医学界新聞

対談・座談会 池田聡,井升江美子,田中暢一

2023.02.20 週刊医学界新聞(通常号):第3506号より

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 高齢者は一度骨折すると「活動量の低下→骨の脆弱化→骨折リスクの上昇」を経て転倒・骨折を繰り返しやすくなり,QOLの低下や健康寿命の短縮につながる。この負のスパイラルに陥らせないためには,骨粗鬆症予防によって骨折を未然に防ぐことが重要となる。

 予防の取り組みを後押しするように,2022年度の診療報酬改定では大腿骨近位部骨折患者に対する二次性骨折予防継続管理料,緊急整復固定加算,緊急挿入加算(MEMO①,②)が新設された。この改定をきっかけに,骨粗鬆症予防はどのように加速していくのか。骨粗鬆症予防の発展に尽力してきた整形外科医の池田氏を司会に,骨粗鬆症マネージャーとして骨粗鬆症予防に取り組む看護師の井升氏と理学療法士の田中氏を交えた座談会から今後の方策を考えたい。

池田 2022年度の診療報酬改定で大腿骨近位部骨折患者に対する二次性骨折予防継続管理料,緊急整復固定加算,緊急挿入加算が新設されました1)。今まではボランティアであった骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service:OLS,図1)にインセンティブが付くようになったのは喜ばしいことです。今回の改定を契機に,国内における骨粗鬆症予防の機運は高まっていくと思います。そこで本日はOLSに尽力するお二人と共に,OLSの輪をどう広げていくかを話していきたいと思います。

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図1 骨粗鬆症リエゾンサービス
初回の骨折への対応および骨折リスク評価と新たな骨折の防止,初回の脆弱性骨折の予防を目的とした多職種・多施設連携による活動。骨粗鬆症は骨折しない限り無症状であり,治療率・治療継続率の低さが問題となるため,多職種による評価・介入が求められる。

池田 骨粗鬆症予防を考えるには,骨粗鬆症を原因とする骨折(脆弱性骨折)について知る必要があります。理学療法士として数多くの骨粗鬆症患者をみてきた田中先生よりご解説いただけますか。

田中 ヒトは加齢に伴い活動量が低下し,骨が徐々に弱くなっていきます。骨が弱い状態のまま生活していると,転倒したり重い荷物を持ち上げたりした際に骨折しやすくなるのです。また,脊椎など部位によってはきっかけがなくても骨折してしまう場合もあります。対応として手術や保存療法が行われるものの,これらはあくまで「骨折に対する治療」であり,背景にある骨粗鬆症の治療ではありません。ですので,骨折は治っても骨は弱いままであることから再度骨折を起こしてしまう。これが骨粗鬆症による骨折連鎖です。こうした脆弱性骨折の発生件数が国内で増えているため,積極的な介入が求められています。

池田 骨粗鬆症は骨折しない限り無症状なので,治療率・治療継続率が低くなりがちです。この点を解決するには多職種による評価と介入,すなわちOLSが求められます。看護師として院内のOLSチームを率いる井升先生からみて,骨折連鎖の問題点は何だと考えますか。

井升 主に①健康寿命の短縮,②医療・介護費の増大,③40~50歳代の離職率上昇の3点です。国民生活基礎調査2)では,要支援・要介護になった主な原因として骨折・転倒が12.5%,関節疾患と脊髄損傷を含めると24.8%を占め,認知症や脳卒中よりも高い結果となりました。さらに就業構造基本調査3)では,介護・看護を理由に離職した人数は過去1年間で9万9千人に上ります。

池田 高齢化が進み,骨折しやすい人が急増しているのでしょう。日本は諸外国と比べ高齢化のスピードが速いことから,後期高齢者の入院費全体に占める骨折の割合が上昇しており,2013~2020年の間に入院費はおよそ1.5倍になっています(図2)。

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図2 後期高齢者の入院費全体に占める上位4疾患の割合(厚労省「国民医療費の概況」より池田氏作成)
ICD-10の疾病分類(中分類)別に後期高齢者における入院費全体に占める上位4疾患の割合を比較したところ,骨折は年々割合が上昇し,入院費は7年間でおよそ1.5倍に。

井升 同調査によると,介護をしている有業者の年齢層は40~50歳代が多いため,親の骨折により離職して介護に当たるケースも多いように見受けられます。骨粗鬆症をベースとした脆弱性骨折は本人の苦痛のみならず,家族や周りの方々の負担,また経済的負担も増大させてしまうのです。

田中 高齢者は一度骨折してしまうと活動量の低下→骨の脆弱化→骨折リスク上昇と負のスパイラルに陥りがちで,そこから抜け出すのはなかなか難しい。いかに予防するかが重要で,この認識を医療者全体で共有することが必要です。

池田 同感です。しかし,骨折後の骨粗鬆症治療は整形外科の分野との認識を持っている医師もいまだ多いのが現状です。骨折後のQOL低下から健康寿命が短縮することを指した「骨卒中」との造語も聞かれる中でうれしい知らせとなったのが,今回の診療報酬改定です。OLSにとって追い風となることは間違いありませんね。

池田 骨折を契機とした負のスパイラルを断つために,日本骨粗鬆症学会は2011年に骨粗鬆症ワーキンググループを結成し,翌年より国家資格を持つメディカルスタッフを対象に骨粗鬆症の治療や知識を学ぶレクチャーコースを年2回開催。15年度にはOLSを提供する骨粗鬆症マネージャーが誕生しました。お二人も認定されていらっしゃいますね。

井升 はい。2022年4月1日現在で骨粗鬆症マネージャーは全国に3450人,内訳をみると最も多い職種が看護師(保健師・助産師を含む,51%),次いで理学療法士(19%),薬剤師(16%),診療放射線技師(6%),管理栄養士(3%),作業療法士(2%),その他(3%)となっています。

池田 これから骨粗鬆症マネージャーを取得したいと考える方に向けて,資格取得のメリットを教えていただけますか。

井升 院内ももちろんですが,同じ志を持った院外のスタッフとつながりを持てたことです。私は制度が始まった2015年に資格を取得したのですが,OLSに関心のあるスタッフが院内には私だけの状況でした。そこで,院外の取得者と情報を共有しながら,活動を徐々に進めていきました。院外のスタッフとも切磋琢磨できるようになったのは大きなメリットですね。

田中 骨粗鬆症マネージャーを取得する前は治療的リハビリテーションばかりを行ってきましたが,OLSに取り組むようになって予防的リハビリテーションをより意識できるようになりました。治療を終えた先までを見据えたリハビリテーションの思考は,骨粗鬆症以外の疾患でも役に立っています。

池田 そうですね。OLSは各職種の専門性を生かして多職種で取り組むことが特徴で,特に理学療法士は患者に接する機会が多い職種ですので,予防の重要性を患者と共有することは重要でしょう。

 加えて,骨粗鬆症マネージャーに関して強調しておきたいのが,「骨粗鬆症マネージャーを取得しないと骨粗鬆症予防の取り組みができない」というわけでは決してないことです。骨粗鬆症マネージャー以外のスタッフへの教育も重要で,医療従事者全体で骨粗鬆症に取り組む環境を整えていただけるよう期待しています。

池田 では,OLSを国内でさらに展開していくために,新たにOLSに取り組む際の留意点を考えたいと思います。皆さんがOLSを実践するに当たって意識されていることはありますか。

井升 院内スタッフにOLSの輪を広げることです。なぜならOLSを実現するには整形外科医や看護師,理学療法士,薬剤師,管理栄養士などさまざま職種が連携する必要があるからです。当院の場合,なぜ骨粗鬆症を予防するのか,何をするのかを説明することがOLSの輪を広げる最初の一歩でした。スタッフが活動の必要性を感じていないと,徐々に「やらされ感」が出てしまい,チーム全体のモチベーションが下がりかねませんから。

池田 協力者を募るには各職種の専門性が重要であることを伝えるのがよいでしょう。核となる協力者をまず一人見つけて,自施設の現状に沿う活動から少しずつ始める。参画する職種を徐々に増やしながら活動の規模を大きくしていくのが理想的です。

井升 加えて,活動の継続とOLSの質の向上を意識しました。私一人の活動ではできないこともチームで取り組めば大きな波になります。継続的に活動するには,個人に頼るのではなくいかに仕組みを確立するか,また骨折を予防するという目標を達成するために知識やスキルを向上させていくかを重要視しました。

田中 OLSに取り組むに当たって私が意識したのは,患者の骨折・転倒リスクを評価してそれらを次の施設に必ず伝えることです。骨粗鬆症予防は自施設だけで完結するのでなく,地域の医療機関が連携して行うものだからです。また,私もOLSチームのマネジメントをする立場ですが,チームで動くことを考えてPDCAサイクルを回していました。そのおかげでモチベーションを保って活動を続けられています。

池田 お二人とも素晴らしい取り組みですね。では,OLSに取り組む仲間を増やすために,具体的にはどのような活動を行っていけばよいのでしょうか。

井升 広島県では超高齢社会における健康寿命の格差の縮小と健康寿命の延伸に貢献することを目的に,「広島骨粗鬆症マネージャーミーティング」を立ち上げ,2016年から講演会を年1回開催しています(写真)。骨粗鬆症マネージャー取得者だけでなくOLSに関心のあるメディカルスタッフならどなたでも参加可能です。こうした講演会を通じて仲間を増やすことは,情報の共有や活動のヒントを得られるだけでなく,成功や失敗を共有した上で共感できるので,モチベーションの維持と向上に寄与すると考えます。

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写真 2018年に開催された第2回広島骨粗鬆症マネージャーミーティングの様子

田中 私は患者紹介先の病院や介護施設にアンケートを行って,結果を基に骨粗鬆症予防の勉強会を開催してきました。

池田 どのような勉強会が行われてきたのでしょうか。

田中 紹介先の理学療法士が,患者のリハビリテーションプログラムを検討する際に骨粗鬆症予防をあまり意識していないことが明らかになったので,骨粗鬆症予防の重要性を共有することから始めました。その結果,同地域の理学療法士との横のつながりが生まれました。OLSでは同地域の同職種との連携も必要なので,これからOLSを始めたい方は院外にも視野を広げていくのがよいでしょう。

井升 池田先生は国際骨粗鬆症財団(IOF)のメンターとして,国内における骨粗鬆症予防の啓発にも取り組まれています。骨粗鬆症予防の輪を広げる上で欠かせない取り組みですよね。

池田 IOFは脆弱性骨折患者における二次性骨折予防をめざす骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service:FLS,)を推進しており,医療機関が提供するFLSを評価するCapture the Fracture®プログラムを主催しています。現在806施設(2022年12月末時点)が本プログラムの認定施設として登録され,IOFのWebサイト上に掲載されています。メンターはFLSの施設認定のサポートや質の向上に向けた取り組みを実施・計画しています。こうした活動に少しでも興味のある方はぜひ認定取得に向けてチャレンジしてみてください。

池田 最後にこれから骨粗鬆症予防に取り組んでみたいと考えている読者に向けて,メッセージをお願いします。

井升 高齢者の骨折予防はもちろん重要なのですが,幼少期からの健康的な運動・食習慣の指導が骨粗鬆症予防には不可欠です。そうした啓発を全国的に展開するために少しずつでもOLSが広がることを願います。興味のある方の参加をお待ちしています。

田中 2022年度より二次性骨折予防継続管理料1を算定する施設は徐々に増えてきた印象を受けますが,二次性骨折予防継続管理料3はまだまだです。当院でも地域連携の強化を今後の目標に設定していますので,もし活動に取り組む上でわからないことがあれば骨粗鬆症マネージャーを積極的に頼ってほしいです。地域のどの医療機関を受診しても質の高い骨粗鬆症ケアが受けられる国をめざしたいですね。

池田 骨粗鬆症を原因として大腿骨近位部骨折をした患者が,骨折の手術治療やOLSを行う医療機関でなくかかりつけのクリニックを受診することがあります。そうしたクリニックの医師は骨粗鬆症だと気づかないことから,患者が適切な治療を受けられないことがよくあるのです。ぜひ,骨折の背景に骨粗鬆症がある可能性を念頭においていただければ幸いです。また診療所の先生方は今回の診療報酬改定を改めて確認のうえ,二次性骨折予防継続管理料3の算定要件を満たすための施設登録をお願いいたします。

 大腿骨近位部骨折患者に対して関係学会のガイドラインに沿って継続的に骨粗鬆症の評価を行い必要な治療等を実施した場合,①急性期などの一般病棟で入院中1回1000点(二次性骨折予防継続管理料1),②回復期リハビリテーション病棟で入院中1回750点(二次性骨折予防継続管理料2),③二次性骨折予防継続管理料1を算定した患者において初回算定日の属する月から起算して1年間に限り外来で月1回500点(二次性骨折予防継続管理料3)が算定される。ただし,急性期などの一般病棟で二次性骨折予防継続管理料1が算定されていないと二次性骨折予防継続管理料2と3は算定できない。算定には施設届出が必要である。

 75歳以上の大腿骨近位部骨折患者に対して周術期の適切な管理を行い,骨折後48時間以内に骨折部位の整復固定・人工骨頭の挿入を行った場合に4000点が算定される。加算には日本脆弱性骨折ネットワークへの加盟や症例登録など一定の条件がある。

(了)


:骨折の一次予防を含めない点がOLSとの違いであり,①対象患者(50歳以上の脆弱性骨折患者)の特定,②二次性骨折リスクの評価,③投薬を含む治療の開始,④患者のフォローアップ,⑤患者と医療者への教育と情報提供の5段階で行われる。

1)日本骨粗鬆学会.大腿骨近位部骨折に関わる診療報酬算定について.
2)厚生労働省.2019年国民生活基礎調査の概況――第15表 現在の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因の構成割合.2020.
3)総務省統計局.平成29年就業構造基本調査 結果の概要――表-Ⅰ-7 男女,就業状態別介護・看護のために過去1年間に前職を離職した者―平成19年,24年,29年.2018.

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健愛記念病院 副院長/整形外科

1989年産業医大を卒後,同大整形外科に入局。市中病院で研鑽を積んだ後に2001年に健愛記念病院整形外科に入職し,10年より現職。日本骨粗鬆症学会の骨粗鬆症リエゾンサービス委員会委員。国際骨粗鬆症財団が行うCapture the Fracture@の日本人メンター。日本骨粗鬆症学会森井賞(第11,16回)を受賞。

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マツダ病院看護部 脳神経外科外来 主任

1997年に看護師資格を取得。2019年より現職。15年度の骨粗鬆症マネージャー制度開始時に資格を取得し,院内での骨粗鬆症リエゾンサービスチームを率いる。広島骨粗鬆症マネージャーミーティング代表世話人。骨粗鬆症,二次性骨折予防に加え,特に50歳代の骨粗鬆症健診受検者や脳血管疾患患者への一次骨折予防にも注力している。

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ベルランド総合病院 理学療法室 主任

2003年吉備国際大を卒業後,ベルランド総合病院に入職。14年より現職。自身がリハビリテーションを担当した患者が退院翌日に再度骨折した経験から,骨粗鬆症対策の重要性に気付く。所属施設だけでなく他施設でも骨粗鬆症に関する勉強会を開催するなど,多施設連携で骨粗鬆症予防に尽力する。15年に骨粗鬆症マネージャーを取得。

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