医学界新聞

書評

2023.03.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3509号より

《評者》 京大大学院教授・整形外科学

 わが国でも年々手術数が増加している人工膝関節単顆置換術(UKA)であるが,本書はUKAについて全ての情報を網羅しているといっても過言ではない本である。原書はフランス語で書かれているが,この度,塩田悦仁先生の手により日本語に訳され出版された。

 執筆者のリストを見ると,UKAに関するエビデンスを自ら発信されている方ばかりで,これを見ただけで,非常にレベルの高い内容であることが予想できる。

 実際,内容を拝見すると,きれいなイラストをふんだんに使った説明がなされていて,とても読みやすく,わかりやすい構成となっている。また,一つひとつの記述が経験論的な話ではなく,本のタイトルにあるようにエビデンスに基づいた記載となっていることからも,科学的な見地から編集された書籍であるという印象を強く受けた。

 各章ごとに見ていくと,まず歴史から始まるが,通常の教科書的な堅い記述だけではなく,多くの逸話も含めて読みものとしても大変興味深い内容になっている。例えば1章にある「(前略)John Insallとその同僚が他の整形外科医たちから村八分にあっていた状況から単顆人工関節を解放した」などである。ぜひ真っ先にご一読いただきたい章である。

 適応に関しても詳しく述べられている。UKAは適応が非常に重要な手術だと常々感じているが,私たちが長年縛られてきた古典的な適応(Kozinn & Scott)の紹介と,今日の科学的根拠に基づいた適応が詳しく述べられており,とても理解しやすい構成となっている。手術手技に関しては,fixed bearingとmobile bearingに分けて詳しく解説してある。一口にUKAと言ってもデザインのコンセプトが異なると,コンセプトに合わせた手術手技が必要だということがよくわかる内容となっている。

 また,alignmentはTKAでよくdiscussionされるトピックであるが,もちろんUKAにおいても重要であり,本書ではUKAにおけるmechanical alignmentとkinematic alignmentの違いについて詳細な記述がなされ,大変参考になった。インプラントデザインについては,日本の成書では大きく取り上げられることは少なかったが,biomaterialおよびbiomechanicsの観点から丁寧に解説されており,とてもありがたく感じた次第である。ナビゲーションやロボット支援手術は,日本でも大きな広がりを見せつつあるが,本書でもページを割いて説明されている。多くの図を用いて新しい技術が紹介され,ピットフォールなどについても詳しく書かれている。これから新しい技術を使われる若い先生方にとっても,興味深い内容になっていることは間違いない。

 以上のようにどこのページを開いても有用な情報が満載である教科書となっている。このような素晴らしい本を日本語版として出版していただいたことに改めて感謝申し上げたい。

 UKAを行う医師にとって必携の書である。


《評者》 名市大名誉教授

 『今日の治療指針』の眼科版として定評のある『今日の眼疾患治療指針』が第3版から第4版に改訂された。半数以上の項目で新たな執筆者が採用されたとのことで,非常にup to dateな改訂となっている。執筆者は,各分野において現在第一線で臨床に携わっている,わが国のエキスパートが名を連ねる。

 検査総論,治療総論に始まり,部位・疾患別の各論が続く。「検査総論」では進歩が著しい最新のイメージング・画像診断を含め,内容がコンパクトにまとめられている。「治療総論」は,「処置」「薬物治療」「手術」「レーザー手術」の4項目から構成され,「薬物治療」では各種点眼薬,生物学的製剤などがわかりやすく記載されている。この2つの章を通読することにより,読者は短時間で眼科領域の検査・治療の最新知識を得ることができるであろう。各論は,「眼瞼疾患」に始まり,「ロービジョンケア」まで21の章(3~23章)で構成されている。日常診療で遭遇すると考えられる眼疾患をほぼ網羅しており,初版の編集者がめざした「眼科日常診療において座右の書となり得る実用書」として,非常に重宝すると考えられる。カラー写真やシェーマも大幅に増えており,専門外の領域でもより読みやすく,調べやすくなっている。忙しい診療中に,短い時間で参照できるであろう。

 評者の専門である「網膜疾患」は,160ページと各論の中では最もページ数が多く,多くの眼底写真,蛍光眼底写真,OCT(光干渉断層計)やOCTアンギオグラフィーが掲載されており,非常に読みやすく,理解しやすい。また,今回の版では,「ロービジョンケア」が独立した章となっており,内容も拡充されている。スマートフォンに代表されるICT(情報通信技術)機器の活用事例やロービジョンケアに必要な各種診断書の記載方法も具体的に解説されており,役に立つであろう。

 評者が読んで,唯一気になった点は,参考文献の記載が一切ないことである。本書の性格としての編集方針によると思われるが,少し詳しく調べたいときにはやはり文献が記載されていたほうがよい。インターネット検索が手軽にできる時代であるから不要との意見もあるであろうが,必要最低限の参考文献の掲載を一考していただきたい。また,スマートフォンやiPadでどこでも手軽に参照できる手段として,PDFなどの電子媒体の採用も検討していただければ幸いである。若い世代の眼科医にも,より受け入れられやすくなることが期待される。


《評者》 慶大教授・眼科学

 ICL(Visian ICL:STAAR Surgical社)は,1997年にCEマークを取得し,2010年2月に日本で初めて薬事承認を得た有水晶体眼内レンズで,現在ではおよそ70か国で使用されています。現在使用されている最新モデルは,清水公也教授(国際医療福祉大)が考案した光学部中心に極小の貫通孔のあるICL KS-AquaPORT®(2011年CEマーク取得,2014年に国内薬事承認)をベースにレンズ全体の大きさを変えずに有効光学径を拡大したEVO+Visian ICL®です。ICL KS-AquaPORT®のレンズは中央に0.36 mmの貫通孔を開けたことにより,視機能への影響はなく,かつLI(レーザー虹彩切開術)やPI(周辺虹彩切除術)をせずとも,房水循環の維持を可能とし,従来型での問題であった術後合併症である白内障の発症を限りなく低減させました。この,日本発の画期的なアイデアがイノベーションを起こし,世界中に広まったことは,同じ日本人として非常に誇らしく,これを考案された清水先生には改めて敬仰します。

 さて,本書は本邦初のICL手術の教科書です。編集は,ICL KS-AquaPORT®の考案者である清水先生と,その下で共に長年にわたりICL手術に関するデータを世界に発信され,エビデンスを積み上げてこられた神谷和孝先生(北里大)で,執筆者にはICLの臨床経験が豊富なエキスパートの先生方が名を連ねられています。

 本書では,歴史,適応,手術手技,コツ,合併症への対処など,ICL手術に関する全てがわかりやすく解説されています。手術手技の教科書にありがちな術者の経験談の披露に終わらず,論文化されたエビデンスに基づく記載がなされていることも本書の特徴といえます。さらに秀逸なのは,各手技の動画を閲覧できることです。やはり手術手技の習得は「百聞は一見にしかず」であり,模範的な手技を閲覧できることは何にも代えがたいものです。

 神谷先生,清水先生は,この本の編集(神谷先生は,本書の大部分の執筆にもあたっていらっしゃいます)にあたり,内容を取捨選択され,的確かつ端的なものとすべく,膨大な時間を費やされたことと思います。数々の要職をお務めになりながら,この本を完成された能力と熱意に心より敬意を表します。

 これからICL手術を始める初心者からすでに多数例を経験している術者まで,ICLの教科書としてはこれ一択,ぜひ手元においていただきたいと思います。

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