医学界新聞


過剰輸液によるうっ血,臓器障害を回避するために

寄稿 三谷雄己,高場章宏

2023.02.06 週刊医学界新聞(通常号):第3504号より

 急性期の輸液療法において,「血圧が低いけど,これ以上輸液するとうっ血で呼吸状態が悪化するかも……」「3L輸液したけど尿が出ない……まだ輸液すべきなのか?」といった悩みは,恐らく誰もが一度は抱えたことがあるかと思います。これらのような,目の前の患者にそれ以上輸液をすると臓器障害に進展してしまいそうだとの感覚は,近年提唱された概念である“Fluid tolerance(輸液忍容性,)”について学ぶことで,もう少し具体化することができるかもしれません。

 今回は,この新たな概念について総論的に解説した論文1)を参考に,急性期の蘇生輸液の周辺知識と近年のトレンドを解説します。なお,私自身もこの概念に関して学習中であり,今後実臨床にどこまで反映されるかなどは未知数なのが現状です。

 輸液忍容性について学ぶ上で,まずは蘇生輸液についておさらいします。蘇生輸液とは,ショック患者(循環不全に起因して酸素需給バランスが破綻した患者)に対して輸液を行うことで,全身の組織への酸素供給を増やすことを目的とした輸液療法を指します。薬剤投与ルートのための維持輸液や,必要な水分や電解質の補正をするための補充輸液とは目的が異なります。

 蘇生輸液を行う目的は,一回心拍出量(SV)を規定する因子である前負荷を増やすことで心拍出量(CO),酸素供給量(DO2)を増加させることです(図12)。輸液負荷によってSVが効果的に増加する状態のことを「輸液反応性がある」と表現します2)

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図1 蘇生輸液の概念(文献2を参考に作成)
蘇生輸液では,一回心拍出量(SV)を規定する因子である前負荷を増やすことで心拍出量(CO),酸素供給量(DO2)を増加させる。Hb:ヘモグロビン,SaO2:動脈血酸素飽和度。

 そのため,急性循環不全を来しているショック患者で輸液反応性がある場合は,酸素供給を増やすために輸液負荷を考慮します(図22)。ただし,輸液反応性があるからといって輸液負荷をし続けると,過剰輸液による体液過剰(Fluid overload)によって,肺水腫や腎機能低下などの臓器障害を来してしまいます。近年,この過剰輸液による体液過剰と重症患者の死亡率は相関関係にあることが数多くの論文で立証されているため3, 4),蘇生輸液ではいかに過剰輸液を避けた管理をできるかが重要視されているのです。そのため,目の前のショック患者に輸液負荷を行うメリットとデメリットを比較し,治療方針を決めることとなります。このデメリットを見積もる指標として期待されているのが,今回のテーマである輸液忍容性です。

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図2 輸液負荷の是非を判断するフローチャート(文献2を参考に作成)

 輸液忍容性とは,臓器障害を来すことなく,輸液負荷に耐えられるかどうかの程度・範囲を指します。輸液反応性と体液過剰の間にある症例においては,輸液負荷を行うかどうかの治療判断に役立つ可能性があるといわれています(1)

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 輸液反応性と輸液忍容性,体液過剰の違い(文献1より一部改変)
de-resuscitation:利尿薬あるいは腎代替療法を用いて水分バランスの均衡化を図る手段。

 輸液忍容性は症例ごとの年齢や併存疾患,循環不全の程度などの複数の要素で規定されます。また,普遍的なものではなく,初期診療時の蘇生輸液戦略や,症例の病態変化に伴う炎症や血管内非障害,血管外漏出の程度によって変化すると考えられています。さらに,各臓器によっても異なるとされるため,それぞれの症例においてリアルタイムに,かつ臓器特異的にうっ血に伴う初期の臓器障害の徴候を探ることが大切なのです。

 例えば,肺にフォーカスして輸液忍容性について考えてみましょう。低心機能の敗血症性ショックの患者に3Lの輸液療法を行ったが,循環不全が遷延している状況を想像してみてください。身体所見やエコー所見上も,もう少し輸液が必要そうだけど,これ以上輸液をすると呼吸状態が悪化してしまいそうだ……。この瞬間こそ, 肺の輸液忍容性を推察するのが有効なタイミングです。客観的指標として,現時点の肺エコーでのB lineの所見,エコーでの左房圧や三尖弁圧較差(TRPG)の推測などを参考にしつつ,輸液忍容性を見積もります。現状の酸素療法や呼吸補助の程度を確認するのも重要です。仮に経鼻酸素3~4 L/分投与で酸素化がある程度保たれていれば,ある程度の輸液負荷に耐え得ると判断できますし,逆に高い吸入酸素濃度(FIO2)での非侵襲的陽圧換気(NPPV)サポートを要していれば,さらに輸液負荷をすると気管挿管が必要になる可能性が非常に高いと推察できるかもしれません。

 また,腎臓も輸液忍容性を考慮した輸液管理の必要がある臓器の一つです。上記のような敗血症性ショックの患者は,しばしば前負荷の不足と感染症による臓器障害により,急性腎障害を来します。また,この腎障害に伴う乏尿や蘇生輸液による輸液負荷によって体液過多となれば,うっ血に伴う腎障害も合併することになります。そのため,腎障害を反映した所見として乏尿や血清クレアチニンの上昇が出現した場合,目の前の患者へ輸液負荷するか,利尿薬で薬剤的除水をするかの判断には,輸液忍容性の把握が必要なのです。具体的には腎静脈ドップラーなどを用いて腎うっ血の程度を推察すると良いでしょう。腎静脈の評価に加え,下大静脈や冠静脈,門脈を評価することで全身臓器のうっ血を評価するエコー評価法(VexUS)5)も近年注目されていますので,興味がある方はぜひ詳細を確認してみてください。

 ここまで輸液忍容性のざっくりとした総論をお話ししましたが,そもそも輸液忍容性の判断指標や臨床的転帰との関連,評価するためのスコアリングシステムは確立されておらず,今後の研究課題です。今後の研究によって実臨床での意思決定プロセスに輸液忍容性を組み込むことができれば,うっ血による臓器障害を回避した循環管理ができるようになるかもしれません。

 これまでの輸液反応性を用いた輸液負荷の必要性の判断のような,明確に輸液が必要,または不必要という評価だけでなく,その中間に存在する症例の評価分類をして輸液療法を最適化する……。そんな時代がやってくることに期待しつつ,今後も輸液忍容性について学んでいきたいです。


:2022年12月時点でFluid toleranceの定訳はせず,当記事では「輸液忍容性」と訳しました。

1)J Crit Care. 2022[PMID:35660844]
2)Ann Intensive Care. 2016[PMID:27858374]
3)Crit Care Med. 2017[PMID:27922878]
4)BMC Nephrol. 2016[PMID:27484681]
5)Ultrasound J. 2020[PMID:32270297]

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JA広島総合病院救急集中治療科

2018年広島大医学部卒。マツダ病院での臨床研修を経て現職。広島大救急集中治療医学所属。広島県内の各施設で勤務し立派な救急医となれるよう日々修行中。信念である「知行合一」を実践すべく,臨床で学んだ内容をアウトプットすることを心がけている。著書に『みんなの救命救急科』(中外医学社)。

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