医学界新聞

書評

2023.05.29 週刊医学界新聞(看護号):第3519号より

《評者》 Community Nurse Company株式会社代表取締役

 本書を開いてまず,優しいニュアンスで自己啓発につなぐ内容だと思った。とにかく読みやすく,スッと頭に入る文章であるのが印象的だった。

 読み返してみて,タイトル通り看護師向けに構成されているけれど,これは人間誰しも知っておいて損はない内容だと感じた。世の中の動きや学問の成果をアップデートし,知恵をこらすワークを体験・反復し,見つめ直す……。「自分」という資源の成長・学習を自ら担っていくための学びばかりだからだ。万人が10代の頃から身につけておいて良いことだと思う。

 キャリアとは,振り返ったときにどんな歩みを経てきたか,その軌跡がその人だけの道筋となるものだと認識している。誰かが敷いてくれたレールに沿うものではない。私自身は26歳で3児の子育て中に,50代だった父を末期がんで看取ったことが,看護学を学ぶ動機になった。ただ,元々好奇心や知的関心が高い性質があり,自らの可能性をひらく1つのエッセンスとして看護学を取り入れながら,社会起業家と呼ばれる現在まで歩んできただけだと思う。今は5児の母にもなった。コミュニティナースが運営するあやしく楽しい診療所も本年オープンする予定だ。

 さて,第Ⅱ部のワーク内容はそんな私にとって「悩まず考えられるように」なっているものばかりで,どれも瞬時に答えることができた。日々自問してきたことばかりだからだ。回答に恥ずかしさも虚栄もない。自らの特性や考え方のクセ,何に心が動くのかということが再確認できただけだ。コンプレックスに根差すこともその人の美しさとしてにじみ出ると,私は思っている。独自のバックグラウンドは人生の景色を豊かにする。また,私には本書で言う視座(p.88)を変えて上空から俯瞰し,車を見下ろすように自己を観察し,操縦している感覚がある。その『自分』の使い方しだいで,他の誰かの可能性をひらく資源となること――。それが私の興味そのものだ。毎日,誰かとの関係性も全部,自分から始まっている。ケアリング(p.9)と言わずとも全部,みんなから自分につながって返ってくる。それを知らないでどう人と付き合っていくのか。自分の機嫌も取れない人が,なぜ他人の機嫌を取ることができるのか。ケアする人になれるのか。大事なのは,自らを整え,沸き立たせてくれるような仲間,友達,知人がいる環境をしっかり選び取ってゆけることだろう。メンターやメンティ(p.83)に限らない。人とうまく付き合うための学びがマネジメントだと,本書は言う(p.33)。自分を知り,他人とはたらく――たしかに,本書は人とかかわる仕事を選んだ私たちに深く刺さる内容だと思う。

 私は,多くの人が本来持っていた「看護」を社会に戻していきたい。ケアの担い手1人ひとりも自分とうまく付き合い,幸せで,そして社会全体でナーシングがユニークに広がっていく未来を見たい。本書がその手立ての1つになるような気がしている。


《評者》 奈良学園大教授・看護学

 「どのように評価されるかによって学生の学習が変化する」と言われるくらい,評価は大きな力を持っています。しかし,評価に関する悩みは尽きることがない,というのも正直なところです。この本は,そんな教育評価に特化した書籍です。教育評価力を問題と解説で“トレーニング”するというタイトルを見て,「問題を解きながらどのように教育評価力を高めるのだろう?」と興味を抱きながら本書を手に取りました。

 読み始めると,意外や意外,タイトルから抱いたイメージを良い意味で覆す“骨太な”内容でした。教育学と看護学の両分野の著者が執筆されている本書は,しっかりとした教育学の基礎を踏まえながら,講義,演習,実習,そして卒業研究までの看護教育の場面ごとに評価の考え方や方法が解説されており,それでいて教育学の教育評価法の書籍のような難解さはなく,看護教育に活用するために教育評価について学びたい教員にはとても良い本だと思いました。

 この本のユニークなところは,基礎的なことを学んだ後に,その知識を使って問題を解くという展開になっている点です。問題は,教育評価を実践する上で基礎となる知識を「必修」,看護教育の場面に即した内容を「一般」「状況設定」と,まるで看護師国家試験のように区分されています。最初に読んだときはまるで学生になったような気分でしたが,「一般」や「状況設定」では具体的な場面を挙げて設問されており,実際をイメージしながら評価について理解できるようになっています。

 また,それぞれの問題の解説が,単に最初の基礎的な説明の復習だけではなく,実際の看護教育の場面に即して理解を深めることができるよう工夫されていて,タイトルの「問題と解説で学ぶ」というのはこういうことかと納得しました。

 問題集のようなユニークなスタイルは好みの分かれるところかもしれませんが,各問題には「評価基準」や「認知バイアス」「主体性の評価」などといった見出しがつけられているので,「ちょっと調べたい」ときに,この見出しを索引のようにして,その部分だけを読むというような使い方もできる本だと思います。さらに,問題がさまざまな出題形式で作成されているので,テストの作り方の参考にもなります。

 「評価の仕方がよくわからない」「評価って難しい」「なんだかうまく評価できていないような気がする」,看護教員の誰もが一度はこのような思いを抱いたことがあるのではないでしょうか。この本は,そんなときに特にお薦めの1冊です。


《評者》 大阪歯大医療イノベーション研究推進機構 事業化研究推進センター

 緩和ケア臨床において「鎮静」は,終末期において苦痛が緩和されない時の最後の手段(last resort)としてガイドラインに基づいて実践されているが,医療者にとって正解が一つではなく常に悩みつつの選択である。一方,世界では死の過程をコントロールする権利を求める市民の声が高まりをみせ,その象徴的な出来事としてフランスでは治療の中止と同時に「持続的深い鎮静を死亡まで行うこと」が法律(クレス・レオネッティ法,2016年制定)に明記された。これを機に,世界では鎮静の位置付けを見直そうとの議論が広がっている。本書は,鎮静に関する新しい知見をふんだんに取り入れて,鎮静の背景に横たわる問題を多方面から解説し,読者の理解が進むよう整理されている。著者は聖隷三方原病院の森田達也先生,緩和ケア研究の第一人者である。

 まずは50を超える文献の系統的レビューに基づき,現時点での,しかも向こう10年間くらいの鎮静についてと鎮静と安楽死のボーダーラインについての議論ができる知見が解説されていることに驚かされた。しかも,なかなか一人では理解が困難と思われる論文について,どう読み解くかが,ポイントを押さえた図・表と共にわかりやすく述べられている。著者ならではの痒いところに手が届く解説とともに一語一語丁寧に文字を追っていけば,「なるほど,そういうことか」と納得できるだろう。

 本書は,「最後の手段」としての鎮静から「患者の権利」としての鎮静へとその守備範囲が拡張しつつあるフランスと世界の動き,イギリス・イタリア・ドイツそして日本との鎮静の概念の違い,安楽死・自殺ほう助の合法化の世界的動きがどう鎮静に影響しているのか,といった視角を次々に提示している。まず,鎮静に対する議論を深めるには,緩和できない苦痛があることを直視することが必要である。しかし読み進めるうちに,安楽死・自殺ほう助の合法化の動きは,患者の苦痛が緩和されないからだけではなく,自己決定や尊厳を求める世論に端を発しているという根幹が置き去りにされたままに議論されがちであることに気付かされた。

 さらに本書は,鎮静は生命予後を短縮するのか,という疑問に関する知見や他の治療と同様に目に見える薬の使い方によって鎮静を定義するという考え方を詳しく解説している。加えて,精神的苦痛に対する鎮静の是非について,医学だけではなく倫理学や法学などの観点からも述べている。最後にまとめとして,「終末期の苦痛がなくならない時,どこまでできるのか(患者の状態に応じて,鎮静薬の投与を選択肢に入れるかどうか)」についての著者の解が示されている。特に「国内でとりうる最大限の解」については,将来のチャレンジとしてこれからの議論の深まりが期待される。

 鎮静についての議論をまとめるには,さまざまな医学領域,および広範な学問体系の知識を統合する必要があり,これができるのは森田先生しかいないだろう。本書が鎮静という医学分野の知的躍動を感じさせる一冊であることは間違いない。この熱量に素直に誘われてみることを皆さまにお薦めしたい。

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