医学界新聞

書評

2023.07.24 週刊医学界新聞(通常号):第3526号より

《評者》 重城病院CARIFAS足の外科センター所長

 AO(Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen)は1958年にスイスで誕生した骨折内固定法の研究グループである。AOは創設以降飛躍的な発展を遂げ,現在そのイノベーションは,基礎研究,製品開発,臨床検証,評価など多岐にわたり,骨折の外科的治療における革新者の役割を果たし続けている。教育においては世界中で870を超える教育イベントを提供しており,本書はその一環として2019年に出版された『Manual of Fracture Management―Foot and Ankle』の日本語版としてAO Trauma Japan顧問の田中正先生の監訳の下2023年5月に医学書院から発行された。AO Trauma Japan理事長の佐藤徹先生およびAO Trauma Japanの精鋭たちによる日本語訳は,原著の内容を全て漏らすことなく正確かつわかりやすい表現で記されている。評者自身,本書の理解しやすい構成もあり一気に最後まで読破することができた。そして読後には,多くの先人たちにより積み上げられてきたAO法の奥深さと,足関節・足部骨折治療の進化に感銘を受けた。

 本書では術前の手書きの計画書や多くの図および写真が採用され,実際に骨折の治療を行っているかのような臨場感にあふれている。全ての外科的治療法にはピットフォールと合併症,代替テクニックおよび術後管理とリハビリテーションが詳細に記載されており,すぐに臨床に役立つ構成になっている。監訳者の田中先生も述べられているように,本書は足関節・足部のあらゆる骨折に対する治療法についてCase-based learningの手法を用いて書かれており,症例をとおして包括的な知識を学ぶことができるように工夫されている。また,各章の始めにあるQRコードを読み込むことにより関連した文献,WebinarやWebcast,Lectures,教育ビデオ等のオンラインの教材に簡単にアクセスできる,読者にとって期待をはるかに上回るパフォーマンスを有する書である。

 評者は,2001年にJOSSM/KOSSM/GOTSトラベリングフェローとしてバーゼルを訪れた際に,AOの創始者の1人であるMaurice E Müller先生と夕食をご一緒させていただく幸運を得た。Müller先生との会話において,先生のAOに対する思い入れや骨折治療を進化させるという情熱に圧倒された記憶がある。余談ではあるが,Müller先生は親日家でもあり,初めて日本を訪れた際の思い出をメモ帳に絵を描きながら楽しそうにお話しされていたのが思い出される。そうした先人の熱い思いを礎に,足関節・足部骨折治療の世界的権威であるStefan Rammelt先生を中心としたトップランナーたちによって『Manual of Fracture Management―Foot and Ankle』は執筆された。その日本語版である『AO法骨折治療 Foot and Ankle』は,整形外科医だけでなく,足関節・足部の骨折治療に携わる全ての医療人にとって必読の書である。


《評者》 神戸大大学院教授・脳神経内科学

 近年ICUでの脳波モニタリングにより,集中治療期患者の転帰が改善するなどの報告がなされ,持続脳波モニタリングをはじめとした神経集中治療は欧米で注目されています。それに伴い,本邦でもICUにおける脳波モニタリングの重要性が少しずつ認知されるようになってきています。ただ,本邦ではこれらICUにおける脳波所見の判読やそれに対する治療アプローチなどに関して,包括的な日本語の教科書はいまだない状況でした。

 そのような状況の中で登場した本書は,英語の教科書として有名であった『Handbook of ICU EEG Monitoring』第2版の待望の日本語訳です。本書は,日本で集中治療や急性期疾患の治療に携わる脳神経内科医,脳神経外科医,集中治療医だけでなく,生理検査技師や看護師などのコメディカルの方々にも有用で,集中治療期患者の脳波所見や治療のみならず,脳波測定の方法やモニタリングユニットにおけるメディカルスタッフを含めた脳波測定の運用の仕方まで含めた包括的な情報を提供しています。

 本書の最初の章では,ICUでの脳波モニタリングにおける基本的な原則や技術,実際の脳波測定の行い方について詳細に説明されています。次に,脳波モニタリングの適応疾患について記載され,臨床家が遭遇する正常な脳波活動,異常な脳波活動,病態生理学が米国臨床神経生理学会の用語に基づいて記載されています。また,てんかん重積状態に対する治療アプローチについても詳しく説明されています。いずれの章も包括的ですが,箇条書きで読みやすい形式で書かれています。また各章には,脳波の実例やこれまでの研究に関する文献が豊富に含まれており,非常に実用的で通読も可能ですし,困った時の辞書として調べることも可能です。本書の附録でも述べられているとおり,米国臨床神経生理学会は2021年に脳波所見の用語の改訂を行っており,本書はそれ以前に出版されていますが,脳波所見の解釈や治療アプローチは本書で十分学ぶことが可能です。

 また,最終章で述べられているICUでの脳波モニタリングに関する未解決の問題,例えばてんかん重積状態における最適な治療戦略の確立,脳波パターンと脳損傷の関連やリアルタイムでの脳波モニタリングの開発は今後の研究の方向性を決める一助になるでしょう。

 総括すると本書『脳波で診る救命救急』は,重症患者の脳波モニタリングに関する包括的な教科書であり,最新の技術と臨床的なアプローチに焦点が絞られています。脳波モニタリングに携わる臨床家や研究者にとって非常に有用で,特に重症患者の治療に従事する医療従事者にとっては必読書と言えます。本書の登場により,本邦における神経集中治療がさらに普及し,発展することを願っています。

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