医学界新聞

書評

2023.02.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3505号より

《評者》 名大未来社会創造機構特任教授・眼科学

 本書は医書の超ベストセラーである医学書院出版の『今日の治療指針』の眼科版であり,専門性の高い眼科の分野に特化して明日の臨床に役立つように,2000年に初版が刊行された。以来眼科医のバイブル,あるいは一冊は欲しい眼科の診療分野での疑問をすぐに解決できる他科の先生のバイブルとして使われてきた。眼科医はもちろんのこと,他科の先生にとっては診療中,あるいは明日の診療のために今必要な事項を調べることが必要となる。本書は,①眼科全般の分野を網羅した662にわたる項目,②平易な文章で図が多く,ビジュアルで具体的,③最新の情報が載せられている,④執筆者がその分野の第一人者である,⑤索引が英語,日本語とも充実している,などの特長があり,座右に置かれる一冊としてはこれ以外にない。内容が詰まっている割にはハンディなA5サイズのままである。

 このたび,2016年に第3版が出てから早い改訂となったが,進歩が著しい眼科領域に追従するためである。第4版では大幅に改訂がなされ,さらなる変貌を遂げた。まずは,執筆者にactiveな臨床眼科医が選ばれていること。その数は310余名に上っている。専門分野の眼科医を検索するための辞書としても用いられるかもしれないほどである。次に,カラーを用いた写真や,機器のメーカーが明示されていることで,読む・見る人に使いやすくなっていることである。さらに,近年抗VEGF薬や緑内障治療薬などが登場し,眼科薬物療法が新しい展開を示していることを受け,第2章の治療総論に「薬物治療」が新設されている。おそらく出版の直前まで改変を行ったと思われ,超最新の情報を載せている。

 内容を詳述してみよう。第1章の検査総論では,(付録)としていろいろな視力の測り方の統計処理法について簡単に述べられている。小児の視力測定における屈折検査ではオートレフケラトメータでの検査の写真とともに4つの視力測定法の特徴が書かれている。の瞳孔間距離測定や眼鏡に関する検査の項目などは眼鏡処方が苦手な眼科医にとってさらっと読める導入書としても役立つ。

 眼科医が苦手とすることに,ぶどう膜炎の診療がある。「第8章 ぶどう膜疾患」では,冒頭に「ぶどう膜炎の鑑別診断表」が掲載されている。座右にあれば5~6秒で,患者さんを前に,自分の疾患の想定に落ちがないか,検査を考える上で忘れている病気はないか,などのリマインドができる。よくある疾患では診断基準が載せられているのもありがたい。画像診断や表でまとめられた鑑別診断,さらには具体的薬剤名で書かれた処方例は即座に「今日の眼疾患診療」に役立つ。

 私の専門である網膜疾患については,未熟児網膜症の新分類や,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症におけるOCT angiography所見,抗VEGF治療など最新の情報が掲載されていることは言うまでもない。さらに,われわれが重要視すべき「ロービジョンケア」に関しても新たな章が設けられ,検査から最新の補助具まで紹介されている。

 本書を他科の先生に眼科のバイブルとしてぜひお薦めするとともに,これから第一線で活躍する若い先生方,またこれまでも本書を活用されてきた先生方にも,ぜひ手に入れられることをお薦めしたい。


《評者》 東医大学兼任教授・医学教育学/総合診療科
国立療養所多磨全生園

 数年前からハンセン病療養所で非常勤医師として勤務する機会をいただいています。入所されている方の平均年齢はおよそ90歳で,ハンセン病は全員がすでに治癒しており,診療はいわゆるmultimorbidityへの対応が中心です。想像を絶する過酷な人生を歩んでこられた方のケアに携わることから得られる学びはとても多いのですが,超高齢者の診療の難しさをいつも実感しています。

 本書の著者である木村琢磨氏は,国立病院や大学で高齢者への診療や在宅ケアに従事しながら,その特徴について発信し続けておられます。これまでに『日本医事新報』や『Medical Tribune』に連載された内容を再構成して書き下ろしも追加したという本書には,高齢者を診る際の,エビデンスはもちろんですが,実践に裏付けられた知恵や工夫が数多く明示されています。

 例えば「慢性疾患の治療目標の設定」の項では,併存疾患のうち短期間で生命予後を規定し得る疾患を見立てることから始めるよう勧めています。高齢者の診療では,問題点の多さと複雑さに目を奪われてじゅうたん爆撃的な過剰診療に陥ったり,何から手をつけてよいかわからず途方に暮れたりします。本書ではベテラン医師と中堅医師の対話形式をとりながら,この複雑系の中での取捨選択のノウハウが,わかりやすい具体例を交えながら多くの引用元と共に示されています。

 診断学の教育にかかわることが多かった私から見ると,基本的な医療面接や身体診察に加えて,高齢者の診療で注目すべき情報収集のポイントが詳しく紹介されていることにも感銘を受けました。列挙すると,「急に元気がなくなった」「風邪をこじらせないために」「食欲不振には幅広い情報収集を」「足をみる意義と実際」「めまい・ふらつきは複雑な背景を解きほぐそう」「しびれは生命・機能予後や分布パターンを」「在宅医療で何をみるか」といった項目です。

 高齢者は併存疾患が多く,生物学的な面でも心理・社会・倫理的な面でも個人差が大きく,教科書的な症候や病態の方は少ないと感じています。そのため多忙な日常診療の中では,時間に追われて独りよがりな判断になりやすいと自戒しています。この本で例示されているように,不確実性を前提として意識しながら,しかしそれを言い訳にするのではなく,一歩ずつ前に進むような地に足をつけた診療を心がけることが大切なのだと改めて認識することができました。高齢者を診ることの難しさを感じている医療者に,そしてこれから高齢者の継続的な診療や在宅ケアにかかわろうという皆さんにもお薦めします。


《評者》 大阪公立大大学院教授・視覚病態学

 現代の眼科診療,特に網膜診療において光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は欠かせない機器となっています。単に病気の診断や治療の評価に用いるだけでなく,OCTによる網膜および脈絡膜構造の三次元的理解は疾患の病態解明にも大いに役立ってきました。最近ではコンピューター性能の向上によって画像取得の高速化,高画角化が進み,また長波長レーザーを用いたSwept-source OCTでは脈絡膜および硝子体のより詳細な観察と病態評価が可能となっています。さらに,現在,導入が広がりつつある網膜光干渉断層血管撮影(OCT angiography:OCTA)では造影剤なしで網膜の微小血管構造の描出が可能であり,また層別解析による血管の三次元的変化をとらえることができるようになりました。

 本書は初版からちょうど10年を経て改訂されました。私は同書の初版も所有していますが,当初から京大眼科学教室の実力を大いに発揮された,通常のアトラスよりも一歩踏み込んだ内容に感銘を受けました。それは掲載される各画像の美しさだけでなく,当時最先端の解析方法や所見の記載,それを元にした病態解釈まで網羅されていることに大きな学術的意義を見ることができたからです。今回の第2版では,その後の10年間で得られたさまざまな新知見を盛り込み,さらに進歩した画像解析と病態解釈を提示したものとなっています。特にOCTAによって発見された数多くの知見は初版にはなかったものであり,それだけでも改訂による内容の大幅な向上を十分に感じ取ることができますが,本書では各疾患におけるOCTA所見とその解釈が大変詳細に述べられており,これは他に類を見ないものです。また,初版では記載の少なかった腫瘍,緑内障,視神経疾患の他にもpachychoroid spectrum diseaseやparacentral acute middle maculopathyのように,この10年間で新たに提唱された疾患概念もあり,第2版ではそれらもくまなく網羅されています。一方,滲出型加齢黄斑変性などよく知られた疾患においても,例えば従来の脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization)が黄斑新生血管(macular neovascularization)という呼び方に変わり,IS/OS,COSTと呼ばれていた所見がそれぞれellipsoid zone(EZ),interdigitation zone(IZ)という表現に変わりました。OCT所見において,新たに同定された所見を表す用語が増えたことはもちろんですが,特発性黄斑上膜の分類に見られるように同じ所見でも病態解釈の変化によって所見を表現する用語が変化した場合もありますので,それらのアップデートも第2版の重要なポイントになっています。

 本書はOCTアトラスでありながら,その他の検査画像所見との関連性にも言及し,またシェーマを多用して読者の病態理解を促す構成となっていることから,網膜のエキスパートのみならず,これから眼底疾患を学ぶ先生方にとっても教科書的な役割を果たしていると言えるでしょう。本書の監修,編集および執筆をされた先生方に心からお祝いとお礼を申し上げます。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook