エビデンスが教える
人工膝関節単顆置換術
世界トップレベルによる人工膝関節単顆置換術の新しいスタンダード
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人工膝関節単顆置換術(UKA)は変形した膝関節の治療において、TKAに比べて侵襲が少なく早期回復が見込まれ、また患者満足度が高いことから再度注目を集めている。本書は世界トップクラスの専門家によるテキストの翻訳版。豊富なエビデンスを基に、UKAの基礎研究から再検討した適応を提言。さらに外側変形、両側手術への考えかたや、悩まされる合併症や再置換、失敗例への対処法について丁寧に解説する。
原著 | アルノー・クラヴェ / フレデリック・デュブラナ |
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訳 | 塩田 悦仁 |
発行 | 2022年12月判型:B5頁:240 |
ISBN | 978-4-260-05080-7 |
定価 | 13,200円 (本体12,000円+税) |
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序文
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訳者 序/刊行にあたって/序
訳者 序
このたび,わが国でも普及しつある単顆型人工膝関節(UKA)に関する仏語の専門書 “La prothèse unicompartimentale de genou:vers un nouveau paradigme” の日本語版を上梓した.編者のフレデリック・デュブラナ教授は,1992年にSOFJO(Société-Franco-Japonaise d’Orthopédie,日仏整形外科学会)の交換留学生として九州大学および福岡整形外科病院で研修されており,2014年9月福岡市で訳者が担当した第16回日仏整形外科学会の招待講演に来福していただいた.現在はフランス北西部のブレスト大学において教授として膝関節外科の臨床を中心に活躍されている.整形外科臨床だけでなく,哲学にも造詣が深い碩学で,医学史や哲学に関する著書が多数あり,クリスマスの時期には毎年のように自著を送ってこられる.本書はそのうちの1冊であり,ぜひ日本の整形外科医へ紹介したいと常々考えていた.
本書は,UKAに特化して40名以上の執筆者により歴史から適応・手術手技・後療法・合併症,最新のコンピュータナビゲーション手術,長期成績まで幅広く詳述されており,UKAのバイブルといってよい本である.執筆者のなかには,UKA人工関節の開発に当初から携わってきたOxford大学の整形外科医も多く含まれている.以下,本書の内容を概説する.
初期の内反型変形性膝関節症では後方の軟骨は温存されており,20º屈曲位で内反が矯正されること,X線側面像で「杯のサイン」がみられることなど有用な所見が記載され,UKAの歴史・適応・禁忌について概説されている.
UKAの手技の変遷と,より本来の関節に近いアライメントを実現する最新のAC手技(運動学的アラインメントの手技)について解説してあり,オンラインで手術の動画をみることができる.
日帰り外来手術の実際と麻酔や局所の鎮痛対策の工夫などについて記載してあるのは興味深く,将来わが国でも実施可能ではないかと思われる.
UKAに対する付属機器の歴史から現在使用されているナビゲーションシステムの種類,使用方法の実際とポイント,治療成績,利点などが解説されており,手術の熟達度によらず,経験が少ない整形外科医でも正確な骨切りが可能であることも記載されている.
両側同時手術の安全性,より侵襲が少なく回復が早いこと,患者満足度が高いこと,医療経済的に有利であることなどを,データを示しながら詳しく解説されている.人工関節のユーロでの実勢価格も提示されている.
UKAは十字靱帯が温存されるため,全人工膝関節よりも生理的に自然で,スポーツ復帰率が高い.違和感が少なく,「忘れるくらいの膝(genu oublié)」を実感する患者も多く,予後(人工関節生存率)は,活動レベルの高い患者のほうがむしろよいことなどが記載されている.
現在までに得られているUKAの臨床成績,人工膝関節全置換術との比較試験の結果と解釈などについて最新データが詳しく解説されている.年間手術症例数と再置換率の比較では,年間10例で再置換率は2%,30例で1%に減少し,人工膝関節全体に占める割合が20%以上になると再置換率が減少するという興味深いグラフも掲載されている.
フランスと日本では,手術手技や器具について若干異なるものがあり,デュブラナ教授へメールで質問を繰り返しながら翻訳した.しかしながらまだ,わかりにくい箇所や不適切な誤訳も多いことと思うので,お気づきの点があればぜひご指摘いただければ幸いである.今回の日本語版出版に際して多大なご尽力をいただいた医学書院編集部諸氏に深甚の謝意を表する.
原著の副題に“vers un nouveau paradigme(新たなパラダイムに向かって)”とあるように,編者のデュブラナ教授は,現在までの知見からUKAの将来性を確信されており,「われわれは少し先を行き過ぎているかもしれないが,“Ne loupons le virage(方向転換を逃さないようにしよう)”」と訳者に述べている.ぜひ,日本の膝関節外科医の皆様にも本書をご高覧いただき,UKAの有用性を再認識して日常臨床に役立てていただければ幸いである.本書が,日本の多くの整形外科関係の医療従事者の皆様に愛用されることを心から祈念している.
2022年10月
百年橋リハビリテーション病院 塩田 悦仁
刊行にあたって
単顆型人工膝関節は,変形性膝関節症の治療において長い歴史をもっている.1970年代初頭に全人工膝関節の代替法として初めて報告され,膝の3つのコンパートメントのうちの1つに限局した表面置換術のオプションとしてのコンセプトは,2020年になっても変形性膝関節症の治療において重要な役割を果たし続けている.単顆型人工膝関節に対する関心が再び高まっているのは,低侵襲で早期回復が期待できることや,全人工膝関節と比較して結果や患者の満足度が向上していることから完全に正当化されている.単顆型人工膝関節は,整形外科医と患者の誰もが術後に獲得することを夢みる,いわゆる「忘れるくらいの膝」の重要な部分を占めており,現代の人工膝関節外科は,単一さらには2つのコンパートメントの人工関節に関する正確な知識なしには思い描くことができない.もちろん,外科手技を一層信頼性のあるものにし,より繊細な手術計画を確実に行うことができるコンピュータ支援手術やロボット手術のようなテクノロジーの進歩を忘れてはならない.
単顆型人工膝関節の使用から50年目に突入している.Arnaud ClavéとFrédéric Dubranaは,本書“La prothèse unicompartimentale de genou:vers un nouveau paradigme”を通じて,多くの症例で全人工膝関節を凌駕している長期成績に支持された,単顆型人工膝関節の最新のビジョンを提示している.本書を通して,もちろん現代の戦略をよりよく理解させる歴史的視点を忘れることなく,彼らはこの領域のフランスおよび国際的な専門家の知能を結集し,単顆型人工膝関節外科における手技のレベルについて実際の展望を詳しく説明している.
本書はごく自然に,変形性膝関節症と単顆型人工膝関節の歴史と生体力学的概念から記載され始めている.次に,古典的適応とその現代的アプローチが詳しく述べられ,さまざまなアライメント哲学と同様に,モバイルおよびフィックス型脛骨コンポーネントの人工関節設置の原則について詳細に記載されている.次に外来手術(chirurgie ambulatoire),合併症,さらにPUC*の再置換について述べられている.革新的な手技を説明し,両側人工関節,外側PUCあるいはスポーツ活動への復帰など特殊な状況について考察している.最後に収載されているレジストリの統計データは,実際の客観的データに基づいており,貴重な視点をもたらすであろう.
読者はこの非常に魅力的なテーマについて,手術手技の適応から結果に至るまでの最終的な見解や意見に触れることができる.アルノー・クラヴェとフレデリック・デュブラナ,そしてこの集大成にかかわったすべての執筆者に感謝する.
楽しく読んでいただければ幸いである.本書が,膝関節外科に興味を抱くすべての読者にとって価値ある追加情報になることを確信している.
Sébastien LUSTIG(セバスチャン・リュスティ)
Lyon, France
*訳注:単顆型人工膝関節の略語でUKAと同義.
序
単顆型人工膝関節は,ほぼ半世紀にわたる反省と迷い,そして探求を経て,ついに成熟期に到達した.復活の松明を高々と掲げたのは,Oxford学派であった.
これはルネッサンスである.というのは,歴史に疎い整形外科医たちは,現代のTKAのまさに起源である内外側2つの単顆型人工膝関節をしばらく忘れてしまっていたからである!
本書は新しいパラダイムとはいえない.本書が主張する真実は,明日には誤りになるかもしれないからである.本書は,参考にする基準の変更,考え方の拡大そして数多くの患者にとって希望になるものである.
その活動の正確な記述を通して,本書の制作にかかわった40数名の執筆者に,われわれは感謝しなければならない.
ルフラン氏がいなければ本書は実現しなかったと強く思う.また,図表の作成についてマルヴォウ氏に深謝する.
2020年9月18日 ブレストにて
フレデリック・デュブラナ アルノー・クラヴェ
目次
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第1章 単顆型人工膝関節の歴史
18~19世紀の切除関節形成術/骨切り術から関節形成挿入物まで/組織の介在/人工物の挿入/単顆人工関節/結論
第2章 前内側型変形性膝関節症と単顆人工膝関節
序文/前内側型変形性膝関節症/膝の単顆関節形成術/結論
第3章 単顆人工膝関節の「古典的な」適応
内側大腿脛骨関節症(AFTM)/骨壊死(ONA)/「古典的な」適応/適応禁忌の議論/結論
第4章 内側人工膝関節単顆置換術の今日の適応解読された「Oxford哲学」
適応の拡大によって,年間の挿入数が増加できるのか?/「古典的」禁忌の一部を無視することで,年間の挿入数が増加できるのか?/特殊な症例:内側大腿脛骨関節症で機能していない,あるいは断裂したACLの患者にどのような戦略をとるべきか?/結論/最終的に考慮に入れるべき事項/付録
第5章 プラトーフィックス型内側単顆人工膝関節置換の原則
術前計画/手術手技/結論
第6章 Oxford型単顆人工関節Ⓡ(Zimmer‒Biomet)置換の原則
はじめに/側副靱帯の役割/関節裂隙の高さの回復/手術の展開
第7章 内側単顆人工膝関節の運動学的アライメントの手技
定義/運動学的アライメント手技の利点/科学的な証拠/手術手技/結論
第8章 脛骨インプラント──ポリエチレンモノブロックあるいはメタルベースのポリエチレンか? フルポリエチレンあるいはメタルバックか?
イントロダクション/脛骨インプラントの異なるタイプ/諸問題/生体力学:応力,摩耗そしてゆがみ/体積と摩耗のパターン/戦略,選択/費用/結論
第9章 単顆人工膝関節置換術後の回復と外来手術
結論
第10章 人工膝関節単顆置換術の合併症
序文/温存されたコンパートメントにおける関節症の進行/感染/非感染性のゆるみ/骨折/モバイルプラトーの脱臼/説明できない疼痛
第11章 内側単顆人工膝関節置換術の失敗例において何をするべきか?
序文/アレルギーの特殊例/摩耗の進行に直面した症例/UKA術後のTKA/自家骨アダプターの原則/UKAと敗血症/ポリエチレン脱臼の特殊例
第12章 単顆人工膝関節におけるコンピュータ支援手術とロボット手術のメリット
序文/ナビゲーションと内側UKA/ロボットによる内側UKA
第13章 両側同時の単顆人工膝関節形成術の意義
序文/このタイプの手技の安全性/出血の予測と輸血率/麻酔と駆血時間/周術期合併症/周術期の疼痛と体験/機能的回復/患者の満足度/早期の機能的回復/費用/入院期間/入院の費用/フランスでの実施状況/結論
第14章 外側の単顆人工膝関節
序文/解剖/本来の膝とUKA膝の運動学/適応と術前検査/外側UKAの術前プランの特殊性/手術手技/外側UKAの結果と生存率/失敗と再手術
第15章 膝の単顆人工関節術後の運動とスポーツ
患者の機能的活動の評価/活動レベルの定義/UKA後の活動レベル/インプラントの生存率に対する活動レベルの影響/結論
第16章 膝の単顆人工関節
序文/UKAを製造した大企業の歴史/市場から撤退した単顆人工関節/結論
第17章 膝の単顆人工関節に関する登録成績とデータ
登録によるUKAとTKAの比較:解釈と限界/登録データによるUKAとTKAの比較対照/UKAとTKAの無作為比較対照試験/UKAとTKA間のコホート比較研究/UKAの再置換率の減少/UKAの長期成績(20年以上)/プラトーフィックスUKAの中期成績(~10年)/プラトーモバイルのUKA Oxfordの中期成績(~10年)/プラトーフィックスとモバイルのUKAに関するレジストリ報告
索引
書評
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UKAの全てを,エビデンスを基に解説した教科書
書評者:岡崎 賢(東京女子医大教授・基幹分野長・整形外科学)
本書は,文字通りUKAの全てを確固たるエビデンスを基に詳しく解説した類いまれなる教科書である。TKAについての同等の質・量を持った教科書は数あれども,UKAにおいてこれほど詳細に書かれた書物を私は知らない。しかもそれが著者のエキスパートオピニオンのみで語られるのではなく,タイトルに「エビデンスが教える」とあるように,全て研究論文や公式資料を基に解説されている点も特筆すべきである。
内容は隅々まで広く網羅されており,黎明期の開発の歴史などは,それぞれの製品において設計者がどのように考えて作られていったか,消えていったものはどのような経緯で失敗したのかなども詳細に書かれている。オールポリエチレンかメタルバックかモバイルベアリングかといった問題も力学特性やバイオメカニクスの観点から詳細に解説されている。Kozinn・Scottの古典的な適応はどういう経緯で提唱されたのか,Oxfordの哲学とはどのようなエビデンスを基に醸成されたか,フィックスベアリングとモバイルベアリングではどのような考え方の違いがあるのか,その手術手技はどうあるべきかなどはもちろん,最新のconstitutional alignmentの考え方からkinematic alignment UKAの手術手技,ロボット支援のUKA手技までも網羅されている。合併症や失敗の要因とサルベージ手術の考え方も示されている。
本書は,200ページ以上にわたる濃密な内容でUKAの全てをエビデンスベースで学ぶことができる唯一の教科書である。この素晴らしいフランス語の原著を適確な日本語で読みやすく訳された塩田悦仁先生に心から敬意を表します。
UKAの全ての情報を網羅した書
書評者:松田 秀一(京大大学院教授・整形外科学)
わが国でも年々手術数が増加している人工膝関節単顆置換術(UKA)であるが,本書はUKAについて全ての情報を網羅しているといっても過言ではない本である。原著はフランス語で書かれているが,この度,塩田悦仁先生の手により日本語に訳され出版された。
執筆者のリストをみると,UKAに関するエビデンスを自ら発信されている方ばかりで,これを見ただけで,非常にレベルの高い内容であることが予想できる。
実際,内容を拝見すると,きれいなイラストをふんだんに使った説明がなされていて,とても読みやすく,わかりやすい構成となっている。また,一つひとつの記述が経験論的な話ではなく,本のタイトルにあるようにエビデンスに基づいた記載となっていることからも,科学的な見地から編集された書籍であるという印象を強く受けた。
各章ごとにみていくと,まず歴史から始まるが,通常の教科書的な固い記述だけではなく,多くの逸話も含めて読みものとしても大変興味深い内容になっている。例えば1章にある「……John Insallとその同僚が他の整形外科医たちから村八分にあっていた状況から単顆人工関節を解放した」などである。ぜひ真っ先にご一読いただきたい章である。
適応に関しても詳しく述べられている。UKAは適応が非常に重要な手術だと常々感じているが,私たちが長年縛られてきた古典的な適応(Kozinn & Scott)の紹介と,今日の科学的根拠に基づいた適応が詳しく述べられており,とても理解しやすい構成となっている。手術手技に関しては,fixed bearingとmobile bearingに分けて詳しく解説してある。ひとくちにUKAといってもデザインのコンセプトが異なると,コンセプトに合わせた手術手技が必要だということがよくわかる内容となっている。
また,アライメントはTKAでよくdiscussionされるトピックであるが,もちろんUKAにおいても重要であり,本書ではUKAにおけるmechanical alignmentとkinematic alignmentの違いについて詳細な記述がなされ,大変参考になった。インプラントデザインについては,日本の成書では大きく取り上げられることは少なかったが,biomaterialおよびbiomechanicsの観点から丁寧に解説されており,とてもありがたく感じた次第である。ナビゲーションやロボット支援手術は,日本でも大きな広がりを見せつつあるが,本書でもページを割いて説明されている。多くの図を用いて新しい技術につき紹介され,ピットフォールなどについても詳しく書かれている。これから新しい技術を使われる若い先生方にとっても,興味深い内容になっていることは間違いない。
以上のようにどこのページを開いても有用な情報が満載である教科書となっている。このような素晴らしい本を日本語版として出版していただいたことに改めて感謝申し上げたい。
UKAを行う医師にとって必携の書である。