医学界新聞

書評

2023.04.03 週刊医学界新聞(通常号):第3512号より

《評者》 杏林大病院杏林アイセンター教授

 本書は,眼科診療に携わる医師が日常診療に座右の書として備えるべき一冊としてお薦めしたい本である。

 医学書院は『今日の治療指針』を毎年改訂しているが,これの眼科版として本書の初版が2000年に上梓された。発刊時の編集者である故田野保雄先生,故樋田哲夫先生の「眼科日常診療において座右の書となり得る実用書」をめざす意図は,今回の第4版にも大いに反映されている。

 現在は,オンライン検索で病名や治療法の情報を一般人でさえも簡単に手に入れられる。しかし,眼科医が実際の臨床現場で適切に診断し治療するために確認する検索用ガイドブックには,疾患の概念から検査法の特徴,治療法の最前線の情報までが整理されていて読みやすいことが求められる。本書は,眼科専門医が,実際の診療に生かすために必要な最新の検査や治療法の知識にも漏れがないよう配慮しつつ,各検査の基本概念から実施方法,新たな疾患概念や診断・治療のガイドライン,新しい機器の紹介などにも触れ,治療に際しては,薬品名,用量・用法などの具体的な処方も記載されている。したがって,単なる辞書ではなく,実用的な教科書の機能も果たしているのである。さらに,実用書としての特徴を堅持するために,まれな疾患や一般に使用されなくなった検査などは排除され,保険適用外の治療などでは,その旨が明示されている。そして,近年の急速な眼科診療の進歩にキャッチアップできるよう,前版から半数以上の執筆者を交代,第一線で活躍する各専門分野の310人の著者が選ばれている。本書の目的にかなうよう,多数の写真や図を使いながらわかりやすいように解説している。

 本書では,まず総論で眼科検査と治療の基本が述べられている。ここがまさに辞書と異なる教科書としての役割を果たしている。総論は検査総論と治療総論の2章に分かれていて,それぞれの内容の充実度は半端ではない。最近のOCTアンギオグラフィの原理や検査法,検査のアーチファクトなども簡潔に説明されている。視力屈折測定の項目をとっても,視力検査,自覚的屈折検査,小児の検査,眼鏡処方,VDT検査,コントラスト,波面収差解析,ロービジョン検査などの23細目について,最新の検査を意識しながら,目的,原理,使用法,判定の項目別に要領よく解説されている。続いて,前眼部,緑内障,後眼部,神経眼科・斜視,網膜機能検査など,臨床現場で調べたい項目の要点がわかりやすく紹介されている。治療総論は,点眼,洗眼から各種注射までの処置,抗VEGF薬などの生物学的製剤を含む薬物,前眼部手術から眼内・眼外手術,各種のレーザー手術の大項目に分かれ,各治療の適応,有効性,安全性などの項目立てで,最新の治療法が見逃されないように説明されている。

 各論(3~23章)は,眼瞼疾患,涙器疾患,結膜疾患,角膜疾患から始まる。網膜疾患,緑内障などのオーソドックスな疾患分類だけではなく,瞳孔疾患,眼球運動障害・眼振,屈折・調節異常,さらに眼精疲労,不定愁訴,心因性眼疾患,診察・手術時の緊急事態,ロービジョンケアなどの臨床現場に即して調べたいタイトルが取り上げられている。それぞれに関して,概念・症状,診断法,鑑別疾患や診断のための検査などの要点が簡潔明瞭に解説されている。新設の章「ロービジョンケア」では,検査から最新の補助具の特徴や使い方のコツなどが,多数の写真を提示しながら説明され,診断書の書き方や関連団体のURLまで提示されている。

 眼科診療における近年の目覚ましい進歩を取り込みながら,プラクティカルな教科書としてA5判で仕立てられた本書を,外来や病棟の診療現場の座右の書としてぜひお薦めしたい。


《評者》 中部ろうさい病院リウマチ・膠原病科部長

 すごい本である。師匠である上野征夫先生の著書の書評を出版社から依頼され大著に出合う前に気軽にお引き受けし,出合った途端その大きさと厚さに圧倒されリウマチ病診療の金字塔ともいうべき書を前にして私のような未熟者に書評とはおこがましいとすくんでしまった。しかし思い切って恐る恐る大著を読み始めてみると,幼少時に紙芝居で経験したような魅力とそのわかりやすい解説に引き込まれた。なぜこんなにわかりやすいのだろう。その理由の一つは略語が少なく,たとえあっても初心者にとって難解な用語や略語には必ず上野先生ご自身の言葉による解説があるから。さらに大きな理由は,生物学的製剤が日本で普及し始めた約20年前の1999年ごろにリウマチ診療を始めた初心者の私たちはリウマチ膠原病診療をゆっくりと基本から教えていただいたのであるがその当時とほとんど同じご教授の仕方で先生のお声が聞こえてくる「語り」の書となっているからだ。上野先生が1972年に渡米されて米国で受けた訓練は主に耳学問であったと記載されており,その耳学問さながらの日本語の名文と素晴らしい印象的な写真の数々と理解しやすい図は「百聞は一見に如かず」となり一層わかりやすくなっている。

 本書の特徴については上野先生ご自身が「セシルの教科書のレベル」で一般内科医,研修医,医学生を対象にしたとの記述があり「Rheumatology is general medicine」との先生の信念が満ち溢れている。強皮症における肺の身体所見(「parasternal heave」p.246),高齢者に比較的急速に発症した錯乱の原因としての低Na血症の原因に巨細胞性動脈炎があること(p.276),シェーグレン症候群の腎臓尿細管についての詳しい病態生理の記載(p.281),感染性関節炎(p.427)の微生物の解説などまさにgeneral medicineだ。また医師としての患者さんに対する姿勢をそれとなく示してくださった関節リウマチの項にある「患者への病気説明」(p.153)は感動的な記述である。リウマチ診療の領域は日々新たな治験と新薬で溢れており,それらについて「改めて自分自身で治験段階からの論文から入って調べ,執筆を行った」とあり,その熱意とエネルギーは先陣を切って渡米をなされた上野先生ならではと思われるが,さらに驚いたのは骨粗鬆症(p.404)の項である。その病態生理についての解説や図が第2版から一新されている。骨粗鬆症に関連するさまざまな分子の機能と名前の覚えにくさに混乱し苦手としている分野である不勉強な私にとっても非常にわかりやすく整理・記述され,「リガンド(ligand)とは受容体に結合する物質のことである」(p.407)と初心者にも非常にわかりやすく語りかけてくださる。

 このような「Rheumatology is general medicine」を体現された大著をお一人で執筆された上野先生の頭脳と熱意に感謝するとともに,素晴らしく読みやすい本を作られた出版社の方々のご努力にも敬意を評したい。著者の上野先生ご自身が対象に挙げられた一般内科医,研修医,医学生だけでなくあらゆる分野の医師,そして医療にかかわる方々全てにお薦めしたい。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook