医学界新聞

書評

2023.08.07 週刊医学界新聞(通常号):第3528号より

《評者》 奈良医大教授・整形外科

 「こんな本が欲しかった」と考えるのは私だけではないと思います。AO Traumaによるエビデンスに基づいた治療体系は,骨折治療のスタンダードであることに異論のある方はあまりいないのではないでしょうか。足・足関節は外傷の好発部位であり,今回この部位に特化した教科書の日本語訳が出版されました。外傷を治療する整形外科医にとり,必携の書であると考えます。

 本書の最大の特徴は,各項が症例提示を基本として編集されていることです。各章は脛骨遠位部から始まり,果部,踵骨,距骨,中足部,中足骨,最後は足趾と種子骨まであり,各章では始めにそれぞれの部位の骨折が概説され,その後,59例ものありとあらゆる骨折の実例が網羅されています。それぞれの症例では術前計画,手術室のセットアップ,手術法,ピットフォールと合併症,代替テクニック,術後管理とリハビリテーションについて,具体的かつ詳細に記載されています。

 私が感銘を受けたのは,術前計画の項に手書きの作図が載っており,プレートの選択方法まで,詳細に記載されていることです。例えば複数のプレート固定を併用する場合は,ストレス集中による新たな骨折の発生を避けるために,それぞれのプレートの近位端が骨幹部の異なるレベルになるように考慮する必要があることなど,エビデンスに裏打ちされたノウハウがそれぞれの症例について,惜しげもなくつまびらかにされています。

 手術法に関してはステップバイステップで注意点を交えながらわかりやすく提示されており,術中写真も豊富に使用されているために同様の症例がきたときのイメージトレーニングが非常に行いやすいと感じました。代替テクニックも明示されており,読者は自身が治療しなければならない症例に当てはめて治療法を選択することができるのもうれしいと思います。また,合併症の項も充実しており,骨折に併存している皮膚や軟部組織,靭帯損傷などに対する対処法についても,具体的に述べられており,初心者でもわかりやすく,経験豊富な外傷医の治療方法を学ぶことができます。後療法に関しては抜糸や荷重の時期,果ては社会復帰までのタイムテーブルが示されています。さらに,抜釘に関しても触れられており,診療に直結する知識が満載されています。

 本の最後には骨折の各種分類方法まで載せられており,本書一冊あれば足・足関節に関する外傷の全てを学ぶことができると考えます。


《評者》 立教女学院理事長

 筋疾患のCT・MRIどう撮る,どう読む,どう生かす? その答えがちりばめられ思わず手に取り,眺め,引き込まれ,胸に抱えて歩きたくなる書である。筋画像検査の意義や役割を十分理解するのに役立つ。筋画像では,ベットサイド診察では十分に評価できない深部の筋群や頸部けいぶ・体幹筋の評価をすることができる。日常診療に欠かせない待望の筋画像アトラスであり厳選された骨格筋CT・MRI画像を多数掲載し,健常骨格筋画像もイラスト付きで解説され,画像を見てどこにその筋肉があるかわかるようになる。難病からよくある疾病まで筋疾患の遺伝子異常を含む最新情報,分類,臨床特徴,筋組織,遺伝子異常,免疫性筋疾患における多様な抗体も豊富に記載され,さらに,類似疾患は鑑別点が挙げられており,筋疾患を学ぶ教科書としても最適である。

 目次は,第Ⅰ編「総論」として第1章「診療に役立つ筋画像検査」,第2章「ルチン撮像法」,第3章「筋画像データーベースIBIC-NMD」,第Ⅱ編「疾患各論」として第4章「後天性筋疾患」,第5章「遺伝性筋疾患」〔1.筋ジストロフィー,2.先天性ミオパチー,3.遠位型ミオパチー,4.ミトコンドリア病,5.代謝性ミオパチー(糖原病,脂質代謝異常症など),6.特殊なミオパチー〕,第6章「神経原性疾患」〔1.運動ニューロン病(左右差を持った特徴的な筋萎縮所見が診断の助けとなるポストポリオ症候群も含む),2.末梢神経疾患(Charcot-Marie-Tooth病),3.その他の神経原性疾患,4.首下がり症候群〕,第Ⅲ編「骨格筋量定量法」として第7章「CT,MRIによる骨格筋量定量法」,第8章「神経筋疾患領域におけるMRIと臨床試験」からなる。

 本書の背景にある筋画像データベースIBIC-NMD(Integrative Brain Imaging Center-Neuromuscular Disorders)の存在も非常に重要なので言及する。国立精神・神経医療研究センター脳病態統合イメージングセンター(Integrative Brain Imaging Center:IBIC)に全国の研究参加施設から,匿名化された脳画像・臨床診断情報をHTTPS通信で収集し,それらの情報を統合的にWeb上で閲覧可能な登録・閲覧システム(Integrative Brain Imaging Support System:IBISS)がつくられた。IBICが独自に開発・提供するオンライン支援システムで,研究に必要な画像情報・臨床情報を共有できる安全な仮想空間を構築している。本書の執筆者たちを中心とした神経筋疾患研究グループも,このIBISSを利用して,IBIC-NMDとして参加し,全国の施設から画像登録・閲覧可能という画期的な体制を整えた。本書では,IBIC-NMDに登録された画像を中心に掲載しており,故に希少な筋疾患の筋画像を数多く見ることができる。

 本書でも触れられているとおり,このIBIC-NMDの確立も含めた本書の源流には日本の筋疾患研究をあるべき方向に導いた故・川井充先生の存在がある。川井先生は「神経筋疾患領域の治療開発」をめざし,その背景基盤として,「画像を用いて筋肉を測定する」ことの重要性を指摘した。さらに「ナショナルレジストリーの十箇条」の中で,国の予算を受けて行う研究では全ての患者さん,全ての研究者・治験依頼者に対する公平性が公の仕組みとして重要であり,日本全体のために運営されるべきであると主張した(詳しくは本書のcolumn3を参照)。その意志が引き継がれ結実したのがIBIC-NMDであり,本書であるといえるだろう。

 筋画像検査は,病状の経過を画像から判断可能であり,その神髄を知ることは大変な宝となろう。


《評者》 帝京平成大教授・言語聴覚学

 人と人とのコミュニケーションは,単語の羅列ではなく文で構成されている。私たちは文法という共通のルールを持ち,初めて聞く事柄であっても正しく理解することができる。近頃は鳥のさえずりにも文法があるというが,やはり文というのは人間固有の高度な機能である。私たちの日々の生活において,文は情報を伝達するだけでなく,気持ちを理解し合ったり,論理的な思考を展開したりするために欠かせないものである。

 失語症は脳血管疾患などが原因で起こる言語機能(ことばの操作能力)の障害である。話す,聞く,読む,書くといったあらゆる側面に障害が生じ,コミュニケーションが困難となるが,程度の差はあれ文の理解や産生にも障害が生じる。ご存じのとおり,編著者の藤田郁代先生は,失語症の言語治療研究の第一人者である。長年臨床,研究,教育に従事され,特に失語症者の統語・文法障害の評価法・訓練法の研究においてトップランナーとしてこの領域を牽引し続けてこられた。本書は,藤田先生のこれまでのご研究と情熱の集大成といえよう。

 全体の構成に目を向けると,言語や文のしくみから始まり,文法能力の発達とその過程でみられる特異的言語発達障害(SLI)について,ならびに失語症者の失文法の特徴と治療法まで,最前線で活躍する臨床家,研究者がさまざまな角度からひもといているのがわかる。文法障害についてこのように基礎理論から臨床的介入までを系統的に解説した書籍はほとんど見当たらない。この点において画期的な書籍である。

 もう一点,本書の特筆すべき点は,SLIの研究から得られた知見と失語症の失文法の知見を融合させたことにある。わが国においては統語に関するSLIの研究はまだ多くない上に,発達過程でのつまずきと障害による喪失を両方向から見る視点は,今後この分野の研究のさらなる発展に貢献することが大いに期待される。

 このように本書は大変斬新かつ高度な内容なのだが,一方で非常に易しくわかりやすく書かれており,初学者でも学びやすい。またすでに失語症臨床に携わっている言語聴覚士(ST)にもぜひお薦めしたい。日頃の臨床経験を踏まえて改めて文法の基礎を学び直すことで,気付くことや理解できることが大いにあるだろう。そして人と人とのコミュニケーションに関心のあるさまざまな分野の学生,専門職の方にもぜひ読んでいただきたい。

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