医学界新聞

書評

2023.06.05 週刊医学界新聞(通常号):第3520号より

《評者》 慶大教授・外科学(心臓血管)

 医療における生涯学習の重要性はこれまでも繰り返し強調されてきた。医療技術にしても,倫理観の育て方やチーム作りの方法にしても,経験豊富な先輩からの指導が学習の基本であり,個々の成長段階にふさわしい教育・指導が個人の成長はもちろん,組織を維持・発展させるためにも重要なプロセスである。

 本書は,山本五十六連合艦隊司令長官の名言「やってみせ,言って聞かせて,させてみせ,誉めてやらねば,人は動かじ」を連想させる,「伝統的」徒弟制の3ステップ,すなわち①指導者が手本を見せる(モデル提示),②学習者にやらせてアドバイスする(観察と助言),③徐々に支援を減らし独り立ちを促す(足場づくり)に,医療という高度な認知能力を要する仕事において必要な,④学習者の考えを言葉にするように促す(言語化サポート),⑤仕事を振り返らせる(内省サポート),⑥新しい課題に挑戦させる(挑戦サポート)という3つのステップを加えた6ステップを軸とした「認知的徒弟制」による人材育成法・教育戦略をコンパクトに紹介したものである。

 人材育成法の道標となるべき本書が,経験学習に関して既に多くの著書を持つ松尾睦先生とともに,心臓血管外科の第一線で活躍し,多忙を極めている築部卓郎先生によって書かれていることは驚きであり,正直なところ,私も最初は著者の名前に惹かれて本書を手にした次第である。「認知的徒弟制」という言葉もこれまでなじみがなく本書で初めて知った次第であるが,読み進めるにつれて,この教育法が経験を経験だけで終わらせずに自らの学ぶ力を引き出す理論的・合理的なものであること,新人や中堅,管理職のいずれのキャリア段階にも通用する汎用性の高いものであること,活用している現場からの肯定的な多くの声などを知ることができ,巻末まで読み終える頃には,人材育成における有効な戦略を見いだせた思いがした。本書では,理論だけでなく,医師・看護師それぞれのキャリア段階別の具体的事例やポイントも紹介されており,認知的徒弟制による人材育成をすぐにでも実践活用できる内容となっている。

 後進の育成の重要性は誰もが認識しているものの,現実には,指導者が指導方法に関して系統的に学ぶ機会は決して十分とは言えず,また,特に多忙な医療の現場においては,学習者が十分な指導を得られないまま先輩の後ろ姿だけを見て,あるいは,自己流の試行錯誤によって成長を促される場面も少なくない。これまでであれば,優れた指導者に巡り合えた限られた者だけが享受できた指導法を,本書を通じて多くの指導者が理解して実践できるようになることで,今まで以上に医療における明るい未来の可能性が広がると期待したい。


《評者》 熊本赤十字病院第一救急科部長

 黄の帯紙に黒文字で「救急搬送までの5分間に,頭の中でチェックすべき事項がわかります」とはっきりある。そう,われわれの救急搬送患者との対峙はそこから始まる。この本の中核に位置する「主訴別アプローチ編」では,各主訴の始めの1ページに「アタマの中」として,この「5分間」でまず考えるべきことに加え,その主訴の初療がどのような方向に向かっていくのか,全体像がふんだんなイラストと共にわかりやすく示されている。患者に効率良く最良のアウトカムを提供するために,初療の早い段階から自分の立ち位置と,方向性を認識しておくことは大変重要である。経験が少ないところのピクチャー(全体像)を描くことが難しく,それを的確に指導するのも容易ではないのだが,本書はそれを見事にこのページで示している。カラーで語呂合わせも多く登場するキャッチーなこの1ページだが,これを見ただけでも本書がERの臨床と指導に向き合い続けて,そして悩み続けた人たちが紡いだものだと実感できる。

 ER診療にまだ慣れていない人は,全体像をつかんだ上で実際の患者に向き合ったら,本書の「はじめの5分でやること」を押さえていくことになる。その上で患者の状態に余裕があるのであれば,「Q&A」を読んでから指導医に相談にいくことを勧めたい。指導医が投げかけてくる質問を先取りすることができるだろう(逆に指導医はこれを参考にワンポイントレクチャーをすることもできる!)。

 ER診療に慣れてきた人,少し興味を持った人,そしてERで指導に当たる人は,時間を見つけてぜひ,「ERと不確実性・複雑性」や高齢者診療の項目が初版よりもさらに充実した第Ⅰ章「原則編」をめくってみてほしい。なぜわれわれがERに引かれるのか,なぜ悩み続けるのか,その一端がひもとかれている。興味を持った人はより一層魅力を感じるだろうし,悩める人はその解決の糸口がつかめるかもしれない。

 本書は初版から第2版への改訂に当たって,複数の項目が追加された。「COVID-19」や「担癌患者救急」,そしてその中のirAEなどは時代の変化の中で新たに現れてきた病態である。また「自殺企図・自傷行為対応」「虐待対応」などは以前にも増して,ERにその初動の期待が掛けられているものである。いずれも社会の変化がいち早く現れ,その社会的要請に応えていくことが大きなミッションであるER診療を素早く反映させた形となっている。

 私はER診療の同志として,長年の真摯しんしな臨床と指導への向き合い,そして苦悩の結晶であるこの1冊に純粋に敬意を表したい。

 われわれER医の「これを伝えたい」が詰まっている1冊。ぜひ,多くの場面で本書が活用され,患者の最良のアウトカムにつながることを願っている。


《評者》 畿央大教授・理学療法学/学科長

 本書『PT・OT・STポケットマニュアル』が発刊されました。ポケットに収まるサイズでありながら広範囲を網羅,かつわかりやすい内容になっています。

 I章の「リハビリテーション・プロフェッショナルとしての常識」では,プロフェッショナルとしての在り方,認知・非認知能力の重要性,診療記録,キャリアパスへの示唆まで論述されています。まさに,新人セラピストが最初に目を通すべき内容だと感じましたし,診療参加型臨床実習に参加中の学生が熟読すべき内容であるとも思いました。II章「リハビリテーション医療の基礎知識」では,ICF,病期ごとのリハビリテーション,リスク管理,診療報酬システムなどについて論述されています。III章「リハビリテーション評価の基本」では,問診と面接から広範囲の基本的評価について論述されていますが,図表や画像所見も豊富で,大変わかりやすくなっています。IV章「リハビリテーション治療の基本」では,関節可動域訓練やポジショニングなどのベーシックな治療はもちろんですが,エビデンスに基づく最新治療についても簡単に紹介されていて,本書から論文や書籍などの検索に進むことも可能でしょう。V章「疾患ごとのリハビリテーション診療」では,さまざまな疾患に対する推奨治療が多くの図表を使用してコンパクトに論述されています。VI章「重要評価スケール」では,代表的評価方法がコンパクトにまとめられています。

 若手セラピストは,当初はプロフェッショナルとしての覚悟が低い場合が多く,日々の臨床で悩み,問題点を解決し,成長していく経験こそが重要になります。そのための羅針盤的存在のポケットマニュアルとして本書が大変有効であり,On-the-Job Trainingの手助けをする一冊となってくれることでしょう。同時に,診療参加型臨床実習に参加される学生さんが,エビデンスに基づいた評価・治療を実践していくにあたり大きな影響を与えることができ得る書籍であることは間違いないと思います。


《評者》 洛和会丸太町病院救急・総合診療科部長

 『神経症状の診かた・考えかた――General Neurologyのすすめ』は,日本ではまだなじみの薄い「General Neurology(総合神経学)」に関する書籍である。2014年に初版が出版されて以来,総合診療医や脳神経内科医を中心として多くの医師に感銘を与え続けてきた本書が,待望の第3版を迎えた。

 頭痛,めまい,しびれなどの身近な症状に対して,問診と身体診察を中心に解説した本書は,堅苦しい話は最小限にとどめながら,ベッドサイドで役立つ情報をこれでもかと言わんばかりに詰め込んでいる。著者は「臨床場面で患者に向き合う時,何か気概・情熱をもって臨む(中略)そういう気概を 『臨床力』と呼びたい」と述べており,本書は「臨床力」や「臨床推論力」を養いたい人々にとって最適な内容となっている。著者の熱い心に触れ,明日からの診療につながる気力を得られる読者は多いだろう。

 第3版では,肩こりの章も新たに追加された。身近な症状にもかかわらず,今まであまり書籍や論文に記述されてこなかった肩こりについても一つの章を割いて取り上げたことは,「General Neurology」ならではの取り組みだ。さらに,物忘れ,精神症状,けいれん,意識障害,パーキンソン症候群など,他の神経症候についても一通り記述されているため,一般外来で出合う脳神経内科領域の病態を一通りカバーできる一冊となっている。

 本書の本文では,著者の豊富な経験と知識に基づいた疾患の本筋をとらえたスマートな記述が目を引く。本文だけでも,脳神経内科領域の基礎知識を固めることができる。それに加え随所に散りばめられている「症例」と「Memo」というコラムも秀逸である。「症例」では,実際の症例を疑似体験することで,生きた知識が定着していくことが体感できる。紹介された症例はいずれもコンパクトな記載にもかかわらず,示唆に富んだものばかりであり,症例だけを斜め読みしていくという楽しみ方もよいだろう。「Memo」では,歴史的背景など知っておくと楽しくなるような知識が盛りだくさんである。もちろん臨床的に重要な事項も多く含まれている。アドバンスな小ネタが本書に良いアクセントを加えてくれている訳だ。

 総合的に見ると,本書は「General Neurology」に関する入門書としても,ある程度の経験を積んだ臨床医のさらなるスキルアップのための実践的なテキストとしても非常に優れた内容となっている。初版から長年にわたり多くの医師から支持され続けているのは,その内容の充実度とともに,著者の熱意が伝わってくるからだろう。本書を手に取った読者が,脳神経内科領域においてさらなるスキルアップをめざし,患者さんに寄り添う臨床医として成長することを期待したい。

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