限られた医療資源の中で,サスティナブルなケアシステムを構築する
寄稿 本田和也
2023.02.27 週刊医学界新聞(看護号):第3507号より
長崎県は,51の島々に約11万人(県民の8.6%)もの住民が生活している日本一の離島県である。離島やへき地における医療の確保は,県政の最重要課題の一つであり「長崎県医療計画」に基づき,適切かつ格差のない医療提供体制の構築と住み慣れた地域で自立した生活を送るための事業を推進している1, 2)。しかし,離島やへき地で医療・福祉を支える労働資源不足と本土(都市部)への専門医の偏在が深刻化しており,本土での専門的な医療提供の需要が高まっている。
今後,長崎県の医療需要は2035年にかけてピークを迎える。With/Afterコロナ,医師の働き方改革,VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧な)時代にあるこれからの10年は,政策に頼るだけでなく,地域・医療施設・医療従事者等,それぞれが創意工夫を試みながら「限られた資源(ひと・もの・かね・情報)」を有効に活用し,サスティナブルなケアシステムを構築していく必要があると言える。
高まる医療需要にどう対応するか
国立病院機構長崎医療センター(以下,当院)は,県央に位置する高度急性期総合医療施設(病床数:643床,38診療科,医師数:220人,看護師数: 612人,平均在院日数:11.7日,救急応需率:99.0%)である。地域医療の最後の砦(離島の親元病院)として,高次脳卒中センター,航空搬送を含む24時間体制の救急医療や,遠隔画像診断支援等を担い,適切かつ格差のない医療提供体制の構築に努めている3)。
そうした状況下,筆者が所属する脳神経系領域(神経系疾患)において2010~14年の5年間と2015~19年の5年間をそれぞれDPCデータに基づき比較すると,脳卒中ホットラインの入電数は2.6倍,脳血管内治療適応患者は4.7倍,離島から当院へ搬送される急性脳梗塞患者(drip and ship症例)は7.5倍と増加傾向にある。医療需要の高まる領域で活動する脳神経外科医師は,緊急手術や救急患者診療等で多忙となり,病棟不在(医師へのアクセス困難)を余儀なくされている。
また,この問題と並行して,非効率な診療・地域連携と,共に活動する看護師・コメディカルの心身の疲弊も懸念される。患者・家族に対するきめ細やかなケアの提供も困難となり,疾病管理不足・退院支援不足によって,患者満足度の低下や在院日数の延長,住み慣れた環境への移行困難,新規入院患者の受け入れ困難といった,医療の質低下につながりかねない。脳神経系領域の診療は当院の強みでもあるが,医療需要が今後さらに高まる中で,起こり得る事態を予測した上で「ひと」という資源を有効活用しなければ,逼迫することが十分推測される。
医療提供体制の適正化をめざし診療看護師(NP)を先駆的に導入
諸外国(OECD加盟国)では,日本が直面しているような種々の課題を解決するために,Nurse Practitioner(NP)という,看護の基盤を持ちながら一定レベルの診断や治療などを行える看護職を医療現場に導入し,医療の質や患者満足度,医療費の抑制効果等に関する多くの成果を示している4~6)。最近では,NPの日本における資格化・導入についても国策レベルで検討され始めた7, 8)。
わが国の「診療看護師(NP)」とは,高度な看護実践能力を持ち,スキルミックスによるチーム医療を提供できる諸外国のNPをモデルとして教育されており,5年以上の看護経験と修士課程修了(NP教育課程)を要件に日本NP教育大学院協議会から認証される,現行法上の「看護師」である9)。特定行為を補助的に活用しながら,臨床で培った看護師としての知識・経験を基盤に患者の個別性に合わせた全人的ケア,そして医師の思考(治療的視点・臨床推論の能力)との融合をイメージした実践を可能とする。「チーム医療の推進」「地域連携の強化」を具現化でき,質の高い医療提供体制確立のための有効な解決策となる可能性を秘めている。
当院は2014年度より診療看護師(NP)を先駆的に導入し,医療提供体制の適正化をめざしてきた。22年度は7人が所属,うち2人は医療需要の高い脳神経外科専属だ10)。当院の診療看護師(NP)は,医師不在時でも多職種間の情報交換が促進されるようかかわる「チーム医療の要」として,そして治し,治せなくても,地域で診・看・支えられるようにつなぐ「地域医療の担い手」としての役割を果たすことを目標に活動を展開している。
主な実践を紹介する。当院の診療看護師(NP)は大学院教育で培った7つの能力(註)9)を活用しながら,下記に示す内容に取り組む。
①パートナー医師との早期回診による情報交換
②医師不在時や医師対応困難時のタイムリーな医療の提供
例:病棟に常駐し,MSWとの退院/転院調整,セラピストと連携したリハビリテーション,病棟看護師と連携したケア介入・患者教育等を行う11)
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本田 和也(ほんだ・かずや)氏 国立病院機構長崎医療センター教育センター・脳神経外科 副看護師長/診療看護師(NP)
2006年国立病院機構長崎医療センターに手術室の看護師として入職する。12年東京医療保健大大学院看護学研究科高度実践看護コースへ進学。14年には診療看護師(NP)認証を受け,同年より長崎医療センターにて診療看護師(NP)として勤務を始める。15年には特定行為研修修了認定を受けた。長崎県上五島病院内科診療看護師(NP)としての経験を経て,22年より現職。九大大学院医療経営・管理学専攻在学中。日本NP学会副理事長。
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