医学界新聞

書評

2023.06.26 週刊医学界新聞(看護号):第3523号より

《評者》 三重大病院副看護部長
小児・AYAがんトータルケアセンター副センター長
小児看護専門看護師

 「痛み」は主観的な症状であり,認知や言語的発達が途上である子どもの場合,痛みを他者に的確に伝えられないことから,その子どもを取り巻く第三者が痛みを客観的にとらえることが重要となります。痛みが軽減される,あるいは痛みから解放されることは,子どもにとって安楽や安寧が守られる権利であり,子どもを尊重したケアであることは言うまでもありません。しかしながら,子どもの年齢や発達,置かれている状況および特性などから,子ども自身が痛みを表現することや,医療者がその表現をとらえて評価し,痛み緩和ケアにつなげることは難しい場合があります。看護職に求められるのは,子どもの痛みをとらえる感受性と判断,そして痛みを緩和できるケアを選択し,組み合わせて実践するといったスキルになります。発達段階によって,子どもの痛みの表現は異なり,「子どもの痛みをとらえてアセスメントする」ことが簡単ではないことも少なくありません。子どもの権利を尊重し,子ども自身が主体的に痛みを緩和することができるように,家族と協働することも重要になると考えます。

 本書を手にしたとき,子どもの痛みに関する新しい知見が盛りだくさんに説明されており,メモや付箋を貼りながら一気に読み進めてしまいました。本書のコラムにも大変興味深い内容があります。コラム3「慢性痛の現状――成人と子どもの比較」にある,「国際的研究事業であるカナダのPain In Child Health(PICH)のデータによると,子どもの5人に1人が慢性痛を抱えており,さらに20人に1人が痛みを原因に不登校になっていると報告がされています」という記載には大変衝撃を受けました。さらに症例紹介では,診療時の子どもや家族と医師とのやり取りがリアルで,その場にいるかのように引き込まれます。

 Ⅱ章4「慢性痛に対するアプローチ」では,2021年2月にWHOが公開した子どもの慢性痛の管理に関するガイドラインによると,小児の慢性痛は3~4人に1人と高頻度にあることが紹介されています。現状,治療を受ける子どもの疼痛緩和については積極的に取り組まれていますが,慢性痛については本書から多くのヒントをいただけたと感じるとともに,看護職として取り組まないといけない課題があるのではないかと感じました。

 本書を読むことは,外来診療や子どもの生活にかかわる看護職が子どもの慢性痛に対する理解や緩和ケアについて,今一度考える良い機会になると考えます。「いたみマネージャー」や「集学的痛みセンター」の活動も大変興味深いです。子どもの痛みが最小限になる,痛みから解放されることをめざして,子どもと家族を支援する多くの看護職の方々にもぜひ手に取って読んでいただきたいと思います。


《評者》 東京医療保健大副学長・看護学科長

 「あなたは生まれ変わっても,また看護師になりますか?」と質問されたなら,本書の著者・川﨑つま子さんは迷うことなく「はい」と答えるという。私だったら,次はプロゴルファーになりたい! と答えるのに……と来世を想像しながら,ちゅうちょなくそう答えるつま子さんをすてきだなと思う。

 そんな著者と出会ったのは,2009年に私の所属する東京医療保健大大学院の看護マネジメント学領域の2期生として入学された時だった。当時すでに看護部長職にあり,さらなる学びを求めての志望だった。ただ,その性格として自らが前に出ていくタイプというより,どちらかというと謙虚で柔和な物腰だが,言うべきことは臆せず伝えられる様子が見てとれた。入学後の交流からも信頼のおける看護管理者だと感じられた。

 著者のそうした人柄は,本書の随所で表れている。還暦を過ぎてプラチナナース世代となった今も,週3日は大学病院の患者相談室で現場に立つ業務を務めているそうだが,患者だけでなく後輩職員の相談にも乗っているのだろう。悩める看護師の,特にキャリアの悩みに対し,著者が解決してあげるのではなく,その人自身が向き合い,リフレクションし意思決定していけるよう,そっと背中を押すさまが本書からも読みとれた。

 ここで,それは著者の人柄や長年の紆余曲折の経験(本書p.77にある人生曲線を参照)があってこそできることではないか,という人もいるだろう。看護には固有のアートという側面もあるかもしれないが,そこにバッサリと研究者目線でメスを入れるのが共著者の経営学者,高田朝子先生のパートである。本書最大の読みどころは,看護の「内の人」であるつま子さんの看護管理実践を,「外の人」である高田先生がマネジメントの知識として学べるように解説し,さらにワーク(思考トレーニング)を通して身につけられるように構成している点だと思う。本書は2部構成となっているが,第1部がつま子さん,第2部が高田先生という区切りではなく,両著者が交互に登場する。看護の学びと経営学との“行ったり来たり”のクロスレクチャーが,意外にも読み手の理解を深くする。例えば,経営学的に「意識的に立ち止まって構造理解をする時間をとることが大事」といわれると,忙しい職場で難しい……と感じるが,「リフレクションのクセをつけよう」といわれるとすっと頭に入ってくる。それぞれが使う言葉は異なるが,書名の『はたらく看護師のための自分の育て方』を,読者は看護の先人(つま子さん含む)の知恵から感覚的に得るとともに,経営学という一見,異世界の知識から俯瞰し深化させて味わうことができる,いわば一冊で2度おいしい書である。

 看護管理者はもとより,さまざまな場面でマネジメントの視点が必要になる中堅看護師,またキャリアに迷うあらゆる年齢層の看護師にとっても有用な書であることは間違いない。

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