題が多いとのことであるが、自治体ぐるみで暴力を抱える家族への支援を提供しているユヴァスキュラ大学のシルタラ氏らの「子どもネウボラが子ども虐待を発見するうえで重要な位置付けにあるが、すべての専門職が、暴力について質問し、介入する勇気を持つべきである」(本書p.103)との言葉は、わが国の関連するあらゆる機関のスタッフが重く受け止めるべきだと感じる。
 フィンランドで1998(平成10)年・2008(平成20)年・2013(平成25)年に実施された全国調査において、1998年に15歳の子どもの7割が親からの軽度の身体的暴力を少なくとも1回体験していたが、2013年には2割程度にまで劇的に低下したという(本書p.98)。同国では1984(昭和59)年に親の体罰に対する罰則が設定されており、この罰則化が子どもたちの暴力経験の低減につながったのであろうと考察されている。この例に限らず、さまざまな施策に対する効果研究が常に実施されており、エビデンス・ベースドにネウボラでの活動が展開されていることに感銘を受ける。
 近年開発された家族への支援法“レッツ・トーク・アバウト・チルドレン(Let's Talk About Children:LTC)”のコンテンツやLTCのネウボラでの実践報告も紹介され、0~18歳までの子ども期全般を通したチルドレン・ファーストな支援の在り方について深く知ることができる。

 第4章では、母子支援のためのネットワークづくりとともに、2019(令和元)年度からスタートしている上記のネウボラのエッセンス(“あなたのご家族の担当保健師は私です”、という一貫した担当者による継続的な家族支援)を基盤とする静岡県島田市版ネウボラの紹介、この継続支援システム導入の効果について論じられている。

 多くの専門職や関心を持つ人々が、フィンランドのネウボラの実践から、そして日本でも始まっている新しい家族支援における虐待防止のメソッドについて、本書から学ぶことを願っている。

(「保健師ジャーナル」Vol.79 No.3 掲載)


ネウボラを知らない人も知識がある人も学びを得られる一冊
書評者:堀内 都喜子(ライター/フィンランド文化・社会)

 ネウボラはフィンランド語で,日本語では「アドバイスの場」を意味し,フィンランド国内のどの自治体にもある無料のプライマリケアシステムの一つである。家庭環境や経済的背景を問わず,ほぼ国民全員が利用する制度(場所)となっており,約100年前から赤ちゃんと母親,さらには家族全体の健康とウェルビーイングを支えてきた。

 そんなネウボラがこの10年ほど日本でも注目されるようになり,ネウボラから妊婦・子育て家庭への伴走型支援実現のヒントを得ようとしている自治体は多い。「ネウボラ」という名称を使用するところもある。しかし,本当の意味でフィンランドのネウボラを理解している人はまだそれほど多くはない。また,大事な要素を生かしきれないまま形だけの導入もみられる。

 本書は,ネウボラを全く知らない人から知識がある人まで,皆が学びを得られる一冊となっている。第1章ではネウボラの基礎をわかりやすく解説。第2章では,主に児童虐待に対してどのような予防的支援を行っているかが,具体的な問いかけやアンケートの事例を交えながら紹介されている。何かが起きてからでは遅く,起きる前にリスクや課題を早期発見して予防していくという「予防的支援」はフィンランドの社会保障には欠かせないアプローチである。したがって,子どもへの虐待だけでなく,パートナーとの関係や教育など幅広い分野の記事がこの章には含まれる。

 第3章では家庭内暴力や虐待の疑いがある場合の対応,さらには加害者への支援も紹介されている。この部分では,フィンランドもまだまだ試行錯誤していることが見て取れるが,第2章と合わせ総じて幾重にも早期発見の機会やセーフティーネットが張り巡らされていることがわかる。また,子どもの安全とウェルビーイングを第一に考えつつ,家族の再生をめざしてさまざまな人たちや機関が連携支援をしている。問題解決は一筋縄にはいかないが,民・官・学が共に努力する姿がうかがえる。

 さらに最終章では,日本への示唆が多く含まれる。確かにフィンランドと日本では人口規模も医療制度も違い,そのまま取り入れることはできないが,どの要素を,どう工夫すれば導入可能なのかが,具体的な事例に基づいて紹介されている。これだったら実現できるかもしれないと希望を抱かせてくれる。

 昨今,日本では虐待のニュースは後を絶たず,多くの方が胸を痛めているだろう。ネウボラは少子化対策のための母子保健制度ではなく,子ども一人ひとりの心身の健康を保障する制度である。そのために,母親だけでなく,父親,きょうだい,家族皆の健康と幸せを観察し,「誰もがいつか問題やリスクを抱え得る」ことを前提にしている。この本は,自治体の母子保健に携わっている方はもちろん,教育関係者,医療従事者,子育てを支援する団体など幅広い人たちに気付きをもたらし,より良い社会実現へのヒントとなるのではないか。

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